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ONE PIECE NOVEL -SHISHI BREAK STORY-

作者:伝龍
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第02話 シシ

「な、何なんだ!?あれは一体……」

「軍艦が降りて来ている…?」

ゆっくりと降りてくる軍艦の様子は戦場にいた海兵や海賊だけではなく、映像電伝虫からの通信によって世界中の人々が観戦していた。

「!!」

「?」

処刑台から自分の目で見ていたセンゴクと自分の船の上から見ていた白ひげは何事かと反応を返していた。

やがて軍艦は白ひげ海賊団3番隊隊長『ダイヤモンド』ジョズによって、先程空けられた氷の海にゆっくりと着水し、甲板上に大勢の人が集まっていた。

「………!!ルフィ!!!」

センゴクと同じように処刑台からその光景を見ていたエースだが、その中に自分の弟がいることに気付き思わず名前を叫んだ。

「エースーーーーーーーーーー!!!来たぞーーーーーーーーーーー!!!」

「覚悟しやがれぇ!!!!!」

「………」

「改めてみると壮絶な光景だっチャブル!」

「…エースさん……」

「「「うおおおおおおおおおお!!!!!」」」

その呼びかけに答えるかのようにルフィや他のメンバー、脱獄囚達も思い思いに言葉を発する。

そして最後に……

「ほー……こりゃまたすげぇ光景だな。やっぱり実際に目で見るのは違うな。」

ルフィの隣でシシはポケットに手を突っ込み、首をゆっくり左右に振りながら辺りを見回していた。

「ガープ!!!また貴様の『家族』が問題を起こしているぞ!!!」

「!!ルフィーーーーーーー!!!」

ルフィの姿にセンゴクは厄介事を増やしてくれたかのような言い方でガープに怒鳴りつけ、ガープもまた予想外の出来事に頭を抱えながら、孫の名を叫んでいた。

ルフィのその姿に三大勢力の一つで世界政府公認の7名の大海賊で構成された王下七武海と呼ばれる面々も思い思いの言葉を発した。

「『麦わら』……話題に尽きない男だ。」

黒のテンガロンハットを被り、背中に巨大な黒い刀を背負った男…ジュラキュール・ミホーク…通称『鷹の目』と呼ばれる男がその目でルフィを捉えていた。

「ムーーギィーーワァーーラァーー!!??あの野郎!!生きてやがったのか!!!」

「………」

2本の角に尖った耳の巨大な男…ゲッコー・モリアは因縁のある男の姿に怒りを露わにし、その横では熊の耳がついた帽子を被り、手に聖書を持った同じく巨大な男…バーソロミュー・くまは無表情で見つめていた。

「ルフィ…よくぞ無事で……」

頬を赤くしながら、熱い視線を送っている女…ボア・ハンコックは自分が愛する人の無事な姿に安心していた。

「フッフッフッ!!新旧の七武海に革命軍幹部のイワンコフ……そして、噂の大問題ルーキー『麦わら』か。」

ドフラミンゴもそのメンバーに思わず笑いが零れた。

「あれは…エースが前にいつか言ってた弟じゃねェかよい。」

別の戦場で戦っていた白ひげ海賊団1番隊隊長マルコはいつもエースが話した自分の弟の事について、思い出していた。

「スモーカーさん!!あれ!見てください!!」

「たしぎ!!余所見すんじゃねェ!!……!あれは麦わらにクロコダイル?どういうことだ…?」

以前にローグダウンでルフィと戦った事のあるスモーカーとその部下たしぎは奇妙な組み合わせに訝しんでいた。

また別の場所では海軍大将達もそれぞれの感想を述べていた。

「あらま…えらいの連れて来てんじゃないの。」

額にアイマスクとパーマの髪の毛の男…海軍大将の『青キジ』ことクザンは見知った顔の男と一緒にいるメンバーに気だるそうに頭をかいた。

「おぉーおぉー…また会えるとはねぇ~」

サングラスを掛け、間延びした口調で同じく大将である黄猿はつい先日に戦った男との事を思い出していた。

「あいつがそうかい。英雄ガープの孫にして最悪の犯罪者ドラゴンの息子……ここで確実に消しとかにゃ後々やっかないことになるけんのう。」

帽子を被り直しながら、大将最後の一人…『赤犬』ことサカズキはルフィの姿を睨みつけた。

「な、アレはクロコダイルにジンベエ!?」

「それに革命軍のイワンコフに後ろにいるのはインぺルダウンの脱獄囚達だ!!」

戦場の海兵も船にいる面々を見て、口々に叫び始めた。

「…?おい、『麦わらのルフィ』の隣にいるあの男は誰だ?」

「見たことない顔だが……」

「誰か知ってるか?」

そんな中、ルフィの隣にズボンのポケットに手を突っ込んで、堂々と立っている男の姿に海兵達はもちろん、七武海や大将、センゴクやガープもその存在に気づき、話をし始めた。

「あの男は……」

その姿を見た瞬間、鷹の目が何かを感じ取ったかのように呟いた。

「キシシシシ!!誰だ、あの野郎は?知ってるか?」

「………」

「チッ!愛想のねぇヤローだぜ。」

モリアは笑いながら問いかけるも、無言のまま見つめるくまに機嫌を損ねた。

「他の男に興味はない。」

ルフィの隣にる男を軽く一瞥すると、ハンコックは自分の愛しき人に再び視線を戻した。

「謎の新星と言った所か、こいつは面白い…フッフッフッ!!」

ドフラミンゴも謎の男の正体にワクワクしながら、笑っていた。

「あいつ……一体何者よい?」

マルコはエースの弟の隣に立つ男に何か謎めいた物を感じ取った。

「また、新しいのが出てきたねー…誰か知ってるかい?」

「い~やぁ、初めて見る顔だねェ~。サカズキ、君知ってるかい?」

「知ろうが知るまいが、海賊は皆、始末したらええんじゃあ。」

3大将の面々も記憶にない男の存在に興味を持ち、その姿を睨みつけていた。

「あの男……何者なんでしょうか?」

「さあな…だが、少なくとも麦わら達と一緒にいるって事は俺達の敵ってわけだ。気を抜くなよ?」

質問するたしぎにスモーカーは敵の攻撃を躱しながら答えた。

「本当に白ひげ海賊団の団員ではないんだな?」

一方、処刑台ではセンゴクがエースに詰め寄り、質問をしていた……その質問とは『あの男は白ひげ海賊団の団員か?』と言うもの。

「……ああ、俺の隊にも他の隊にもあんな男はいなかった。」

「そうか……」

そう言ってセンゴクは踵を返し、再び男の元へ視線を移した……他の海兵達が男の正体を知ろうとする中、センゴクとガープだけがそれとは別の事に注目していた。

「センゴク、あの能力……」

ガープは何かに気付いた様子でセンゴクへと話しかけていた。

「お前も気付いたか。そうだ…22年前、ロジャーが処刑される1週間前にこのマリンフォードにたった一人で攻め込み、その2年後、インぺルダウンからの脱獄に成功した空飛ぶ海賊『金獅子』のシキが持っていた能力だ。」

そう言うセンゴクとガープの頭の中には22年前の記憶が蘇っていた。

「だが、おかしいじゃろ?悪魔の実は同じ物は2つと存在せんはずじゃ。」

「悪魔の実については全てが解明されている訳ではない。そう考えれば、あの男が何らかの理由でシキの能力を得たとも考えられる。」

「じゃが……それでお前は納得するのか?」

「………今、その事を深く考えても仕方がない。今はエースの処刑と白ひげ海賊団の殲滅が最優先だ。お前もそれだけに集中しろ。」

センゴクの返答にガープは深刻な顔をして、再び戦場に視線を向けた。

彼らは知らない……後にその男の見せる力がさらなる驚きをもたらす事を……




















「ほー……こりゃまたすげぇ光景だな。やっぱり実際に目で見るのは違うな。」

そんな事を言いながら俺はポケットに手を入れたまま、辺りを見回していた。

「やっぱり絵で見るのと実際に目で見るのとは雲泥の差だな。」

絵で見ただけじゃその場の雰囲気は伝わって来ないし、何より迫力に欠けるからな…実際に横にはこの物語の主人公がいるわけだし。

そう言いながら俺はエースに向かって叫ぶルフィや他のメンバーへと見やった。

バギーは思ったよりも鼻がデカかったし、Mr.3は本当にガネガネ言ってるし、クロコダイルはうるさいし、ジンベエは義理堅いし、イワさんはホントに顔面デケーし……あんだけあったら、忘れたくても忘れらんねーな。

「(そして何よりルフィは…ルフィのまんまだしな。)」

隣で笑うルフィに俺はじっと見ていた……すると視線に気付いたのかルフィがこちらを向いて話かけてきた。

「ん?どうした?シシ」

「いや、何でもねーよ。」

「何だよぉ、気になるじゃんかよ。」

「大したことじゃねーよ。」

「ぶーぶー、ならいいじゃんか。言ってみろって。」

文句を言いながら、しつこく聞いてくるルフィに俺は観念した。

「ふぅー…分かったよ、教えてやる。」

「おう!言ってみろ!」

腰に手を当て、どーんと胸を張るルフィに俺は思わず苦笑した。

「ああ……ルフィ達と出会った時のことを思い出していたんだ。」

「出会った時のこと?」

「ああ。」

そう言って、俺は空を見上げてルフィ達のとの出会いを思い出していた。




















~回想~ SIDE 麦わら組

時間は白ひげが津波を起こし、それを青キジが氷漬けにした所まで遡る。

「何が起きたんだ!!!」

「何で海が凍ってんだよ!!??」

「知るか!!いきなり大波にさらわれたと思ったらいきなりこんな所に……」

1隻の軍艦が凍った津波の頂上で埋まり、立ち往生していた。その軍艦の乗組員…インぺルダウンの脱獄囚達はいきなり起きた出来事に慌てふためいていた。彼らは正義の門を通過した後、エースがいる処刑台へと向かう途中に大波にさらわれ、そして氷漬けになった海の頂上に埋まっていた。

「ふん、下を見てみろ。面白いモンが見れるぞ。」

そんな様子を余所にクロコダイルはそんな言葉を言いながら下を覗き込んだ。

「……オヤジさん!!!」

覗き込んだジンベエは自分の恩人である人物を叫ぶ。

「既に『戦争』は始まっチャブルね!」

同じく下を覗き込んだイワンコフも状況を把握し、言葉を発する。

「で?どうすんだよォ!!麦わらァ!!」

この状況に痺れを切らしたバギーがルフィに食ってかかっていた。それに対してルフィは……

「お前らおれの話を聞け!おれにいいアイデアがある!!これで乗り切るしかねェ!!急がねェとエースの処刑時間があと3時間もねェんだ!!」

そう言ってルフィは全員に聞こえるように自分が考えたアイデアを伝える。

「はァ!?この凍った海を艦で滑り降りるだァ!?」

「何言ってるガネ!!動かせるわけがないガネ!!」

ルフィの突拍子もないアイデアにバギーやMr.3は反対の意見を言い出す。ジンベエや囚人達は腕を組んだまま、黙ってその話を聞いていた…クロコダイルも同じく黙って話を聞いていたが、態度はどうでもいい感じだった。

「無理じゃねェ!!力を合わせれば必ず出来る!!!」

ルフィはそんな意見にも怯まず、言い返した。そんな言葉にバギーは……

「ハッ!…お、俺ならやれそうな気がしてきた……!!」

ノリがいい奴であるバギーはこういう状況になると自分になら出来ると思い込み、手を武者震いの様にわなわな震わせながら呟く。さらに……

「「「そうだ!!俺達にゃ伝説の海賊にして天下を取る男キャプテン・バギーがついている!!!」」」

海賊王の元クルーであるバギーを英雄視する周りの囚人達はバギーのその言葉に崇拝するかのように叫ぶ……ズル賢い性格のバギーだが、こういう場を盛り上げ煽り立てる才能だけは長けていた。

「おう!!おめえらァ!!!いっちょやるぞォ!!!」

「「「おう!!!!」」」

こうなるとバギーの勢いは止められなかった。囚人達がバギーの名をコールをする中、バギーは何とも悪そうな顔で下を向く。

「(こうしてこいつらを煽っておきゃあ、後々役に立ってくれるこたァ分かってる…!!そうすりゃ何かの間違いで白ひげの首を取ることも、勢い余ってで海賊王になる事も出来る!!)そうなりゃあ、時代は俺についてくるってもんだぜェ!!!ぎゃははははは!!!!」

そう言って上を向き、大口を開けて笑うバギー……次の瞬間。

「ぶほぉ!!!」

突然何か重たい物がすごい勢いでバギーの顔を直撃し、そのままバギーは倒れ込んだ。

「!!」

「「「キャプテン・バギー!!!???」」」

突然の出来事に驚くルフィや囚人達……と同時に一人の男がすくっと立ち上がり、辺りを見回した。白銀の髪に青のTシャツ、デニム生地の黒の長ズボンと白い靴を履いた男がそこにいた。

「ふう。どうやら無事に来たらしな。」

SIDE OUT


















SIDE シシ

「ふう。どうやら無事に来たらしいな。」

そう言って俺はズボンについたホコリを叩きながら、辺りを見回した…漫画で見た人物達がいるのには少し感動した。

「(しかし、メルエの奴も気が利かないよな。どうせ送るんなら艦の甲板にしてくれればいいのに…何故か気付いた時には落ちていたからな。)」

メルエによって意識を失ったあの後、次にシシが意識を取り戻した時には空を落ちている真っ最中だった。

「(まあ、落ちてる時にルフィ達が乗った軍艦は見えたし、『月歩』で勢いは抑えたし、何かクッションみたないな物もあったしな。)」

いくら傷ついてもすぐに回復する体にはなったが、猛スピードで好き好んで怪我をするつもりはない俺は途中で『月歩』を使い、勢いを抑えつつも何かの上に着地した。

そんな風に考えていると……

「なあ!お前、どっから来たんだ?」

「ん?」

わくわくしながらトレードマークである麦わら帽子を被ったルフィが話しかけてきた。

「(さっそくだな。)ああ、どこからってんならあそこだな。」

そう言って俺は人差し指で遙か上空の空を指さした。

「空島から来たのか!?」

「うーん…そういう訳じゃないんだが、気付いたら空を落ちてた。」

正直に答える訳にもいかず、適当な理由を口走った。

「何だ?変なヤツだな。」

そう言いながらもルフィはししししと歯を見せながら笑った。そんなルフィを見た俺は……

「(おぉ。俺、今、主人公と話してるよ。何か感動だな…しかし、やっぱり友達になりたいキャラクターランキングの第2位だけあって好感が持てるな。こんな友達なら俺は絶対裏切らないな。)」

「な!お前、名前は?」

「俺か?俺の名前は…シシ。ジンドウ・シシだ。」

俺は前の世界で使っていた自分の名前を口にした…本当はいろいろな名前を考えていたんだが、やっぱり俺が俺でいるためには自分の名前は捨てちゃいけないなと思ったからな。

「シシか!おれは……」

「おっと、モンキー・D・ルフィだろ?知ってるぜ?何せ有名人だからな。」

自分の名前を名乗ろうとしたルフィに俺は途中で言葉を挟んだ。

「!そうか。しししし!!だったらよろしくな!」

そう言ってルフィは握手を求めてきた。

「(このサバサバした感じがルフィらしいよな…)ああ、こっちこそよろ……」

俺もその握手に答えようと手を伸ばそうとする、すると……

「ちょっと待てクラァ!!!!」

「「「キャプテン・バギー!!!大丈夫ですか!!??」」」

俺の後ろで赤いデカッ鼻から鼻血を垂らしながら、顔がボロボロになったバギーが怒り心頭でこちらに向かってきていた。

「テメエらァ!何さらっと自己紹介なんかしてやがんだァ!!」

「あ、バギー。お前いたのか?」

「最初からいるわァ!!お前も一部始終見てただろうがァ!!」

その存在を忘れてたかの様に言うルフィとツッコミを入れるバギーに俺は笑いをこらえていた。

「(くくく……やっぱ、ルフィもバギーも面白れーな。だが、バギーは本当にデカッ鼻で赤ッ鼻だな。一体何をどうやったらあんな鼻になるんだ?)」

「ああ!?テメェも一体何笑ってやがんだァ!!元はと言えばテメェが落ちてきたせいで……?」

そう言って顔を近づけてくるバギー……そんなに顔近づけんな、鼻がますますでかくなって笑っちまうじゃねえか。

「あぁーん?テメェ、どっかで見た顔だな。」

「ん?そうか?」

「………!!そうだ!あのシャンクスの野郎に似てやがんだ!!チクショー!ますます腹が立ってきたぜ!!」

「「「キャプテン・バギー!!そんな野郎なんかやっちまえ!!!」」」

囚人達のそんな声と共に手をぎゅっと握りしめながらプルプルと震え、ますますバギーの怒りに拍車が掛かった。

「おおよ!もう我慢できねェ!テメェはブっ……」

そう言いながら腕を振り上げ、殴り掛かろうとするバギーに俺は両手で相手を押しとどめるような構えを取った。

「はいはい。ちょっと待ちなよ。海賊王ゴールド・ロジャーの元船員にして四皇の一人『赤髪』のシャンクスとも兄弟分のバギーさん。」

「!?…なぜそれを!!」

「そりゃあもう、そっちも有名人だからな。いろいろと噂は聞いてるぜ?」

そう言って、俺はいたずらっぽい笑みを浮かべた。

「何でも昔、ロジャー海賊団の中じゃ一目置かれていたらしいじゃねぇか?」

「な……そうでもねえけどよ!!」

俺の言葉にバギーは突然、動きを止めて胸を張りながら、人差し指で鼻を擦った。

「それにあのシャンクスとは兄弟分と言われているが、実際はシャンクスがお前に憧れてたとも噂されているし。」

「な、何言ってんだ。そんな事あるワケ……」

「そうかな?よく昔を思い出してみろ。そんな言動があったはずだぜ?」

「そんなのあるワケが……いや、待てよ?あの時か?それともあの時か?」

「「「キャプテン・バギー???」」」

否定しながらも自分が見習い時代だった時の記憶を思い出し、ブツブツと独り言を呟くバギーに囚人達も心配そうに声をかける。

それを見ながら、さらに俺は話を続ける。

「どうやら思い当たる節があるようだな。そこで、そんな伝説の男に頼みがある。そんな伝説の男の顔面を傷つけた事を許してくれねえか?」

「何だと!!何故許さなきゃいけねェんだ!!!!」

「考えても見ろよ。あの囚人達はあんたを伝説の男として英雄視してる。そんな男が顔面の一つや二つ、傷をつけられたぐらいで怒っちゃあ、器の狭い男だと思う奴もいるだろう。だから、ここで寛大な気持ちで許してやれば、『何て器の大きい男なんだ!!さすがはキャプテン・バギー!!ますます気にいっちまったぜ!!』ってなる。そうなりゃ、あいつらはますます喜んでお前の命令を聞くし、裏切りもしないだろう?」

「む……言われてみれば……」

俺にそう言われて納得するバギーに俺はダメ押しの言葉を言った。

「だから、ここは許しときなって。大丈夫、お前なら出来る!!」

「そうだ。俺なら……できそうな気がしてきた!!!!」

そう言うとバギーはバギーコールをする囚人達の方に振り向き、右手を掲げながら叫んだ。

「聞きやがれェ!!ハデ野郎共ォ!!この野郎は大胆にもこの俺様の顔面に傷をつけ、挙句の果てに無視をしやがったァ!!」

「「「ウォォォォォ!!!やっちまえ!!キャプテン・バギー!!!」」」

「だが、しかァし!!許すことにした!!」

「「「え!!??何故なんだ!!!!」」」

バギーの言葉に一瞬、耳を疑う囚人達にバギーはさらに言葉を続ける。

「確かにこいつは俺を傷つけた……だが!!俺は白ひげの首…すなわち世界を取る男だぜェ!?そんな男がたかが顔を傷つけられたぐらいで、頭にきてたら底が知れらァ!!!ここは俺の寛大な心で許してやろうじゃねェか!!!俺の夢はもっと先にあるんだからよォ!!!」

「「「うっ…ううっ……キャプテン・バギー…あんたって男はどこまでスゲー男なんだあ!!!俺たちゃあ一生あんたについていくぜ!!!バギー!バギー!バギー!」」」

バギーの台詞と共に囚人達は涙を流しながら、改めてバギーの存在を称え合った。

「ホントにちょろいもんだな。白ひげとの対面でもあっさりと煽てられて、良いように丸め込まれてるし……マルコの台詞にも頷けるな。」

そんな光景を端から見ていた俺はそう言いながら、再びルフィの方へと向き直った。

「お前、スゲーなあ!!あれ、ホントの事なのか!?」

「シャンクスと兄弟分以外は全部嘘だよ。ああいうヤツは煽ててのせるのが一番良いからな。」

「へぇー、やるなあ。」

感心するルフィに俺はさも当たり前の様に答えた…その言葉にルフィは目を輝かせながら、改めて握手を求めてきた。

「邪魔が入っちまったけど、よろしくな!!!」

「ああ、こちらこそ。」

そう言って俺はルフィの手を握り替えした。そこへ……

「ヴァナタ、ちょっといいかしら?」

呼びかけたのはカマバッカ王国の元女王であり革命軍の幹部でもあるエンポリオ・イワンコフだった。

「何です?革命軍幹部のエンポリオ・イワンコフさん?」

「…!ヴァターシの事も知っているわけね。」

「ああ、インぺルダウンに収監されつつも密かにレベル5.5「ニューカマーランド」で同士を募り、決起を待っていた時に同胞であるドラゴンの息子ルフィが現れ、その援護をするために脱獄した…とね。」

「そこまで知っているなんて…ヴァナタ一体何者なブル?」

「俺の名前はジンドウ・シシ。それ以下でもそれ以上でもねーよ。」

「………」

黙って俺を見るイワさんに俺も原作の知識を活用して、名乗りながらイワさんの顔を見上げた……ホントに顔デケーな…小さい子供が見たらトラウマになるぞ、これ。

「…まあ、いいわ。ヴァナタの事は後回しにするとして、目的は何?どうしてここにいるの?」

「俺の目的はあんた達と同じエース救出…そのためにここに来た。」

俺は真剣な目でイワさんの顔を見つめ返した。

「…なぜヴァナタがエースボーイの救出を手伝うわけ?ヴァターシにはヴァナタがこの件について何にも関係ナッシブルな事のように思えるんだけど?」

「俺には関係なくてもルフィには関係がある。それに……」

「?」

「これから命運を賭けた戦争に介入するのに戦力は一人でも多い方がいい。こう見えても…俺は結構強いぜ?」

そう言って俺は右手でGJをしながら自分の胸に押し当て、口の端をつり上げた。

「ほぉ……なら試させてもうおうじゃねえか。」

「………!!」

一度聞いたら耳から離れないそんな声質の言葉と共に体を砂に変えて、俺の背後にクロコダイルが左手のフックを振り上げる。

「クロコダイル!!」

「クロコボーイ!!!」

それに気付いたルフィとイワンコフが声を荒げる…しかし、次の瞬間!!

ドゴォン!!!!

俺は勢いよく振り返りながら、左手でクロコダイルの首根っこを掴み、そのまま後頭部から甲板に叩きつける。

「「!!」」

「な、何だァ!!??」

「「「!!!」」」

その光景に愕然とするルフィやイワンコフと突然の轟音に驚くバギーと囚人達を余所に俺は左手に力を込め、徐々に締め上げていった。

「ぐ……!!」

「おいおい、いきなりの奇襲は卑怯じゃねえのか?ま、海賊だからそんな事は当たり前だろうけど。」

「貴様…何故、俺の体を……!」

「ああ、確かスナスナの実の砂人間だったな?水がなきゃ触れないとでも思ったか?生憎だが、俺にはそんなの関係ねーよ。」

そう言って俺はさらに力を込める……確かにクロコダイルの砂の体に触るには水や血などの水分が必要だが、俺にとってはそんなものは関係ない…『自分に不利な効果は全て除外』って言っといたからな。

「………!!!」

「いいか?クロコダイル。俺はただエースを救いたいだけだ。てめえの相手はその後で存分にしてやる。だから黙ってろ…!!!」

顔をググッと近づけてそう言うと俺は左手を離した。

「(にしてもホントにすげーよな。ここまでチートな事になってるとは……うまくいけば、黒ひげが言ってた通り、『俺の時代だ!!』とかやれそうだな…そんなんやる気はないけど。)」

咳き込むクロコダイルの傍らで手をにぎにぎしながら、そんな事を考えていると……

「ヴァナタ、一体……」

「すっげえーーーーーーーーー!!」

イワンコフが呆気に取られる中、ルフィが目をその名の通り輝かせながら、俺の手を握りしめてきた…まず俺の世界じゃ絶対に見ることができない光景だな。

「なあ!!どうやったんだ!?あいつは水がなきゃ触れねーんだ!!」

「あー、どうって言われてもなあ………気合い?」

さすがにチートのことを言うわけにはいかない、だからと言って覇気のことを説明しても習得するまでには時間が足りない。故に適当に誤魔化せそうな理由を言っておく…こんな子供染みた理由で通るのか心配だったが、その心配は無用だった。

「気合いかぁ……しししし!!よし決めた!!お前、おれの仲間になれよ!!」

「は?」

突然の宣言に耳を疑う俺。

「何で仲間に?」

「お前みたいなスゲーやつと冒険出来たら楽しいと思ったからだ!!なあ、いいだろ?」

俺の疑問に当たり前の様に答えるルフィに俺は内心、苦笑しながらも改めてこう思った、ルフィはルフィだなと……

「まあ、待て。俺としてもその誘いは嬉しいが、今はまだ決められねえ。だから、エースを無事に助け出した後に必ず返事をする。それまではエース救出に専念する。それでどうだ?」

俺としても主人公であるルフィと冒険出来たら、これ以上の喜びはないだろう……だが、原作ではエースはルフィを庇って亡くなり、さらにその影響で精神が崩れたルフィも死ぬ一歩手前までになっている。
白ひげも自分の息子達を守るために託して、死んでいった。隊長達もエースの生ける意志であるルフィを必死に守りながら戦っている……そんな未来は絶対に変えなければならない。

「ぶー…わかった。その代わり、絶対に返事しろよな。」

「ああ、約束だ。」

お互いに顔を見て頷き合う。

「あー、お取り込み中、悪いんだガネ?」

「「ん?」」

俺達は同時に首を向けると、申し訳なさそうな台詞の割には、メガネをクイッと上げながら話しかけてくるMr.3がそこにいた。

「君達が話している間に、さっき電伝虫に海軍の作戦連絡があったガネ。」

「!ホントか!?」

Mr.3のその言葉にルフィがいち早く反応した。

「で!?どんな内容だったんだ!?」

「暗号は分からなかったが、最後に予定を早めてエースの処刑を執行すると言ってたガネ。」

「!!?何でもっと早く言わねーんだ!!!」

そう言ってルフィはMr.3の服の襟元を持ち、顔を引き寄せる。

「無理言うんじゃないガネ!!君達が騒いでいたせいだガネ!!」

「よせよ、ルフィ。」

俺は目を飛び出させながら反論するMr.3からルフィの腕を掴んで、離させて落ち着かせる。

「こいつも親切に教えてくれたんだ。それに俺達にも原因はある。文句を言うのは筋違いってやつだ。」

「だけどよ!」

「それよりもエースの処刑時間が早まるって言うなら急ぐべきなんじゃないか?」

「ハッ!そうだった。おーい!!バギー!!」

俺がそう言うと思い出したかのようにルフィはバギーを呼びにいった。そして、俺は傍にいたMr.3に話しかけた。

「悪かったな。俺が騒ぎを起こしちまったせいで重要な情報を逃すとこだったよ。」

俺は素直に頭を下げた……原作じゃあ、すんなり電伝虫でエース処刑の予定変更の連絡を聞けていたが、今回に限っては俺が介入したせいで聞くことが出来なかったしな。

「気にすることないガネ。私も成り行き上、共に行動しているだけで一応、報告はしといた方が良いと思っただけだガネ。」

そう言うとMr.3はくるりと後ろを向いた……俺はそのまま構わず、話し続けた。

「だけど、あんたには期待してる。いざとなったら頼むぜ?ボンちゃんのためにも……な。」

「!!」

そう言う俺の言葉に少し肩が揺れるのが分かった……処刑台が破壊された時にMr.3が落下しながらも鍵を作り、そこにいる理由を打ち明けた時に俺はこいつに俺は男を感じたね。

「お前、それをどこで……」

「おーい!!シシーーーー!!」

Mr.3が何か言いかけた時、ルフィが手を振りながらこっちへ向かって来ていた。

「どうした?」

「こっから滑り降りる準備をするから手伝ってくれねえか?」

「その事なんだが、俺に任せてくれないか?」

「ん?なんだ?何かあるのか?」

「ああ、あとルフィとイワさんに協力してほしいことがある。」

「?」

「アラ?ヴァターシもなの?」

俺はルフィとMr.3と同じく傍にいたイワさんの顔を交互に見やる。

「ああ、二人は俺が合図したら下の氷を破壊してほしいんだ。」

「「!!」」

俺の提案に驚く二人。

「大丈夫、そのあとは俺に任せてくれ……頼む!」

そんな二人に俺は真剣な顔と目つきで頼み込む……せっかくチートでここに来たんだから、それを使わない手はない…それに原作を読んで、これにぴったりな能力もあるしな。

「分かった。」

俺の熱意に動かされたのかルフィが大きく頷く。

「!!いいのか?」

「ああ、それに俺はシシを信じる!」

そう言うルフィはバシッと左の拳を右の手の平に打ち付ける。

「麦わらボーイが信じるって言うんダッチャブルなら、ヴァターシも信じないわけにいかナッシブルね…やってみなさい。」

イワさんも腕を組みながらルフィと同じように頷いた。

「ありがとう二人共。」

その言葉に俺は頭を下げた……突然現れたこんな俺を信じてくれる二人のためにも必ずエースは助けてみせる…その決意を固くする俺だった。

「よし、じゃあ皆を集めてくれ。」

「「わかった(わ)」」

そう言うと二人は他のメンバーに声をかけに行った。数分後、メンバーが集まり、俺は船首の方へ向かっていった。

「準備はいいか?」

「おう!いつでもいいぞ!!」

「こっちも準備は出来てナブルよ。」

「ホントに大丈夫なんだろうなァ!!」

「ふん……」

「………」

俺の問いかけにルフィ達が思い思いに反応する……俺は一瞬まぶたを閉じ、勢いよく開いた。

「やってくれ!!!」

「『ゴムゴムの』ォ~~~」

「『DEATH』…」

ルフィが足を振り上げて、目一杯伸ばすのと同時にイワさんも目をカッと見開く。

「『戦斧』|(おの)!!!」

「『WINK』!!!」

ドゴォォォォォォン!!!

二人の技によって分厚い氷が割れて、艦が一瞬空中に浮き上がるが、すぐに落下を始めようとする。しかし……

「おい、見てみろよ」

一人の囚人がおもむろに艦の甲板から下を見ると……

「この艦…浮いてるぞ!!!!」

その言葉に他の囚人達も同じように下を見て驚いていた。

「よし、これで無事に降りられるな。」

俺はそんな光景を船首から眺めていた……原作を見て、俺は無事にルフィ達を降ろせないかと思った。そこで、俺が思いついたのは『金獅子』のシキが使っていたフワフワの実の能力だった。これなら俺が触れた物なら、重力に関係なく浮かせられるからな…本来この能力で自分以外の生き物は浮かせられないが、そんな制限は取っ払ってるから本当は一人一人を浮かせて、そのまま連れて行っても良かったんだが時間が掛かるしな。

「シシ!お前、能力者だったのか!」

ルフィが同じように下を見た後に驚きながら俺に話しかけてきた。

「ああ、黙ってて悪かったな。」

「気にすんな。それに俺はシシを信じてたからな!しししし!!」

謝罪する俺にルフィは気にする様子もなく笑っていた。

「ありがとな。それじゃあ……行くぞ!!!」

「おう!!!」

俺とルフィの声と共に艦は下に降りていった。

SIDE OUT

~回想終了~


















「てな事があったよな。」

「そうだな。おかげで無事に降りられたし…ありがとな!」

ついさっきの事を話しながら、俺は処刑台にいるエースの姿を見つめた……項垂れているエースの姿についエースの亡くなるシーンが浮かんだが、すぐに思い直した。

「ルフィ……」

「ん?」

「必ず…エースを助けるぞ!!」

「おう!!」 
 

 
後書き
本編でシシをメインに出会いを書きましたが……書けてるのかな?不安になってきた……自分の中ではシシとルフィ達の艦での出会いは重要だと思っていましたので、これは外せないなと感じました。

一番苦労したのが、ワンピースの世界観を出しつつも、シシの存在感を出すことでした。自分的には出来る限り表現したと思いますが、いかがだったでしょうか?個人的にはクロコダイルとのやりとりが書いていて一番楽しいと思いました。

それではまた次回をご期待下さい。誤字・脱字があれば報告をお願いいたします。 
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