トーゴの異世界無双
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第五十九話 種を蒔いた甲斐があったな
『ヴェルーナ魔武(まぶ)大会』まであと一週間。
王の間に呼び出されていた闘悟は、ギルバニアから報告を受けていた。
「どうやら、今回は盛大になりそうなんだよ」
「へぇ、それほどですか?」
「ああ、いつもなら、国外の参加者はほとんどいねえ。それが、今回は他国からの参加者もそうだが、国内の参加者も異様に多い。しかも貴族じゃなく……」
「平民……ですか?」
闘悟はギルバニアの言葉を繋ぐ。
「ああ、それに……」
「学生やギルド登録者……ですか?」
「ん? 何で分かるんだ?」
「いや~いろいろ種を蒔(ま)きましたから」
「種? まあ、よく分からんが、とにかく今回は盛り上がるぞ!」
闘悟はようやく、自分が蒔いた種に芽が出たことを素直に喜んだ。
闘悟はこの一か月にやりたいことが三つあった。
一つ目は図書館に行って、過去の異世界人のことを調べること。
二つ目は魔物討伐をすること。
そして、三つ目は『ヴェルーナ魔武大会』に平民の参加者を増やすことである。
この根底には、思い上がった貴族に対する認識の改変を求めることにあった。
平民だって強い奴は強い。
身分など関係無く、同じ人間なんだという意識を誰にも植えつけることが闘悟の考えだった。
どうして闘悟がそんなことをしたのかというと、過去の経験からくる衝動というのもあるが、その方が面白いと思ったからだ。
誰にも遠慮せずに、全力で生きることがどれだけ楽しいか、平民にも気づいてほしかった。
そうすれば、もっとこの世界は面白くなるはずだと闘悟は感じた。
だから闘悟は、まずギルドに行き、登録して国外に出る依頼を幾つも受けた。
その際出会った者達に、大会のことを広めた。
基本的にギルド登録者達は平民だ。
貴族はほとんどいない。
ステリアのような王族は珍種(ちんしゅ)と言ってもおかしくはない。
国外に出て、出会う登録者達に大会参加を促した。
そして、闘悟はあの二人、登録初日に闘悟にぶっ飛ばされた大男の子分達には、国内にあることを広めてもらった。
それは、平民の参加者が異様に多いのだという噂だ。
また、その噂の中には、平民を恐れている貴族もいるという嘘の噂も含めた。
そんな噂を聞いた平民はどう思うだろう。
今までは貴族参加者がほとんどで、出れば恥をかくだけだと思っていた者達は、今回の平民の多さで、少しは気軽に参加できるようになる。
また、貴族が平民を怖がってると聞けば、どこまでが本当かは分からないが、自分でも一矢(いっし)を報(むく)いることができるのではないかと考える者も出てくる。
そして実際、最近平民が貴族に勝った例もある。
これはもちろん闘悟のことだ。
疑い深い平民は、それでも参加を渋(しぶ)るが、それでも良かった。
何も今回だけの大会ではない。
闘悟の考えとしては、今回は平民の力を貴族に見せるための大会だと考えている。
もちろん、負けるかもしれない。
平民は結局貴族に勝てないかもしれない。
だが、中には一矢を報いる者が出るかもしれない。
それでいいのだ。
何もしなければ何も変わらない。
たとえどんなに小さくても、一石を投じれば、水面は反応する。
まずは、それからだ。
小さな動きが、やがて大きな出来事を作る。
闘悟は、自身が描いた作戦の第一段階が滞(とどこお)りなく進められたことに満足していた。
学園でも大会の話で持ち切りだった。
にわかに活気づいてきた雰囲気だが、やはり平民の学生の中には、貴族を怖がってて、参加を渋っている者もいるようだ。
だが、闘悟はもう何もしない。
これ以上は強制になってしまう可能性が高い。
今渋ってる者に、「大丈夫だ」や、「参加することに意義がある」などと言っても仕方が無い。
参加はあくまで自分で決断してほしいのだ。
誰かの言葉で流されてしまえば、結果も誰かのせいにしてしまう。
それじゃ意味が無い。
負けても勝っても、自分の力だと考えてほしいのだ。
「そういや、ミラニは出るのか大会?」
「ああ、騎士団長は参加が義務だからな。それにいい訓練にもなる」
「前向きだな」
「貴様も参加するのだろう? できれば貴様とは決勝まで当たりたくは無いな」
「へぇ、前回はどうだったんだ?」
「前回は参加してはいない。私は今年任命されたからな」
「そうなのか? そんじゃ、前任者って誰だ?」
「あの方は今旅をなさっておられる」
「旅?」
「ああ、武者修行だ」
「へぇ、この世界でも武士みたいなやつっているんだなぁ」
「ブスだと? 貴様トーゴ! あの方の侮辱は許さんぞ!」
「いやいや、ブスじゃなくて武士! ぶ・し!」
「ん? ぶし? 何だそれは?」
ああもう、いちいちめんどくせえな。
「ん~と……」
修行バカ?
いやいや、そんなこと言ったら真っ二つにされるな。
「そうだな……誇り高い剣士ってとこだ」
「そ、そうか? な、なるほど……ぶしとはそのような者のことを指すのか。よし、私もぶしを目指すぞ!」
まあ頑張れ。
闘悟はミラニから目を逸らす。
ヒナは椅子に座って本を読んでいる。
あれは、闘悟が選んでやった恋愛本だ。
あのバカメイムが恋の修羅場本なんか渡しやがるから、仕方無くオレが選ぶことになっちまった。
メイムには報復として、あの後、頭グリグリの刑を執行しておいた。
でもまあ、あの本なら問題は無いはずだ。
闘悟が選んだ本は、変にラブコメするものではなく、一途な少女の恋愛ものだ。
闘悟はヒナに渡す時、さらっと目を通しただけだが、ピュアなヒナにピッタリの本だと思っている。
「ん……なあに?」
ヒナが闘悟の視線に気づき首を傾げる。
「いんや、それ面白いかなと思ってさ」
「ん……面白い……よ」
「そりゃ良かった」
「でも……」
「ん?」
「恋って……難しそう……だね?」
そりゃ、十歳のヒナには難しいだろう。
ヒナの顔には少し陰(かげ)りのようなものが見えた。
闘悟は自分が恋の話題をしてしまったことに苦笑した。
「そうだな、恋愛にもいろんな形があるしな。子供には子供の。大人には大人の。その上、付き合う人によっても付き合い方が変わってくるしな」
「物知り……だね?」
「ま、まあな!」
はは、ラブコメのライトノベルで得た知識だとはとても言えん……。
「いつか……ヒナにも……わかる……かな?」
「そうだな、でもゆっくりでいいんだぞ」
そう言って彼女の頭を優しく撫でる。
微かに頬を緩めて気持ち良さそうに目を閉じる。
「ん……わかった」
闘悟が頭を撫でてると、後ろから殺気が届く。
「トーゴ様……」
闘悟はビクッと体を硬直させる。
そして、壊れたロボットのようにぎこちなく振り向く。
そこにいたのは、もちろんあの人だった。
「ク、クィル……?」
し、しまった!
また軽々しく頭を撫でてしまった!
「クィル! これはつい出来心で!」
そんな浮気が見つかった男の言い訳のような言葉を発するが、クィルはぷく~っと頬を膨らませて完全に怒っている。
「トーゴ様!」
「ごめんクィル!」
それからしばらく説教をくらった闘悟であった。
ちなみに、ヒナは避難するように二人から離れて本の続きを読んでいた。
ヒナの危機管理能力は見習いたいなと、心から思う闘悟だった。
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