DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 導く光の物語
5-21合流
「お泊まりですね!手配します!」
「よろしくお願いします」
必要事項を確認して立ち去るホフマンに続き、部屋を出ようとしたマーニャ、ミネア、トルネコ、少女の前に、ひとりの詩人が立ち塞がる。
「お待ちください!」
「あ?なんだ?」
「悪いとは思ったのですが、立ち聞きしてしまいました!実は」
「ああ?聞いてたんならわかるだろうが。病人がいるんだよ。とりあえず、退け」
「す、すみません!しかし」
「話なら、外でお聞きしますから。ともかく、この場を離れましょう」
「は、はい!」
詩人を連れて出て行く四人に、アリーナも続く。
「俺がここにいても、邪魔なだけだからな。面白そうだし、俺も行こう」
「アリーナ様が邪魔などと、そのようなことは」
「王子……。面白そうだなどと、そこは隠すところですぞ」
「城でもあるまいし、固いことを言うな。行ってくる」
アリーナと詩人を加え六人になった一行は、宿の休憩所に陣取る。
詩人が少女に向かい、興奮気味に口を開く。
「あなた様が、世界を救う勇者様だったとは!お会いできて、光栄です!いつか、あなた様が世界を救った暁には!あなた様を讃える詩を歌うことを、お許しください!」
少女は、硬い表情で詩人を見つめる。
マーニャが眉間に皺を刻み、ミネアが冷気を発し、トルネコが表情を曇らせ、アリーナは一行の様子を観察する。
詩人が、怪訝な顔をする。
「あの。勇者様?」
「お話は。それだけ、ですか?」
「い、いえ、とんでもない。以前、この宿に泊まったライアンという者が、勇者様を探していたのです。確かライアン殿は、遥か西の国、キングレオに行くと申しておりました……。」
「勇者を、探してる、人。ライアン、さん。」
「そうなのです!あのライアン殿と勇者様が並び立ち戦われる様は、さぞや壮観でありましょう!ですから、ぜひ」
「ライアンさまというと、バトランドの戦士さまかしら?」
言い募ろうとする詩人を、トルネコが遮る。
「は、はい。そう言っていました。」
「ミネアさん、前にお話ししたでしょう。ユウちゃんを探していた戦士さま、お名前をライアンさまと言ったのよ。」
「そうですか。向かわれた場所といい、運命を感じますね。追いかけてみるべきでしょうね」
アリーナも口を挟む。
「バトランドのライアン殿なら、俺も会ったな。かなりの手練れのようだった。仲間に加わるなら、相当な戦力になるだろう」
「王子様がそう仰るなら、期待できますね」
「おい、兄ちゃん。話は聞いたぜ、もういいだろ?」
「情報を、ありがとうございました。あとは、仲間うちで話し合いますから。」
「お手数かけましたわね。あとは、あたしたちにおまかせになって。」
まだ何か言いたげな詩人を、仲間たちが追い立て、追い払う。
入れ替わるように、ホフマンがやってくる。
「お部屋の準備ができました!……みなさん?なにか怖いですけど、どうかされました?」
「ああ、ホフマンさん。ありがとうございます。なんでもないんですよ」
「そうですか。では、お部屋にご案内しますね!」
ホフマンに案内され、それぞれ部屋に入る。
アリーナが、兄弟の部屋について行く。
「少し、いいか?」
「王子様。はい、どうぞ」
「なんだ?王子様」
「アリーナでいい。邪魔するぞ」
部屋に入る。
「王子様を呼び捨てとか、ばあさんが怒りそうだな」
「ブライもあれで融通が利くところはあるからな。大丈夫だろう」
「なら、神官の姉ちゃんが怒りそうだな」
「クリフトは……俺から言っておくから、大丈夫だ」
「おし。アリーナ、なんの用だ?」
「切り替え早いね……。では、私もアリーナと呼ばせていただきますね」
「ああ。ふたりは、マーニャとミネア、だったな。ユウ嬢は、勇者と呼ばれるのが嫌なのか?勇者であることが、嫌なのか?本人に聞いていいものなら、そうするが」
「嬢ちゃん本人にか。ミネア、どう思う?」
「そうですね。今まで仲間になった方、ホフマンさんとトルネコさんには、それと兄さんにも、私から話していたのですが。少し時間が経って、気持ちと考えの整理もついてきたところでしょうし、アリーナとは歳も近いし。直接聞いてもらって、自分の口から話させるのも、いいかもしれませんね」
「わかった。それなら、直接聞こう。ところで、マーニャは洞窟の中では見なかったが。来ていなかったのか?」
「馬車があるし、ぞろぞろ行っても動き辛えだけだからな。馬車で留守番してたんだよ」
「そう言えば。兄さん、なんであんな派手なことしてたんだ。馬車とパトリシアを巻き込むかもしれなかったし、手に負えないほど魔物が集まってくる可能性だってあっただろう」
思い出して追及を始めるミネアに、アリーナが問う。
「何の話だ?」
「洞窟を出て馬車に戻ったら、馬車の周りが死屍累々で……」
「それは、楽しそうだな!」
「アリーナ……」
「違うのか」
「違います。で、兄さん」
「あー、あれな。姐御の追っ手がな」
「また来たのか」
「ああ。また間抜けな奴だったから、放っといても大したこたあ無かったろうがな。雑魚を引き連れて来やがって。洞窟に突っ込まれたら、邪魔になりそうだったんでな。突っ込まれる前に、全部吹っ飛ばした」
「そうだったのか。なら、仕方ないね。動き辛い洞窟だったから、助かったよ」
「やり過ぎて集まってきたのも本当だがな」
「兄さん……。気を付けてくれよ」
「悪かったよ」
「姐御とは、トルネコ殿のことだな。魔物に追われているという話だったか。そうか……来るのか」
「弱えぞ」
「そうか。残念だ」
「アリーナ……。それはどうかと」
「そうだな。すまない」
話を終えたアリーナは一旦兄弟と別れて部屋に戻り、改めて夕食の席で一行が顔を揃える。
病み上がりのクリフトの姿もあり、トルネコが気遣って声をかける。
「あら、クリフトさん。大丈夫ですの?」
「はい。パデキアがよく効いて、少し休んだら随分楽になりました。自己紹介とお話が終わったら、先に下がらせていただこうかと思っております」
「そうね。お顔の色は、ずいぶんよくなったみたいですわね。くれぐれも、ご無理はなさらないでね。」
「はい。ありがとうございます」
「では、まずは自己紹介といきますかの。わしから紹介しても、いいですが。やはり、各人で名乗っていただいたほうが、いいですかの」
「そうですね。そのほうが、覚えていただきやすいでしょうから。そちらのお名前はわかっているので、まずは私たちからですね」
双方を知るブライが話を仕切り、ミネアが失礼にならないよう、かといって遜り過ぎないよう、話を誘導する。
王族に先に名乗らせないミネアの気遣いを察したブライが、話に乗る。
「うむ。お願いできますかの」
「では、私から。占い師のミネアです。兄のマーニャと共に、父の仇バルザックを討つため、旅をしています。バルザックの背後にいるのが、デスピサロであるようで。この辺りは、次の目的地とも関係するので、後で詳しくお話しします。回復魔法が使えるので、本職ではありませんが、役割としてはクリフトさんに近いものになるでしょうか。どうぞよろしくお願いします」
名前の挙がったクリフトが応じる。
「ミネアさんたちは、随分旅慣れておられるようですね。私は王子のお供をするまで、あまり外に出ることはありませんでしたので、その辺りのご相談が出来るのも、分担が出来るのも心強いですわ。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「私は、ほとんど独学ですので。きちんと学ばれた方のお話を聞けるのは、ありがたいですね。お身体が回復したら、お話を聞かせてください」
「ええ、ぜひ」
「次はオレだな。名前はマーニャ、芸人だ。事情は、ミネアが言った通りだな。独学で魔法を使うのも、同じだ。使うのは、攻撃魔法だが。ばあさんはヒャドを使うって話だが、オレが使うのはメラ、ギラ、イオだ。よろしくな」
これには、ブライが応じる。
「ふむ。独学であそこまでの使い手になるとは。やはり、得難い才じゃの。上級の魔法も、覚えてみる気はあるかの?」
「なんだ?教えてくれんのか?」
「条件はあるがの。マーニャ殿は、補助魔法は好まぬと聞くが。これからは、わしらとも同行する仲間となるのじゃ。自身が必要を感じずとも、全体の視点で見れば、必要となることもあるでな。補助の魔法も、覚えることが条件じゃ」
「必要なら、一応覚えてるんだがな。必要と思わねえと、頭に入らねえんだよな」
「ふむ。ならば、必要と思わせれば良いのじゃな」
「そういうこったな」
「ならば問題無いの。色々と覚えてもらうゆえ、覚悟なされよ」
「なんだよ、ばあさん。熱血かよ」
げんなりした顔をするマーニャを、アリーナとクリフトが励ます。
「随分と気に入られたようだな。まあ、頑張ってくれ」
「ブライ様は、才能ある方をお育てになるのがお好きなのです。決して無理難題は仰りませんし、その気にさせるのもお上手ですから。大丈夫ですわ」
「なんだ、アリーナはともかく、神官の姉ちゃんまで。知った風だな。畑が違うんじゃねえのか?」
「ブライ様の知識は、広範に渡りますから。お使いにはなれませんが、神職の魔法についても、知識だけなら神官長様をも凌ぐと言われるほどですわ。私も、ご指導頂いています」
ミネアも話に加わる。
「そうなのですか。それはぜひとも、ご指導賜りたいですね」
「ふむ。向学心溢れる若者を教え導くのも、老人の愉しみでの。利のあることでもあるし、断る理由は無いのう」
「では、よろしくお願いします」
「うむ」
少女も遠慮がちに言う。
「みんな、お勉強するのね。おばあちゃん、わたしにも、教えてくれる?」
ブライが相好を崩す。
「おお、おお。勿論じゃて。ユウちゃんも、幼いのに感心じゃのう」
クリフトとアリーナが驚愕する。
「ブライ様が……!あのようなお顔は、初めて見ました……!」
「何か、悪い物でも食べたか。パデキアは、もう無いのか?」
「失敬な。素直で可愛い子供を前にすれば、こうなるのも当然でありましょう。王子も昔は素直であられましたのに、何がどうしてそのような」
「わかった、わかった。今はそんな場合では無いだろう、またにしてくれ」
「あらあら、まあまあ。ブライさんも王子様も、大変ですのねえ。では、次はあたしですわね。」
トルネコが、仲裁も兼ねて割り込む。
「エンドールの武器屋の妻、トルネコですわ。世界を救うのに必要だという、伝説の武器……天空の剣とか、言ったかしら?それを探して、旅をしていますの。情報が少なくてはっきりしないのですけれど、そのデスピサロというのを倒すのにも、きっと必要になるのじゃないかしら。あたしはみなさんと違って、ただの主婦なんですけれど。昔は商人をしていたので、どうもその特技が使えるようですわね。もちろん、鑑定もできますわ。戦いでは、力と体力だけが取り柄なので、盾にはなれますわね。洞窟を繋いだことで、魔物に恨まれているようで、そのせいでご迷惑おかけするかもしれませんけれど。どうぞ、よろしくお願いしますわ。」
アリーナが、話を蒸し返される前にと応じる。
「トルネコ殿が洞窟を繋いでくれたお蔭で、ここまで旅をして来られたのだ。追っ手の撃退には、もちろん協力しよう。よろしく頼む」
「まあまあ。王子様にそう言っていただけるなんて、心強いですわ。」
「王子。追っ手の魔物と戦いたいだけではないのですかな」
「正直、それもあるな」
「正直が過ぎますぞ」
「まあまあ。楽しんでいただけるなら、あたしも気が楽になりますわ。さ、次はユウちゃんね。」
また揉め出す前にと、トルネコが少女に話を振る。
「うん。わたしは、ユウ……です。クリフトさんが知っていたけど、故郷の村が、デスピサロに滅ぼされて。みんなの仇を討つために、旅を、してます。デスピサロを、探すのもだけど。倒すには、わたしはまだ弱いから。強くなるためにも、旅をして、います。いつもは、剣で戦って、ます。魔法も、使えます。よろしく、お願い、します。」
思い出したように言葉を改めた少女に、ブライが言う。
「ユウちゃん。いつも通りに話して良いんじゃよ」
「でも。王子様はえらい人だから、ちゃんと話さないとだめって、習い、ました。」
「それは、公の場ならばそうして貰わねばならぬがの。今は仲間うちじゃから、良いのじゃ。王子もそのほうが、喜ばれようて」
「そうだな。敬語は要らないし、呼び方もアリーナでいい。差し支え無ければ、俺もユウと呼ばせてもらいたいが、いいか?」
「はい……うん。でも、おばあちゃんもクリフトさんも、王子とか、アリーナ様って呼んでるのに。いいの?」
「ブライとクリフトは、我がサントハイムの家臣だからな。だが、ユウや他のみんなは、仲間だ。出来るだけ、対等に扱ってもらいたい」
「そうなの。うん、わかった。よろしくね、アリーナ。」
「ああ、よろしくな!」
「では、私のことも呼び捨てで、クリフトとお呼びくださいね。私は、呼び捨てにするというのは慣れませんので、ユウさんと呼ばせて頂きますが」
「……クリフトさんのほうが、年上なのに。それで、いいの?」
「はい。ユウさんがよろしければ、それで」
「……うん、わかった。よろしくね、クリフト。」
「神官だの、姉ちゃんだのってのもしっくり来ねえな。オレも、呼び捨てにさせてもらうぜ。よろしくな、クリフト」
「はい。よろしくお願いいたします」
「ところで、ユウは剣で戦うと言ったな。鍛練はしているのか?」
「うん。朝早く起きて、旅に出る前に、走り込みと素振りをしてるの。ホフマンさんがいたときは、打ち合いをしたこともある」
「そうか!それなら、明日から一緒にしても良いか?できれば軽く、手合わせもしたいな!」
「うん。ひとりでするより、勉強になるものね」
「そうだな!時々、クリフトに相手をしてもらってはいたが、どうも物足りなくてな!明日が楽しみだ!」
喜ぶアリーナに、ブライが釘を刺す。
「王子。くれぐれも、力加減を間違えませぬように」
「わかっている!クリフトのときも、間違えたことは無いだろう」
「共に旅して長いクリフトとは、条件が違いますでな。くれぐれも、怪我などさせるでありませんぞ」
「わかったよ。すっかり、孫娘を持った『おばあちゃん』だな」
「元よりばあやには違いありませぬからな」
「あんまり、手加減してもらうと。訓練に、ならない」
「ユウちゃん。王子は、常識外れに力がお強いでな。加減せねば、怪我は免れぬのじゃよ。加減を覚えられるまで、何人の兵士が犠牲になったことか」
「力加減と、手加減とは別だからな。大丈夫だ」
「あの。今さらという気もいたしますが、そろそろ私たちも自己紹介をしたほうが、宜しいですよね?」
クリフトが控え目に申し出るのに、ミネアが応じる。
「そうですね。クリフトさん、お願いします」
「はい。サントハイムの城付き神官、クリフトと申します。王子が力試しの旅に出られたときからお供をしておりまして、今は我が国の国王陛下を始めとした、行方不明になった城の者たちを探して、引き続き旅をしております。デスピサロのことなど、詳しいお話は、後にしたほうがよろしいですね。皆さん、宜しくお願いいたします」
「クリフトは、このわしが王子の供に選んだ、優秀な神官ですからの。きっと、旅のお役に立てましょうぞ。では、王子」
「ああ。サントハイムの王子、アリーナだ。魔法は使えないが、武術の腕には覚えがある。トルネコ殿のように盾になる戦い方はあまりしないが、前衛としては役に立てると思う。みんな、よろしく頼む」
「洞窟で少し見た限りでも、尋常ではない強さでしたからね。頼もしいです」
「そんなにか。前衛が厚くなるのは助かるな」
「アリーナさん。あたしも呼び捨てにしていただいて、構いませんのよ。あたしもクリフトさんと同じで、呼び捨ては慣れませんから、アリーナさんと呼ばせていただきますけれど。」
「そうか。わかった、トルネコ」
ミネアが仕切り直す。
「自己紹介はここまでですね。それでは、次の目的地と、最後の仲間のことですが」
後書き
若者と、少女。
それぞれの運命に翻弄され、立ち向かう者たち。
次回、『5-22王子と勇者』。
8/7(水)午前5:00更新。
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