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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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番外編 IF カルラプール物語

 
前書き
今回は本編でなく、カルラが原作通りIS学園で夏休みを過ごしていたら、というIFストーリーです。 

 
夏休みに入って一週間。
オーストラリアに一度戻ってモロモロの部署に報告とか候補生の仕事とかを片付けて私は再びIS学園の門の前にいます。

「……それにしても」

 私はポケットから一枚の紙……チケットを取り出す。
そこには『ウォーターワールド入場券』と大きく書かれていて、期限が明日までになっています。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「よー、カルラ。久しぶり」

「あ、クロエ。久しぶりですね。どうしたんですか」

「あのさ、カルラってIS学園いってるじゃん?」

「ええ、そうですけど」

「んでIS学園って日本じゃん?」

「?? 何が言いたいんですか?」

「んー、これいる?」

「チケット? えーと、『ウォーターワールド入場券』?」

「うん、どうせ私は行けないからさ。カルラいるかな、って思って」

「………これ、どうしたんですか?」

「~♪」

「クロエ……あなたまさか………」

「いや違うんだって! 全然期待してなかったんだけど通販で買い物してたら当選番号があって送ったら何か当たっちゃって……」

「クロエー!?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


回想終了……
 まあ、うん。クロエの散財癖は直ってなかったと言うかますます酷くなっていたと言うか。まさか日本の通販にまで手を出してるなんて……一応母さんと父さんに言っておいたけどやめるの絶対無理だろうなあ。
 で、結局チケットはいらないからそのまま貰ってきちゃったんですけど、期日が帰ってきて次の日って…うーん。
やっぱり行かないともったいないし、疲れるけど行こうかな。水着も臨海学校で使ったやつがあるし誰か誘えればいいんだけど私クロエから貰った一枚しかもってないし……うむむ。一人でプール。

 さ、寂しいなあ。だ、誰かいないのかな? そんなことを考えながら寮への道を歩いていると……

「あら? カルラさんじゃありませんこと?」

「ふえ?」

 声の聞こえた方向を向くとキャリーバックを持ったセシリアさんが立っていました。どうやらセシリアさんも今イギリスから戻ってきたみたいですね。

 うん? セシリアさんの持ってる紙って……

「あの、セシリアさん? そのチケットって……」

「え? あ、ああ。これでしたら一k……」

そこまで言いかけてセシリアさんがはっ、としたように慌てて紙を後ろに隠しました。

「ち、ちちちち違いますのよ!? これはチケットなんかじゃなくてですね! えーと……そう! ただの割引券ですの! ですからどこか行くとかではけして無いのです!」

「そ、そう……なんですか?」

「そ・う・な・ん・で・す!」

「は、はあ」

「そういうわけですから私はこれで!」

 セシリアさんはすごい剣幕で私に迫った後に直ぐに寮へと入っていきました。うーむ、見間違いじゃなければあれは私の持ってるチケットと同じものなんですけど、違うのでしょうか?まあ期限は明日ですし行くんでしたら向こうで会うこともあるでしょう。
私は部屋に戻りながらそんなことを考えていると

「あら? カルラじゃない!」

「ふえ?」

 掛けられた声に振り向くと何故かすごい笑顔の鈴さんが立っていました。いや、それはもう気持ち悪いくらいに機嫌の良さそうな顔で。

「あのー、何かいいことありました?」

「あら? 分かるー?」

「ええ、まあ……」

 これだけニヘラニヘラしてれば誰でも分かると思いますけどね。

「ま、今度話してあげるわ。今アタシは忙しいから! じゃね!」

「は、はあ」

 そのままスキップしながら去っていく鈴さん。うーん、よく分からない……というより意味不明すぎて恐い。
 とりあえず準備して寝よう。折角だから行かないと損だし。

 部屋に戻って時間を調べて……あ、9時にレゾナンスからバスが出てる。ってことは8時に起きればいいかな。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ウォーターワールドゲート前10時。
 バスを降りた私に降り注いできたのは真夏の太陽。天気快晴、雲一つない絶好の遊び日和です。
 同乗していた人たちは誰かしらと楽しそうに会話しながらウォーターワールドの中に入っていきます。この中一人って……でもここって今の時期前売りチケットでしか入れないくらい人気らしいですし、ネットで見たらここのチケットのオークションで5千円超えているんですよね。実に倍の値段がついていたんです。さすがに勿体ないし一枚しかないのに他の人にあげるのもどうなのってことで来たんですけど……

「か、帰ろうかなぁ……」

 どこを見ても人、人、人。ちなみに言うと一人で来ている人は0。そのくらい見ればわかります。プールで一人って結構孤独感増すような気がするんですけど! どうなんですかね!?
 とりあえず来てしまったんですしどういうものがあるのかどうかだけでも見ていきましょうかね。

そう思って私は他の人より遅れてゲートへと向かいます。

「……夏さんに誘われてここに!」

「……そのチケットはアタシが用意したの!」

 何かゲート前が騒がしいですね。何かあったんでしょうか?
 というよりこの声って聞いたことがあるような……

 騒がしいほうを見てみるとそこには予想通りというか、予想外というか。いえ、予想通りなんでしょうねこの場合は。何かを言い合っているセシリアさんと鈴さんがいました。

「と、とりあえず中に入りませんこと? 私も詳しい話を聞きたいですし」

「そ、そうね。アタシもそれがいい気がしてきたわ」

 そしてその瞬間こちらを振り向いた私と二人の目がばっちり、ええもうばっちりと会いました。

「「ああああああああああああ!!!」」

 そしてそのまま突っ込んでくる二人! なんで!? どうして!?

「カルラ! どうしてここに!?」

「まさか誰かと来ているとか!?」

「その相手が一夏なんてことないわよね!」

「そして二人で一夏のアバンチュールへと!?」

「一夏と一夏をかけたのね! って誰が上手いこと言えと!」

「そしてカルラさんはなぜここへ!?」

「まさか誰かと来てるわけ!?」

「その相手がまさか一夏さんなんてことは!」

「そして二人で一夏のアバンチュールへってことね!」

「一夏と一夏さんをかけたのですね! って誰が上手いこと言えといいましたの!」

「そしてなんでカルラはここにいるのよ!」

 ああああああああ、なんか無限ループしてる………


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「はあ、なるほど。鈴さんは一夏さんを誘ったけど白式のデータ取りで来れなくなったから一夏さんはセシリアさんを誘って、どっちも会うつもりできたら二人は鉢合わせて初めて一夏さんが来れないことを知った、と?」

「まあ、簡単に言えばそう言うことね」

「ですわね」

 ウォーターワールド内の喫茶店で2人の話を聞きながら簡単に話を纏めてみる。つまりはどっちも一夏さんと来る予定だったと。だからどっちも服装に気合入っていたんですね。
 一応ここは喫茶店と言うことあって普通の服でも水着でも入れるようで、さっきから水着で入ってくる人もちょくちょく見かけます。まあ私はまだプールに行ってないので私服ですけど。

「で、どうするんですか?」

「って言っても遊ぶ気もないですし……」

「でも帰るのも勿体ないしねえ」

 鈴さんは紙ナプキンで作った紙飛行機を飛ばしては落としそれをまた拾っていて、セシリアさんはストローの入っていた袋を結んでは解いてまた結んでと二人ともとんでもなく無駄な時間つぶしをしています。まるで2人の世界が絶望しかないかのように……
 とりあえず……

「折角だし寄っていきませんか? これすごいレアなチケットらしいですし」

「んー? って言ってもねえ」

 私のことばに鈴さんは首を傾げて、セシリアさんはため息をつきます。む、無理かなあ。ダメなのかな? 折角来たんですしせめて午前中だけとか……

『お客様にご連絡申し上げます』

うん? 迷子のお知らせ?

『本日のメインイベントは、水上ペアタッグ障害物レース。午後3時からの開始となります 出場希望者は12時までにエントリーをお済ませください』

 あ、なーんだ。今日のイベントか。そんなことより今はこの2人をなんとかしないと……

『なお、優勝賞品は沖縄五泊六日の旅。ペアでご招待です。皆様、振るってご参加ください。繰り返しお知らせいたします。本日の……』

「「これだ―――っ!!」」

「ひゃあ!」

 な、何!? 何なに!? 俯き加減だった2人が急に復活しましたよ!

「「目指せ優勝!!」」

 その瞬間にコンマ1秒もずれずに2人が同時に叫びました。
 あー、沖縄旅行ペアチケット……ですか。なるほど。夏の思い出に一夏さんをってことですね。それしか考え付きませんし、どう考えてもそれしかないですよね。

 でも……ペアチケットなのにどっちが一夏さんと行く気なんだろ……

「おっしゃあ! そうと決まったら時間まで身体を作るわよ!」

「ですわね! しっかり準備しなくては!」

 ま、いいか。私関係ないし。

 そう思いつつ私はオレンジジュースをストローで飲み干した。
 ズズズ……結構美味しいですね。ここのジュース。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 というわけで何か違うと思いますけど私と鈴さんとセシリアさんでプールにやってきました! 水着になる前にプールサイド行って受け付け済ませたのには驚きましたけどねー。
 あれ、セシリアさん臨海学校の時と水着違いません? 前のも青色でしたけど今度はより濃い色でセシリアさんの白い肌がより際立つ感じのビキニ。パレオは同じものみたいですけど。
 そして鈴さんは臨海学校の時と同じ水着ですけど何か引き締まってません!? え、人間ってそんな1ヶ月で引き締まれるものなの!?
 ちなみに私は…………少し面積の大きい赤いビキニだったり………

 何で!? どうしてこうなったんです!

 いや、これ私が買ったんじゃないんですよ! 昨日チェックしたらなんとなくオーストラリアに持って帰って結局出さなかった水着がコレに変わってて、今日他の買おうとしたらプールなのに水着が女性用のだけ全部売ってなくてコレ着るしかなかったんですよ! どうなってるんです!?

 うう、私胸無いのにビキニとか……恥ずかしいよぅ……

「とりあえず1000mくらい行きたいわね」

「あら、私は1500mくらい行こうと思ってたのですけど?」

「今の嘘、2000mはまだ準備運動ね」

「3000mなら10分で行けましたわね」

 何の張り合いですか何の……

「準備運動代わりなら歩くだけでも良い運動かと……というより折角のアミューズメントパークなんですからもっと楽しまないと……」

「なら勝負よセシリア!」

「望むところですわ!」

 うわー、聞いてない。二人はそのまま50mプールへと直進していきます。

「カルラ! 合図」

「お願いしますわ!」

 そして何故か始まる代表候補生のプール戦。
 もうこれ一人で来たほうが楽でよかった! 何て今更思っても面子が変わる訳もなく……

「はいはい、よーい……ドン」

 という私の掛け声と共に2人が猛スピードでプールを泳いでいきます。ってはやっ!
 まあ、いっか。こういうのも楽しいですし。私は近くの流れるプールへと足を向けます。たくさんの人が流れに身を任せて楽しそうに過ごしています。
 足からゆっくりー、っと。少し冷たい水が夏の火照った肌をゆっくりと冷やしていってくれる。んー、気持ちいい!

 私はそのまま身体を浮かべると流れに身を任せて10分くらいゆーっくり流されてみたりー……

「カルラー!」

 ああ、岸辺で鈴さんが叫んでいる気がしますが気のせいでしょう。きっと気のせい……

「さっさと来る! スライダー行くわよスライダー!」

 ああ、さようなら私の平穏……

 っていうより何故いきなりスライダーなんです?

「度胸試しよ! セシリアあんちくしょーめ! 絶対負かしてやるわ!」

 何でもさっきのプールほぼ同時でゴールしたらしく私がいなかったせいで勝敗が分からなかったと、それでもっと分かりやすいように私も一緒に出来るスライダーで勝負と。先に降りた方が勝ち、と。
 セシリアさんは先にスライダーに並んでいてくれて私たちが来るのを待ってくれていました。そして順番まで5分ほど待ち……

「長いですわね……」

「セシリアさんって案外こういうの待てないタイプですか?」

「それ以前にこれだけの人の中にいるのが初めてですわ」

「そういえばセシリアって一応貴族なのよね」

「い、一応って……オルコット家は由緒正しい家柄なのですわよ!」

「あー、はいはい。貴族様貴族様」

「むむむむむ!」

 あー、むくれるセシリアさん可愛いなー、なんて思ってたら順番が来ました。スライダーは直線タイプの丁度3つが並走する形で並んでいるオーソドックスなスライダーです。

「いい、先に降りた方が勝ちよ」

「ええ、それでいいのでしたら」

「あの……もっと楽しみません?」

「鈴さんを負かしたらですわね!」「セシリアを負かしたらね!」

 もう、いいです。同じことでやり合いたくないですし私も一回で勝負決められるように速く降りないと。私はそう考えて体をスライダーにぴったりつけて体の前で腕を組む。そして私の合図でスタート……

「行きます……3・2・1…ごー!」

 その言葉で鈴さんとセシリアさんが思いっきりスライダーを降ります。それにちょっと遅れる形で私も降ります。
 お、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?

「は、はやっ……!」

 あまりのスピードに身体を立てようとした瞬間………

ドボーン!

 減速することなく思いっきり下のプールに着水しました。
 勢いのせいで私は水中で逆一回転してそのまま水の中へ。

「ガボガボ……ぷは!」

 慌てて水の上に顔を出して息を大きく吸う。ああ、結局2人の勝負の結果見れていませんでしたよ。これはもう一回とか言い出しそうだなあ……

「わ! カルラ! 下見て下!」

 鈴さんが何故かすごいあわてていますけど何で? 下?
 鈴さんが言うように下を見てみると私の足元には何か赤いものが………

 あの、あれって……

「カルラさん! とにかくしゃがんで隠してくださいませ!」

 しゃがむ……セシリアさんの言葉に私は思いつくのが一つしかなく、その言葉で私は私の身体の一部を……見ると……そこにあるはずのものが……無……

「い……いやああああああああああああああああああああああああああ!」

 瞬間目の前に漂っている水着を取るでもなくその場にしゃがみ込んでしまうのは性とか言うものなのでしょうか。
 きっと今の私はタコの様に真っ赤に違いありません。ええ、もう周りの水が蒸発してしまうくらい熱いでしょう。でも蒸発してない。ありがとうございます水さん。

「えと、大丈夫?」

「か、カルラさん。水着をどうぞ」

「あ、あびがどうございばず……」

 口元を水につけているせいで声を上げるたびにゴボゴボと空気の泡が出てきます。セシリアさんが取ってくれた水着を素早く着けて。うん、大丈夫。何故かここ一帯に人もいなかったみたいだし……なんで?
 まあ、見られなかったみたいだしいいか……

「えと、それでカルラさん?」

「どっちが勝ったとか……」

「はい?」

「「ごめんなさい」」

 きっと私の顔に何かついていたのでしょう。2人とも顔を真っ青にして謝ってしまいました。いやですねえそんな笑顔の鬼が目の前にいるみたいな反応をされると困るじゃないですか。ねえ?そう思いません?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「さあ! 今年第1回! ウォーターワールド名物水上ペアタッグ障害物レース! 開始です!」

 司会のお姉さんの宣言と同時に会場から歓声、主に男性のものが上がります。司会のお姉さんすごい胸。何食べたらあんなのになるんだろう? 少し分けてくれないかなあ……
 ちなみに私は一緒に参加する人がいなかったので二人の応援です。レースは先ほど2人が泳いでいた50mプールに設置された中央の島のフラッグを取るだけ。取るのは一人でも出来るけど途中の道はペアじゃないと進めなくて落ちたら失格と。ちなみに中央の島に行くには5つの島があってそれぞれ障害をくぐりぬけないと行けない様になっています。
 んー、でもこのワイヤーで島を宙に浮かせて人が届かないギリギリの距離をキープするのって力入れすぎじゃありませんか?

「お2人とも頑張ってくださいねー!」

 私が手を振ると気付いたのか二人が軽く手を振ってくれました。
相手が一般人ならこの2人は優勝候補筆頭でしょうし、まず負けることは無いと思いますけどね。

『さあ! レース開始5秒前! 3・2・1・レディー、ゴー!』

 空砲の音と共に12組24人が一斉に動き出します。このレース、基本ルールは唯一つ。先にフラッグを取るだけなので他は何でもありです。そうつまり妨害も。
 そうなると一番最初に壮絶な妨害合戦が始まります。水着を取る人、落とす人、足払いをする人等など。鈴さんとセシリアさんは上手くカウンターをしてトップクラスに追いつきますが……これまずいですね。参加最年少組みの2人がこの動きを見せたせいで以降の妨害が集中してます。
 そんな妨害を鬱陶しく思ったのか鈴さんとセシリアさんがラリアット(女性がラリアットって……格闘技でもやってるんでしょうか?)を仕掛けてきた2人組みの水着を素早く剥ぎ取って観客に放り投げました。
 うわー……エグい。文字通り投げ込まれた場所は男性達が大いに湧いています。そりゃ湧きますよね。

 妨害さえなければ二人は候補生。一般人向けの障害なんてあってないようなものです。

 本当は固定しないといけない島を2人はロープの上と途中にある小さい島を巧みに跳躍しながら島を渡りきります。
 その後の強烈な放水で本当なら片方が止めている間にもう一人が先に進むという仕掛けも猛スピードで潜り抜けることで飛ばされる前に通り過ぎました。
 その行為のせいで会場がまた湧きます。
私もやろうと思えば出来なくは無いんですけど……結構賭けですよね。恋は盲目ってことなんでしょうか?
 障害レース怖しといより設定ブレイカーですよね。チート級です。

「ねえねえ君」

「はい?」

 ふと、後ろから掛けられた声に振り返ると……知らない男性が立っていました? えっと、誰ですか?

「君可愛いけど一人? よかったらお茶でもどうかな?」

「えーっと」

 これはあれですか。所謂ナンパという奴なのでしょうか?私に? うむむ、女性としては魅力があるということで嬉しいのでしょうけど、私としては……うーん。友達を待ってる身ですし。

「すいません。友達を待ってるのでまた次の機会にでも」

「いいじゃないか。少しくらい、ね?」

 その後数分あれやこれや理由をつけて断っているのに一向に折れてくれません。女尊男卑のご時世にここまで押しの強い人は初めてなんですけどそろそろレース展開も気になるんですよね。

『ご存知2人はオリンピックレスリング金メダル、柔道銀メダルのメダリストペア! 高校生2人組み絶体絶命かー!?』

 司会の人の声が会場に響きます。ってえ!? メダリストペアってなに!? そんなの出てたんですか!?
 少し気になってそちらを見ると鈴さんとセシリアさんは既に5つ目の島で、その前にはマッチョウーマンとも言える女性二人が立ちふさがっています。

「ね? 5分だけでいいから」

 その展開が気になって気が緩んだせいで、男性に腕の部分を掴まれてしまいました。

「あ、あの……困ります。本当に友達が」

「いいからいいから」

「痛っ」

 少し強めに引っ張られたせいで足がもつれてしまいました。転びはしなかったものの……振りほどいていいんですけどこんな人の多いとこだと他の人に怪我させちゃいそうだし……

『はい? ええと、こ、ここでウォーターワールド名物! 荒くれ者集団ヘビースモーカーズの乱入です! この乱入に参加者は耐えられるのかー!』

 司会のお姉さんの声が響き渡った瞬間、プールに物凄い数の水柱が出現しました。

「な、何あれ!?」

『よーし! 射撃開始! ぶっ放せ!』

 物騒な声と共にプールの上に船が現れました。なんか銃身が4つ付いた射撃台を船首につけた船がこちらを向いています。次の瞬間にはその銃身が火を……水を吹いた!

ドドドドドドドドドドドド!!

「ぎゃああああああああ!」

 私はとっさにその場に伏せて避けたけど、間に合わなかった私の腕を掴んでいた男性がその水の弾幕にもろに巻き込まれ吹っ飛ばされる。
 というか何あれ何あれ!? どっかの映画で見たことあるような船なんですけど!
 水の弾幕は何故か私の腕をつかんでいた男の人に一頻水の弾幕を浴びせると………いやいや死んじゃいますよ! 銃身4つもあるから誤射もすごいしてるし人とかパラソルとか椅子とか吹き飛んでますけど!?
 船は気が納まったかのように観客への射撃を中止すると今度は島の上にいる4人に射撃を集中……小さい島は耐えられるわけも無くひっくり返り……全員脱落。

 な、なんだったんでしょう今の……

 そう考えた瞬間にプールのそこから無数の何かが飛び出してきました。

 それは……

「ウォーターバイク!?」

 30から40くらいのウォーターバイクが飛び出してきて銃らしきものを持って観客席に撃ち始めました。と言っても中身は水のようで観客達は叫び声を上げながらも楽しんでいるようですが。

 これって誤魔化しでしょうか? 結局景品取らす意志が無いように見えたんですけど私の気のせい?

 それに最初の物騒な声、どこかで聞いたことあるような……


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ああ! もう最後のなんだったのよあの船!」

「そうですわ! あれさえなければ優勝できたというのに!」

「まあまあ、どうせ勝ってもペアチケットですよ? どっちが貰う予定だったんですか?」

「それはアタシが」「当然私が」

 ほぼ同時に言い放った言葉に私はため息をついてまだ濡れて肌についた髪をかきあげます。

「でも本当に取らす気なかったでしょうね。あの仕掛けは」

「そうよねー、詐欺だわ詐欺」

「でも盛り上げるのにはああいうイベントは必須かと思いますけどね」

「分かってるけど納得いかないわ」

「そうですわ! もう!」

 その心は分かりますけどね。しょうがないですね。

「おーい、カルラー!」

 ……なんでしょう、すごい聞き覚えのある声が……しかもここにいるはずのない人の声が聞こえます!
気のせいですよね。うん、気のせい気のせい。

「おーい、カルラー! 聞こえないのかー!」

「カルラさん? すごい大きい人が名前を呼んでこっちに来ますけどお知りあいですの?」

……セシリアさん。そこは触れないで欲しかったです。
振り返るとウォーターワールドのゲートから出てきたのは……父さんと母さんでした。父さんは私の名を呼びながら、母さんは手を振りながらこちらに近づいてきます。

「何あの2人。カルラの知り合い?」

「父と母です」

 というより何で2人がいるんですか!?

「まあ、あのお2人が?」

「てか何よあの人。父親のほうあんたと全然似てないわね」

「でも髪の色は似ていますわよ?」

「どっちにしろ家族がいたんじゃ私たちは邪魔ね」

「ですわね。お先に失礼しますわ。また学園で」

「あ、はい。すいません」

 気を利かせてくれたようで、鈴さんとセシリアさんは先にバス停の方へと歩いていきました。私はその場で両親を待ちます。
2人は近くまで来ると私とハグした後に改めて言葉を交わしました。

「父さんも母さんもどうしてここに!? びっくりしたよ!」

「ははは、丁度チケットがあってなあ。日本に来る機会も無かったしこの機会に旅行でもと思ってな」

「ふふ、カルラも元気そうね」

「元気だけど、まだ2日しか経ってないよ」

「あら、そうだったかしら」

 母さんがとぼけたように首を捻ります。はあ、どうせ心配だから一回見に来たかったんでしょうね。全くこの2人と来たら……

「うーす、おつかれーす!」
「楽しかったですよおやっさーん」
「こんな楽しい任務なら大歓迎です」
「いつでも呼んでくださいねー」

「おーう、またなー!」

 ………何か屈強な男性達が50人くらい父さんに声掛けてバス停に向かっていったんですけど、しかも何か明らかに工作用具みたいなのとか大きな道具とか持ってるんですけど……まさか……

「父さん?」

「おう、どうした?」

 私が問い詰めようとしたらものすごい笑顔で振り向かれてしまいました。
 助けを求めるように母さんの方を向いたら、物凄い笑顔で諦めろって書いてありました。

 あー、やっぱりあれ父さんだったんだ。
 一回だけため息をついて、私は父さんと母さんの手を取って一言だけ言う。

「やり過ぎないでね」

「あらあら、ばれちゃってるみたいよ?」

「うむ、善処しよう」

 父さんらしいや。
 私は2人の間に入って一緒に歩き出す。こんなことするの、いつぶりかなー。えへへ、ちょっと恥ずかしいけどやっぱり嬉しい。

 今年の夏休みも楽しければいいなあ。夏はまだ始まったばかりだしね!


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「親父さんいいなあ。今頃日本で泳いでるのかなあ」

 オーストラリアのキャンベラではチケットを取り上げられたクロエが悔しそうに空を見上げていた。 
 

 
後書き
というわけで最近暑いのでプール物語。
IFストーリーなので本編への影響は一切ありません。

誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます 。  
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