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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第七十一話 第一回戦が始まったぁ!

 闘武場に集まった第一回戦の三十人。
 ここでバトルロイヤルを行い、最後の一人になるまで闘う。
 これからここで闘いが始まるのだが、舞台の上だけで行われるわけではない。
 三十人もいるので、舞台だけが範囲だとすると狭過ぎる。
 そこでどのように闘いの場を提供するのか興味があった闘悟は、ギルバニアに聞いたことがあった。
 その時に教えてもらったのは、「楽しみにしていろ」という一言だけだった。
 隠すようなことではないような気もしていたが、ギルバニアに詰め寄ることもできず、大人しく引き下がることになった。


 そして今、闘悟は舞台の上に上がっている三十人を、クィル達とともにVIP席から見つめる。
 すると、いきなり声が周囲に響く。


「さあ! それでは皆さんご注目下さい!」


 実況を任されているモアが皆の視線を集める。
 その中、いきなり地響きのような音がする。
 闘悟達も何事かと思い周囲に視線を泳がす。
 音の中心点は闘武場の真ん中から聞こえる。
 どうやら舞台が揺れているみたいだ。
 上に乗っている者達が同じように声を上げて身構える。
 いきなり揺れ出した舞台に驚いている。


 闘悟も何が起こっているのか確認するために舞台を注目する。
 よく見ると舞台が地面にめり込んでいるようだ。
 揺れていた原因は舞台自身が動いていたからだ。
 もちろん誰もがその光景を見て言葉を失っている。
 地面に完全に埋まった舞台は、その動きを止めた。
 まさか、このような仕掛けが施されていたとは知らなかった。
 ギルバニアが「楽しみにしておけ」と言った意味が分かった。
 ただ、やっぱり隠すほどのものでもないような気がするのは気のせいだろうか。


「お騒がせ致しました! バトルロイヤルをするためには、舞台が邪魔になります! そこでこのように広い空間を用意するべく舞台を埋めさせて頂きました!」


 舞台が無くなったことで、より一層広く感じる。
 そもそも、この闘武場自体相当の大きさだ。
 東京ドームくらいは確実にあると闘悟は思った。
 その中心に大きな舞台があったので、それが無くなった今では、さらに広大に感じたのだ。
 本当にコロッセオのような建物だと、闘悟は周りを確認しながらそう思った。
 だが、この広さなら三十人が一斉に闘っても十分だと感じる。
 何も無い、ただ広い空間がそこにある。


 闘い方は人それぞれだろうが、魔法を駆使(くし)してどう闘うかがポイントになりそうだ。
 障害物が無いので、身を隠す場所など無い。
 魔法で作るのか、それとも一気に叩くのか、様々な闘い方が考えられる。
 それに、相手は一人だけではない。
 常に周りを意識していなければ背後から襲われるかもしれない。
 思ったより面白い闘いになりそうだと闘悟は微笑む。


「それでは第一回戦の方々、準備をお急ぎ下さい! あと十分で始めたいと思います!」


 モアのその言葉で、一気に場が緊張に包まれる。
 同時に参加する三十人は顔を引き締めて、体から闘気(とうき)を漂わす。
 まだ始まってはいないが、周りに敵意を込めた視線を送る者達がほとんどだ。
 ジロジロと互いを牽制(けんせい)し合う。
 そしてジリジリと後ろ手に下がり、敵から距離を開ける。
 誰もが攻撃を対処できるように身構えている。


「さあて、いよいよ始まるな」


 闘悟はワクワクしながら不意に言葉を漏らす。


「トーゴ……楽しみ……なの?」
「まあな、これも一種の祭りだしな」
「わたしもまつりすきだぞぉ!」


 自分の両膝に座っているヒナとハロが声を出す。
 ステリアも目をキラキラさせながら参加者を見つめる。
 恐らく彼女も闘悟と同じく楽しみなのだろう。
 本当は参加が理想だったが、出られなかった分、しっかりと他の者達の闘いを目に焼き付けておこうと思っているのだろう。
 クィルは彼女らしく、少し不安そうに見つめている。
 基本的に平和第一主義の彼女なので、こういった場はあまり好みではないに違いない。
 優しいクィルらしい態度だ。





 そして十分が過ぎ、いよいよ第一回戦が始まる。
 モアの開始宣言が皆の耳を釘付けにする。


「では時間がやって参りました! 準備はよろしいですか? それでは…………」


 息を飲む音がどこかから聞こえてくる。
 一瞬の静寂(せいじゃく)が周囲を支配する。
 三十人は武器を手に、力を込め始める。


「始めぇっっっ!!!」


 その瞬間、風を切るように数人の者達が動き出す。
 他の者達は静止している。
 いきなり動いた者達を警戒しているのだろう。
 そして動き出した者達は、一斉にある人物に向かう。
 どうやら集中攻撃を仕掛けるみたいだ。
 よく見れば動き出した人物達の装備が同じだ。
 動きも統制(とうせい)されているように感じる。
 もしかしたら事前に打ち合わせでもしていたのかもしれない。


「あれは『角のある妖精(フェアリーホーン)』の者達だ」


 いつの間にか傍に来ていたミラニが説明してくれる。
 闘悟はなるほどと頷きを返す。


「恐らく力を合わせて代表者を有利にさせる腹積(はらづ)もりだろう」


 ミラニの言う通りだろう。
 自分達が支援する者を優勝に導くために、こうして有力株であろう者を一斉に叩く。
 このバトルシステムの特徴は、集団の力を利用できること。
 つまりはチーム戦略を行使(こうし)することができるということだ。


「で、でも一人を大勢でなんて……」


 クィルが眉を寄せて身を少し縮める。
 彼女の言うことも分かる。
 確かに仲間などいないソロの参加者には辛い闘いになるだろう。
 見ようによっては卑怯と捉えられても不思議ではない。
 集団で一人を襲っているのだから、決して見栄(みば)えは良くない。
 だが、これも闘いだ。
 実戦に卑怯も何も無い。
 それどころか、チームの力を合わせて闘うことは、魔物との命を懸けた戦いには不可欠だ。


 このシステムを聞いた時、ギルバニアの思惑(おもわく)にピンときた。
 この大会で、こうしてチームワーク力があるギルドパーティの存在を知ることができる。
 また、ソロで一番に狙われる強者の存在にも気づける。
 各国の代表者達が、そうして見つけたパーティや強者を、自国に引き抜くためのシステムだとも言える。
 もちろんギルバニア自身も、隙あらばスカウトして、自国の利益を獲得しようとするだろう。


 基本的にギルド運営は国が支援する。
 ギルドに強者が集うと、それだけ危険な依頼が多く転がり込む。
 危険である依頼ほど高額の報酬が発生する。
 そしてその報酬の一部分が国に納められ潤(うるお)っていく。
 強者のギルド登録者を得ることが、国の栄(さか)えに繋がっていると言っても過言(かごん)ではない。
 だからこそのバトルロイヤルシステムなのだ。
 それを理解していないクィルには悲惨な光景に映るのかもしれない。


「なあクィル」
「な、何ですか?」
「確かに多対一(たたいいち)は不利……になることもある」
「……普通そうなのです」
「でも、見てみろよ」


 闘悟は顎(あご)をしゃくってバトルを見ろと促す。
 クィルは闘悟の言う通り視線を向ける。
 そこには驚くべき光景が広がっていくことになるのを、クィルは知ることになる。
 
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