とある星の力を使いし者
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第61話
お互いの距離はおよそ三メートル。
三人の生徒は麻生がやってきた所を見て笑みを浮かべる。
「逃げずにやってきたことに関しては褒めて差し上げますわ。」
ものすごく上から目線で言ってくる。
しかし、麻生は気にすることなく呑気に欠伸をしている。
それを見た生徒は少し苛立った口調で言う。
「呑気に欠伸とは、余裕ですわね。
それとも、もう諦めているのですか?」
「そんな訳ないだろう。」
麻生の言葉を聞いて生徒達はえ、と言葉を洩らす。
「お前達がどう足掻こうと俺には勝てない。
勝利が決まっているのにどうして諦める必要があるんだ?」
麻生の勝利宣言を聞いた生徒は一気に頭に血が上る。
「無能力者風情がよく吼える事ですわ!!
では、始めますわよ!!
本当なら無様に土下座でもしたら見逃そうと考えていましたが、その必要はないようですわね!!」
その言葉と同時に両手を地面に叩きつける。
その瞬間、麻生の周りの天然芝、正確には天然芝が生えている地面が盛り上がり麻生を包み込んでいく。
瞬く間に麻生の周りに地面の檻が完成する。
「わたくしの能力は両手で触れた物質を制御する事できますの。
制御と言っても質量などの増やす事は出来ません、あくまでその無機物が持つ質量などの量の数だけ変形したりする事が出来ます。
制御範囲は狭いですし、直接触れていないと操る事は出来ませんが、今のように地面などを使えば簡単に檻を作る事が出来ますのよ。」
自分の能力を自慢げに語る。
そして、ある事に気づき笑みを浮かべる。
「檻に閉じ込められているのでわたくしの声は聞こえませんでしたわね。
どうやら、わたくし一人で充分だったようですわね。」
観客である常盤台の生徒達ももう勝負はついたな、と思った。
婚后達もやはり駄目だった、と思っている。
所詮は無能力者、勝てる訳がなかったのだと。
だが、御坂美琴はそう思っていない。
彼女は知っている。
麻生恭介という男はとんでもない段違いの能力を持っている事に。
しかし、一向に地面の檻に変化はない。
「ちょっと、何やってるのよ!!
そんな檻くらいあんたなら難なく壊せるでしょう!!!」
たまらず声をあげる、美琴。
その言葉に周りの生徒は何を言っているのだと、首を傾げた。
「御坂さん、何をおっしゃっているのですか?
彼は無能力者。
能力が使えない彼では檻を破壊する事など出来る訳が「うるさいな。」・・・え?」
確かに聞こえた。
檻の中からその男の声が。
次の瞬間、土の檻が内側から爆発した。
粉塵が巻き上がるが、一人の生徒の能力である風力使い(エアロシューター)で土煙を吹き飛ばす。
そこに麻生恭介が立っていた。
「どう倒すかを考えていたのにお前の声で全然考えられなかったぞ。」
あまつさえ、麻生は美琴に喋りかけている。
「何で私の言葉だけに反応するのよ!!
他の人の声も聞こえていたでしょう!!」
「お前の声が一番耳に響いたんだよ。」
その言葉にぶちっ、ときたのか電撃の槍を麻生に向けて放つ。
誰もが危ない、と思ったが麻生は右手を電撃の槍に突き出す。
電撃の槍は麻生の右手にぶつかるとそのまま凄まじい音を発しながら拡散していき、最後には消えてなくなった。
その光景に美琴を除く教師達含めた全員が言葉が出ないようだ。
麻生はため息を吐いて言う。
「お前、今がどんな状況なのか分かっててやっているのか?」
「わ、分かっているわよ!!
ほら、だらだらやっていないでシャッキとする!!」
「誰のせいだ、誰の。」
美琴には聞こえない声で呟く。
そして、ようやく三人の生徒達に向き合う。
三人の生徒の表情は困惑と驚きが混ざったような表情だった。
それもその筈、美琴の電撃の槍を簡単に防ぎ、土の檻を破壊した所を見た限り、麻生は無能力者ではない。
レベル4であってもおかしくはない。
「あなた、何者ですか。
御坂さんの攻撃を防いだといい、無能力者ではありませんわね。」
「俺はただの一般人Aだ。」
その言葉と同時に麻生は三人の生徒に接近する。
「「「ッ!?」」」
麻生がただの無能力者ではない事が分かった三人は手加減なしで応戦する。
三人目の能力は念動系能力で、衝撃波を生み出す事が出来る。
人間の身体はほとんどが水分を含んでおり、衝撃波がとても伝わりやすい。
加えて、空気中にも水素が含んでいるのでそれを伝っていけば遠距離から攻撃する事もできる。
それを利用して接近してくる麻生に衝撃波を放つ。
衝撃波に気づいた麻生は両手をクロスさせて防御の体制を作るが、腕にも水分を含んでいるので防御の意味がなくそのまま後ろに弾き飛ばされる。
弾き飛ばされるも何とか受け身を取った瞬間、麻生が立っている地面が盛り上がり、土の棒が襲いかかる。
それをかわすが、直後に風を圧縮した塊が飛んできてかわす事が出来ずにそのままみぞにぶつかり、後ろに数メートル吹き飛ぶ。
(自身の能力をうまく使い、かつ周りとの相性も連携も抜群。
適当に相手をするつもりはなかったみたいだな。)
麻生は能力を使う事なく勝負を決めようと考えていた。
だが、彼女らの勝負に対する本気を見て少しだけ本気で戦うと考え直す。
「やるな、正直ここまでやるとは思ってもみなかったよ。」
みぞを押えながらもゆっくりと立ち上がる。
「降参するなら今の内ですわよ。
これ以上戦うのならもっと痛い目に遭いますわよ?」
「残念だが引く訳にはいかないんでね。
こっちも少しだけ本気を出すよ。」
腰を落とすと十メートルあった距離を一気に詰めていく。
能力で地面を蹴るベクトルを変化させたのだ。
いきなりのスピードの変化に三人は驚くがすぐに対処する。
幾ら早くてもこちらに真っ直ぐ向かってくるのだから、衝撃波で迎撃しようと衝撃波を放つ。
だが、衝撃波を放っても途中で拡散してしまい麻生には届かないのだ。
他の二人は衝撃波が原因不明だが発動できないと分かると、風力使いで風を圧縮した塊を幾つも作りそのまま麻生に向かって放ち、もう一人の生徒は土の棒を何本も作りだし、そのまま麻生に向かって繰り出す。
直後、ピーッという音と同時に風の塊も麻生にぶつかる前に消えてなくなった。
残るは土の棒だけだが、麻生は自身の拳で土の棒を全て破壊していく。
これもベクトル操作によって衝撃を何倍にも増やしているのだ。
彼女の制御には色々欠点がある。
子供用のスプーンがあって、それを手に取ればスプーンをフォークに変形させる事は出来るし、ナイフにも変形させる事は出来る。
だが、長さや重さは変形させる事は出来ない。
つまり、地面などの莫大な面積や質量をもつ物を操り檻や土の棒を作る事は出来ても、生えている天然芝を長くして鞭のように攻撃する事が出来ないのだ。
そして自分の周りに両手で触れる事ができ、かつ攻撃が出来るのは地面のみ。
だが、檻や土の棒はいとも簡単に防がれてしまった。
他の二人も原因は分からないが能力を防がれている。
気付けば麻生は自分の眼の前に立っていた。
自分達は本気で麻生を攻撃したのだからそれに見合う反撃も予想される。
三人は完全に自分達の攻撃を防がれ、戦意を喪失していた。
寄り添い肩を震わせ、目には涙が溜まっている。
麻生は左手を振り上げ、一気に振り下ろす。
三人は一斉に目を瞑るが、次に来た衝撃はバチーン!!、という凄く爽快な音が響き頭に痛みを覚える。
三人は目を開けると、麻生の手にハリセンを手にしていた。
「俺の勝ちだな。」
「「「へ?」」」
麻生の言葉に彼女達は思わず声を洩らす。
「お前達は能力を完全に防がれ、戦意を喪失、さらに俺にハリセンで一発ずつ殴られたんだ。
勝負はついたと思うんだが。」
自分の身体をよく見ると、腰の抜かしたのか地面に座り込んでいた。
これは傍か見ても勝負はどちらが勝ったか言うまでもない。
「そこまで!!
この勝負は麻生恭介さんの勝ちです!!」
教師の声が聞こえると麻生はふぅ~、と息を吐いてその場から立ち去ろうとする。
「お、お待ちになって!!
わたくし達の能力を防いだのはあなたなのでしょう?
どうやって防いだのですか!!」
それを聞くと面倒くさそうな顔をしながら振り返り説明を始める。
「まず、衝撃波の方だけどあれは空気中の水素を利用して、俺に衝撃が伝わるようになっている事は分かった。
それなら俺に衝撃波が伝わる道筋を予測して、衝撃が伝わらないように空気中に含まれている水素原子を数秒間消滅させた。
風の塊はジャミング音を利用して演算式を乱しただけ。
土の棒はベクトル操作で破壊。
これで満足か?」
説明を聞いて余計に麻生の能力が何なのか分からなくなってきた。
基本的に能力は一人一つだ。
だが、麻生の話が本当なら能力を最低でも三つは持っている事になる。
「あなたは本当に何者なのですか?」
「言った筈だ。
ただの一般人Aだ、ってな。」
説明を終えると麻生は校舎の方へと歩いていく。
いつの間にか手に持っていたハリセンもどこかに消えていた。
「負けましたわね。」
一人の生徒が呟いた。
「ええ、能力は分かりませんでしたが完敗ですわね。
勝負は勝負、認めざるを得ないといけませんわね。」
普通なら負けた事に腹を立てるかもしれない。
今はそれほど腹が立っていない。
まだ分からない事はたくさんあるが、彼女達の表情はとても穏やかな表情だった。
「あの麻生恭介という男、何者でしょうか?」
一部始終を見ていた食蜂操祈の取り巻きが操祈に話しかける。
「さぁね、でも余計に興味が湧いちゃったぞぉ♪」
そう言う操祈の表情は新しいおもちゃを見つけた子供の様だった。
「女王、注意してください。
彼の能力はどんなものなのか全く分かりませんので。」
「大丈夫大丈夫♪
私の能力があれば簡単に分かる事だから。」
「理事長、見ましたか?」
理事長と教師達が集まって話し合っていた。
「ええ、彼の能力はとても興味深いものばかりでした。
しかし、どれもうまく説明する事は出来ませんね。」
そう言う理事長の表情は困ったような顔ではなかった。
「この事は上に報告するのですか?」
「報告をするにしてもどう報告書を書けばいいのか全く分かりません。
ですので、この件については保留にしましょう。」
麻生と美琴が話している所を見つめながら、理事長は小さく笑いながら言うのだった。
後書き
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