生牡蠣
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第二章
油やそうしたものはなかった。それを見てこう言うのだった。
「フライはできないわね」
「牡蠣フライは駄目なんだ」
「グラタンとかシチューだと」
それは時間がかかる。だから論外だった。
「ううん、じゃあどうするか」
「牡蠣だよね」
ここでだ。自由はこのメニューに辿り着いたのだった。
「じゃあ生で?」
「生牡蠣?」
「うん、そうなるかな」
こう実里に話したのである。
「この無気味に蠢く牡蠣をね」
「生でね」
「どうする?バターで焼く?」
「私それ好きじゃないし」
実里は牡蠣は好きだ。だがそれでもそれは調理法によるのだった。
それでだ。結果としてだった。実里は最後の選択肢を選んだのである。
「決めたわ」
「何するの?それで」
「生よ」
強張った顔でだ。自由に話す。
「生牡蠣にしましょう」
「ぽん酢で?」
「レモンをかけてね」
そうするというのである。
「そうしましょう」
「そうだね。そういえばレモンもあるし」
見ればちゃんとあった。それはだ。
こうしてだった。実里は生牡蠣にすることにしたのだった。程なくしてだ。
そのぽん酢にレモンをかけた蠢く生牡蠣が出される。テーブルの上に出されたそれを見てだ。
自由はだ。強張った顔で一緒のテーブルに座る実里に言った。
「じゃあ今からね」
「そうね。今からね」
実里は酒を出しながら自由に話す。日本酒だ。
高校生だがそれでも出してきてだ。彼女は自由に尋ねる。
「飲む?」
「あっ、うん」
何でもないといった調子でだ。自由もそれに答える。
「じゃあ御願い」
「はい、どうぞ」
一升瓶からとくとくと大きな盃に入れてだ。自由に差し出す。
そしてその酒をだ。乾杯してからだ。
まずは二人で酒を飲む。その酒を飲んで言う自由だった。
「あっ、美味しいね」
「広島のお酒なのよ」
「広島のなんだ」
「そう、お祖父ちゃん広島の人だから」
そのだ。牡蠣を送ってきた祖父のだ。
「だから送ってもらってるの」
「牡蠣もなんだ」
「そうよ。牡蠣と一緒でね」
それでだというのだ。広島の酒だというのだ。
その酒を飲んでからだった。飲んでからだった。二人はいよいよ。
問題の牡蠣を箸に取る。酢もかけられており殻から出されて随分と経つのにだ。まだまだ元気に蠢いている。それを見ながら意を決して。
二人同時に口の中に入れる。そうして噛んで食べてみると。
「あれっ、この味って」
「美味しいわよね」
「しかも新鮮で」
「活きもいいし」
蠢いているだけはあった。確かに。
「ううん、見た目は恐ろしいけれど」
「味はいいじゃない」
味がよければだった。もう抵抗するものはなかった。
二人は牡蠣を食べていく。酒を飲みながら。
そうして二人で全部食べてしまった。それが終わってからだった。
二人は満足して食器を洗ってだ。テレビを見ていた。しかしだった。
急にだ。二人共身体が熱くなってきた。
「えっ!?」
「あれっ!?」
火照ってきた。それでだ。
二人はだ。共にだった。顔を見合わせてだ。
顔も真っ赤にさせてだ。言い合うのだった。
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