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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第七十二話 ミラニの知り合いもやっぱ強えんだな

「おおっと! 先に動いた者達が一直線に向かって行く!」


 モアが現況を分かりやすく実況する。
 『角のある妖精(フェアリーホーン)』である者で、動き出したのは五人いた。
 その五人はある人物に向かって魔法を放つ。


「『風の刃(ウィンドカッター)』っ!!!」
「『火の矢(ファイアアロー)』っ!!!」


 五人はそれぞれ風でできた三日月形の刃と、矢型(やがた)の火を複数飛ばす。
 それが一斉にある人物へと向かって行く。


「魔法の一斉攻撃だ!!! このままだと危ないですよぉっ!!!」


 モアの言う通り、このまま直撃すれば一溜(ひとた)まりも無いだろう。
 ある人物というのはどうやら男のようだ。
 歳は二十代前半に見える。
 白銀(しろがね)の鎧を着込んでいる。


 彼は目の前に迫る魔法をキッと睨みつけると、腰に下げている剣を抜いて構える。
 そして、その剣を地面に突き刺す。
 すると地面が盛り上がり男の目前に壁を作る。
 その壁に五人の魔法が衝突する。
 砂煙が起こり五人は虚(きょ)を突かれる。
 男はその隙をつき、間を詰める。
 その速さに対応できなかった者は、柄(つか)で腹を殴打され意識を失う。
 砂煙が晴れて、そこに立っていたのは白銀の鎧の男と、『角のある妖精(フェアリーホーン)』の二人だ。
 場には三人が倒れている。


「おおっとどういうことでしょうか! 砂煙が晴れたと思ったら、倒れていたのは攻撃をした方だ!」


 その場を見守っていた他の参加者達も、鎧の男の強さに目を見張る。
 あの一瞬で三人を叩き伏せた男に対し誰もが警戒を強める。
 それを見ていたクィルも驚愕に目を見開いている。


「な? 大丈夫だったろ?」
「……は、はいです……で、でもどうして分かったのですか?」


 クィルが必死になって疑問をぶつけてくる。
 彼女は大勢で一人を攻撃することに疑問を持ち不安にしていたが、闘悟が心配無いと言ってたことが気になった。
 だが、彼の言う通りにクィルの見た光景は、一人があっさりと複数攻撃を破った光景だった。


「そうだな、五人がかりに一人をやるってことは、相手は相当の実力者だってことだろ?」
「……そうなのですか?」
「だってそうだろ? 複数でやらなきゃ、勝てねえからやったんだし」
「あ、なるほどです」


 さすがは争いごとに興味の無いお姫様は、そういう観察力は無いようだ。


「それに、一番の理由はあの男の落ち着きよう……かな」


 そう、男は五人が自分に向かって来ていると分かっても決して慌てたりはしていなかった。
 それどころか冷静に相手を観察していた。
 しかも五人だけでなく、周りの連中にまで気を配っていた。
 余程場慣(ばな)れしていると見える。


「多分……ギルドランクにしたら……Aはあるだろうな」


 闘悟の予想に解答を示したのはミラニだった。


「よく分かったな。彼の名前はヤーヴァス。登録者達からは『土波(つちなみ)』と呼ばれている」
「つちなみ?」


 闘悟は首を傾げる。


「ああ、あの男の持っている剣を見てみろ」


 ミラニの言った通りヤーヴァスの剣に注目する。
 見た所、両刃であり刃渡(はわた)りが一メートルくらいある。
 変わっている所と言えば、刀身(とうしん)の色だ。
 間違いなく黄土色(おうどいろ)を宿していた。


「あれは『魔剣ドール』。大地を操る力を持つと言われている」
「おおっ! マジかよ!!!」


 闘悟は目をキラキラさせて見つめる。
 だって魔剣だぞ魔剣!
 男の子ならワクワクして当然だろ!
 異様に食いついてきた闘悟に少し引き気味になる。
 両膝に乗っているヒナとハロもビックリしている。


「そっかぁ、だから地面が盛り上がって壁を作ったのかぁ」


 闘悟はウンウンと納得しながら頷く。
 あの時、ヤーヴァスは五人の魔法を目の前にして、剣を地面に突き立てた。
 すると、地面から壁が現れた。
 あれは『魔剣ドール』の能力で、土の壁を作ったのだ。


 闘悟は興味を引かれてヤーヴァスに視線を送る。
 魔剣を同じような黄土色の長髪を持っている。
 高身長で小顔で、キリッとした顔つきをしている。
 間違いなく美形と評するのに誤解は生まないだろう。
 恐らく彼の流し目で恋に落ちる婦女子は多いだろうことを予想できる。
 騎士姿をしているが、どことなく神官のような清浄(せいじょう)さを感じる。


「彼には五人では足りないだろうな」
「ミラニはもしかして知り合いなのか?」
「以前言わなかったか? 前に仕事を一緒に経験している。彼は強いぞ」
「へぇ」


 少し興味が湧いた。
 ミラニは自身が圧倒的に強いせいか、仕事でも自分を同じレベルを要求してしまう。
 だが、ミラニと同等以上の強者などなかなかいない。
 ミラニから聞いたことがあるが、昔に足をやたら引っ張る者をパーティを組んだことがあるらしい。
 その時体験したトラウマから、仕事はそれなりの強者としかこなさなくなったらしい。
 そのミラニが一緒に仕事をしたことがあるということは、ヤーヴァスはやはり強者なのだろう。
 彼女も彼を認めるように「強い」と言う。


「闘ったことあんのか?」
「一度手合せはした」
「結果は?」
「……勝負はつかなかった」


 少し気まずそうに言葉を放つ。
 彼女の様子が気にはなったが、それが本当なら、つまりはミラニと同等以上ということだ。
 ハッキリ言って、闘悟が今まで出会った人物の中で、ミラニを超える者とは会っていない。
 魔力量も実力もミラニは一流だ。
 達人級であるミラニと同等ということに、闘悟は少し驚いた。


「この一回戦は恐らく彼が勝ち残るだろう」


 ミラニの言う通り闘悟もそう思う。
 他の者達に視線を送るが、彼を越えるような実力者には見えない。
 だが、これはバトルロイヤルだ。
 個人戦ならともかく、あんなふうに目立ってしまえば、周囲の意気(いき)が自分に集中してしまう。
 五人なら何とかなっても、他の二十六人が一斉に向かって来ても捌(さば)けられるのか。
 それがヤーヴァスの試練になるのかもしれない。


「ん?」
「どうした?」
「いんや、何でもねえよ」
「そうか」


 闘悟がそんなふうに声を漏らしてミラニに聞かれてしまったのにはわけがある。
 それは、何となく視線を向けて気になる点を見つけてしまったからだ。
 だがそれはヤーヴァスに関してのものではなかった。
 ふと闘悟は真剣な表情をしてある一点を見つめる。
 気になっている点、それは参加者ではなく観客席にいる、ある人物のことだ。
 恐らくこの場で気づいているのは闘悟一人だろう。


 その人物は厳しい目つきでヤーヴァスを見つめている。
 その瞳には明らかな敵意が宿っている。
 闘悟はもう一度その人物に視線を送る。
 女の子だ。
 だが、それだけなら闘悟はさして注目することは無かった。
 ギルド登録者なんてやってると、他人の嫉妬や敵意を受けることはよくある。
 有名であればあるほど、それは比例して大きくなる。
 闘悟も少なからずそういった対象として受け止められていることも理解している。
 だから、女性の視線に気づいたところで普通なら流すはずだった。

 
 だが、それが知り合いだったならどうだ?
 ましてやその知り合いが、普段から机を並べて生活している人物だとしたら?
 あれは間違い無い………………メイムだ。
 そう、薄い紫色のショートツインテール。
 闘悟もよく知っているメイム・ウォーレスその人だった。
 普段はうるさいくらいの元気のいい明るい女の子だ。
 それがあんな憎しみを込めたような表情をしている。
 余程のことが、あのヤーヴァスという男とあったのかもしれない。
 正直言ってあんな顔をする彼女は見たくなかった。
 一体何があったのか闘悟には分からない。
 視線をメイムから逸らして軽く溜め息を吐く。
 クィル達には言わない方がいいな。
 闘悟はそう思い心の中に留(とど)めておく。

 
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