ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜
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GGO編ーファントム・バレット編ー
51.本戦直前
前書き
第51話投稿!!
ついに本戦直前まで迫った。
シノンから本戦のルールを説明される中、今だに消えないシュウとキリトのモヤモヤに腹を立たせるシノン。
本戦直前......3人のそれぞれの思いが交差する。
俺が降り立ったのは、GGO世界の首都《SBCグロッケン》の総統府タワーの一角。
まずは大会のエントリーを済ませるため昨日のATMみたいな機械を目指すと幾つもの視線が注がれる。それも居心地の悪い視線だ。
まぁ、仕方ないか.......
昨日の俺の戦い方をみたらそういう視線で見るのも仕方ないといえば仕方ないか。向かってくる弾を叩き落とし、槍を体にぶん投げて、終いには近距離からのヘッドショット。
こんなプレイヤーに近づくのは、知り合いか、恐れ知らずか、あるいは..........
不意に昨日戦ったボロマントの男《死銃》のことが脳裏に浮かぶ。
本大会出場者三十人のリストに、《死銃》という名前はなかった。しかし、奴のプレイヤーの名前だけはわかった。.......《スティーブン》。これが奴のプレイヤーネーム。
《スティーブン》なんてプレイヤーネームは、SAOでは聞いたことがない。SAO時代のプレイヤーネームが確認できれば、そこから現実の本名が割り出せ、奴が《ゼクシード》と《薄塩たらこ》を殺した、いや殺せたのか突き止められる。
でも、それは.......
両拳を強く握りしめ、脳内から奴のことを消そうとするとエントランスホール入り口付近に、見覚えのあるサンドカラーのマフラー、クリアな水色のショートヘア、ジャケットの裾からすらりと伸びる両足を見つけ、少し急ぎ足でそちらを目指す。
「よ、シノン。今日はよろしくな」
昨日出逢い、キリトと壮絶な決勝を戦ったスナイパーの少女......シノンだ。彼女は、振り向きフンと鼻を鳴らす。
「よろしく。.......やっとあんたを撃てるわ」
藍色の瞳が光るのを見て、俺は苦笑いを浮かべる。
「はは.....お手柔らかに頼むよ」
彼女は、口元を少し緩めて、それはどうかな、と話す。
「よ、シノン、シュウ。今日はよろしく」
後方からの聞き覚えのある声に振り返るとそこには、黒髪ロングの美少女.....キリトの姿が。
「......よろしくって、どういう意味」
シノンの少し怒ったような声に俺の体が一瞬、ビクッとなる。
「そりゃ.......もちろん、お互いベストを尽くして戦おうって意味だよ」
「白々しいわね」
シノンの言葉の矢が突き刺さる。
話題を変えようと俺が切り出す。
「それよりも、今日は早い時間からダイブしてるけど、なんで?大会までまだ三時間はあるけど」
「昨日は誰かさんたちのおかげで危うくエントリーし損ねそうになったから」
ぷいと顔を背けつつ、俺とキリトの顔を横目で見る。
「......だいたい、あなたたちだって今から潜ってるじゃないのよ。アンタに暇人みたいに言われたくないわよ」
俺の体にも矢突き刺さる。
HPが減りそうだ。
「そ、それなら、お互い待ち時間を有効利用しませんか。本戦開始まで、そのへんでオチャ.....じゃない、情報交換でも.....」
キリトが言葉を切った理由がだいたいはわかる。
シノンは数秒間を開け、俺らを睨んだあと、ふんと鼻を鳴らし、最小限の動作で頷いた。
「まぁ、いいわよ。どうせ私からそっちに一方的にレクチャーすることになるんだろうけど」
俺とキリトは顔を見合わせる。
「そ、そんなつもりは......なくもないけど.....」
俺たちはすたすた歩き始めたシノンの後を追った。
エントリーを済ませた俺たちはシノンについて行きついたのがタワー地下一階に設けられた広大な酒場ゾーン。
奥まったブース席に腰をシノンは下ろし、ドリンクメニューからアイスコーヒーと書かれたボタンを押すと金属製のテーブルの中央かに穴が開き、奥から黒い液体を満たしたグラスが出現。どうやらGGOの飲食のシステムはNPCはいないようだ。
俺も烏龍茶のボタンを押し、キリトはジンジャエールのボタンを押す。キリトがジンジャエールを一気に半分ぐらい飲むと会話の口火を切る。
「......本戦のバトルロイヤルってのはつまり、同じマップに三十人がランダム配置されて、出くわすそばから打ち合って、最後まで生き残った奴が優勝......ってことだよな?」
「ほら、やっぱり私に色々解説させようって魂胆じゃない。だいたいそんなの、運営が参加者に送ってきたメール見れば全部書いたあるわよ」
飽きれたようにシノンが聞く。
「い、一応読んだけどさ.......」
はぁ、とため息を漏らしこちらをシノンが見るも俺も、同じく、と答え、またも飽きれた表情をする。
「そのぉ、俺の理解が正確かどうか、確認しておきたいかなーって.......」
「物は言いようね」
グラスを卓上に置き、シノンはやや早口で本戦のルールをしてくれた。
「.....基本的には、いまあんたが言ったとおり、参加者三十人による同一マップでの遭遇戦。開始位置はランダムだけど、どのプレイヤーとも最低千メートル離れてるから、いきなり目の前に敵が立ってるってことにはならないわ」
「「せ、千メートル?」」
またも飽きれた表情から鋭い視線が飛んでくる。
「あんたたち、ほんとにメール読んだの?そんなの、一番最初に書いてあるわよ。本戦のマップは直径十キロの円形。山あり森あり砂漠ありの複合ステージだから、装備やステータスタイプでの一方的な有利不利はないし」
「じゅ、十キロ!?でかいな.....」
確かにでかい。
その大きさは、アインクラッドの第一層と同じ大きさだ。
「つまりは、ヘタをすれば大会終了時刻まで誰とも出くわさない可能性もあるってわけか......」
シノンは小さく頷く。
「銃で撃ち合うゲームだもの、それくらいの広さは必要なのよ。スナイパーライフルの射程は一キロ近くあるし、アサルトライフルだって五〇〇メートルくらいまで狙えるわ。狭いマップに三十人も押し込めたら、開始直後からバリバリ撃ち合いになって、あっという間に半分以上死んじゃうわよ」
「ははあ、なるほどなあ.....」
納得したようにキリトが頷く。
「ーーでも、あんたの言うとおり、遭遇できなきゃ何も始まらないしね。それを逆手にとって、最後の一人になるまで隠れてようって考えるヤツも出てくるだろうし。だから、参加者には、《サテライト・スキャン端末》っていうアイテムが自動配布されるの」
「何かの衛星か何か?」
「そ。十五分に一回、上空を監視衛星が通過するって設定。その時全員の端末に、マップ内の全プレイヤーの存在位置が送信されるのよ。そのうえ、マップに表示されてる輝点(ブリッツ)に触れれば名前まで表示されるおまけつき」
「つまりは.....一箇所に潜伏できるのは十五分が限界で、あとはいつ奇襲攻撃されてもおかしくないと」
「そういこと」
キリトが急ににやりと笑いかけながら訊ねる。
「でも、そんなルールがあるなら、スナイパーは不利じゃないか?茂みの中で里芋みたいにじーっとして、ひたすらライフルを構えてるのが仕事だろ?」
「里芋は余計よ」
フンとシノンは不敵な笑みを浮かべ返す。
「一発撃って一人殺して一キロ移動するのに、十五分もあれば十分すぎるわ」
「そ......そうですか」
つまりは、俺とキリト以外は条件はほぼ一緒ってことか。
だいたいの情報を頭の中でまとめ咳払いをして、俺が一番聞きたかったことをシノンに問う。
「変なことを聞くようで悪いけど、今回の本戦出場者三十人の中で知らない名前って幾つあるか教えてくれるか?」
本戦出場者三十人の名が載っている運営からのメールを提示してシノンに見せる。
「はぁ......?」
シノンは不思議そうな顔でこちらを見たあとにネームリストを指でなぞった。
「頼む、教えてくれ。重要なことなんだ」
「俺からも頼むよ」
キリトも状況を察したようだ。
「.....まぁ、別にいいけど......」
尚も不思議そうな顔をしながら藍色の瞳が素早く左右に往復する。
「えっと.......、BoBも三回目だから、ほとんどの人は顔見知りかな。まったく初めてっていうのは.......どっかのムカつく光剣使いとあんたを除くと、四人いるわ」
「四人。なんて名前だ?」
「ん.......《銃士X》と《ペイルラインダー》、それに.......《スティーブン》と......《リューゲ》かな」
シノンがぎこちなく読み上げた名前、俺もウインドウで確認する。
スティーブン.......こいつが《死銃》......
「......どうしたの?」
少し心配そうな表情で俺を見てくるシノン。
「あ......うん.....ありがとう....」
曖昧な返事で返す。
キリトにスティーブンのことを話そうとするが、シノンをこのことに巻き込むわけにもいかない。
俯きながら死銃のことを考えていると視界に白い手が映り込む。顔を上げると、シノンが細めた両眼でじっと睨んでいた。
「......急にどうしたっていうのよ。名前を聞いてから何か考え込んで。なに?あんたたちは、私をいらつかせて本大会でミスさせようって作戦だったの?」
「違う......違うんだ。そうじゃなくて......」
キリトも同じく言おうか言うまいか考えこんでいる。
考え込んだ末に俺は思い口を開く。
「シノン......。詳しいことは言えないけど.......ボロマントの奴には気をつけてくれ。そいつにあったらすぐに逃げろ」
「はぁ.....?何いってんの、あんたは?」
俺はシノンの白く小さな手を掴み真剣な眼差しで藍色の瞳を見る。
「........頼む.......」
シノンは急に手を掴まれて動揺し、その後に俺の手を弾く。
「何かあったの?」
重い口を開く。
「あぁ......これも詳しくは言えないけど俺とキリト.....そしてそいつは......以前本気で殺しあった」
その言葉にシノンの大きな眼がより一層開かれる。しばしの沈黙のあとにシノンの低い呟きが耳にはいる。
「........『もしその弾丸が、現実世界のプレイヤーをも本当に殺すとしたら、それでも君は引き金を引けるか』」
「「..........!」」
俺とキリトは息を呑む。
さらなる沈黙の中で、シノンは小さく唇を動かす。
「あなたたち.......、キリト、シュウ、あなたたちもしかしたら、あのゲームの中に......」
俺たちは無音の問いかけに答えぜともわかってしまう。
「.........ごめん。訊いちゃいけないことだったね」
「........いや、いいんだ」
「.......いいんだよ。あれはもう終わったんだ」
《ソードアート・オンライン》の元プレイヤーということがわかったことで俺たちが、本気で殺しあったってことが示す意味がシノンにもわかってしまった。
シノンは両眼をぎゅっとつぶって、唇の震えを噛み締め、細く息を吐いてから、仄かな笑みを浮かべ、囁く。
「......そろそろ、待機ドームに移動しないと、装備の点検やウォーミング・アップの時間がなくなっちゃう」
「あ.....ああ。そうだな」
頷き、俺たちはシノンに続いて立ち上がる。左手首のデジタルウォッチを見れば、時刻はいつの間にか午後七時に近づいている。本大会まであと一時間。
巨大な酒場の隅のエレベーターまで行き、下向きのボタンを押す。
エレベーターの金属製の網のドアが開き、その中に入り一番下のボタンをキリトが押す。
「あなたたちにも、あなたたちの事情があることは理解したわ」
後ろに立つシノンが、近づく気配がし、直後に背中の中央に、トンと何かが押し当てられる。
銃ではなく、指先だ。
「でも、私との約束はまた別の話よ。昨日の決勝戦の借りは必ず返すし、シュウにも借りを返してない。だから、私以外の奴に撃たれたら許さないからね」
「.......わかった」
「.......俺は、何もした覚えないんだけどな」
GGOにダイブした最大の目的は、《死銃》との接触と謎の解明。
菊岡の依頼されたからというわけではなく、これは俺とキリトと奴らの問題。
だが、彼女とのバトルに奴らは関係ない。
「......君と出会う時まで、必ず生き残る」
「必ずだ。......必ず君の前に立って戦うよ」
そう俺たちが告げると、背中から指先が離れ、小さな声がした。
「ありがとう」
その言葉を聞くとエレベーターが乱暴に制止し、開いた扉の先に薄闇から、鉄と硝煙.......紛れもない戦場の匂いが押し寄せた。
後書き
次回、ついに始まる本戦バトルロワイヤル!!
《死銃》を追うキリトとシュウの前に立ちはだかるプレイヤー.......
そして迫り来る《死銃》の弾丸!!
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