トーゴの異世界無双
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第六十六話 お~王族だらけだな
各国の代表達は、国賓(こくひん)として手厚く迎えられ、それぞれが用意された部屋へと案内されていった。
その中で、アーダストリンク王国の代表であるブラス王と、第一王位継承者であるギレン、そして第一王女のステリアが、王の間でグレイハーツ王族の面々と会見していた。
これは毎年行われているもので、王国の中でも極めて友好が深い二つの国の代表がこうして世情(せじょう)の話などをする。
一種の世間話を行う井戸端(いどばた)会議みたいなものである。
物々しさなど皆無であり、昔から仲の良いブラスとギルバニアが、こうして大会前夜は、顔を突き合わせて食事などを行っている。
ただ、いつもと違うのは、今この場には何人もの王族がいるということだ。
「今回はまた、盛大になりそうですなギルバニア王」
ブラスが嬉々(きき)として声を出す。
彼も『ヴェルーナ魔武大会』を楽しみにしている一人なのである。
「これまでの大会は、回を成(な)すごとに参加者が減り、盛り上がりに欠けていたが、どうやら今年は豊作のようですな」
「ええ、やはり賞品目当てが多いのでしょう」
ギルバニアが頷きを返す。
これまでの大会では、賞品などは無かった。
名誉のみの大会ではあったのだが、最初はそれでも腕に覚えのある者がこぞって参加して、大会を盛り上げてくれていた。
だが、年を重ねるごとに参加者数が減っていき、見劣りしだしたのも事実だった。
そこで賞品を掲げることで参加者数を伸ばそうと考えた。
結果は一目瞭然(いちもくりょうぜん)、史上最大の規模を叩きだしたのだ。
最も、その結果の立役者(たてやくしゃ)として、闘悟が関わってることをギルバニアは知らない。
だが、結果良ければすべて良しと思うギルバニアは、自分の狙い通りの結果に大満足していた。
「いやはや、ですが白金貨十枚とは、本当に良いのかな? かなりの大金ですぞ?」
「その心配には及びません。確かに大金ですが、これでより活気づき、大会が盛り上がるのなら本望ですよ、ははは!」
ギルバニアはにこやかに笑う。
その隣に座っている彼の妻であるニアノエル王妃が口を開く。
「ふふ、それにあの子が参加するのですから、子供にプレゼントするようなものですわ」
「こ、こらニア!」
ギルバニアは慌ててニアの言を断ち切ろうとする。
「ん? 子供?」
リアの言葉に対し、当たり前のように疑問を思い浮かべた者がいたが、そうして実際声に出したのはステリアだった。
「これステリア」
ブラスが優しく窘(たしな)める。
「あ、すみませんお父様。いきなりお声を上げてしまい申し訳ありませんでしたギルバニア国王様」
ステリアは焦った表情で丁寧に頭を下げる。
「いやいや、気にしないでもらいたい。それに、ここには我々しかいない。そう畏(かしこ)まらなくてもいいんだ」
「は、はい」
今度はギルバニアが優しく諭(さと)すように言う。
ステリアはホッとしたように胸を撫で下ろす。
「それに何も初めて会うわけでもないんだ。少し期間が開いたが、こうしてまた会えて嬉しく思う。クーも楽しみにしていたしな」
ステリアはクィルの方にチラリと視線をやると、彼女は微かに微笑む。
そのとおりですという意味を込めてだ。
「うん、しかし綺麗に育ったもんだなステリア王女は。クーも負けてらんねえな! ははは!」
「いえいえ、クィルネス王女もリアウェル王女も一年前とは比べ物にならないほどですよ!」
ギルバニアとブラスのそんな言葉にクィルは恥ずかしさで顔を伏せる。
ステリアも同様の様子で固まる。
リアだけは、静かに慣れた感じで微笑している。
「だから気楽に話しかけてくれ、ははは」
「感謝致しますギルバニア王。そのお心の広さ、痛み入ります」
そう言って言葉を発したのは、ギレンだった。
「はは、相(あい)も変わらず丁寧な物言いだなギレン」
ギルバニアは微笑しながら視線を彼に向ける。
「あ、あの……」
その発言で、場の視線を釘づけにしたのはまたもやステリアだった。
今度はブラスもギレンも苦笑してしまう。
基本的には代表同士の会話には入らないのが常識だからだ。
それも相手が国王同士なのだから、常識を逸脱(いつだつ)し過ぎているステリアの行動に彼らが苦笑するのも無理は無かった。
たとえ今しがたギルバニア自身に許しをもらったとはいえ、普通は自重するのが嗜(たしな)みというものだ。
だがギルバニアは、素直に自分の言葉を受け止めて実行してくれたステリアを喜ばしく思い、ニカッと笑う。
「何だ? 聞きたいことがあるなら何でも聞いていいぞ?」
「さ、先程の大会のお話のことなのですが……」
遠慮がちになりながらもしっかりと言葉を放つ。
初めて言葉を交わす相手ではないが、それでも相手は一国の主。
話す時はいくらステリアでも緊張する。
「……何かな?」
「はい。ニアノエル王妃様が、先程仰(おっしゃ)られたことが気になったのです」
すると、ギルバニアは顔を筋肉が少し硬直する。
だが、当の本人であるニアは、まるで自分のせいではないと言わんばかりにそっぽを向いている。
「き、気になったとは?」
「はい。あの子が参加すると仰られました。そして、子供にプレゼントするようなものだとも」
ギルバニアは必死に笑顔を崩さないように保つ。
だが、体中に汗を流している。
「もしよろしければ、どういうことなのかお教え願いませんか?」
「そ、そんなこと言ったかニアよ?」
若干(じゃっかん)裏声になりながらもニアに助けを求める。
ニアは頼りない夫の態度に軽く溜め息を漏らす。
そして、しっかりとステリアの目を見つめる。
「ええ、言いましたよ」
「ええっ!?」
そんな声を出したのは、もちろんギルバニアだ。
まさか彼女が認めるとは思わなかったからだ。
ニアなら上手い言葉で煙(けむ)に巻いてくれると信じていた。
しかし、彼女は期待には応えてくれず、ギルバニアの脳内は混乱に陥った。
そんな様子を感じたのか、ニアはクスリと笑う。
「よろしいじゃないですか。あの子は私達の家族ですよ? あの子が大会で勝ったら、賞品ですけど、子供にプレゼントするようなものじゃないですか」
「い、いや……それはそうなんだが……」
もちろんあの子というのは闘悟のことだ。
ギルバニアは当然大会は闘悟が優勝すると思っている。
今回大金を賞品にしたのも、闘悟の勝利を疑っていなかったからだ。
幾ら大会を盛り上げるためだとはいえ、見ず知らずの者に白金貨十枚は少し頑張り過ぎている。
しかし、闘悟なら、彼女の言うようにプレゼントみたいなものなので構わない。
むしろ、あまりお金に興味が無い闘悟だから、もしかしたら受け取らないこともあるかもしれないと、そんな小さくてせこい考えも少しは持っていた。
だが、裏を返せば、それだけ闘悟は二人に信用されているということだ。
身内びいきな考えを、あまり他人には知られたくなかったギルバニアは、冷(ひ)や汗で盛大に衣服を濡らしている。
「ふむ、あの子とは……?」
今度はブラスが疑問をぶつけてくる。
ステリアも真剣にギルバニアの顔を見つめる。
同じくその場にいたクィルも、彼女を見て初めて不安そうな表情を作る。
そして、ギルバニアは諦めたように肩を落とし、ゆっくりと口を開く。
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