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八条学園怪異譚

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第二十七話 教会の赤マントその五

「聖花ちゃんも全部読んだでしょ」
「ええ、読んだわ」
「二十面相死んでた?何度も死んだと思って生きてたじゃない」
 これが定番だったのではないかというのだ。
「だからね」
「私も最近までそう思ってたけれど」
「違ってたの?」
「何か鉄塔王国の最後で飛び降りた時に」
 その時にだというのだ。
「死んでたらしいのよ」
「ああ、あの時に」
「そう、死んでたらしいの」
「じゃあその次からは別の人だったの?」
「そうした説があるのよ」
 とある推理作家の説である。ただしこれが正しいかどうかは読者それぞれの主張があるであろう。実際にはどうも言えないものであおるか。
「私はどうかしらって思うけれど」
「二十面相は一人でしょ」
 死んでいなかった、愛実はこう主張する。
「真相を知ってるのは作者さんだけだろうけれど」
「江戸川乱歩先生ね」
「乱歩先生だけで。けれどね」
「二十面相は生きているっていうのね」
「私はそう思うけれど」
「どうしてそう思うんだ?」
 青鬼が愛実にその理由を問うた。
「二十面相は一人だったと」
「いや、あんな変な変装ばかりして世の中驚かせる人いないから」
 これが愛実の主張の根拠だった。
「だからね」
「それでか」
「ええ、普通いないでしょあんな変なことする人」
「二十面相は怪盗ではないのか?」
 青鬼はその厳しい顔を顰めさせて愛実に問うた。
「変態さんではないだろう」
「いや、途中から全然もの盗んでないから」
 その設定は何時の間にか忘れられてしまったらしい。
「変な変装して世に出て人を驚かせるだけになってたから」
「そうだったのか」
「そんなことする人滅多にいないし」
 だからだというのだ。
「一人でしょ、死んでないわよ」
「私も実はそう思うし」
 聖花も言うのだった。
「あれだけ生命力の強い人がそんなに死ぬとは思えないから」
「それでか」 
 聖花には赤鬼が応えた。
「君はそう思うのか」
「そうですけれどどうでしょうか」
「わしからは何も言えないが」 
 赤鬼は礼儀正しく正座をしてそのうえで腕を組み言う。見れば赤い上着に黒い虎模様の袴だ、青鬼は青鬼で青い上着で同じ色の袴だ。
「どうだろうな」
「ほっほっほ、ではわしは二代目二十面相を名乗ろうか」
「いや、博士二十面相より前に産まれてますよね」
「あれ昭和ですよ」
 二人はまた言った博士に今度はこう突っ込みを入れた。
「博士どう見ても明治時代ですから」
「その産まれですよね」
「まあ明治の頃にはおったな」
 博士もこのことは否定しない、それ以前はわからないが。
「その頃には二十面相もおらんかったわ」
「また別の時代ですよね」
「確か坊ちゃんの」
「あれは明治の末でな」
 その頃の作品だ。
「まあ坊ちゃんはヒーローというかのう」
「小説の主人公ですよね」
「そういうのですね」
「当時のヒーローは軍じゃった」
 日露戦争以後の話である。
「特に東郷さんや乃木さんはな」
「乃木大将って戦争弱かったんですよね」
 愛実は巷で言われる乃木のことを問うた。 
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