アメリカンサラダ
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第一章
アメリカンサラダ
ジョン=フィッツ=バーグマンはマイアミでレストランを経営している。
マイアミはアメリカの中でも屈指の観光地だ、アメリカ中からだけでなく世界的にも観光客の多い町である。
だがやはりアメリカ人の観光客が多い、無論彼の店に来るのもアメリカ人が圧倒的に多い。
その客達を見つつだ、彼は娘であるリンダ、赤髪に青い大きな目に日焼けではなく母親のルチア、キューバ系の彼女のち血で褐色の肌に抜群のスタイルの彼女にこう言った。見れば顔も母親似で大きな目に小さな唇を持っている。高い鼻も母親似だ。
「なあ、お客さん達は」
「何よ、閉店作業進んでるの?」
「ちゃんとしてるよ」
カウンターを拭いている、そうしながらの言葉だ。
「こうしてな」
「だったらいいけれどね」
「ああ、とにかく店に色々な人来るだろ」
「そうね、アメリカ人だけでもね」
「母さんみたいにキューバ系の奴が多いけれどね」
「お母さん何時帰って来るのよ」
リンダは父にこのことを問うた。
「一体」
「さあな、何時だろうな」
「全く、また喧嘩して家出されて」
「仕方ないだろ、あいつがホワイトソックスがいいって言うんだからな」
「それでお父さんはレッドソックスよね」
「そうだよ」
地域は違うが彼はそのチームを応援しているのだ、妻とは違い。
「どっちがいいかってな」
「下らない理由ね、ヤンキースじゃないといいじゃない」
「そういう御前はロイヤルスだったな」
「ええ、そうよ」
リンダの贔屓はこのチームである。
「今年は快調だから何よりよ」
「だといいけれどな、とにかく母さんはまだ帰って来ないからな」
「やれやえね」
「とにかくだよ、お客さんは色々な人が来るよな」
バーグマンは左手で黒い顎鬚を摩りつつ言う、今度はテーブルを拭いて回っている。
見れば黒く短く刈った髪の毛に髭だ、目の色も黒でその目は細い。一九〇を超えている長身で身体つきは筋肉質で野球のピッチャーの様だ。
その彼がだ、閉店作業をしながら娘に問うたのだ。
「そうだよな」
「それがどうしたのよ、というかね」
「というか何だよ」
「今更でしょ、アメリカにいたら」
リンダは床にモップをかけながら返す。
「色々な人がいるでしょ」
「そうだよな」
「本当に今更じゃない、それでどうしたのよ」
「いや、サラダの売れ行きがいいけれどな」
「サラダ?」
「うちの店には色々なサラダがあるな」
娘に対して店の看板メニューの一つを言う、他に人気があるのはフルーツを使った料理にステーキである。
「それこそな」
「ええ、ドレッシングも揃えてるわ」
「それでだよ、アメリカ人は色々な人がいる」
バーグマンは話を確信に持って来た。
「俺はウェールズ系でな」
「お母さんはキューバ系でね」
マイアミはキューバ系が多い、カストロ政権以降亡命者が多いこともその理由の一つだ。バーグマンも妻も亡命組だ。
「他にもそれこそ」
「ドイツ系にイタリア系にな」
「ユダヤ系の人もいるしね」
「中国系もいれば日系人もいる」
「アフリカ系を忘れたら駄目よね」
「大統領も出たしな、アフリカ系の」
「とにかく人種的には凄いわよね」
リンダの通っているハイスクールでも同じである、色々な人種がいる国だ。
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