DQ3 そして現実へ… (リュカ伝その2)
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強さの基準
<リムルダール>
「お前が武闘家だぁ~?こんな弱そうな武闘家は初めて見たゼ!」
ボランティア番兵は値踏みをする様にハツキを見て馬鹿にする。
「な…ア、アンタこそ番兵には見えない貧相な出で立ちじゃない!」
プライドを傷つけられたハツキがムキになって反論する。
「何だと!?貴様…人を見かけで判断するんじゃない!」
ボランティア番兵は顔を真っ赤にして激怒する…
この台詞にアルル一行の誰もが『お前が言うな!』と心の中でツッコミを入れたのだが、口に出すと話がややこしくなりそうだったので、プロのツッコミニストですら突っ込むのを控えた。
「アンタだってさっき私達の事を見かけで判断したじゃないの!アンタが偉そうに言える台詞じゃないわよ!」
しかし頭に血が上っているハツキにはつっこむ事が我慢出来ず、必要以上に大声を張り上げて皆が思った事を叫んでしまう。
「ふざけるなよ小娘!俺様は好意でこの町の平和を守ってやっている、正義の武闘家ナール様だ!しかも聞いて驚け…英雄オルテガ様の一番弟子でもあるんだぞ!」
不必要に自分を誇張するのが馬鹿の特徴だ。
この男もその特徴に合致する…しかし最後に聞き捨てならない言葉を吐いた。
アルルは思わず男に掴みかかろうとしたのだが、リュカがそれを止め…そしてティミーがギュッと抱き寄せて、混乱が拡大するのを防ぐ。
「オルテガの一番弟子ぃ~?じゃぁ何でオルテガについて行かないんだよ!奴は今頃魔の島にでも渡って、大魔王の軍勢と一人で戦っているだろうに…お前はここで何やってんだ?」
人を小馬鹿にするのならこの男の右に出る者は居ないだろう…リュカが鼻で笑いながらナールの現状を指摘する。
「お、俺も一緒に行くって言ったんだよ…でもオルテガ様が『リムルダールを守れるのはお前だけだ。この町を頼んだぞ!』って言うから…」
リュカの指摘にションボリしながら答えるナール。
「なんだ…邪魔くさいから置いてかれたんだ。お前一番弟子じゃないだろ…自称一番弟子だろ!(大笑)」
ドッと爆笑が零れる一同…正規の番兵等も一緒に笑っている。
そして一番笑っているのが最も侮辱されたハツキだ…
「あははははは、随分と大層な正義の武闘家様ね!置いていかれる程邪魔な人間ってどういう事よ!あははははは!」
「う、うるさいうるさい!!俺にだってお前が使っている様な凄い武器があれば、オルテガ様にだって負けない強い武闘家になれるんだ!お前みたいに弱いクセに、金で装備を強化して強くなった気でいる奴とは違うんだ!」
自分の実力を疑わないナールには、見た目格下の少女が自分にはない武器を使用している事が我慢出来ず、不当な非難でハツキを貶める。
「な、何ですって!?私は道具になんか頼ってないわよ…この冒険を通して修業を積み、心身共に鍛えてきたんだからね!アンタみたいな馬鹿とは違うのよ!」
ハツキも自身の強さに些かの誇りがあり、ナールの言い分にムキになって言い返す。
「ふん!じゃぁ俺様と勝負しろ…俺様が勝ったら、その『黄金の爪』を頂く…お前が勝ったら………う~ん………えっと…………何か欲しい物はあるか?」
「うっさい!お前が負けても何も奪わないでいてやる!お前の物など何一つ欲しい物などない!」
最早完全に頭に血が上っているハツキ…
黄金の爪と星降る腕輪をリュカに託し、ナールに向けて構えを取る。
「あ~………ハツキさん…落ち着いた方が良いよ…」
リュカはハツキからアイテムを受け取ると、困った顔で彼女を宥める。
「武器を装備していないお前など、俺様が瞬殺してくれるわ!」
しかし、もうどちらも相手を叩きのめす事しか頭にない。
困り果ててるリュカだが、取り敢えず立会人になろうと、2人の間に割って入った。
「はぁ…じゃぁ、2人のタイマン勝負ね。武器又はアイテムの使用は不可。魔法の使用も不可。それと相手を殺すのも絶対駄目だからね!あと勝負は僕の見える所で行う事…見えなくなった方は負けね」
そこまで言うと3歩下がり右手を上へ掲げる。
「それでは………始め!」
掲げた右手を勢い良く下げ、大きな声で開始を宣言!
リュカの合図と同時に地を蹴ったのはナール。
彼の中で渾身の一撃をハツキに浴びせる……が、ハツキは素早くサイドステップで攻撃を避け、逆に鋭い蹴りがナールの左頬へ炸裂する。
ハツキは勿論、アルルやマリー等もこの一撃で勝負が着いたと思い込んだ…しかし、ナールにはさほど効果がなかった様で、直ぐさま体制を整え反撃に転じる。
勿論、効果がなかったとは言えハツキの蹴りがあたらなかった訳ではない、ナールの驚異的な打たれ強さで、ダメージが少なかっただけである………もしくは馬鹿すぎて、痛みを感じてないのかもしれない!?
だがハツキにしてみれば大事で、我を忘れた手加減無しの一撃に、崩れることなく攻撃を仕掛けてくる相手に恐怖を憶えた!
その後もナールが攻め、ハツキがカウンターで返すというやり取りが続いて行く…
両者の戦いを端から見ると圧倒的にハツキが有利で、何度も攻撃を喰らいボロボロのナールは見た目から敗戦濃厚であるが、戦っている本人や戦い慣れているリュカやティミーには、勝負の行方が違って見える。
既に15分近く戦い続ける両者に、勝敗の転機が訪れた。
それはハツキの焦りから生まれた物で、常にカウンターを狙っていたのを止め、自ら攻撃に移ったのだ!
しかし格下と思っていた相手への恐怖と、15分にも及ぶ激しい攻防とで、ハツキからの攻撃は完全に失敗する!
何時ものクセで黄金の爪での攻撃を仕掛けたのだが、外していた事に気付いた時は手遅れ………爪の長さ分攻撃が届かずにナールの強烈なカウンター(膝蹴り)を腹部に喰らってしまった!
ハツキが目覚めたのは、戦いが終わって1分ほどしてからだ。
最初に目に映ったのは、自分の…先程まで自分の武器だった黄金の爪を、ナールが装備し嬉しそうに振り回している姿だった…
次に目に入ったのはリュカの姿だ。
自分を優しく抱き抱え、悲しそうな微笑みを浮かべるリュカの顔だった。
「私…負けちゃったの?」
「………」
リュカは何も答えない…ただ黙って頷くだけ。
「私、負けちゃったんだ……あんな奴に負けたんだ…」
次第に涙が溢れてくるハツキ。
リュカの胸に抱き付いて声を殺して泣き崩れた。
「ハツキ…元気出して…まだハツキには星降る腕輪があるじゃないか。ほら…腕を出してごらん」
負けた悔しさに泣き崩れるハツキを優しい声で励ますリュカ…
この場にいる誰もが、この状況に胸を打たれているのだが…
「おい!何だ、その『星降る腕輪』ってのは?それも特殊なアイテムか?そんな弱い女が持つより、そいつに勝った強い俺様が持った方が有効的だ!それも貰おうか」
後書き
『ナール』とはドイツ語で『愚者』という意味です。
愚者というと聞こえは悪いですが、彼の場合は単なる馬鹿です。
それもどっちかって言うと、他人に迷惑な方の馬鹿です。
うん。やっぱり『愚者』で合っているのかもしれません。
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