| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

久遠の神話

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四十二話 表と裏その七

「戦いますので」
「お互い頑張ろうな」
「中田さんは嫌いじゃないですけれど」
「俺だってだよ。君好きだぜ」
「僕を」
「裏表がないし真面目だしな」
 上城の性格もよく知っていた。これまでの付き合いで。
「今時珍しい若者ってやつだな」
「いえ、僕はそんな」
「自分でそう言うところがなんだよ」
 余計にだというのだ。
「いいんだよ。だから好きなんだよ」
「そうですね。私も上城君は立派な青年だと思います」
 大石もここで言う。傍らにいる上城を見ながら。
「非常に心が奇麗な方です」
「だろ?あんたもいい人だね」
「私もですか」
「俺みたいな奴よりずっといい人達さ」
「私の見たところ貴方も」
 大石も多いしで中田を見て言う。
「悪い人ではない、むしろ」
「ああ、俺はな」
 どうかとだ。笑って言う中田だった。
「色々あって心が穢れてるからな」
「穢れていますか」
「俺みたいな奴は反面教師の模範生さ」
 その今時珍しい生真面目で純真な上城と比べてだ。自分はそうだというのだ。
「本当に全然違うさ」
「そうか」
「そうさ。それでな」
「それで?」
「今はこれで帰るからな」
 中田はそうすると言うのだった。
「また今度な」
「そしてその時に」
「戦おうな」
 そうしようというのだ。
「死なない様に頑張ってくれよ」
「わかりました」
 上城も今はこう言うしかなかった。そのうえで。
 その場を後にする中田の背を見送った。中田は空を飛び消えていった。
 その彼を見送ってからだ。大石が上城に言ってきた。
「彼ですが」
「中田さんですか」
「はい、悪い方ではないですね」
「神父さんもそう思われますか」
「何処か斜に構えたところがありますが」
 だがそれでもだというのだ。
「根は非常にいい方ですね」
「気さくで面倒見がいい方です」
 上城は中田をこう評価して話した。
「とても」
「そうですね。優しいものを感じます」
「ですが」
 それでもだというのだった。
 上城は俯いた顔になりそのうえでこう大石に述べた。
「どうしてなんでしょうか」
「戦いを選んでいることですか」
「僕にはそれがどうしてもわからないんです」 
 首を捻ったうえでの故での言葉だった。
「どうしても」
「そうですね。それは私もです」
「神父さんもですか」
「おそらく。彼は本当に戦いを望まれてはいません」
 それがわかるというのだ。彼もまた。
「平和を愛する方ですね」
「それがええと」
「加藤さんですね」
「あの方とは違いますね」
「はい、けれど」
「戦いを好まない方が戦うことを選ぶ」
 大石は今度はこの現実を指摘した。今の中田のことに他ならない。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧