カンピオーネ!5人”の”神殺し
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護堂とエリカと
またもや時間は遡る。
病室で神獣、またはまつろわぬ神に匹敵する呪力の奔流を観測してしまった病院関係者と入院患者に完全に包囲されてしまい、絶体絶命の危機だった草薙護堂だが、その危機は、ほかならぬエリカによって救われた。
『彼は、魔術結社【赤銅黒十字】に所属する魔術師であり、同時に神器使いである。』
『先程の呪力の奔流は、主の命の危機に自動対応した神器が肉体を再生した時の余波であり、断じて戦闘行為を行う物では無かった。』
『警戒されるのも当然だが、【赤銅黒十字】のエリカ・ブランデッリの名に免じて、この場は見逃して欲しい。』
と、嘘も含めた様々な言葉を用いて、無理やりではあるがお咎めなしという所まで持っていったのだ。流石は【赤銅黒十字】が誇る天才といった所だろうか。突発的な状況にもキチンと対応していた。
そもそも、神器というものは謎が多すぎる。その能力は千差万別で、”黒の剣”のように単純戦闘に特化した物から、今回のように傷を癒す物、更には空間を好きに変化させる事が出来る物まで様々なのだ。
護堂が持っている石版のように、自分自身で持ち主を選ぶ程希少な神器ならば、自分の主が意識不明の重体に陥った場合、自動的に傷を癒すくらいの事はやっても全く可笑しくはない。
人間側の都合など考えてくれる訳がない神器が勝手にやったことなのだから、護堂にもエリカ自身にも全く非はない。それを説明すると、肩の力が抜けた魔術師たちは去って行った。
「ふぅ・・・。一時はどうなることかと思ったわ。」
額の汗を拭うエリカ。一歩間違えば、世界に彼女たちの居場所が無くなっていたかもしれないのだ。この病院で戦闘行為をしたなんて噂が立てば【赤銅黒十字】も、大きな打撃を受けるに違いない。焦るのも当然であった。
「せっかく命が助かったのに、世界から追い出されるなんて嫌よ私は。」
間接的な原因になった護堂を睨むエリカ。護堂は、巻き込まれただけの運が悪い一般人で、何の責任もないのだが、彼と出会ってから録なことがないエリカとしては、少し位八つ当たりしてもバチは当たらないとか思ってしまう。
「・・・な、何だよ。」
ただ、睨まれている護堂としては、これ程居心地の悪い状況はない。今まで見たこともないくらいの絶世の美人から睨まれているのだ。しかも、未だ全裸の自分を。先程下半身はシーツに隠したが、それでもやはり全裸なのは間違いないわけで・・・。一刻も早く、この訳の分からない状況から逃げ出したいと願う護堂であった。
「・・・貴方、何者なの?」
数分、エリカと護堂は見つめあった。というよりも、エリカの八つ当たりから、護堂が目を逸らせなかったというだけなのだが。エリカ自身も、止めるタイミングを失ってしまったと言える。
そこで、強引にこの流れをぶち壊そうとしたエリカは、ずっと不思議に思っていた事を質問した。・・・質問というよりは、尋問と言った方がいいかも知れないが。
一切の嘘を許さない。彼女の瞳からは、そんな意志が感じられた。
「いや・・・何者って言われても。」
対する護堂は、当然だが困惑している。エリカが何と思おうと、彼は正真正銘の一般人なのだ。知らないことは答えようがない。
「じゃぁ、質問を変えるわ。貴方は何故、この島に来たの?何が目的?」
(何だか良くわからないけど、すっげぇ疑われてるし・・・ここは正直に話したほうがいいか。病院内で武器を振りかざすような連中の仲間だし、何されるかわからない)
これは正しい考えだった。
既に、エリカ含む護堂以外の全ての人間が、多かれ少なかれ彼女の影響を受けていた。彼女が、まだ自分を取り戻して間もない頃だったので見て分かるほどの変化は無かったが、それでも精神に影響が出ていたのだ。
護堂が目覚めてから、まだ二十分も経っていない。それはつまり、まつろわぬナイアーラトテップが自身の神格を取り戻してから二十分も経っていないということだ。だというのに、高度な物理精神複合結界で守られたこの病院の人間や魔人にまで影響を及ぼす。これが、まつろわぬ神の権能だった。
今はまだ深夜。起きている人間が少ないので大事にはなっていない。・・・が、タイムリミットは確実に近づいてきていた。
もし、護堂が下手な嘘を吐いたとエリカが判断し襲いかかっていれば・・・エリカは、既にこの世に居なかったかもしれない。
それ程、今の護堂は危険な存在である。・・・正確には、護堂に迫った危険を見逃す神器ではないのだ。まつろわぬナイアーラトテップから簒奪した権能を使用すれば、人間の魔術師一人など塵芥に等しい。その意味では、助かったのはエリカのほうである。
「俺は、この石版をじいちゃんの知り合いに届けに来たんだよ。凄い貴重な代物らしくて、航空便で運ぶのも、壊れそうで怖いだろ?・・・じいちゃんとその人が、会わないようにっていう配慮だけど(ボソッ)。」
最後の言葉をエリカに聴かせる気は無かったので、小声にした護堂。正直、身内の問題なので、これは他人に聴かせる話ではない。
「届けに来た?相手の名前は?」
「そんなことまで話さないといけないのかよ・・・。いや、分かった話すよ!話すからその果物ナイフを置いてくれ!」
護堂が渋ると同時に、エリカは無意識の内にテーブルの上にあった果物ナイフを掴んでいた。エリカには、このナイフで護堂をどうこういようというつもりはない。・・・だが、彼女も正気を失いかけているので、実際にこのあとどういう対応をしたかは分からない。もしかしたら、本当に最悪の事態に陥っていたかもしれない。
狂気には二種類ある。
自覚出来る狂気と、自覚出来ない狂気である。
自分が狂った行動をしていると自覚出来るものと、自分自身は普段と同じ行動を取っていると思っているのに、実際は狂気の沙汰としか思えない行動をしている物だ。
まつろわぬナイアーラトテップの権能が齎す狂気とは、後者の自分自身では全く自覚出来ない類の狂気である。
「クソ!何なんだよ一体!ルクレチア・ゾラっていう人だよ!四十年以上前に、その人が日本にこの石版を置いていったんだ!なんでも、祟りがあるとかいう村で、それを鎮める為に使ったとか・・・。それを届けに来たんだよ!」
もうヤケクソである。
「ルクレチア・ゾラ・・・!?あのルクレチア・ゾラが、その石版を置いていったの!?」
流石に驚くエリカ。それ程、ルクレチアという名前は有名だ。
天の位を極めた魔女である『プリンセス・アリス』とは対極に、地の位を極めた魔女である『ルクレチア・ゾラ』。
『サルデーニャの魔女』、『イタリア最高の魔女』とも呼ばれる彼女の名前は、魔術関係者ならば知らない者はいないほどに有名である。その魔女が、日本に神器を置いていったというのだ。
「神器よ・・・?世界でも殆ど発見されていない神器なのよ?それも、能力は特上。死にかけていた貴方を、一瞬で治す程の力を持っているのよ?・・・それを、日本に置いてきたっていうの・・・!?」
魔術師の常識として、有り得ない事を言われたエリカは困惑した。もしかすれば、彼女はこの神器に選ばれなかったのかも知れないが、とはいえ歴史的価値は計り知れない代物である。魔術関係者としては、神器を所有しているというだけで泊がつくのだから、それを置いてきたという言葉がどうしても信じられなかった。
「魔女として、高みに座っている彼女だからこそ、【魔界】に神器をポンと置いて来るなんて事が出来るのかもしれないけど・・・・・・気前が良すぎるわね・・・。」
正直、自分との大きな違いを見せつけられたようで落ち込むエリカ。もし彼女が、四十年前のルクレチア・ゾラの立場なら、必要だったからと言って、神器を置いて来るなんて事が出来るだろうか?と考えて、即座に出来ないという答えが返ってきてしまったからだ。
途轍もない程のお嬢様で、セレブな生活をしている彼女ですら、そんな事は出来ない。それ程神器というものは貴重で強力なのだ。
「・・・魔女?何でお前が、その人の大学時代のあだ名を知ってるんだ?」
護堂のその言葉に、エリカは呆れたような目を向ける。
「あだ名?馬鹿言わないで頂戴。彼女は、正真正銘、地の位を極めた最高レベルの魔女よ。彼女と同等の魔女なんて、それこそ世界でも数人いるかいないか。魔術業界では、常識レベルの問題よ?」
「は・・・?ま、魔術?魔女?・・・・・・何言ってるんだ・・・?」
「貴方も見たでしょう?体験したでしょう?私の手に突然出現した剣。なんの前触れもなく、唐突に起こった爆発。あれらは全て、神秘により起こった現象よ。」
そう言いながら、エリカは病室に飾ってある花を一本掴むと、小さな声で呪文を呟く。
「な・・・・・・!」
その瞬間、花は見る見るうちに蕾になり、縮んでいき、最後には種に戻った。まるで、ビデオを高速で逆再生しているかのような光景。護堂は、今見たものが信じられずに見つめている。
「これが魔術。光が有れば影が出来るように、世界の裏側に存在する法則。これを使用する者たちを魔術師と呼び、その中でも特別な才能を持つ者を魔女と呼ぶの。貴方の探しているルクレチア・ゾラは、その魔女の中でも最高峰の一人よ。」
花を花瓶に戻し、もう一度呪文を呟く。すると、種まで戻った筈の花が、急成長していく。マジックというには奇怪すぎるこの光景を魅せられて、護堂は溜息を吐いた。
「・・・別に、世の中の全てを知っているなんて言うつもりは無かったけど・・・俺の知らない事なんて、まだまだ転がっているんだな。」
「そうよ。・・・まぁ、一般人が偶発的に魔術に関わる、考えられる状況の中で、貴方は最悪のルートに突っ込んでいるからね。同情はしてあげるわ。何処かのカルト教団に拉致されて、儀式の生贄になるくらいにはヤバイ事柄に、ね。」
「は?・・・俺は、一体何に巻き込まれたんだ・・・!?」
拉致されて生贄になるのと同じくらいヤバイって、一体どういう状況なんだと問い詰める護堂。因みに、今の護堂の脳裏では、インディーでジョーンズな、世界的に有名すぎる映画の一部分が上映されていた。その映画では、カルトの生贄となった哀れな人間は、心臓を抜き取られて溶岩に突き落とされるのだ。
♪テ~レレッテ~テッレレ~♪
「まつろわぬ神。私たちはそう呼んでいるわ。本当に宗教的な意味での『神』かどうかは、私たちにも分からないのだけど・・・。」
―――少女説明中―――
エリカは、まつろわぬ神についての、大まかな情報を護堂に話した。
「・・・つまり、何だ?意思を持った災害が、世界各地で好きに暴れまわるってことか?」
「ただの災害なら、どれだけいいか。結構頻繁に現れるのよ彼らは。そして、好きな時に好きなだけ、好きな場所で暴れるの。地形やその地域の天候が変わるなんて普通だし、そこの生物が全滅したりというのも珍しくないわ。人なんてゴミか石ころ程度にしか思っていないから、踏み潰すのにも罪悪感なんて感じないしね。彼らに会った者は、例外を除いて、全員悲惨な運命を辿るわよ。」
「・・・なんだそりゃぁ・・・タチが悪いにもほどがあるぞ・・・。ん?例外を除いてってどう言う意味だ?」
「私と貴方も、その例外でしょう?まつろわぬ神と遭遇して、五体満足で生還したっていうのが既に奇跡なのよ。更に、この奇跡をあと五回も六回も繰り返して、神を虐殺した【魔王様】たちも例外の一つね。」
「ま、魔王!?神様を殺せるような奴らが、この世界には居るのかよ!?」
その言葉に、瞳に危険な光を纏わせて護堂を見つめるエリカ。
「な、何だよ?」
「そう、歴史上でも、数える程しか存在しない、伝説中の伝説。現代でも、【魔王】・・・つまり、神を殺し、神の権能を奪う事に成功したチャンピオンは、世界にたったの六人しか居なかったの。・・・・・・今までは、ね。」
「い、今までは・・・?」
「そう、今までは。だけど、つい数ヶ月前その常識は覆った。・・・貴方の国に、四人のカンピオーネが同時に誕生したのよ。」
「・・・は、はぁ!?」
「貴方も知っているでしょう?世界中で、死人が復活した事件。私たち魔術側でも政治側でも、事が大きすぎて隠す事すら出来なかったあの奇跡。イエス・キリストですら自分を生き返らせただけなのに、彼女は世界中の人間と魔人、そして神を生き返らせた。・・・今、世界の裏側の住人には、日本は【魔界】と呼ばれて恐れられているわ。」
「マジかよ・・・。確かに、あの事件は騒ぎが大きかったよな。俺の親戚にも、生き返った爺さんがいるんだよ。それを、日本人が起こしたのか・・・。」
その言葉を聞いて、更にエリカの瞳は暗くなる。
「そうよ・・・。合計十人ものカンピオーネが世界に揃ったの。・・・そのせいで、実はカンピオーネになるのは難しくないんじゃないか~何て勘違いをする馬鹿が増えてね。自分も伝説の仲間入りをしようとして行動を起こす連中が増えてしまったのよ。・・・具体的には、自分たちでまつろわぬ神を招来しようとするのね。」
「・・・・・・そいつら、何考えてるんだよ?あんな化物を、自分たちで呼び込むっていうのか!?」
まつろわぬ神が出てきた時、既に護堂の意識は無かったが、それでも心の奥には彼らへの恐怖が刻み込まれている。絶対の死。彼らがその気になれば、自分たちなど虫を殺す位簡単に潰す事が出来るのだと、素人の護堂ですら嫌というほど理解したのに、玄人の魔術師が分かっていないというのだ。
「多分、今回もその類だと思った訳よ。あの炎の女神が出現した場所では、必ずあの銀髪の女の子が確認されていたしね。・・・・・・って、アラ?」
そこまで話した時、エリカは大事な事を思い出した。
「・・・・・・あの子、何処に行ったの?」
自分と一緒に病院に来た所までは覚えている。だが、その後、全く見た覚えがないのだ。
「ゴメン、ちょっと席を外すわ。」
【赤銅黒十字】の仲間が彼女を見張っている筈だと思い、聞きに行こうとしたのだが・・・
『その必要はないよ。あの方の行方は、私が知っている。』
突然、病室の中に、美しい女性の声が響いた。
「「!!」」
護堂とエリカは、何時でも行動出来るように、一瞬で態勢を整えた。
『そう警戒しなくてもいい・・・。何せ、私にはもう、どうすることも出来ないのだから、ね・・・。』
その声は、窓から聞こえてきていた。
「・・・猫・・・?」
「使い魔ね?」
元の毛並みは、さぞ美しかっただろう。だが、今は見る影もない。その猫の体は、既にボロボロであった。体中から血を吹き出し、片目は潰れている。死に体の使い魔であった。
「ど、どうしたんだよ!?」
『呪力も全く残っていない私では、あの神の権能に逆らう事が出来ないのだよ・・・。長年を連れ添ったこの使い魔も、狂気に犯されて自傷行為を繰り返し・・・斯く言う私も、同じような体だ。この身が狂気に犯されているのは理解しているが、それでも傷付ける事を止めることが出来ない・・・。恐ろしいね、この権能は。』
何が起こっているのか全く分からない二人に構わず、話し続ける黒猫。
『霊視が成功したのだよ。この事態をどうにか出来る可能性のある人間の。・・・それが、君だ草薙護堂。』
「お・・・俺が?」
『あの神に寵愛され、世界で唯一、あの権能の効果を全く受け付けない人間。どうか、貴方の力を、貸して欲しい。』
黒猫は、お辞儀をするかのように頭を下げた。
『まつろわぬナイアーラトテップを、救ってはもらえないだろうか?』
後書き
毎度のごとく、タイトルは適当です。
>光が有れば影が(ry
一度は書いて見たかった台詞。ちょっとカッコイイよね
>―――少女説明中―――
これも一度は(ry
っていうか、ルクレチアさんがマジチート。ニャル子さんの覚醒に立ち会ったとは言え、本来『自覚出来ない狂気を齎す』権能の筈なのに、完全に自覚してる。まぁ、レジスト出来る訳じゃないんだけど。
後、ニャル子さんの権能の効果を受けないのは、世界で護堂さんただ一人です。これは、彼の神器が奪った権能が関係してます。実は、ドニもちゃんと影響を受けてますよ?ただ、元から『剣に対して狂っている』のを加速させた状態になっているだけです。ほかのカンピオーネでも、この権能の効果を受けます。
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