戦国異伝
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第百二十三話 拝領その八
「するものではありませぬ」
「だからじゃ。東大寺に兵は入れぬ」
それは絶対にだというのだ。
「寺の前に置く」
「そうされるべきですな」
「無論兵達に無礼はさせぬ」
このことは絶対のことだ、織田家は兵達の乱暴狼藉は絶対に許さないのだ。
「寺の前で大人しくさせて」
「握り飯でも食わせて」
「飯も用意されておるわ」
信行がそうしているというのだ。
「後は待てばよい」
「行儀を守ったうえで」
「東大寺の前じゃからな」
だから礼を失ってはいけないというのだ。
「それは守らせるぞ」
「では」
こうした話をしながら織田家の面々は東大寺の前まで来た、寺の前には信行達と東大寺の僧侶達が集まっていた。その中で信行が言ってきた。
「兄上、お待ちしておりました」
「首尾はどうじゃ」
「既に」
話は整っているというのだ。
「ここで、ということですな」
「うむ、わしは東大寺の中には入らぬ」
このことを僧侶達にも話す。
「決してな」
「そうされるのですか」
「まことに」
「そうじゃ、わしも織田家の誰も寺の中には入らぬ」
驚く僧侶達に落ち着いた顔で述べる。
「ここで待たせてもらおう」
「何と、ここで待たれぬのですか」
「そのうえで拝領と」
「皇室のものじゃ」
その宝だからだというのだ。
「それも当然であろう」
「何という慎みか」
「そこまでされるとは」
僧侶達はここでまた驚いた。
「かつての義教公はえらい剣幕だったとか」
「うむ、今にも殺生をせんまでだったとか」
「しかし織田様の何と謙虚なこと」
「不遜な御仁というのは誤りだったか」
「謙虚な方であったか」
「これは驚きじゃ」
「わしはわしじゃ」
信長は普段のざっくばらんとした態度でその僧侶達に話した。
「それ以外の何でもないわ」
「だからですか」
「境内には入らずにここで待たれ」
「兵もい一兵も入れぬ」
「そうされるのですか」
「そうじゃ」
まさにその通りだというのだ。
「わかってくれたか、それではじゃ」
「はい、では今よりお持ちします」
「蘭奢待をここにお持ちします」
「御覧になって下さい」
「ではな」
信長もそのことを笑顔で受ける、そうしてだった。
暫くして暗褐色木の大きな切れ端が上に布を置いた盆の上に大事そうに持って来られた、それを見てだった。
信行が信長にこう言った。
「あれがです」
「蘭奢待じゃな」
「はい」
まさにこれがだというのだ。
「あの伝説の香木です」
「ふむ、かなり歳月が経つがな」
信長は信行の言葉に応えながらその香木を見て言う。
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