生牡蠣
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第一章
生牡蠣
江藤自由はだ。恋人の松前実里の家にいた。そこで彼女の手料理を食べることになっていた。
彼は家のテーブルに座ってだ。台所にいる実里に尋ねた。彼女は既に白いエプロンで武装している。高校の制服の上からのエプロンには艶さえある。
「こうして実里の手料理食べるのははじめてだよね」
「御弁当いつも食べてるじゃない」
自由の学校での昼食はいつも実里の作った弁当である。彼は勝ち組なのだ。
「だから別に驚くことじゃないじゃない」
「いや、それはそうだけれどさ」
「私がこうして台所で作った確かなお料理はっていうのね」
「うん。それははじめてだからさ」
こう彼女に言ったのである。
「何ていうかね」
「うきうきしてるのね」
「はじめてだからね」
考え様によっては危険な言葉をだ。自由は何気なく言った。
「いや、やっぱりね」
「嬉しいのね」
「嬉しいよ。それでだけれどメニューは?」
「メニューね」
「そう、それは何かな」
「お爺ちゃんが海から貝送ってくれたのよ」
実里はこう自由に話す。何かを切りながら。
「ちゃんとね」
「ちゃんと?」
「そう、牡蠣ね」
「牡蠣なんだ」
「けれど。何か南アフリカ産の牡蠣らしいのよ」
「お爺さんの地元の牡蠣じゃないの」
「そう、違うの」
こう話すのだった。
「何か市場で物凄く安そうで新鮮だったから分けてくれたのよ」
「南アフリカねえ」
南アフリカと聞いてだ。自由が思い浮かべることは。
「確か北斗の拳だったっけ。現実に存在してる」
「何か治安が滅茶苦茶らしいわよね」
「そこからのなんだ」
「何か特別な養殖をした牡蠣らしいわ」
「特別な?南アフリカの」
「それで物凄く新鮮らしいわ」
見れば実里は実際に何かをこじ開けている。やたらと硬そうな何かを。
そしてだ。そこから出て来たのは。
「何か凄いわ」
「新鮮なんだ」
「まだ動いてるけれど」
「えっ、生きてるの!?」
「そうみたい。こんな牡蠣はじめてよ」
実里が驚いた声をあげたのが気になりだ。自由もだ。
無意識のうちに立ち上がり台所に入った。彼がそこで見たものは。
牡蠣だった。しかし牡蠣は牡蠣でもだ。
普通の牡蠣の倍位はありしかも殻から出ても元気に動いている。そんな牡蠣だった。
その牡蠣を見てだ。真剣な顔でだ。自由は実里に尋ねた。
「これ、食えるかな」
「気持ち悪いわよね」
「僕殻から出て動いてる牡蠣なんてはじめて見たよ」
「私もよ」
見れば実里もだ。強張った顔になっていた。
そしてその顔でだ。自由に言うのである。
「これ、食べる?」
「危なくないよね」
「保障ないけれど」
「毒とかあるとかこっちが腹の中から食われるとか」
「心配よね」
「実里のお祖父さんに聞いてみたらどうかな」
ここでこう言った自由だった。
「お祖父さんこの牡蠣食べたんだよね」
「だから美味しいって言ってるし」
「毒に当たったとか食べられたとかは」
「それだったら美味しいって言わないじゃない」
死んでいるからだ。これは自明の理だった。
「だから。生きてはいるわよ」
「そうなんだ。じゃあ食べても大丈夫なんだ」
「そう思うわ。じゃあ何をして食べるかだけれど」
実里はここで台所を見回した。見ればだ。
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