【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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役者は踊る
第三幕 「予測もつかない世界で」
前書き
タイトルは深く考えずつけてます。あしからず。
前回までのあらすじ:軟弱少年、ダウンする
IS学園に来て初めての日。僕は早速緊張から体調が悪化し、個室で授業を受けることになった。
学園の歴史上初めての別室登校者に教師側も随分悩んだようで、取り敢えず1組の授業内容をモニタリングし、質問があったらその部屋の端末から教卓へメッセージを届けるというシステムを用意してくれた。おお、これは便利便利。
というか本当はIS学園に別室登校なんてありえない。なんたってここに入学するにはかなり厳しい条件などを潜り抜けねばならないからだ。個室登校というのは普通対人関係的な問題や心の病または構造の問題を持った人間がすることが多い。そんな子は試験の段階ではじき出されてしまうため、備えなどしているはずがないのだ。ここまで気を使ってもらえたことに内心感謝している。
「・・・・・・」
こうして僕は一人でモニターとにらめっこしながら授業を受け続けた。別段慣れているので寂しくはないが、授業についていくのはなかなか大変だ。何せ参考書の時点で尋常じゃないほど分厚いので流石に全ては読み切れていない・・・あ、オリムラが殴られている。参考書を電話帳と間違えて捨てたらしい。バカだね。
その後、特に何ということもなく授業を終え、やることがない僕は飲み物を買いに個室を出た。
初めて一人でうろつく廊下。ここは職員室に近いのであまり生徒は見かけない。
「・・・でして、結章君の専用ISは目途が立っていないようです」
「倉持技研は織斑のも含めて2機も抱えてるからな・・・最上重工は何と言っている?」
「新型を今から作る時間は無いですが、打鉄の改造機なら回せるとのことです」
「無い物ねだりは出来ん。それで行こう。データが取れれば文句は言わんだろ・・・っと、失礼」
「・・・お気に、なさらず」
話に夢中で僕にぶつかりそうになった男性が謝罪する。この人は確か・・・この学園の警備責任者の人だったかな?どうやら専用ISについての話だったらしい。
そういえば、僕の場合はどうなるのだろうか。ISに乗れない僕に専用ISを用意したところでデータなど取れはすまい。恐らく来ないだろう。何となく自分が何も苦労せずに過ごしているような気がしてならないと考えながら自販機で飲み物を買い、口にする。日本の緑茶というものは妙な味がするな。
僕は何故こんなところにいるのか。いや、何もできないのにこんな所にいて良いのだろうか。
自己紹介の後に女子たちが呟いていた言葉がジワリと脳裏に蘇る。
――あらら、本当に起動させられるだけなのね。別にこの学園に来る必要なかったんじゃないの?
――男子だからってそこまで特別扱いするのってどうなのかしら・・・
周囲にかかった迷惑や身の安全を考えて此処に来た、その選択に後悔はないし間違っているとも思わない。女尊男卑的な発言も大して気にしてはいない。気にしてもしょうがないし。
ただ、今のままここにいて良いのだろうかという疑問は拭えない。何もできないし周囲に疎まれ迷惑しかかけていない自分は、この学園にとって邪魔な存在なのではないか?
ISに乗れない上に病弱な適性者なんて扱い辛いことこの上ないだろう。ならば自分は祖国にとってもIS委員会にとっても・・・ひょっとしたら、世界にとっても。
存在するだけで妨げになる“異物”であるならばいっそ――
「誰にも見つからない・・・誰にも迷惑を掛けない・・・そんな静かな場所に行けたらいいのに」
「考え事は結構ですが、このままでは授業時間に遅れてしまいますよ?」
「――え?」
ふと気が付くと、目の前には人の良さそうな顔をした用務員さんが立っていた。その存在に全く気付かなかったことに衝撃を受けるが、放たれた言葉の内容に更なる衝撃を受ける。
「・・・!!考え事をしている間にこんな時間に・・・?忠告ありがとうございます」
「いえいえ、遅れないように気を付けてね?」
返事を返さずにベルーナはもたつきながら走って個室へ戻る。その後ろ姿を見ながら用務員さん――轡木十蔵はぽつりと呟く。
「私から何もできないのが口惜しいですが・・・あなたが普通の学生として皆と過ごせる日が来ることを、私は祈っていますよ・・・」
= = =
数分遅れて個室に到着した僕がモニターの先に見たものは・・・
『決闘ですわ!』
『望むところだ!』
『意地でも勝つからね!』
「・・・何がどうなった」
取り敢えず山田先生に何があったのかを聞いてみた。何でもクラス代表というのを決めることになり、クラスのメンバーが織斑と残間を推薦したのだという。(僕も推薦されたらしいが織斑先生が体調を理由に一蹴したという。ナイス!)しかしそれに難癖をつけて立候補した生徒が現れた。彼女の名はセシリア・オルコット、連合王国の代表候補生らしい。最初は「クラス代表という重要な役割をドシロウトに任せられるか」というごもっともな意見を言っていたのだが、途中に挟んだ「血筋や才能だけでどうにかなるほど云々」という話が男子二人の心の琴線に触れたらしく口論が勃発、今に至るそうだ。
「・・・・・・まぁ、僕には関係のない事か」
なお、ベルーナが遅刻したことは奇跡的に誰にも気付かれなかった。(山田先生は気付けたはずだが、ひょっとして見逃してくれたのかもしれない)
= = =
セシリアさんが言った事は尤もだった。実際僕も一夏もISの経験はほとんど皆無に等しいのだから、むしろ助け舟と言ってもよかった。・・・その後の言葉がなければ。
「第一、身内が優秀だからといってその才能まで一緒な訳ではありません。スタートラインが違うのだから彼ら男子たちがいくら努力したところで私たちに追いつける可能性などありませんわ」
その言葉にまず一夏が怒った。まるで男は女に絶対勝てないかのような物言い。自分が姉の威光を借りているだけだと言わんばかりの発言。何より「周囲に守られるだけは嫌だ」という彼独自の信念を真っ向から否定されたのだから怒るのも無理はない。
そして続く一言に僕の堪忍袋の緒が切れた。
「経験の差も才能の差も歴然なのですから、挑むだけ無駄という者ですわ。大人しく私に任せることをお勧めします」
才能の差、努力の差、無駄。それはある理由からどれも僕が最も嫌う言葉だ。無駄?無駄だって?
がたん!と感情の赴くままに立ちあがった僕はセシリアさんを睨みつけた。
「無駄かどうかは君が決める事じゃない。それは挑んだ人間だけが決められることだよ?セシリアさん」
「スタートラインが違うなんて前から判ってるっての。勝手に人の可能性を潰してんじゃねえぞ!」
「事実を言ったまでですわ」
明確な怒気を含んだ僕と一夏の言葉をどこ吹く風と言った顔で受け流すセシリア。だが熱くなった一夏がらしくもなくセシリアさんを挑発した。
「はん!実は俺達に勝てるか不安で逃げてるんじゃないのか?アンタお嬢様っぽいからな。困ったら親にでも泣きつけばいいやとでも思ってるんだろ?」
「・・・・・・親は関係ない」
今までの口調を捨てドスの利いた声で一夏と僕を睨みつけるセシリアさんに、負けじと一夏も睨み返す。どうやら一夏の言葉が彼女の心の琴線にも触れたようだ。
「へー?だったらどうするよ代表候補生さん?」
「・・・いいでしょう。そこまで言うのなら、決闘ですわ!」
「望むところだ!」
「意地でも勝つからね!」
こうして、一週間後にクラス代表決定戦が行われることになった。周囲からは止める声もあったが、僕は聞き入れなかった。僕が張るたった一つの意地を貫き通すために。
= = =
そして皆が3人に注目している中、クラスの端で小さく独り言をブツブツと呟く少女が一人。
「うー・・・やっぱ私の知ってる原作と違うのかなぁ・・・」
彼女の名は佐藤稔。何所にでもいる苗字に何所にでもいる名前で何処にでもいる容姿。自称どこにでもいる極々普通の――モブ転生者である。
後書き
何と佐藤さんは転生者だったようです。
(; ・`д・´) ナ、ナンダッテー !! (`・д´・ ;)
プロローグに出てきた子です。神からの特典とかもらったわけでも知らない子供を庇ってトラックに跳ねられたわけでも神のうっかりミスで死んだわけでもないですが。
そして早速セシリアのキャラが・・・一応言っておくと性格の変化には理由があります。話が進んだら説明しますね。
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