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久遠の神話

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第四十二話 表と裏その十

「加藤さんは」
「あの人は。何か」
「ただ戦いたいだけです」
「何か違いますよね」
「純粋ではあります」
 大石もそれは否定しない。
「そこには淀んでいるものも歪んでいるものもありません」
「戦いを求めておられるんですね」
「それだけです」
「悪意とは別に」
「人によっては戦うこと、競うこと、そして命を賭けてやり取りをすることに楽しみを見出す方もおられるのです」
「戦いはスポーツですか」
「そうしたものと認識してです」
 戦う人間もいるというのだ。そしてそれが彼だというのだ。
「楽しんでおられるのです」
「何かそれって」
 その話を聞いてだ。上城は眉を曇らせて言った。
「野獣みたいですね」
「野獣ですか」
「戦いたいんですよね。ただ純粋に」
「その通りです」
「じゃあそれは」 
 人ではなく野獣だというのだ。戦いのみを求めるという加藤のその考えを上城はこう評したのである。そしてだった。
 上城は顔を曇らせてさらに言う。その言葉は。
「本当に野獣ですよ」
「いえ、人間です」
「加藤さんもですか?」
「はい、彼は人間です」
 それに他ならないというのだ。
「紛れもなくです」
「あの、しかし」
「戦いを好まれるというのですね」
「あれは中毒じゃないんですか?」
「そうですね。おそらくは戦いから脳内にドーパミングを分泌し」
 人の脳から自然に、興奮すれば分泌されるものだ。所謂脳内麻薬のことでありこれが人に快楽を与えるのだ。
「その快楽にです」
「夢中になっていますよね」
「あの人はそうですね」
「それならやっぱり」
「いえ、人間です」 
 あくまでこう言う大石だった。加藤については。
「紛れもなく」
「それはどうしてですか?」
「野獣とは何か」 
 ここから話す大石だった。
「自然の中に生きている存在ですね」
「自然の中に」
「はい、人の世界の中には生きていない存在です」
 それが野獣だというのだ。
「文明とは全く違う世界にいる存在ですね」
「だからですか」
「野獣なのです」
「野獣は人の世界にはいない」
「別の世界にいます」
 即ちそれが別の世界だというのだ。
「ですがそれでもです」
「それでもですか」
「あの方はです」
 加藤、彼はどうかというのだ。
「あの方は戦い、そしてその快楽を求めておられますね」
「ですからそれが」
「野獣が戦うのは生きる為だけです」
「生きる為だけですか」
「何かを食べ、何かから身を守る」 
 弱肉強食、その摂理の中でだというのだ。
「その為に戦うのであり」
「加藤さんの様に戦いに楽しみを見出したりはしないんですね」
「それは絶対にありません」
 そうだというのだ。野獣というものは。 
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