銀河転生伝説 ~新たなる星々~
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第5話 ロアキア動乱1
宇宙暦805年/帝国暦496年 11月30日。
セーラー○ーンを見て「変態《タキシード》仮面かっけー!」とか言う息子の将来を心配しているアドルフは、アルツール・フォン・シュトライト大将から差し出された書類に目を止めた。
「なんだぁ~、また報告書か?」
「先日行われた第二次ガイエスブルク要塞攻防戦の報告書です」
そう言って書類を手渡すシュトライト。
何日か前にそんな連絡あったな~と思いだしながら、アドルフは報告書に目を通す。
「うわっ、最終的に投入された兵力が両軍合わせて15万近くって……」
「それだけ敵も必死だったということでしょう。彼の国の実戦部隊のおよそ半数を投入したのですから」
ロアキア統星艦隊の総数は約15万隻。
星間警備隊や貴族たちの私兵部隊を合わせれば更に増えるとはいえ、先日の戦いでロアキアが動員した戦力はかなりのものであった。
ちなみに、ルフェールの正規艦隊は約12万隻である。
「勝ったはいいが、こちらも丸々1個艦隊を失っているため戦力の補充が出来るまで動けんか。それに、ロイエンタールとミッターマイヤーの艦隊の消耗が激しい。近々戻さねばならんな」
特にロイエンタール艦隊は3度会戦を行っており、これ以上の戦闘は厳しかった。
「クナップシュタイン、グリルパルツァー両艦隊が到着し次第ロイエンタール、ミッターマイヤー艦隊を順次帰還させよ。代わりとしてケンプ艦隊を派遣する」
「はっ、手配しておきます」
「……さて、そろそろ絡め手を使っても良い頃だと思うんだ」
「と、申しますと?」
「皇帝を幽閉して権力を握ったオリアス皇子がこれだけの大敗を喫したのだ、何らかの動きがあって然るべきだろう。例えば、反乱とか」
「……………」
「まあ、流石にそれは都合が良過ぎるとはいえ、我が国の勢力圏と隣接する領地の貴族共はさぞかし青ざめていることだろうな」
「つまり、彼らを味方につけるので」
「私は彼らに手を差し伸べてやるだけだ。『銀河帝国に付けば地位も領土も保証してやる』とな」
「確かに、有効な手です。しかし悪辣ですな」
「仕方あるまい、彼らの主が頼りにならぬのだ。新しい宿主を見つけたいと思うのも不思議ではないだろう?」
「分かりました。ロアキア内での分裂工作を進めておきます」
「うむ、頼む」
と、話がひと段落した所でいきなり執務室のドアが開いた。
「パパー、お話終わった~?」
入ってきたのはアドルフの三女カロリーネ。
年齢は5歳。
「ああ、今終わったよ。ついでに今日の執務も終わったから今からフリーだ」
「……陛下」
もちろん執務は全てどころか半分も終わってない。
が、アドルフにとってそんなことは些細なことであった。
書類なんぞ見たくも無いというのもあるのだろう。
「シュトライト、後は頼むぞ!」
そう言って執務室から出ていくアドルフ。
残ったシュトライトは大きく溜息をついた。
* * *
ウェスタディア王国の首都星ウェリンにある王宮。
その会議室に5名の人物が集まっていた。
ウェスタディア王国の統治は女王であるルシリア・ラデュ・ウェスタディア1世以下、
宰相アルベルト・アルファーニ
軍務卿ロンギ
内務卿ブラマンテ
財務卿ベリーニ
の5名による合議制でなされている。
今日の会議は、第二次ガイエスブルク要塞攻防戦におけるロアキア統星帝国の敗北についてであった。
「よもや、あのロアキアがこうまで立て続けに敗れるとはな……」
ウェスタディア王国は過去にロアキアと2度矛を交えている。
ラミアム領のストリオン星域で行われたストリオン星域会戦。
シャムラバート領で行われたシャムラバート広星域会戦。
どちらも戦略的にはともかく、戦術的には敗北していたと言っても良いだろう。
ストリオン星域会戦ではアルファーニの奇策によってロアキアの包囲を脱した。
シャムラバート広星域会戦ではティオジア連星共同体の発足とトラベスタの救援が間一髪で間に合い、結果的にロアキアが退いたことで全滅を免れた。
そのロアキアが連敗している。
仮に、ロアキアが潰れた暁には銀河帝国の次の標的は辺境13ヵ国になるだろう。
そうなっては目も当てられない。
「しかし、銀河帝国軍が如何に強いといっても餓えには勝てまい。ロアキアが大国としてのプライドを捨てて補給路の遮断を行えば容易に追い返せるのではないか?」
「確かに普通ならそうです。ですが……」
屈強な軍とて武器弾薬や食料が無ければ恐るるに足りない。
守り側が侵攻軍の補給を断つのは戦の常道である。
しかし、補給拠点そのものが要塞として移動してくるなら話は違ってくる。
それも巨砲を兼ね備えた難攻の要塞と共に……だ。
アルファーニがそれを説明すると、皆一様に苦い顔になった。
第二次ガイエスブルク要塞攻防戦に銀河帝国が投入した戦力は70000隻を超え、これはティオジア連星共同体の総戦力に匹敵する数でもある。
それだけの動員能力に補給拠点を兼ねる移動要塞。
「ロアキアはどうなるのでしょう?」
「オリアス皇子は実力によって実権を握りました。しかし、銀河帝国という未知の国家が現れオリアス皇子を下した。これは銀河帝国にはロアキア最高の実力者であるオリアス皇子でさえ及ばないことを意味します」
「つまり、裏切り者が出る……か」
「はい、統星帝を幽閉して権力を掌握したオリアス皇子を内心快く思ってない貴族達は多いでしょう。彼らが心の底から忠誠を誓っているとは思えません。そこで今回のような事態が起きれば……」
内乱になる。
この場に居る全員がそれを確信した。
* * *
ロアキア軍が3度目の敗北を喫したことは、ロアキア中に大きな波紋を呼ぶことになった。
銀河帝国に立て続けに3連敗。
しかも損失艦艇の合計が約48000隻と、その数は統星艦隊の約3分の1に匹敵する。
第二次ガイエスブルグ要塞攻防戦での敗北後、ロアキア内は大まかに言えば3つの派閥に分かれた。
現体制の維持を目的とするオリアス派。
幽閉されているテオジウス帝を救出し、オリアスの排除を目指す皇帝派。
ロアキアを見限り銀河帝国への寝返りを画策する帝国派。
オリアス派は現体制で要職に付いている者やオリアスを慕う者達が主であり、反対に皇帝派は先の政変により要職から叩き出された貴族達が中心となっている。
帝国派は銀河帝国の勢力範囲に近い場所を領地としている貴族達が多く、彼らはこのままでは時間稼ぎの為に切り捨てられるであろうことを正確に察しており『このまま捨て駒にされるぐらいならいっそ……』と決断した者も多かった。
また、銀河帝国から「こちら側に付けば爵位・領地・財産は保証する」との言が彼らの背中を押したのも事実だろう。
いずれにせよ、もはやロアキアの分裂は避けられないところまで来ていた。
そして……
宇宙暦806年/帝国暦497年 4月7日。
各地の貴族達がオリアスに対し一斉に反旗を翻し、内戦が勃発。
ロアキアは味方同士の血で染まろうとしていた。
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