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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epic8-A神は言っている。魔法少女になる運命だと~The FooL~

 
前書き
The Fool/愚者の正位置Case2/何も考えずに、やってみると良いかもしれない。この先には、いろんな可能性があり、進んでみて初めて現れる可能性も、きっとあるのだから。

今さらながらにPS3 & Xbox360のゲーム・エルシャダイ(そのMMDで、特に恋天使ルシフェル)にハマりました。今話のタイトルも、エルシャダイのある台詞のパロディです。
 

 
†††Sideなのは†††

翠屋は基本、年中無休だけど、連休の時は店を他の店員さん達に任せて、高町家は家族旅行に行くことがあります。今回の旅行、近場で2泊が出来る場所ということで海鳴市の郊外にある温泉旅館、山の宿さんへとやって来ました。
参加するメンバーは私、私のお父さんにお母さん、お兄ちゃんとお姉ちゃん。そしてユーノ君。お友達のすずかちゃん、すずかちゃんのお姉さんでお兄ちゃんの彼女さんでもある忍さん、そして月村家のメイドのノエルさんとファリンさん。最後にアリサちゃん・・・なんだけど、集合した時からずっと気になってることがある。

(アリサちゃん。なんか元気がない・・・というより疲れ果ててる?)

お話すればちゃんと乗ってくれるし、笑ってくれる。だけど、なんかこうゲッソリしてる。すずかちゃんも気付いてるみたいで「アリサちゃん。体、調子悪かったりする?」心配してる。

「え? あー、だいじょぶだいじょぶ。ちょっとペットが言うことを聞かなくてね・・・」

「ペットって。アリサちゃん家のワンちゃん達だよね?」

すずかちゃんがそう確認した。アリサちゃん家には犬が10匹ほど居るんだけど、その子たちは頭が良いからちゃんと言うことも聴く。そんな子たちがアリサちゃんの言うことを聴かないとなると、考えられる原因は・・・

「きっとアリサちゃんが何日も家を空けるって判って寂しかったんじゃないかなぁ」

「ふふ。なのはちゃんの言う通りかも♪」

すずかちゃんと一緒に笑ってると、アリサちゃんは「違うわ。最近拾った子よ」って言って小さく溜息を吐いた。初耳だった。「え? 新しい子を飼い始めたの?」すずかちゃんと一緒に盛り上がる。もう、教えてくれれば良かったのに。アリサちゃんも人が悪いなぁ。

「ねえねえ、どんな子? 大型? それとも小型?」

「はぁ。犬じゃないわ。ついて来るなって言っても聴きゃあしないし、荷物に紛れ込もうとするのを阻止するだけで疲れたし、家を出る時でも、連れてけ!!って喚いていたし」

「「ええ!? 喋るの!?」」

(連れてけって言った!? 喋る動物って何!? アリサちゃんは一体何を飼い始めたの!?)

あ、もしかして喋っているように聞こえる鳴き声を出す猫とかかもしれない。うん、きっとそうだよ。落ち着いて自分に言い聞かせていると、アリサちゃんが「ま、アイツらのことはどうでもいいわ。せっかくの温泉旅行だし、楽しまなきゃ損だしね」って話を切上げちゃった。でもアリサちゃんの言うことには賛成できるから、「そうだね」すずかちゃんと一緒に賛成する。

『なのは』

『ん? どうしたのユーノ君』

『なのはも最近は大変だったんだし、この旅行の間くらいはジュエルシードの事を忘れて、ゆっくり休んでね』

『うん。ありがとう、ユーノ君♪』

数日前、私とユーノ君は、フェイトちゃんとアルフさんっていう新しい魔導師と遭遇して、そして負けちゃった。テスタメントちゃんをも負かしちゃうようなすごく強い女の子。でもきっと優しい子。だって私を攻撃する時、ごめん、って謝ってくれたんだもん。それに、気の所為かもしれないけど、目が悲しそうで、寂しそうだった。

(ちゃんとお話ししてみたいなぁ・・・)

ジュエルシードを回収していれば必ずまた会えるはず。その時にもっとお話してみたい。もちろんテスタメントちゃんとも。

(テスタメントちゃんとフェイトちゃん・・か)

2人がジュエルシードを集める理由は、2人にとって大切な誰かを助ける為。私とユーノ君の、ただ回収するっていう理由に比べれば、確かに大事なものだと思う。けど大きく見れば私もユーノ君の助けになるし、暴走による被害を抑えて、誰かを助けることにもなる。だから私は引かない。この意思だけは否定されたくない。その結果、戦うことになるなら、私は前を向いて戦う。

(でも私、どうやって帰ったんだろう・・・?)

それだけが思い出せない。ユーノ君も憶えてないって言うし。無意識に歩いて帰って来たのかなぁ・・?

「あ、着いたみたいだよ、なのはちゃん、アリサちゃん♪」

「「おお!」」

悩みは尽きない今日この頃だけど、ユーノ君のお言葉に甘えて子供らしく過ごそうと思います。そんなこんなで私たちが今日からお世話になる海鳴温泉の旅館・山の宿に到着。まずは部屋に荷物を置きに行く。そうしたら真っ先にするのは何か。もちろん「なのは、すずか、温泉に入りに行くわよ!」温泉に入る、だ。鼻歌を口遊みながら早速荷物の中から替えの下着を取り出す。そして「みなさん浴衣ですよ~♪」ファリンさんが用意してくれた浴衣を受け取ったところで・・・

「ふぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」

「ひゃあ!?」「「ッッ!??」」

アリサちゃんがいきなり叫ぶから浴衣とか下着とか全部放り投げちゃった。着替えが全部ユーノ君にバサッと覆いかぶさった。すると『ぎゃぁぁあああああああ!!』ユーノ君が悲鳴の念話を飛ばして来た。ユーノ君にとって重みのある服がいきなりバサバサ落ちてきて、しかも視界が閉ざされたんだから叫びたくもなると思うんだけど、私の着替えで叫ばれたと思うとちょっとショックだよ。関係ないんだろうけど・・・。

『ごめんねぇ、ユーノ君』

『う、うん。僕の方こそごめん・・・』

どうしてユーノ君が謝るんだろう? 着替えを拾って、「どうかしたの? アリサちゃん」って訊いてるすずかちゃんに向く。アリサちゃんはどうしてかすごく焦っていて、着替えの入ったトートバッグを抱えて「なっ、ななな、何でもないわ! 気にしないで!」とか言ってどっかに走り去って行っちゃった。ポカーンとアリサちゃんを見送った私とすずかちゃんとファリンさん。どうしたんだろ?って訊き合うだけ。

「なのは達は先に行ってて!!」

最後にそう聞こえてきて、今度こそアリサちゃんは完全に姿を消した。

「さっきアリサちゃんがすごい速さでどっかにすっ飛んでったけど、なんかあった? しかも一度見たら夢に出そうなほどに恐い顔していたんだけど・・・」

お姉ちゃんがそう言って部屋に入ってきたけど、理由はサッパリだから私たちは小首を傾げるだけ。先に行っててって言われたけど、私とすずかちゃんはアリサちゃんが戻って来るのを待つことにして、お姉ちゃんと合流した忍さん達を先に行かせた。やっぱりアリサちゃんも一緒じゃないとね。ここは待つのが親友ってものだよ♪

†††Sideなのは⇒アリサ†††

「あんた達、いつの間にあたしの荷物に紛れ込んだのよ・・・!?」

ついさっきまではルンルン気分だったのに、着替えの入ったトートバッグを覗いた瞬間に急降下。家に置いてきたはずのセレネとエオスが、あたしのパンツに包まってグースカ寝てんだもん! どこの変態だっていうのよっ。周囲に人が居ないのを確認して、バッグの中に居る頭痛の種にして悩みの種の2人を問い質す。

「だって連れて行くって約束したよ。あれは嘘だったの?」

「し・て・な・い・わ・よ・・・!」

外見はリスだけど正真正銘人間の女の子なエオスが勝手なことを言う。そう、あれはなのは達とプールに遊びに行った日の早朝。エオスは言ってた。

――プールなんかより温泉だよ。この海鳴温泉ってとこ。行く予定があったら教えてよアリサ。絶対に私も連れて行ってもらうから。たとえ置いて行こうとしても荷物に紛れて行くからさ。私、セレネよりしつこいよ?――

で、今朝は色々とエオスと戦う羽目になったわけよ。荷物に紛れ込むわ、替えの服のポケットに入り込むわ。その都度探して取り出すあたしの苦労を知れっていうのよ。言ってた通り本当にしつこかったわ。そんな温泉マニアなエオスの姉で、ハムスターの姿を取ってるセレネが「ま、諦めようぜアリサ♪」なんて勝手なことをほざく。

「くぅぅ・・(確かに今さら帰れなんて言えないし)・・・はぁ。もういいわよ一緒で。その代わり絶対に喋らないこと! 動物らしい行動をすること! 破ったら・・・判るわよね?」

ご飯抜きの刑に処す。もちろんお菓子とかも禁止。すでに一度、悪さをした罰としてやったことがある。朝と昼と3時のおやつを禁止した上で2人の前で食べてみたら、涎と涙を流して謝ってから許してあげた。それを思い出したようでセレネとエオスは「イエス! ボス!」ビシッと敬礼した。よしっ。そんじゃそろそろ戻ろうかしら。早くなのは達と合流して、温泉に浸かりたいし。

(なのははフェレット(ユーノ)を連れて来てるし、あたしも新しいペットを紹介ってことでいいかもしれないわね)

バッグの中を覗いて改めて2人に注意しようとしたんだけど、「・・・って、どこ行ったのよッ!?」ついさっきまで中に居たのに、もうその姿がバッグの中のどこにも無い。着替えとかを漁ってみたけど、やっぱり居ない。
在るのは、デバイスとかいう紫色の宝石。ユーノが首から提げてたやつとソックリだけど、「まさかね」馬鹿な考えを振り払う。近くを捜しながら「もう、馬鹿ぁ。どこに行ったのよぉ・・・!」本気で焦り出す。従業員の人や変な客に見つかったら、絶対に拾われたりおもちゃにされたりするかも。

「あっ! もしかしてあいつら・・・!」

行き先が判った。あたしが許可したことで我慢の限界に達したエオスが、セレネを連れて先に温泉に入りに行ったに違いないわ。なのは達が先に入ってるはずだから、何か馬鹿なことを仕出かすんじゃないかってまた焦る。すぐに向かいたいけどバッグが邪魔になるから、バッグを置きに行くために急いで部屋に戻ったら、のんびりお茶を啜ってるなのはとすずかが居た。

「のどかだねぇ、すずかちゃん」

「そうだねぇ、なのはちゃん」

「なのは、すずか!?」

まるで老後の和やか雰囲気を纏っていた2人は「アリサちゃん。おかえり~」ってのんびり口調で迎えてくれた。ていうか「どうして居るのよ・・・?」先に行ってるんじゃなかったの?

「どうしてって。アリサちゃんを待ってたんだよ」

「先に入って待ってるより、一緒に入るのを待ってたかったんだ」

「っ!・・あ、ありがとう。待っててくれて」

「「どういたしまして♪」」

そんな嬉しいことを言ってくれる2人にはすっごく感謝なんだけど、残念なことにそれを心の底から喜べる状況じゃないのよね。着替えを取り出して浴衣を手に取り、「急いで行くわよ!」散々振り回すようなあたしなのに、2人は「うんっ♪」笑顔で頷いて、ついて来てくれた。あたし、あんた達と友達に、親友になれてすごく嬉しいわ。恥ずかしいから面と向かって口には出せないけどね。

「アリサちゃ~ん。楽しみなのは判るけど、ちょっと速いよ~」

「温泉は逃げないよアリサちゃん」

「判ってるわよ、すずか。・・・さっきペットの話をしたわよね。そいつらがあたしの荷物に紛れてたのよ。さっき部屋出た時のは、そいつらが居ることに気付いて動転しちゃったからなんだけどさ」

「え、そうなの? トートバッグに入って、しかも鳴き声が無いってことは・・・」

「普段は鳴かない小動物、かな。それに、らってことは複数? どんな子なの?」

なのはとすずかに「まあね。リスとハムスターなんだけど」そう答えると、ユーノが「きゅっ!?」なんて、まるで驚いたって感じで鳴いた。なのはが肩に乗るユーノに「どうしたのユーノ君?」なんて訊くんだけど、動物にそんなこと言ってもどうしようもないでしょうが。

「アリサちゃん。その子たちって、お店で買ったの?」

「ううん。拾ったのよ。あたしん家の庭でね」

ごめん、これ嘘なのよ。実際には塾から帰ってきて、自分の部屋でのんびりしてるところにクローゼットの中から気配と視線を感じて、恐る恐る確認して発見といった感じ。その時はまだ人間の女の子の姿だったけど、すぐに動物の姿に変身しちゃったのよね。
そして事情を聴いた。魔法とかジュエルシードとか、到底信じられないようなことばかりを。ま、あの子たちは自分の力でジュエルシードを集めて、全てが終わったら帰るって話だし。それまでの間くらいは世話くらいしてやろうって思って、結果、今こうして騒ぎの渦中に居る。

「着いたわね。さあて、どこに居るかしらね!」

婦人の湯って札がある浴場入り口に到着。脱衣場に入って、セレネとエオスの姿を捜すと、「ふぇ? なになに?」なのはから戸惑いの声が。なのはのところに戻ってみると、セレスとエオスがなのはの肩に乗ってるユーノを引き摺り下ろそうとしてた。
弱い者イジメでもするつもり? だとしたらどんなガキ大将よ、まったく。2人へと手を伸ばして「やめなさいよ!」急いでユーノを助けようとしたんだけど、

「待ってアリサちゃん!」

「え? 何で止めるのよ、なのは。ユーノ、困って・・・って、あら?」

ユーノは自分から降りて、セレネとエオスの後を追うように脱衣場の端っこに移動。アニマル会議でもするのかしら? ついて行って様子を見ようとした時、なのはに腕を掴まれた。なのはの顔はどこか緊張気味で、いつになく真剣な目であたしをジッと見つめてくるから、こっちも見つめ返す。そんなんだから「あ、あの、なのはちゃん? ど、どうしたのかな・・・?」すずかが困惑してるじゃない。

「アリサちゃん。正直に答えてほしいんだけど、いいかな?」

「な、なによ・・・」

「・・・テスタメントちゃんって知ってる?」

「「テスタメントちゃん??」」

いきなり知らない名前が出て来て、すずかと2人で首を傾げて訊き返す。とりあえず「知らないわ」って答える。ていうか、テスタメントって人の名前じゃないでしょ。だとしたらどっかのペットの名前? なのはに「そのテスタメントっていうのがどうしたのよ」訊き返してみる。

「あ、ううん。知らないんならいいんだ。ご、ごめんね。変なこと訊いて」

「「???」」

するとなのはは話を切り上げて、いそいそと服を脱ぎ始めたから、あたし達も服を脱ぎ始める。一体なんなのかしら。さっきのなのはの様子からしてかなり重要な名前みたいだけど。

「ねえ、なのはちゃん。そのテスタメントちゃんって?」

「えっと・・・ちょっと前に出会った女の子なんだけど」

体にタオルを巻いて、自分の髪をアップにしているなのはが妙な間を空けてからそう答えた。すずかも自分の髪をアップにしながら「また今度紹介してね♪」って笑いかけると、なのはは苦笑いしながら「うん」って頷くだけ。怪しい、怪しすぎる。絶対なにか隠してるわ。そもそも「どうしてあたしが出てくんの?」だ。何を以ってあたしとテスタメントって子が繋がるのかが解らない。

「気にしないでアリサちゃん。私の勘違いだったから」

はぐらかそうとしてるのがバレバレ。このまま問い質したいけど、こういう時のなのはって全然周りを頼らなくなるのよね。本当に頑固なんだから。もう少しくらいは頼ってほしいもんだわ。親友なんだから。

「ほら、アリサちゃんも行こう♪」

あたしもすでに入浴の準備万端だったから問答無用ですずかに手を引っ張られて、そのまま浴場入り。

「ちょっ、セレネとエオスがまだ。あとユーノも・・・!」

2人のことよりユーノの方が心配だわ。見た目小動物だけど実際は人間なセレネとエオス。そこに賢くて可愛いだけのユーノが1匹だけ放り込まれるなんて。イジメられてないわよね?

「た、たぶん大丈夫なんじゃないかなぁ。ユーノ君ってハムスターとリスに比べれば体が大きいし、すばしっこし」

(そ、そうよね。それにあの2人もただの動物(ユーノ)にちょっかいを出すような馬鹿な真似はしないはず)

少しは魔力が回復したって言ってたけど、それでも大した魔法は使えないみたいだし。そう自分に言い聞かせれば一気に楽になった。となれば、あとは楽しむっきゃないわ♪

「名前も決めてるんだ。どっちがセレネちゃんでエオスちゃんなの?」

「ハムスターがセレネ、リスがエオスよ。どっちも食いしん坊」

「そうなんだぁ。なのはちゃんはフェレットのユーノ君を拾って、アリサちゃんはハムスターのセレネちゃんとリスのエオスちゃんを拾って・・・。良いなぁ、羨ましいなぁ」

「すずかん家には猫がいっぱい居るし、ユーノとかセレネ達を連れて行ったりしたら・・・」

「格好のおもちゃにされちゃうかも」

あの2人が猫に追い立てられる光景が簡単に想像できるわ。ちょっと見てみたい気もするけどさ。すずかが残念がる中、なのはのお姉さんの美由希さんと、すずかのお姉さんの忍さんと合流。さっきあたしがバッグを抱えてダッシュしてたことを訊かれて、なのは達に話した内容に追加分を入れて話した。荷物に紛れてまでついて来ようとするその気概が可愛いだとかって笑われたけどね。

†††Sideアリサ⇒ユーノ†††

『どうして2人が居るんだ!? それに、アリサさんに拾われたってどうして!?』

なのはのご家族や友達のみなさんと一緒の旅行先で、僕は予想だにしない再会をした。セレネとエオス。僕の1つ年上で双子の姉妹で、僕にとって幼馴染であり親友であり家族。そんな2人がこの世界に訪れていたなんて。ついて来ないでってあれほど強く言ったのに。
睨みを利かせて怒鳴ると『そんなことよりさ、なに女湯なんて入ろうとしてるの?』セレネが殺気を漲らせてきた。エオスも見上げるような感じで『サイテー』思いっきり睨み付けて来てる。

『うっ。それは・・・』

反論の余地がないから、セレネの質問に質問で答える(カウンタークエスチョン)に文句が言えない。

『『スクライア一族の掟、その1!!』』

『は、はいっ! 動物形態を悪用して、社会に御迷惑をおかけしてはいけないッ!』

スクライア一族にはいくつか掟が在る。その1つが、動物形態の悪用厳禁。今の僕はそれに抵触してる。なのはに連れられるままに女性専用のお風呂にまで来た僕。いくらでも拒否するチャンスも術もあったのに、こうして来たんだから、罰せられるのは当然なんだけど・・・だけど!

『(やっぱりスルー出来ない!)僕も悪いのは認めるよ。でも、ペリオさんの言うことを無視して、こうして僕について来た2人も悪いよね・・・?』

『『うっ!』』

僕はジュエルシードを回収するために、セレネとエオスのお父さんであるペリオさんに許可は貰った。フィヨルツェンさんが居なくなったことで2人は余計に僕と一緒に居たがるようになって、だからジュエルシード回収に出る時、ついて来ようとした。
それを止めたのは何も僕だけじゃない。ペリオさんももちろん止めた。戦闘魔導師として日が浅いから危ないってことで。“クレイオスソウル”を手に入れてそれなりの攻撃魔法を習得したけど、搦め手にはどうしようもなく弱い。視野が狭いと言うか。僕との模擬戦では適当に設置しておいたバインドに馬鹿みたいに引っかかるし。

『それに。どうしてアリサさんの家に居るんだ?』

『それを言ったら、どうしてユーノは、なのはって子の家に居るわけ!?』

『しかもレイジングハートも持たせてるし!』

『そ、それは、ジュエルシードの回収を手伝ってもらっ――』

『はあっ!? スクライアの掟どころか管理局法違反じゃん!』

『管理外世界の原住民に魔法を教えることはご法度・・・って、コレは私たちもだけど・・・』

『なっ!? アリサさんにも魔法を教えたの!?』

『『うん・・・』』

なんてこったと本気で頭を抱える。とにかくお互いの現状を知ることにした。どうやらセレネとエオスは僕が発ってすぐにメッセージをペリオさんに残して、家出同然で来たみたい。そして、この世界を訪れてからすぐに発動前のジュエルシードを1個回収。2個目の回収時に、あのテスタメントって子と遭遇。そのまま戦って撃墜されて、今の僕のような魔力回復に勤しんでるってことらしい。僕も2人と同じような感じで今の状況になっていることを話した。

『『『はあ~』』』

3人揃って出るのは重い溜息だけ。

『結構な違法だよね、管理外世界での戦闘なんて。しかも原住民に魔法を教えるのも』

『お父さんにメチャクチャ怒られるよね・・・』

『『助けてフィヨルツェンさん・・・(涙)』』

僕は覚悟があってのことだけど、セレネとエオスは完全に想定外って感じだ。軽く現実逃避してるし。というか、こんなことでフィヨルツェンさんを頼れないよ。人間形態でならガックリ肩を落としているであろう2人を見守っていると『ユーノ君。そっちはどうだった?』なのはから念話が。2人のことは、僕がなのはの肩から引き摺り下ろされそうになった時に話しておいた。

――なのは。アリサさん、もしかしてこっち側の子かも――

――こっち側って・・・え? まさか、そんな・・・――

――えっと、このハムスターとリス、僕と同じスクライアの魔導師で、しかも幼馴染なんだ――

――えええええええええええっ!?――

2人の姿を実際に見て、僕だって驚いたよ。こんな事態に陥るなんて。

『あ、うん。アリサさんに魔法を教えちゃったみたいなんだけど・・・』

『えええええええええええええええッ!!』

さっきみたく驚きを見せるなのは。当然だよね、友達がすでにこっち側に居たんだから。とりあえず2人から聴いた、アリサさんとの出会いの内容と、アリサさんと2人の現状をなのはにも伝えておく。

『そっか。アリサちゃん、魔法は知ってるけど、魔導師じゃないんだ』

『うん。アリサさんはもちろん、すずかさんにも魔導師として必要なリンカーコアが無いみたいだから』

『そうなんだ。・・・えっと、じゃあ後でセレネちゃんとエオスちゃんとお話し出来ないかな?』

『うん。伝えておくよ。なのははゆっくりと疲れを癒してね』

『ありがとう、ユーノ君』

なのはとの念話を一度切る。もう一度セレネとエオスに繋いで、『場所を変えよう』と提案する。2人は文句を言わずに素直に受け入れてくれた。というか『変えなきゃ許さない』って睨まれた。それからなのは達がお風呂から出るのを、なのは達の泊まる部屋で待っていた。
だけど。沈黙が重かった。静寂が質量を持って押しかかってくるような感じで。なのは達はお風呂から上がってお土産屋さんやタッキュウとかっていうスポーツに勤しんだんだけど、その間も僕は2人からの無言の威圧感に晒され続けて、なのは達が帰って夕ご飯を食べる頃には僕はもう・・・疲れ果てていた。

『ごめんねぇ、ユーノ君。待たせちゃったね・・・って、大丈夫!?』

『う・・・大丈夫だよ。気にしないで』

なのはがグッタリしてる僕を抱え上げて心配してくれるんだけど、セレネとエオスの視線がすごく痛い。とりあえず降ろしてもらって、念話での話し合いを始めようとしたんだけど・・・

「コラっ、セレネ、エオス! あんた達は食べちゃダメでしょうが!」

「ハムスターとリスって、果物でいいのかな・・・?」

「あとはお野菜とかも良いんじゃないんでしょうか~♪」

2人がアリサさんの体を伝ってテーブルに上って、夕ご飯を物色し始めた。アリサさんに怒られて、すずかさんに苺を差し出されると喜んで食べて、ファリンさんにブロッコリーを差し出されてそっぽ向いたりするから「ブロッコリーはお嫌いなんですね・・・」しょんぼりさせたり。それでも足りないって感じで物色を再開。早く話を始めたいんだけどな・・・。

『野菜はもういいの! 肉っ、お肉が欲しい!』

『あっ、オサシミ! オサシミをプリーズ!』

『にゃはは。アリサちゃんの言ってた通り本当に食いしん坊さんなんだね』

なのはにも念話を通してたみたいだ。身内があんなんだと恥ずかしい。こっちの精神がもちそうにないから『もう! 大事な話をするからこっちに集中してよ!』って怒鳴ってしまう。

『そんなのご飯の後でいいでしょ』

『あ、なのはって言ったっけ?』

『えっと、はい。はじめまして。高町なのはです』

『ん。どうもね、なのは。私はセレネ・スクライア。って、ああもう! アリサのケチ! 野菜と果物ばっかじゃ飽きるの!』

『私はセレネの妹で、エオス・スクライア。よろしく、なのは。それじゃ話の通じないアリサに代わってオサシミを取ってほしいんだけど』

『え、でも。一応、普通の動物と同じような扱いをしないと怪しまれるから、我慢した方がいいかと・・・』

『やっぱりそこがネックなんだよね~。早く元の姿に戻って、美味しい物をいっぱい食べたいよ』

『動物形態に変身してれば、無駄に魔力を消費しないで済むから回復も早いんだけどね。ユーノだって大変でしょ? 元が人間なんだから、フェレット形態じゃ食べる物を制限されて食事とか味気ないでしょ?」

『え?』

『別にそんなことはないよ。なのはのご家族はみんな良い人ばかりだし、なのはがこっそり色々くれるから』

今の生活に不満を言うものなら、僕は救いようのないとんだ愚か者になる。僕を救ってくれた、命の恩人であるなのはに目を向ける。と、さっきから『え?』って繰り返してばかり。

『あの、セレスちゃんとエオスちゃんは双子なんだよね・・・?』

『『そうだよ』』

『でも、ハムスターとリスって、別の動物だよね・・・』

『『まあ、それは好みでその動物の姿に変身してるんだし』』

『ユーノ君は、その・・・ユーノ君も好みでフェレットに変身してるだけなのかな・・・?』

なのはが何を言いたいのか判らない僕たちは揃って小首を傾げる事に。そんな僕たちを見たみなさんが「3匹一緒に首傾げてるよ♪」とか「可愛い❤」って騒いでる。

『好みって言うか、僕たちスクライアは遺跡発掘を生業にしてるからね。狭所などで役に立つんだ、動物形態。2人は好みで、僕は大して考えずにこの姿にしたんだけど・・・それがどうしたの?』

きょとんとしてるなのはを見たエオスが『あのさ、ユーノ。もしかして言ってないの?』って訊いてきたから『何を?』って訊き返すと、今度はセレネが『ユーノが人間だってことを』なんて不思議なことを言ってきた。

『言ってるも何も知ってるよ、なのはは。僕が本当は人間だって。ねえ?』

『し、知らないよぉぉぉーーーーーーーッ!!』

『へ?・・・えええええ!?』

なのはのあまりの驚きように、僕は必至に当時の記憶を思い返していく。その結果、『あああああああああああああ!!』初めからこの動物形態だったことを思い出した。どうしてなのははお風呂とか着替えとか平気で僕の前でするのかなぁ?とか思ってたけど、人語を喋って魔法を扱える動物だって認識なら、ありえる話だった。

『うわっ、うわっ、ごめんなのは! 僕は、その・・・!』

『う、ううん、いいよ、うん。疑いもせずに勘違いしちゃってた私にも問題があったかもだし・・・!』

顔を赤くさせるなのは。気まずい。僕はなんて最悪なことを仕出かしてしまったんだ。セレネとエオスからはまた『サイテー』なんて蔑まれるけど、これも受け入れる。なのはに嫌われてしまったかも。沈んでいると『・・よしっ。もう大丈夫!』なのはから元気いっぱいな声が。

『なのは・・・?』

『ユーノ君はユーノ君。今の私にはそれだけで十分♪』

そんな嬉しいことを言ってくれたなのは。この子にはもう感謝の言葉しかない。なのはの優しさに心の中でボロボロ泣いてる中、『強敵だ、この子』ってセレネとエオスが呟いたのが聞こえた。そしてセレネが突然『はい、この話は終わり!』って話題を切ってきた。

『えっとえっと・・・あ、そうそう。なのはが魔導師だってこと、アリサに伝える?』

『いやダメに決まってるだろ』

『にゃはは・・・うん。それは、ダメかも』

エオスの馬鹿げた話を即否決。これ以上この世界の人、なのはの友達を巻き込むわけにはいかない。

『そうだ。ちょっと聴いてよ、ユーノ、なのは。アリサってさ、私たち魔導師をイタい存在だとか思ってるんだよ? 一体どんな想像したのか知らないけど、魔法使いになった自分を想像して、恥ずかしさで死ぬとかって。どう思うこれ!?』

『えっと、さすがにちょっと酷い、かな?』

『『でしょっ! なのはって良い子だね♪』』

『あ、ありがとう。う~ん、私ってイタくて恥ずかしい存在なのかなぁ・・・?』

『そんなことはないと思うけど・・・』

なのは達がチラッとアリサさんの方を見る。アリサさんはそれに気付いて、「どうしたの? なのは」って気に掛けながらお吸い物(スープ)に手を出した。そうしたらセレネが『憤怒再燃』とか言い出して、僕やなのはとの念話を切った。2人はなのはの腕を伝っていく。
セレネは肩で止まって、エオスは頭の上まで登って止まる。絶対に何か企んでる。そう思って止めようとしたんだけど、すでに手遅れだった。あろうことかなのはの下唇に飛びついたセレネは下唇を下に引っ張って、エオスが頭の上から眉間を上に引っ張った。

「ぶふぅぅーーーーっ!?」

なのはの変な顔をまともに見ていたアリサさんが口に含んでいたスープを勢いよく噴射した。他にもなのはのご両親の士郎さんや桃子さん、お姉さんの美由希さんも「ぶふっ!?」と食べていたモノを吹き出しそうだったけど、なんとか耐えていた。運良く?見ていなかったお兄さんの恭弥さんやすずかさん達は状況が判らずに困惑中。

「げふっ、げほっ、ごほっごほっ。こ、コラぁぁぁ! セレネ、エオス! なんて事してくれてんのよ!」

怒鳴りながら立ち上ったアリサさんがセレネとエオスを確保しようとなのはに乗ってる2人に手を伸ばすけど、その身軽さにはついて行けずに取り逃がした。結局、アリサさんが疲労で折れるまで追いかけっこは続いて、温泉に入り直しに行く時に2人を捕獲。

「よくもあたしに恥をかかせてくれたわねぇ」

「アリサちゃん。いくらなんでも偶然だから、そんなに怒っちゃダメだよ」

「普通はそう思うでしょうね。でもね、すずか。コイツらはマジで頭良いのよ、人間みたいにね!!」

アリサさんの両手に鷲掴みにされてるセレネとエオスからは『あー、楽しかった♪』反省の声が無いけど、しょんぼり落ち込んでるポーズをしてるからこそ、すずかさんに優しくしてもらえてる。これは後で僕が叱っておかないとダメだ。ペリオさんを引き合いに出せば、簡単に反省させられるはず。



 
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