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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第180話

どこかで野太い男の叫び声が聞こえた。
ガラスの割れる音が耳にこびりつく。
甲高い泣き声は誰のものだろうか。
ガスがガソリンにでも引火したらしく、爆発音まで響いていた。
暴動の大雑把な標的は分からない。
アビニョンにある日本企業のチェーン店でも狙っているのか、日本人観光客の多いホテルを襲いたいのか。
いずれにしても、当初の目的などすぐに忘れ去られ、『ただ暴れていたいだけの人間』が街に溢れ返るだろう。

「助けに行きたいだろうが、押えろよ。
 おそらく、暴動の狙いは俺達が基本になっている筈だ。」

「分かってる。
 なんか混沌としているけど、狙いは俺達なのか?」

先頭を走っている麻生に上条は周りを気にしながらも聞く。

「間違いないだろうな。
 というより、俺達は空から侵入した。
 しかも、パラシュートを使ってな。
 あの広場では人は少なかったが」

説明をしようとする麻生だが、狭い道の向こうから新たな暴動の人混みが見え、説明が途切れる。

「ちっ。」

鬱陶しいそうに舌打ちをする。

「五和、調査をしている時に暴動に巻き込まれたことは?」

「い、いえ。
 天草式が環境に溶け込む事を得意とする宗派ですから。
 普段は暴動の気配みたいなものを掴んで、それが起きる前に離れます。」

「ちなみにだが、その気配は感じたか?」

目を伏せて、申し訳なさそうに。

「全く感じませんでした。
 すみません、こういう私がしっかりしていないといけないのに。」

「気にするな。
 これは天草式の誰でも感じれない。」

「どういう事だ?」

そこで途切れた説明を再開させる。

「二つのパラシュートが落ちてきたんだ。
 敵の魔術師の一人や二人が見てしまう可能性は充分にある。
 降下してから、暴動が起こるタイミング。
 奴らはC文書を使って、一時的に暴動の流れを操っている。」

麻生の説明は終えた時、道を塞ぐ人混みがこちらへ近づいてくるのは同時だった。
教皇庁宮殿のあるアビニョン旧市街は、この古い城壁に囲まれた狭い都市らしい。
元々限りのあるスペースの中へ次々と建物を建てていったせいか、自動車が通り過ぎるのも難しい小道が多い。
そんな状況で一〇メートル以上もの高さの建物がそびえ立っているため、異様な圧迫感ばかりを与える。
その細い道のあちこちが、人の波によって塞がれていた。
暴動に参加している連中は、自分で自分の身体を傷つけるように見えた。
あちこち、逃げ回っているが行く手を人の壁が塞ぐ。

「くそっ!
 こうしている間にも、関係人が傷ついているのに!」

傍の壁に殴りかかりそうな勢いで上条は言う。
五和の表情も焦りの色が見える。

「仕方がない。
 俺が囮になるから、お前達はその隙に教皇庁宮殿に向かえ。」

「でも、そうなった恭介が・・・」

「今は一刻を争う。
 この中でなら俺が一番向いている。
 なに、適当に引き付けて俺も教皇庁宮殿に向かう。」

上条と五和はしばしの沈黙の後、コクンと頷いた。
この状況だ、言い争っている場合ではない。

「麻生さんが囮役をしても、私達が暴動に見つかれば意味ないのでは?」

「その策は既にできている。
 お前達から髪の毛を一本ずつもらうぞ。」

了承を得ず、両手を使い上条と五和から髪の毛を一本ずつ抜き取る。
チクリとした痛みを感じながら、麻生の行動に首を傾げる。

「暴動が先回りしているのは、魔術師の監視の目があるからだ。」

ふと、麻生は空を見上げる。
視線を追うが空には何も見えない。
だが、麻生にはしっかりと捉えていた。
自分達を監視する使い魔の姿を。
片手で印を結び、呪文を唱える。

「我らを見るは真の眼。」

すると、麻生を中心に地面に朱いサークルが半径三〇〇メートルに渡って一瞬で広がる。
瞬間、辺りにガラスの割れる音が響き渡る。
周りには爆発音や悲鳴などが聞こえるのに、どの音よりも耳に響いた。
能力で絹の糸を創り。

「壁に寄れ。」

麻生の指示に従い、壁に張り付くように二人は立つ。
絹の糸で壁を底辺にし、半円を描きその中に二人を囲う。
次に創ったのは。

「本?」

上条は場違いにも思える本を作った事に疑問を感じる。
タイトルは『裸の王様』と書かれている。
『裸の王様』
童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセンが書いた童話の一つ。
本に魔力を注ぐとひとりでに本は開かれ、風に吹かれるようにページがめくれていく。

「これは魔法の裁縫だ。
 知恵ある者には無価値に。
 知恵なき者には宝石に映る。」

言葉に呼応して、絹の人が一瞬だけ光ると絹の糸が消えてなくなった。

「透明の魔術をかけた。
 本来なら人に賭ける魔術だが、当麻の右手があるから範囲系に切り替えた。
 絹糸の中にいる間は、外からお前達の姿は見えない。
 暴動が去ったら、教皇庁宮殿に向かえ。」

二人から抜き取った髪の毛を掌に乗せる。

「たった髪一本。
 されど、髪は現身。」

掌にあった髪は宙に浮くと、うっすらと上条と五和の姿が映ってくる。
それは鮮明にはっきりと浮かび上がり、最後には上条と五和がそこに立っていた。
だが、瞳に色はなく、呆然と突っ立ているだけ。

「ただの人形だが、囮には充分だ。」

確かに瞳に色はないが、暴動で頭に血が上っている彼らからすれば、些細な違いなぞ分かる筈がない。
二人を腰に手を回して持ち上げる。

「んじゃ、教皇庁宮殿で。」

そう言い残して、麻生は裏路地を歩いていく。
少ししてから、怒鳴るような声が聞こえ、道を塞いでいた人の壁は移動して見えなくなった。
上条は麻生の事を心配したが、すぐに振り払う。
自分よりも確実に強く、頭が良い麻生だ。
きっとうまく切り抜ける筈。
今は彼が作ったチャンスを無駄にしたら、意味がない。
五和もそれを分かっているのか、辺りの気配を感じながら絹の糸から出る。
二人は教皇庁宮殿に向かって足を速める。



細い裏路地を暴動達を惹きつけるように、敢えて姿を見せて注意を引き付ける。
しかし、どんどん行く手を塞がれていき、最後には完全に逃げ道を失う。
左右と前方を道から、人の壁が押し寄せてくるが、麻生は足に力を込めてその場で跳ぶ。
能力を使って、人間の脚力では跳べない高さまで跳び、背にしていた建物の屋上に着地する。
押し寄せた暴動は屋上にいる麻生に向かって、届かないと分かっていても必死に手を伸ばしたり、落ちている石を投げてくる。
その眼は血走っていて、完全に正気を失っているようにも見える。
最後に一瞥してから屋上を走り抜け、能力を使って開けた道に着地する。
暴動に影響か、車や辺りの家は燃えていたりボロボロに破壊されていたりと、ひどい状況になっている。
こうなると分かっていて、C文書を使ったのとなると胸糞悪くなってきた。

(とりあえず俺も教皇庁宮殿に向かうか。)

屋上にあがった時に、既に位置と方角は確認してある。
すぐに向かおうとしたが、近くの路地裏から五人の屈強な男達が出てきた。
手にはパイプやナイフなど鈍器や刃物を持っている。
麻生の人相や服装は知れ渡っているのか、姿を目にした瞬間。

「あいつだ!!」

「殺せ、殺せ!!」

殺意の籠った大声をあげて、彼らは麻生に向かってくる。
無理に戦う必要はないので、後ろに下がって逃げようとするが、後ろの路地から声を聞きつけて八人の男達が出てきた。
タイミングといい、また監視され暴動の流れを操作しているのだろう。
逃げる事は難しいと判断した麻生は担いでいた上条と五和の擬態を解く。
急に人が消えたのに、男達は驚く事無く麻生から視線を外さない。
興奮して常識外の現象を目の当たりにしても、重要性を理解していないので気にはしていない。
能力を使えば逃げれるが、最悪魔術師との戦闘を備え、出来る限り使用時間は節約した方が良い。
前後からパイプを持った男二人が、麻生の顔を撲殺しようと躊躇いなく横一閃に振う。
麻生はしゃがみ、前でパイプを振るう男の腕を下から掴み、軌道を変える。
その先は後ろから後頭部を狙っていたパイプの軌道。
二つのパイプはぶつかり合い、渾身の力で振ったので振動が腕に伝わり、自然とパイプを離してしまう。
身体が硬直した瞬間、麻生のアッパーが前の男の顎を捉える。
後ろに倒れる男の身体を蹴り、後ろに移動。
もう一人の男にも顔面に拳を一撃与える。
じっと立っていては同じ様に挟撃されるので、後ろに移動した勢いのまま四人の男に向かって走る。
身構える男達の一番近い男に向かって、ライダーキックのような跳び蹴りを与える。
顔面を的確に捉え、地面に降り、右足を軸にして一回転。
遠心力に任せて、素早い拳の一撃をみぞに入れる。
ナイフを麻生の背中に向かって刺そうとするが、振り返りナイフを持っている手首を掴む。
掌底を顎に入れ、最後の一人は中腰の姿勢になりタックルの要領で突っ込み、壁に叩きつける。

(後、七人。)

残っている数を確認しようと視線を向けると、暴動の数が一四人と倍になっていた。
四人を倒している内に新しい暴動が加わったのだ。

(これじゃあキリがない。
 ・・・・・・逃げるか。)

ただで逃げても追い掛け回されるだけ。
麻生は能力を使い、緑のマント創り、それを身に纏い身体を覆い隠すようにすると。
暴動達の視界から麻生の姿が消えた。
さすがに標的としていた対象が消えたのを見て、眼を見開かせ、麻生が立っていた場所に駆け寄る。

「辺りにいる筈だ、探せ!!」

誰かがそう言うと、暴動達は何人かに分かれて路地などを捜索しに行く。
麻生が創ったのはロビンフッドと言う英霊が持つ、宝具の一つ『顔の無い王』。
緑のマントでこれを身に纏えば、自信の姿を透明化させることができる。
実際に麻生はその場から少ししか移動していない。
宝具は創れば、後は自分の魔力だけで充分なので能力使用時間は使用しない。

(もう少し引き付けたかったが、時間がない。
 教皇庁宮殿に向かわないと。)

足音を立てないように、教皇庁宮殿に向かう。
向かっている途中で携帯が震えだした。
周りを確認して人がいないのが分かると、携帯を取り出す。
画面には土御門元春と表示されていた。

「キョウやん、今はどこにいる?」

「教皇庁宮殿に向かっている。」

「やっぱりそこを目指すか。
 カミやんは近くか?」

簡単に今までの経緯を説明する。
パラシュートで川に落ちてから、天草式の五和と出会い、今は暴動を惹きつけるために単独行動をしていることを。

「当麻に用があるのなら、あいつの携帯にかけろ。」

「分かった。
 まぁ、キョウやんにも知らせたい事がある。
 移動している最中に、白い白衣を着て、後ろで括られ腰まで伸びた茶髪の男か女を見なかったか?
 身長は大体一七六センチくらいだ。」

思い返すが、該当する人物は見ていない。
この状況で白衣を着た人物が視界に入れば、嫌でも印象を覚える筈だ。

「見ていない。
 どうかしたのか?」

「遠目からだが女か男か分からない顔つきの人物が、穏やかな笑みを浮かべて暴動で混乱する街の中を歩いていた。
 その笑みは本当に穏やかだ。
 祖父母が孫を見つめる様な、そんな笑みを浮かべていた。
 あまりに不気味すぎて声をかけれず、姿を見失ってキョウやんにそいつを見たか確認したかった。」

土御門からの感想を聞いて、ある組織を思い浮かべた。
ダゴン秘密教団。
奴らがこの街に居る可能性は考慮していたが、まさか隠れずに堂々と歩いているとは思わなかった。
まだ、決まった訳ではないが、釘を刺しておいた方が良い。

「土御門、そいつを見かけても接触はするな。
 まだ、見てみないと分からないが、下手をすればそいつは俺より強い。」

俺よりも強い。
その言葉を聞いて土御門は思わず絶句してしまった。
麻生の能力と強さを知っている土御門にとって、彼より強いのは天使クラス以上の存在と考えていた。
ダゴン秘密教団の幹部には一度も勝てた事がない。
もし、そいつが幹部クラスなら土御門では勝つのは不可能に近い。

「カミやんにも警告しておく。
 キョウやんは教皇庁宮殿に向かってくれ。
 カミやん達にはC文書を使うために必要な地脈を乱してもらう。
 それを乱せば、一時的にC文書の効力を無効化出来る。
 俺も用が済み次第、向かう。」

「了解した。」

通話を切り、ポケットにしまい、宮殿を目指す。
土御門が言っていた人物も気になるが、今はC文書を優先させる。
これが片付いたら、その人物を捜せばいい。
『顔の無い王』を纏いつつ、宮殿に向かう。 
 

 
後書き
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