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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第19話 ヴァリエール姉妹(長女抜き)

 
前書き
今回カトレアにかなり強い味付けをしてあります。
私なりにカトレアを掘り下げた結果ですが、人によっては拒否反応が出るかも知れません。
読む場合は注意お願いします。 

 
 おはようございます。ギルバートです。お腹を満たし、少しだけ眠ったらもう朝です。幸い身体の治療は完璧の様です。体の調子を見る限り、相当高価な水の秘薬使ったらしく、治療後の気だるさ等も一切ありません。これならば、今後の活動に支障は出ないでしょう。

 と言う訳で、早く領地に帰って刀を製造したいです。いや、その前に父上の軍杖(レイピア)ですね。公爵夫人(カリーヌ様)に目覚めの報告をして、さっさと領地に送ってもらいましょう。

 そう結論した私は、本館へ移動しカリーヌ様に挨拶する事にしました。すると、途中で老執事(ジェローム)にバッタリと出くわします。

「おはようございます。カリーヌ様にわた……」

 伝言を頼もうとした瞬間に、捕獲されベットに強制送還されました。(なんでやねん)

 瞬く間に屋敷内が騒がしくなりました。使用人達の声を拾ってみましたが、どうやらヴァリエール公爵家お抱えの医師(水メイジ)が昨日はいた言葉(セリフ)が原因の様です。

「手は施しました。が、おそらくもう目覚める事は無いでしょう」

 この言葉が原因で、公爵家は上へ下への大騒ぎです。本来なら事態の収拾に当たる筈のカリーヌ様でさえ、頭を抱えてしまったそうです。この日の午前中は、診察に来たの医師と様子を見に来たカリーヌ様とルイズの対応で潰れてしまいました。

 医師達は口々に、良かったと口にしていました。カリーヌ様は安堵の表情を浮かべていました。ルイズは目を覚ました私を見ると、思いっきり泣きじゃくりながら抱きついて来ました。(ルイズに思い切り鼻水付けられました)

 しかし医師は、何故この様な迂闊なセリフを吐いたのでしょうか? 私は気になったので、医師1人1人を観察する事にしました。その中に1人、気になる医師が居たのです。その医師が私を診察する時の目は、明らかな侮蔑の色を含まれていました。流石に不審に思い、その医師に目と耳を集中します。

 医師は部屋の隅に移動すると、独り言を呟き始めました。その声は非常に小さく、私が風メイジな上に集中していなければ聞き取れなかったでしょう。

「子爵家のガキが、俺の貴重な時間を奪いやがって。殺しときゃ良かった。面倒くせえ。あのカトレアとか言うガキも、俺の診察拒否しやがるし。大人しく俺の実験材料になってろっての」

 耳に入ってきた言葉は、医師にあるまじき物でした。この場に風メイジが居ないと思って油断していたのだとしても、この場でその言葉を口にするとは信じられませんでした。

 当然私は、医師達の診察が終わった後に、使用人達に先程の医師の話を聞きました。出て来た話は、ある意味予想通りの内容でした。

 医師の名前は、ギョームと言うらしいです。私がもう目覚めないと言ったのもこの男でした。

 当直(カトレア様の容体急変に対応する当番)をサボる。使用人の診察を拒否する。等は当たり前で、手抜きで怪我や病状が悪化した使用人も居たそうです。あまりに酷過ぎる為、ジェロームがカリーヌ様に首にしてもらうよう陳情しているそうです。使用人達は、今回の一件でようやくいなくなると喜んでいました。

 何故この様な低俗な医師が、ヴァリエール公爵家に入り込めたのか不思議で仕方がありません。まあ“分からなければ聞けば良い”と言う訳で、早速雇った経緯をカリーヌ様に聞く事にしました。……他にも聞きたい事がありますし。

 使用人にカリーヌ様の居場所を聞くと、案内を買って出てくれました。案内先は執務室です。私は使用人に礼を言うと、ドアをノックしました。

「入りなさい」

「失礼します」

 カリーヌ様は入って来たのが私と気付くと、驚きの表情を浮かべました。

「少しお聞きたい事があるのですが。……今よろしいでしょうか?」

「かまわないわ」

 カリーヌ様は頷き、椅子をすすめてくれました。

「先ず初めに謝罪させてもらいます。今回はルイズがご迷惑をおかけしました」

 そう言いながら、カリーヌ様は私に頭を下げてくれました。公爵夫人に頭を下げられると、こちらが恐縮してしまいます。

「それとルイズの事なら、厳しく罰したわ。今後このような事が無い様に、私も甘さを捨て厳しくするつもりです。カトレアも相当叱っていた様ですし」

 あれで甘さがあったのですか? カトレア様も叱った? 私はルイズの今後が心配になりましたが、ここは自分の用件を優先する事にしました。

「いえ、気にしないでください。それよりもお聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」

 このままでは個人的に落ち着かないので、話題を変える事にしました。幸いカリーヌ様も頷いてくれています。

「先ず一つ目は、何時頃ドリュアス領へ帰れるかです」

「急ぐなら、すぐにでも竜籠を出すわ。出来ればお詫びもしたいから、私と一緒に戻ってほしいのだけど。私と一緒に戻る場合は、この騒ぎで溜まった仕事を片づけたいから、出来れば1日待ってほしいわ」

 カリーヌ様は即答してくれました。

「そこまで急ぐ必要はありません」

「良いのですか? 誕生日に間に合いませんよ?」

「かまいませんよ」

 実際問題として、誕生日など関係無いのです。早く返してもらいたくて言った、言い訳にすぎませんから。

(それに今はこれが手に入ったので、そんな些細な事は如何でも良いのです)

 私はマルウェンの首輪を、つい嬉しそうに撫でてしまいました。それが蟻地獄にはまる、サインとも知らずに。

「ところで、その首輪は如何したのですか?」

(っ!? ……不味い)

「秘密です」

 私はそう言って、にっこり笑いました。もちろん、裏では冷や汗ダラダラです。

「あら、まだ隠し事があるみたいね」

 カリーヌ様の目が、スッと細まりました。

(不味い。凄く不味いです。これ以上ない位に不味いです)

 《錬金》で作ったと言い張るには、マルウェンの首輪は使い込まれた年月を感じさせます。言い張れたとしても、私の現在の実力ではマルウェンの首輪(偽)を、一からの作成する事は不可能です。材料が有れば可能ですが、家を出る時には持っていませんでした。(鞄はカリーヌ様の物をお借りし、中身も見られています。ポケットの中身は落とすからと、目の前で確認させられました)

 買ったと言う言い訳が通用しないのは、前回の帽子の件から実証済みです。口裏を合わせてくれそうな人は……。

「カトレア様から頂きました。それにこれは、首輪では無くチョーカーです」

(絶対に借りを作ってはいけない人に、借りを作ってしまった!! 如何しましょう!?)

 私は顔では平然としながらも、心の中では部屋に閉じこもって泣きたい気分でした。

「どっちだって一緒よ!! それにそんな物、あの子持っていたかしら? それよりも、男の子に首輪をプレゼントするなんて……」

 流石にカリーヌ様でも、娘の私物全てを把握してはいなかったみたいです。しかしこの借りは、予想以上に大きなものになりそうです。主に品位的な意味で……。(冗談抜きで、部屋に閉じこもって泣きたいです)

「それよりも、もう一つ聞いて良いですか?」

 私は強引に話題を変えようとします。カリーヌ様も現実(偽)から、目を逸らしたいのか乗ってくれました。

「ギョームと言う水メイジについてです」

 この名前を出した途端、カリーヌ様の表情が引き締まりました。

「その男が如何したのですか?」

「本人は私に聞こえて無い心算だった様ですが、私を殺しておけば良かったと言っていました。そして、カトレア様を実験材料と……。正直に言わせてもらえば、ヴァリエール公爵家に出入り出来るタイプの人間とは思えません」

 カリーヌ様は私の言葉に、沈痛な面持(おもも)ちになりました。

「カトレアが完治する可能性に、目が眩んでいました。あの男を雇い入れたのは、当家の恥です」

 そう言って、経緯を話してくれました。

 ギョームと言う男は、王都で王宮に卸す秘薬を精製していた経歴が持つ水メイジでした。多少素行に問題がありますが、非常に優秀で一部では天才と噂が立っていました。これにヴァリエール公爵は飛びつきました。しかしギョームは、その時既にある貴族の専属となっていたのです。ヴァリエール公爵は諦めきれずに、ある商人に仲介を頼み、その貴族と交渉し高いお金を払ってギョームを雇い入れました。

 ……と言う訳です。私はある貴族と商人と言うのが気になりました。

「ある貴族と商人と言うのは?」

「貴族は高等法院長のリッシュモン殿……」

 その名前を聞いただけで、私の中に怒りが込み上げて来ました。

(またコイツか。お金大好きのゴキブリが。また餌を見つけたか)

「……商人は元王宮出入り商人のペドロよ」

 この瞬間、私は思考が停止しました。

「ペドロは半年前まで、リッシュモン殿に保護されていたみたいね。近々王宮出入り商人に復帰するそうよ。下級貴族達の人望が厚かったから、復帰を喜ばれるでしょうね」

(リッシュモン、ペドロ、ギョーム。繋がった様な気がします。リッシュモンは、情報と秘薬を買う。ペドロが下級貴族に恩を売り、情報を引き出す。ギョームは研究資金の確保の為、暗殺用の秘薬を調合する。母上が妊娠中に飲んだ秘薬を考えると、人体実験もしていると見て間違い無でしょう)

 全く証拠が無いですが、私の中で確信めいた何かがありました。リッシュモンが密告者になれたのも、ペドロの情報のおかげと考えるのが自然です。また、ギョームの様な人間(人体実験を平気で出来る様な人間)が、何人も居るとは思えません。それに秘密を守るには、少人数の方が都合が良いでしょう。

(こいつ等が姉と僕の敵か……)

 この時の私は、怒りを隠し切れませんでした。カリーヌ様が怪訝な表情で、私の顔を見ています。

「……ギルバート。貴方はまだ何か隠して居るわね」

 私は不味いと思いましたが、これは全然回避可能な範囲です。と言うか、リッシュモンについては誤魔化す必要がりません。

「マギ情報です。リッシュモンは極悪人ですよ。かつてダングルテールで、疫病が発生したとされています。しかし事実は新教徒狩りです。この時ロマリアから、どれ位の賄賂を受け取ったのでしょうね?」

 カリーヌ様の表情が、一気に険しくなりました。私は怒りの所為で、饒舌になり過ぎない様に自分に言い聞かせます。

「ここから先は、父上の受け売りと言うか愚痴になりますが……」

 私はそう区切って、自分の愚痴を(あたか)も父上の愚痴の様に語ります。

「リッシュモンは、去年の逮捕劇の際に密告者になる事により追及をかわし、高等法院長の座を手に入れています」

 私は感情的な部分を、なるべく見せない様にして続けます。

「ドリュアス家は、クールーズ領を押し付けられ動きを封じられていますし、父上も名誉な任務と引き換えに王都から追い出されています。加えて、ヴァリエール公爵引退による混乱が良い隠れ蓑になり、思い切った地盤固めが出来ます。その所為で高等法院内にライバルが居なくなり、リッシュモンの1人勝ち状態です。賄賂等、黙っていてもどんどん集まるでしょうね」

 後半抑えきれずに、畳みかける様に喋ってしまいました。秘薬の事も言ってしまいたかったのですが、そこまで言うと、警戒されてしまいそうだったので、自重する事にしました。

 カリーヌ様は唖然としています。

(……少し言いすぎましたか?)

 心配になった私が少し間を置くと、平静を取り戻したカリーヌ様が口を開きました。

「リッシュモンとギョームについては、私達でも調べて見るわ」

 この時のカリーヌ様は、にっこりと良い笑顔で笑っていました。(怖い)

 この後私は、他にマギや父上から聞いている事は無いか、カリーヌ様から追求を受る破目(はめ)になりました。

 ボロを出せない私のとって、神経をすり減らす辛い時間となりましたが、そこに救いの天使が現れます。執務室をノックする音が響きました。カリーヌ様は、追求を一時止め入室を許可しました。入って来たのはルイズです。

「ギルバートに、その……話があって……」

「分かりました。カリーヌ様との話も終わっていますので、すぐにでもお聞きします。では、カリーヌ様。失礼しました」

 私はこれ幸いと、ルイズを連れてその場から逃げ出しました。 



 私はルイズと話をする為、私の部屋へ向かいます。しかし私には、寄らなければならない場所がありました。そう、カトレア様の部屋です。マルウェンの首輪について、口裏を合わせてもらう必要があるからです。

「ルイズ。悪いのですが、カトレア様に用があるんです。少しカトレア様の部屋によっても良いでしょうか?」

 何故かルイズは、ガタガタと震え始めました。私は何度もルイズに話しかけましたが、まともな返事が返って来ませんでした。仕方が無いので、ルイズの手を引きカトレア様の部屋へ向かいました。

 私はボス部屋の扉をノックをしようと、手を上げドアを叩こうとした瞬間……。

「ギル。すぐに入ってちょうだい」

 ノックより先に返答が来ました。カトレア様の能力は、扉の向こうまで有効ですか。

「失礼します」

 相変わらずガタガタ震えるルイズの手を引き、カトレア様の部屋へ入室しました。カトレア様は私の顔を確認すると、いつもの様にコロコロと笑います。次いでルイズを見ると、一瞬だけフラットな表情になりました。

(あれ? ……カトレア様が怒ってる? ルイズは何やらかしたのでしょうか? 温厚なカトレア様を怒らせるなんて尋常じゃないですよ)

 ここは用件だけ済ませて、早々に撤退するのが吉と判断しました。私はルイズから手を離すと、姿勢を正し口を開きます。

「カトレア様。実はお願いしたい事があるのですが……」

「分かっているわ。(公式には)私があげたチョーカーの事ね」

(ありがとうございます。このお礼は必ず)

 私は軽く頭を下げます。すると、カトレア様が手を動かし(こっちゃこいと言わんばかりに)手招きしていました。逆らうと後が怖そうなので、指示されたとおり近づきます。

 私が近づくと、同様の動作を私の顔の横に向けてしました。どうやら“耳を貸せ”と、言っている様です。特に逆らう理由も無かったので、指示通りベッドに乗り出し耳を差し出します。カトレア様は声が漏れない様に、手で口元に輪を作り私の耳元へ……。

「大切な話があるから、夜にもう一度この部屋に来て」

 何故かとてもフラットな声が聞こえました。しかも私の本能が、逃げろと警告して来るような。その時もっと直接的な危険を感じ、ベッドから素早く身を引きました。(何故か頭に浮かんだイメージはトラバサミでした)

 ベッドの上には凄く良い笑顔で、自分の体を抱きしめる様な姿勢で停止しているカトレア様が……。その表情のまま、スゥーとこちらを向くカトレア様。表情がゆっくりと変化して行きます。笑顔が消え口はへの字になり涙目になった所で、鼻をグスンとならすとベッドに横になりタオルケットを頭まで被ってしまいました。

(何故でしょうか? 何故私がこんなに、罪悪感を感じなければいけないのでしょうか? 反射的に避けなければ、抱きつかれてたのでしょうか? 勿体ない。まあ、今更後悔しても遅いです)

 その時タオルケットが、プルプル震えている事に気付きました。まさか……、本格的に泣いてる?

混乱…………IN

 このまま立ち去って良いのでしょうか? 何か一言かけるべきなのでしょうか? いや、一声かけるべきなのでしょう。しかし、何と声をかければ良いのか分かりません!! 無知ゆえに、このまま立ち去ります!! 言わばこれは超法規的措置!!(注 そんな訳無いだろう)故郷の両親よ、血のつながらない姉よ、まだ幼い妹よ。この私の魂の選択を、笑わば笑えぇぇ!!

 ……そうだ、見なかったことにしよう。HA☆HA☆HA☆HA☆HA

混乱…………OUT

 私が思考の混乱から抜け出すと、タオルケットは変わらずプルプル震えていました。しかし僅かですが、笑い声が漏れていました。(うん。大丈夫ですね)

「さあ、ルイズ行きますよ」

「でも、ちいねえさまが……」

「後で私がフォローはしておきますから」

 私はルイズを連れて、カトレア様の部屋を辞しました。



 さて、場所は移って私の部屋です。

 問題のルイズですが、テーブルに着いた途端黙ってしまいました。私はルイズが喋ってくれるまで、ゆっくり待たせてもらう心算です。時間は有りますし。

 程なくして、ルイズがぽつぽつと喋り始めました。

 魔法が危険であることを、分かっているつもりで分かっていなかった。自分の魔法が、失敗魔法だから危険でないと思い込んでいた。自分の思慮が足りないばかりに、私に怪我をさせた。等々、要するに自分が悪かったと言いたいらしいです。

「ごめんなさい。もう私の魔法で、誰も傷つかない様にするわ」

 ルイズは最後にそう言いました。……はい。それは違うと思います。

「ルイズ。魔法そのものに、良いも悪いも無いと思いますよ。確かにルイズの失敗魔法は、爆発魔法なのだから人を傷つけるのに特化しています。それは逆に、人を守れると言うことでもあると思います。それなら、それ相応の使い方を考えれば良いじゃなですか? それを考えるのも、メイジとして大切な事だと思いますよ」

 ルイズは俯いてしまいました。私はルイズの前に行くと、ルイズの頭に右手を伸ばしながら続けます。

「大き過ぎる力は、魔法・権力に関わらず周りを不幸にしてしまいます。だからその力に釣り合う様に、人間として成長しなければいけないと、私は思うのです。ルイズは今、自分の未熟さを知っているのでしょう。なら、成長出来ますよ」

 私はルイズの頭を撫でながら、淀みなくそう答えました。

「うん」

 そんな私にルイズは、迷いながらも頷いてくれました。

 これ以降ルイズは、私を兄様と呼ぶようになりました。(良いのかな?)



 夜になったのでまた来ました、ラ・ヴァリエール家のボス部屋です。さて……。

「ギル。早く入って」

 今度は深呼吸する間もくれませんでした。いよいよどんな話が出て来るか、不安になって来ました。しかしここで逃げれば、破滅が約束されている様な気がします。

「失礼します」

 部屋に入ると、光源は月の光しかありませんでした。薄暗い部屋の中で、カトレア様はベッドで上半身だけ起こしています。表情は暗くて見て取る事が出来ません。

「こっちに来て」

 そこで違和感がある事に気付きました。カトレア様の声に、緊張の様なものが見て取れるのです。話とはカトレア様にとって、何か重要な事なのでしょうか?

 私は言われるままにベッドに近づき、ベッド脇にある椅子に座りました。

「手を出して」

 私は利き腕である右手を差し出しました。カトレア様は私の右手を、両手で包み込む様に握ります。カトレア様と目が合いました。とても……とても真剣な目をしていました。

「ギルはご両親に受け入れてもらう為に、何処までも真摯に向かい合ったのよね?」

「はい」

 突然振られた話に、私は頷きました。私の両親の話等持ち出してどうするつもりなのでしょう?

「そこには嘘も飾りも無く、ただ残酷に真実と言う毒を飲ませた。そしてギルのご両親は、その毒を飲み干したんだわ」

 今度は黙したまま、大きく頷きました。嘘を吐かなかったと言う、私の家族としての誇りがあったからです。

「だからこそギルの家では、とても強い繋がりがあるんだわ。本当に羨ましく思える程に……」

「カトレア様だって持っているではありませんか」

「今は様は付けないで!!」

 真剣な言葉に、私はただ頷く事しか出来ませんでした。

「私の家族は、与えられたものよ。父様と母様が手に入れたものであって、私が手に入れたものじゃないわ」

 私はその言葉に、頷く事が出来ませんでした。確かに正しいのですが、同時に酷く悲しい言葉でした。

「私はギルにならって、私と言う毒(真実)をギルに飲ませるの」

 私はその言葉が、正直信じられませんでした。しかしカトレアの目は、一片の曇りなく何処までも真剣でした。

 そしてカトレアは、カトレアと言う名の毒(真実)を吐き始めました。



 私は身体が弱かった。ずっと満足にベッドから起き上がれず、私の世界は与えられた部屋だけだった。窓から外は見えるけど、触れた事の無い私にとって、それは本の世界と変わらなかった。

 生きる為に必要な物は、みんな外から勝手に運ばれて来た。そして不要な物は、いつの間にかなくなっていた。

 父と言う人と、母と言う人と、姉と言う人が時々会いに来てくれた。みんな私に、とても優しくしてくれた。それが家族だと知った。

 やがて私の世界が少しだけ広がった。部屋だけだった世界が、一部とは言えヴァリエール邸に広がったのだ。当時の私にとって、たったそれだけの事が人生をひっくり返すような大事件と言って良かった。私は好奇心を抑える事が出来ずに度々部屋から出ようとしたが、身体が弱いのを理由に止められてばかりだった。我慢出来ずに勝手に外に出た事もあったが、直ぐに苦しくない動けなくなってしまった。結局部屋の外に出るのも、許可を与えられる(・・・・・)ものだった。

 そんなある時、急に家族が会いに来てくれなくなった。私なりに心配していたが、どうやら私に妹と言う存在が出来る様だ。私も家族にされた様に、優しくしようと思った。暫くしたら妹が生まれた。

 妹は私と同じ様に与えられ、どんどん大きくなって行った。だけど妹は私と違っていた。妹は楽しそうに外を歩き回っていたのだ。この時初めて、自分が変な事に気付いた。

 いつの間にか、妹と自分を比べる様になっていた。しかしすぐに止めた。比較するのも馬鹿馬鹿しい位に私と妹は違っていたのだ。

 妹が母に怒られていた。悪い事をすれば怒られるのだ。私もその位は知っている。私も怒らなければいけない時は全力で怒ろう。

 妹が私に泣きついて来た。いつも通りに優しくした。出来ると言うことは大変だなと思った。そして妹は、何かある度に私の所に来るようになった。

 妹が何時もの様に泣きついてきた。妹は「如何しても上手く出来ない事がある」と言った。私はその時初めて、人間には得手不得手があると学んだ。私は出来ない事が、人より多く時間(いのち)が少ないだけだと気付いた。

 それから私は、人を見る様になった。今まで有象無象でしかなかった使用人でさえ、観察の対象としては面白かった。私は人を見るのが楽しみになった。

 やがて私は、“人の数だけ心と人生が在るのだ”と知った。やがて私は“人の僅かな所作”から、その人が何を考えているか解る様になって行った。 

 人を理解出来ると、人に優しく出来るのかもしれない。私はその時その人に、言って欲しい事や言うべき事を言える様になって行った。自分でダメならば、大丈夫な人に頼むことも覚えた。

 気付くと自分の手の中には、大切な物ばかり残っていた。与えられたものや、いつの間にか持っていたものばかりだったが、私はそれに満足していた。

 …………ある男の子に出会うまでは。



 カトレアはそこで言葉を切り、私の右手を(もてあそ)び始めたました。時々上目づかいで、私の顔を覗き込んで来ます。私はカトレアの真意を読み取りましたが、流石に不味いと判断し首を横に振りました。

 私の反応にカトレアは不満の色を浮かべると、私の右手を引っ張って来ました。病弱な14歳の女の子と鍛えている8歳の男の子の綱引きは、女の子の勝利に終わりました。私が抵抗するのを、止めたからです。

 ベッドの縁に並んで座らされ、私は溜息を吐きました。カトレアの狙いは、自分の心音を私に感じさせながら話をする事の様です。副次的に膨らみ掛けの胸が手にあたり、私はドギマギしてしまいます。先程の綱引きに勝利していた場合、場がベッドから椅子に変わっただけでしょう。その場合、カトレアは私の膝の上に乗り抱きつきながら話をしたでしょう。そうなると必然的に、私の顔はカトレアの胸の中に……。私の内心は、勝ちを譲って良かったと言う想いと、惜しいと言う想いで複雑でした。するとカトレアは、私の耳に口を近づけて……。

「エッチ」

 ……と呟きました。私は居た堪れなくなり逃げ出そうとしましたが、時既に遅くカトレアに腕をホールドされていました。力ずくで逃げようと思えば逃げられますが、後が怖いので止めておきます。

 カトレアは一度深呼吸をすると、話の続きを始めました。



 私の男の子に第一印象は、良く分からない子だった。そう私が今まで見て来た事が、根底からで通じない子。

 私はその男の子に、当然の様に興味を持った。だから待っていた。その男の子が自分に会いに来るのを……。 

 でも男の子は、私に会いに来てくれなかった。他の皆は会いに来てくれたのに、その男の子だけは別だったのだ。何故か分からずに、それとなく皆に聞いてみた。皆の答えは、遠慮しているだけと返ってきた。

 女の子の部屋に入るのを遠慮しているなら、外で会えば良い。私は体調も良かったので、思いきって皆と外で遊ぶ事にした。

 皆と遊んでいると、件の男の子を見かけた。いよいよ話が出来ると、私は嬉しくなった。しかし男の子は、こちらに来る事無く立ち去ってしまったのだ。

 ……私は避けられている?

 その時、漠然とそう思った。……何故? 私の人を見る力を恐れる人は居るが、そう言った人は強い嫌悪感や恐怖感を持つはずだ。その少年からは、そう言った感情を一切感じないのだ。私はその理由が全く分からなかった。

 そして残念ながら、それ以降は体調の関係で外に出られなかった。皆が私の部屋へ来るように誘ったらしいが、その後も男の子は全てを断っていた。私は訳が分からなかった。

 気が付くと私は、その男の子の事ばかり考えていた。でも時間は有限で、男の子が帰る日が来てしまったのだ。

 せめて最後位は話をしたい。そう思い話しかけようとした時、その男の子が何を考えているか分かった。今までにない位、ハッキリと読み取れる……いや、私の頭に流れ込んで来た。何故か人を見る力が、その男の子だけ強く働いていたのだ。

 その男の子は、私が人を見る力がある事を知っていた。そして、男の子は自分が歪んている事を知っていた。私が改めてそれを指摘するかもしれないと、怖がっていた。

 ……ショックだった。

 私の人を見る力は、人の為になる良い物だと思っていたからだ。しかし、実際にこの力を恐れている人も居る。今まで会ったそう言う人達は、(よこしま)な心の持ち主だったので気にしなかったが、その少年だけは例外だった。私は“何故この力があの男の子にだけ強く働いたか?”分からなかった。そして始めての事態に、私は悩んでしまった。

 しかし答えを出す事は出来なかった。

 でも考える事を止めなかった。時間だけは無駄にあったので、その時間を全て考える事に(つい)やした。そしてふと気付くと、私はその男の子の顔ばかり思い出す様になっていた。

 そして自覚した。自分の命にさえ執着しなかった私が、その男の子に執着していたのだ。

 執着している自分に気付いて、どれ位の時間が経っただろう?

 この日、私がずっと待っていた男の子が家に来た。待っていても来てくれないのは分かっていたので、妹に連れて来るようお願いした。

 妹は男の子を連れて来てくれた。おまけに男の子はプレゼントまでくれた。思えば過去に、これほど嬉しいと思った事が何度あったろうか? その時、男の子と私の手が触れた。男の子は気付かなかったようだが、私は気付けた。

 触れた部分より何かが、私の中に流れ込んで来たからだ。

 それは記憶であり知識だった。流れ込んで来たのは、全体に比べれば僅かな量だったが、それが如何に貴重で危険で凄い事か私にも分かった。そして、マギと言う人の事も……。

 それが男の子を縛る鎖になると分かった。私は嬉しさのあまり、それを使うのに戸惑いは無かった。

 だけとすぐ後悔する事になった。男の子の私に対する感情が、負の色に染まって行ったのだ。私はこの時、時間をかければこの失敗を取り戻せると思っていた。

 次に日に、男の子はこの世から居なくなった。男の子の身体は、暖かく胸には鼓動があった。なのに男の子は、この世に居ないのだ。私は絶望のあまり、妹にきつく当たってしまった。

 医者の「もう目覚めない」と言う言葉に、私は目の前が真っ暗になった。私は初めて涙で枕を濡らした。

 ……そしてこの時、始めて男の子への気持ちを自覚した。

 男の子がこの世に帰って来た。すぐに私の所に来てくれると思っていた。でも、待っても待っても男の子は来なかった。やっと来たと思ったら、妹と仲良く手を繋いでいた。私は面白く無かった。

 なら、この気持ちを告白しようと思った。しかし、流石に妹の前では恥ずかしい。この場は、アピールだけにしよう。夜もう一度ここに来るように伝え、私は思いっきり抱きつこうとした。

 しかし結果は、……避けられた?

 私に抱きつかれるのは、そんなに嫌だったんだろうか? しかも瞬間的なイメージが、トラバサミは無いと思う。私は悲しくなって、タオルケットを被り隠れてしまった。

 しかし避けたのは、反射的な事だった。しかも避けた事を、惜しいとまで思っていた。そして隠れてしまった私が、泣いていると勘違いし1人で混乱していた。気付いてすぐに出て行ってしまったが。

 そして男の子は、ようやく私の所に来てくれた。



 これだけの話を聞いて、男の子が誰か分からないはずがありません。同時にカトレアの思いも。

 ……ここまで来れば、私が毒を飲み干すか拒絶するかです。

 私にとってカトレアとは、如何いう人なのだろう?

 カトレアは私を助けてくれる。カトレアは私を理解してくれる。カトレアは私と罪を共有してくれる。カトレアは私を愛してくれる。

 共に人生を歩むに足る人です。

 なら、肝心の私の気持ちは如何なのだろう?

 そう。一番肝心なところが、私には分からないのです。分からない以上、分からないとしか返答出来ません。気軽に肯定すれば、後で後悔する事になるかもしれませんし、逆に否定すれば一生を共にすべき人を永遠に失うかもしれないのです。

「カトレア……私は……」

「いいわ。まだ答えなくて。その代わり、私にも時間が欲しいの」

 私はカトレアが何を言っているのか、分かりませんでした。

「私の病気を治療して。と、言っているのよ」

 反射的に「無理だ」と、答えそうになりました。しかしカトレアの目は、私なら出来ると言っていました。どの道調べるだけなら、何の障害も代償もありません。

「分かりました」

 私は医療行為であると割り切って、杖を抜き寝間着の上を脱がせます。膨らみ掛けの胸が見えましたが、医療行為と割り切ると気にならない物です。お腹に左手を当て、ディテクト・マジック《探知》を発動します。

 《探知》の魔法は便利な反面、酷く不便でもあります。それは限定的な事しか、教えてくれないからです。

 体温を知りたければ、温度を《探知》する必要があります。秘薬を解析したいなら、成分を《探知》する必要があります。しかし成分が分かっても、効果は専門家でなければ分かりません。

 ではカトレアの病は、何を《探知》すれば原因が分かるのでしょうか? 漠然とした原因を知ろうと《探知》を使っても、成功する事は有り得ません。原因を特定する為に、何に対して《探知》を使えば良いか分からない。カトレアの病は、兎に角そこが問題なのです。

 今回私は、体内に炎症や癌等が無いか調べるのに1回、体内の水の流れを見るのに1回。少なくとも、2回使用する事になります。しかしこれだけなら、他の医師が何百……何千回と行っているでしょう。別のアプローチを考えなければ、カトレアの病の原因を特定するのは不可能です。

 先ずは1回目、炎症や癌等物理的に悪い部分を探します。しかし驚いた事にカトレアは、多少貧弱ではありますが概ね健康体でした。強いて言うなら、内臓の一部に不活発な部分がある位です。

 続いて2回目、体内の水の流れを見てみます。こちらも大きな問題があるとは、とても思えませんでした。一部に流れが悪いところがあるだけです。私は首をひねってしましました。

 後は別のアプローチ方法を考え、実行する事です。最初に思いついたのは血液検査でした。しかし専門家ではないので、どうにもなりません。そこで思い付いたのが、自分の血液と比較する事です。カトレアから裁縫用の針を2本借りて、《発火》で適当に炙って消毒します。その針でお互い、適当な所を刺し血を出します。私は服が汚れるのが嫌だったので、指先にしました。それも一番使わなそうな、左手薬指にしました。見るとカトレアも、同じ所を刺していました。

 2人の血を比べ、赤血球・白血球・血小板を《探知》調べて行きます。結果は、2人とも殆ど同じでした。専門家では無いので細かい所までは分かりませんが、比率等にも問題は無い様です。これで一番疑っていた“白血病”の可能性が消えました。

 私は頭を抱えてしまいました。

 見るとカトレアは深く傷つけ過ぎたのか、血がなかなか止まらない様です。私はヒーリング《癒し》をかける為、カトレアに近づきました。するとカトレアは私の左手を捕まえ、傷口を重ねたのです。私とカトレアの血が、混じり合います。そして自分の薬指を、口に運びました。

「マギさんの知識からヒントを得て考えたお(まじな)いよ」

 私は問答無用で《癒し》をかけ、お互いの血を止めました。

(たしか互いの血を混ぜるのは、肉親になると言う呪いのはずです。同性の場合は兄弟・姉妹だったはず、男女の場合は……)

 そんな事を考えていると、カトレアはまだ血で汚れている私の薬指を口に含みました。俗に言う指チュパと言う奴です。舌の感触が、凄く艶めかしいと言うか生々しいと言うか……。

「はい。綺麗になったわ。……興奮した?」

 私は無言でカトレアの脳天に、チョップを落としていました。「ゴン!!」と結構派手な音がしたので、かなり痛いはずです。カトレアは涙目になりがら、口を尖らせていました。

「どっからそんな事覚えて来るんですか!?」

「ギルから」

 私はこの切り返しに、大いに脱力されられました。

「さっきの答え、保留じゃ無く拒否にしようかな……」

「私を自分色に染めておいて今更捨てるの?」

 言っている事は間違っていないけど、その言い方では私が極悪人です。それと微妙に脅されている気がするのは、気のせいでしょうか? この間カトレアは、ただニコニコと笑っているだけでした。

(この調子では私は一生、カトレアから逃げられないんだろうな)

「うん。逃がさない。その為にも早く治療してね」

 カトレアは私の孤独を知っています。だからこそ、これ程までに自信があるのでしょう。これは冗談抜きで、一生の付き合いになりますね。それを心の何処かで、嬉しいと感じている自分が恨めしい。



 私が思いつく検査は全部行いました。しかし原因らしき原因が、全く分からなかったのです。そこで、カトレアに分かる範囲の症状と検査で分かった事を、まとめる事にしました。

1.何処か1カ所が悪くなり治すと、別の1カ所が悪くなる。
2.魔法を使うと急激に体調が悪化する。
3.水の秘薬はそれなりに効く。
4.肉体的な原因は見当たらなかった。(但し中途半端なマギ知識での話)

 カトレアから提示されたのは、最初の3つです。

 借りに4を確定とするならば、原因は魔法的な物と見て良いでしょう。魔法を使うと、体内の魔力が減って体調が悪くなる。水の秘薬を飲むと水の魔力が補充されて、体調が回復する。魔力とは精神力であり生命力であるから……。

 そこでふと思いつきました。精神力と言う位だから、魔力を精製するのは頭とみて良いでしょう。しかし作られた魔力は、普段何処に格納されているのでしょうか?

 私は魔力の分布をみる為、何気なくカトレアに《探知》を使いました。

 全身に薄らと分布する魔力を感じ取りました。そして先程患部と思われた位置に、魔力のダマ(小麦粉を液体に混ぜる時溶けずに残った奴)みたいなものが、出来ていたのです。

 私はカトレアに、水の秘薬を飲むように頼みました。秘薬を飲んだ結果、ダマがどの様に変化するか見たかったのです。

 結果は予想通り小さくなりました。ダマの縮小に伴い、周りの水の流れが良くなりました。詳しい原理は分かりませんが、原因はこれで確定ですね。

 人間の体を密封された瓶と考えて、魔力はその中の空気と考えます。魔法を使うと、空気が減り瓶の中の気圧がさがります。

 カトレアの場合は、瓶の中に空気の入った風船が有ると考えると、分かりやすいと思います。魔法を使うと、瓶の中の空気が減り気圧がさがる。すると風船が膨らむ。風船(ダマ)が膨らむと、体内の水の流れが阻害され器官にダメージを与える。重要器官でそれが起こると、最悪死が待っています。

 水の秘薬を飲んで回復するのは、瓶内に水を注入することと同義だと思います。

 これまでの治療では、ダマを洗い流し位置を変えただけだったと考えると1とも辻褄が合います。

 つまり体内のダマを、すべて取り除ければカトレアは完治すると言う事です。そこで私の思考を読み取ったのか、カトレアが話しかけて来ました。

「それで治療法は……」

 私は少し考え、説明を始めました。

「一つ目は、ダマを物理的に体外へ引きずり出す方法です。(要するに外科手術)」

 カトレアは、嫌そうに首を横に振りました。

「二つ目は、虚無魔法ディスペル・マジックによるダマの消去です」

 今度は、複雑な表情で首を縦に振ふりました。

「三つ目は、先住魔法による治療に可能性があると思います」

 カトレアは、首を傾げてしまいました。

「治療法は、この三つです」

 私の言葉に、カトレアが首を傾げました。

「もう一つあるでしょう」「いや、このみ……」

「もう一つあるわね」「……はい」

 私はカトレアの迫力に押され、頷いてしまいました。と言うか、心読めるなら聞かないで欲しかった。新手の苛めでしょうか?

「早く説明して」「はい」

「ディル=リフィーナにある魔術による治療です。……その、性魔術による治療です。男女で交わる事により、相手の体内にある魔力を操作します。これにより、ダマを体外に排出します」

 ここでカトレアが、ニッコリと笑いました。

「拒否します」「認めません」

「無理です。第一私は精通もまだなんですよ」

「ならそれが済めば可能ね」

 カトレアから、拒否は認めませんオーラが漂って来ます。そこで私は、反撃手段を思いつきました。

「分かりました。リタかナベリウスに、実践付きで手ほどきを受けて来ます」

「……実践無しで教えてもらってください」

 私は聞こえない振りをして、部屋から出て行こうとします。

「母様にマギの事言いつけるわ」

「機会があれば聞いて来ます。手は決して出しません」

 私は掌を返し了承しました。






 ……今後、尻に敷かれる事が決定しました。泣いても良いですか? 
 

 
後書き
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