IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐
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加速する誤解
前書き
迷走した結果が誤解シリーズ第3弾
「本日の合同授業からは毎回特別講師を招いて授業を行う」
いつも通り授業のためにアリーナに集合した私たちの前で織斑先生がそう言いました。周りのクラスメイトの人たちはどういうことかとヒソヒソ話していますが織斑先生の咳払い一つで一斉に静まり返ります。それにしても何故隣に控えている山田先生はそわそわしているのでしょうか。
「では来てもらうが、決して失礼のないように」
織斑先生がそう言って一度だけ手を鳴らします。
…………………あれ? 誰も来ないですね。
そう思った瞬間、織斑先生の隣からものすごい砂煙が上がりました。巻き上がる砂に思わず顔を伏せます。砂煙が収まったので顔を上げるとそこには『打鉄』と同じく鋼色一色のISが浮遊していました。ただ『打鉄』とは違い装甲には一切無駄な装飾がありません。凹凸面も少なく空気抵抗を限りなく少なく作られ、左右肩部の非固定浮遊部位ものっぺりとした一枚鉄で作られたそのISは日本の高速迎撃型IS『雷征』です。そして操縦者は、榛名舞子二尉。どうやら今まで上空にいて急降下で降りてきたようです。
しかし、何故でしょう? 榛名二尉って確か日本の航空自衛隊所属ですよね? 国の介入を受け付けないIS学園に何故日本の自衛隊の人が?
そんな疑問は他の人たちも同じのようで再びヒソヒソ話が始まります。
「知っている者もいると思うが紹介しよう。彼女は日本の国家代表、榛名舞子だ」
「特別講師として来させてもらいました。榛名舞子です。本日はよろしく」
「教官。どういうことでしょうか」
皆さんの意見を代表して、ということではないでしょうがラウラさんが挙手して織斑先生に質問をしました。
「先生、だ。IS学園は今年度より生徒の技術をより高めるためそれぞれの国の現役国家代表、または代表候補生を招いて特別授業を行うことになった。これは国際IS委員会で裁定された決定事項だ。この時間だけでこの学園の他の授業は見せない。また学園の中にも入れん」
「しかし我々の専用機を見せるようなことになるのは……」
「当然国際IS委員会の方で、ここで見たことは一切口外しないことを約束している。そして専用機を使用している者たちの希望者には今日だけ訓練機を使ってもらう。ボーデヴィッヒ、時間は有限だ。これ以上この件で時間は取らせるな」
「はっ!」
「よし、他に質問がある奴はいないな!」
ラウラさんが織斑先生の言葉に従って沈黙すると他の人も何も言えなくなってしまいます。しかしいくら約束しているからと言って流石にこの授業には無茶があるような気がしてならないのですが……
「では授業に入る! 言うまでもなく彼女は現役の国家代表IS操縦者だ。迅速に動き少しでも多くのことを学ばせてもらうように。榛名二尉、よろしくお願いします」
「分かりました。では始めさせて頂きます」
「舞ちゃんファイト!」
「麻耶、舞ちゃんは止めてくれないか」
山田先生が拳を握って激励を送っています。榛名二尉も名前で呼んだことからどうやらこのお二人は知り合いのようですね。授業は『雷征』が高速迎撃機ということもあって高速戦闘がメインのようです。実際に生徒が扱う訓練機の前を飛んで音速飛行時の注意点や特徴などを述べてくれています。
「高速で動く機体に速度で負けているときは無理に追いつこうとはせず相手の動きを読むことに集中するんだ。無理に追いかければ相手の機動に惑わされてこちらが疲労する。相手の停止、加速、旋回を読むことでこちらは極力エネルギーを使わずに追い込むことを可能とするのが最善だ」
と言った高速戦闘型の対処の仕方から、
「高速戦闘を行う場合は基本的に高速機動からの一撃離脱戦法が一般的だ。わざわざ相手の間合いに入る必要はない。近接型なら遠距離から常に距離を取りつつ射撃で、射撃型なら近接戦闘を混ぜてという形で相手を翻弄する。また相手を巻き込んで地面などに叩き付けると言った荒業もできるが相手と密着する関係上反撃の機会を与えるからあまりお勧めは出来ないな」
という高速戦闘型の応用まで幅広く教えて、生徒からの質問にも丁寧に答えてくれています。
「丁寧な教え方ですわね。感心しますわ」
「うん、基礎からだけど質問にもしっかり答えてくれるし僕は良いと思うな」
セシリアさんとシャルロットさんには好評のようです。
「ふん、心の中では何を考えているか分かったものではないがな」
「そりゃそうよ。何だって他の国の代表に見てもらわないといけないのよ全く」
でもやっぱり反対意見はあるみたいで、ラウラさんと鈴さんには酷評です。ちなみに私と一夏さん以外は全員訓練機を使用しています。セシリアさん、シャルロットさん、ラウラさんは『ラファール・リヴァイブ』。箒さんと鈴さんは『打鉄』。
箒さんは『紅椿』で参加しようとしていましたが織斑先生に止められていました。流石に第4世代で束博士お手製のISを見せるわけにはいかないということでしょう。箒さんは渋々といった様子でしたが従っていました。私は名目上公開されている『デザート・ホーク・カスタム』なわけですし、ここで隠すと怪しまれると思ってそのまま参加です。
「おいおい、アメリカのISは置いてないのかよ。遅れてるなあ」
そしてもう一人、2組に入った短い赤毛を後ろでまとめ、ブルーの瞳が目立つ女子、アメリカの代表候補生エリス・ジャクソンさん。彼女も試作第3世代の専用機『ヴァルチャー』を持っているはずですが、今は『ラファール・リヴァイブ』を纏って文句を言っています。ただ文句を言いながらも他の生徒たちと違い機体を操る腕は相当なものです。やはり代表候補生の名は伊達ではないという事ですね。
「よし、では次は模擬戦をやってみよう」
「いや、残念ながらそれは許可されていない」
榛名二尉の言葉を織斑先生が中断させます。
「指導までは許可されているが模擬戦となると生徒個人の力量を見ることが出来てしまう。故にそれは許可できない」
「ごめんね舞ちゃん、決まりだから」
「そうですか。それは仕方ありません。それから麻耶、さっきも言ったが舞ちゃんは止めてくれ」
特別講師と言っても制限は多いようで、その日はもうしばらく榛名二尉から指導を受け、織斑先生の号令で生徒全員でお礼を述べて授業が終了となりました。
「よし、ではいつもどおり訓練機を使った者は全員格納庫に戻して授業は終了だ。解散!」
『はい!』
「うげー!」
「忘れていた……」
鈴さんと箒さんが思わず絶望の声を上げますが時すでに遅し。織斑先生、山田先生は榛名二尉を送り届けるためにアリーナを去っていました。すなわち口答えは許されません。皆さん嫌々言いながらも人力でカートを押してアリーナを出ていきました。
専用機を使っていたのは私と一夏さんだけ。なんですけど……
「よ、じゃあ食堂行こうぜ」
「はあ」
何で私のことを廊下で待っているんですかもう。まあこういう人って分かっているからいいんですけど、こういうことするなら片付け手伝ってあげればいいと思うんですけどね。多分私が一人になってしまうとかそういう理由でしょう。そういうところに気が回るのは良い人なんです。何ですけどあの朴念仁振りだけは直して欲しいです。そうすれば完璧なのに……
ん、なんでしょう。目に違和感が……
少し擦ってみても痒みが収まりません。というよりひどくなってきました。こういう場合あまり擦ると逆効果なんですよね。ゴミでも入ったんでしょうか。
「ん、どうしたカルラ。目赤いぞ」
「はあ……ん、なんか痒くて。ゴミでも入ったんじゃないかと……」
「どれ、ちょっと見せてみろよ」
「すいません。お願いできますか」
私は一夏さんの方を向いて、一夏さんは私の目の部分を手で開けて見てきます。
わ、少し近いかも……一夏さんの瞳ってきれいな茶色をしているんですね。こうして改めてみるとよく分かります。
「ん……」
「あ、すまん。痛かったか?」
「いえ、ちょっと……」
「細かいゴミみたいなものが見えるぞ。多分さっきの砂埃が入ったんじゃないか?」
「ああー、そういえば……すいません。ちょっと洗ってきますね」
「おう」
榛名二尉が着陸した時に砂埃が舞い上がりましたっけ。多分あの時ですね。授業中だったから気が付かなかっただけですか。
近くのお手洗いで目を洗うと幾分かすっきりしました。後は部屋に戻って目薬をすれば大丈夫でしょう。
その後皆さんと食堂で合流しいつも通りの騒がしい食事を終わらせ、箒さんと寮に戻って就寝しました。次の日に何が待ち受けているのかも知らずに……
翌日、なぜか朝から教室の空気がおかしいです。
具体的には皆さん私と一夏さんの席を遠回しに見ています。いつもなら朝来た時に真っ先に話しかけてくるセシリアさん、ラウラさん、シャルロットさん、箒さんと言った面々が全く近寄ってこず、一番後ろのセシリアさんの席の周りでこちらを見ながら何かささやき合っているように見えます。特に箒さんは朝起きた時は普通だったのに今ではこちらを見て目で「どういうことだ!」と訴えています。何で?
「一夏さん、何かやりました?」
「さあ? 何も心当たりはないんだが……カルラは?」
「全く……」
「だよなあ」
一夏さんじゃないとすると私ってことなんでしょうけど生憎私も何も思いつきません。そもそも一夏さんと私の両方が避けられているようですし、どちらか片方だけという問題ではないでしょう。となると私と一夏さんが両方関わっていることになるんですけど……それの方が全然思いつきません。一体何が……
結局その日は昼食時、授業時、放課後まで通して遠巻きにされていました。そして放課後、HRが終わった瞬間……
「かーるーらーちゃん、おくじょーいこ♪」
扉を壊さんばかりの勢いでものすごい笑顔の鈴さんが乱入してきました。何ですか急にそんな軽い感じで今からカツアゲしますみたいな宣言! そりゃあ私が逃げようと席を立つのも無理がな……
「そうだな」
「ああ、我々も話がある」
「いいよねカルラ?」
「友達ですものね?」
わたしは にげだした!
しかし まわりこまれてしまった!!
え、ええ!? 何で皆さん笑顔が怖いんですか!? ええ、何故なんですか!?
「お、おーい……」
一夏さんが何かを言いかけた気がしますが私は両手両足を拘束されて正におみこし状態で屋上に連行されました。そのまま壁を背中にされて逃げ場をなくされた上に代表候補生4人と1人の剣士に囲まれました。皆さん笑顔が凍りついていてすごい怖いんですけど……でも本当に原因が思いつかないんですけど! そんな中最初に言葉を発したのは鈴さんでした。
「これ、どういうことか説明してもらえるかしら―?」
その額には青筋が浮いています。いったい私が何をしたと……とりあえず鈴さんが何かを突き付けてきたのでその紙を見て……見て……み……
「な、何ですかこれはーーーーーーーーーーーーーーー!?」
鈴さんが持っていたのは学校内新聞。そしてその一面にはでかでかと見出しがついていてその内容は……
『織斑一○のお相手発覚!? 恋人は赤髪の代表候補生!?』
『われわれ新聞部は日夜この学園の真実を明らかにするために活動しているが本日は皆様に残念なお知らせを伝えなければならない。この学園唯一の男性生徒、織斑○夏だが当記者は昨日衝撃のシーンを目撃してしまった。』
その記事の下には大きく引き伸ばされた写真があり、その写真は一夏さんの背中側から撮ったのか、私が背伸びして一夏さんに顔を近づけ、その私の顔辺りに手をやる一夏さんが写っていました。
『記載の写真を見てもらえれば分かるように明らかにあれである。健全な皆様には分かると思われるが明らかにあれである! 重要なことなので2回書かせてもらったがもう一度書かせてもらう。この行為は明らかにあれなのである! もう書いている記者も特大のスクープに何を書いているかわからない喜びに打ち震えている。もうなんていうか記事を書くときは自由で無きゃいけないと思うんだなんだってまさかあの子がこんなことをだいたんにもはくちゅうこんなことをわたしもしてほしいのにああもづあなおえいくぁwせdrftgyふじこlp』
最後の方はもう何が何だかわかりません。これよく新聞に出来ましたね。というよりこれ目のゴミを見てもらっていた時の写真ですよね。それがこんな形で晒されるなんて……しかも私の顔写っていませんけど右側のサイドテールにしている赤い髪の毛がばっちりと……今から髪の毛解いてみたりなんて。
「今更そんな行動に意味があると思っているのか、浅はかだな。こうなったら自白剤でも……」
で、ですよねー……ラウラさんは腰に手を当て、足を肩幅に開いておりその風格は正に仁王。絶対に逃げられそうにありません。
「まあまあラウラ。そう殺気立ったら駄目だよ。ほらカルラ、オレンジジュースでも飲んでリラックスしな」
「あ、ありがとうございます」
ああ、ここに唯一の良心が! シャルロットさん、あなたが女神ですか! シャルロットさんの手からオレンジジュースの缶を受け取ります。それを一口だけコクンと飲みこむと……
「で? 実際の所どうなのかな?」
シャルロットさんの笑顔の質問で本来は甘いはずのオレンジジュースが全く甘く感じません……そもそもどう答えろと!
「カルラ、以前お前は私を応援すると言ったが……あれは嘘だったのだな」
「ほ、箒さん?」
「成敗してくれる!」
わあい! 今日の箒さんは阿修羅すら凌駕する存在です! 人呼んで箒さんスペシャル!
ってまたどこからか『緋宵』出してきますし、それをどうするつもりなんですか!
……あ、そもそも私が誤解だって言えばいいだけじゃないですか。
「もう! 誤解してます!」
「「「「「なにぃ!?」」」」」
え?
「か、かかかかかか、カルラさん! あなたもう五回もしていると仰いいましたの!?」
「ま、まさかそんな……既にそんな回数を……一夏は私の嫁だというのに私だって一度しかしたことがないのだぞ!」
「五回……五回かあ……そっかあ、あははは」
「よし解体そう! 今直ぐ5体ばらばらに!」
な、なんてベッタベタな誤解をしているんですかこの人たちは!
「ですから誤解なんです! 皆さん、誤解してるんです!」
「今度は自慢か!」
「はしたないですわよカルラさん! 人前でキスの自慢話など!」
うわー、うわー! もう駄目だ、何言っても誤解されるパターンだ! こういう場合は逃げ……
しかし まわりこまれてしまった!
もうそれはいいです!
「さあ、抜け駆けの理由を洗いざらい話してもらおうか……」
「大丈夫だ。痛みは一瞬だ」
「カルラ? 白状した方がいいと僕は思うんだけどなー」
「いえいえ、この際ですし実際に一夏さんの目の前で自白させるというのも」
「なるほどね。流石イギリス人はえげつないわ」
「鈴さんそれは褒めておりませんわよ」
まずいまずいまずいまずいまずいまずい! もう駄目です。私の人生今日で終わりです。社会的な意味で、平和な学園生活的な意味で!
「でねー、それでさー」「えー」
その時、わずかに聞こえた声と共にガチャリ、と屋上の扉が開きました。一瞬だけ全員の視線がそちらに向きます。今だぁ!
私は振り返って一歩だけ下がってから思いきり足を振り上げて屋上の壁に足をかける!
「む、逃げるか!」
いち早く気付いたラウラさんが私の足を掴もうとしたのでその足を持ち上げて壁を蹴る! 体をゆっくり回転させ、スカートを翻しながらラウラさんの真後ろに着地。真横からタックルを仕掛けてくる鈴さんを更にもう一歩下がることで回避して左側にいるセシリアさんの方に受け流すことで妨害、シャルロットさんは逃げる方向の反対側なので無視して残るは……
「ここは通さん!」
刀を持って仁王立ちする箒さん! 刀を抜いてないだけマシですけどやっぱり怖い! というわけで……
「ごめんなさい!」
「なに!」
先ほど鈴さんからもらった学校新聞を箒さんの顔面めがけて広げます。視界を塞がれた箒さんが一瞬だけ怯んだ隙にスカートがめくれるのも気にせず思いきりスライディングして真横を抜け……た! 一瞬で立ち上がって階段を下りるために扉へ猛ダッシュ。目的地は新聞部。あれを撤回してもらわないと明日の私はありません!
扉を開けて階段を降りるために飛び込んだ瞬間……
「わあ!」
「あら」
目の前に人が……! ダメ、これは止まれない!
………………あれ?
「危ないわよ。廊下は走っちゃダメ」
そう言われて見上げるとそこには扇子で口元を隠した楯無会長が優雅に立っていました。あれ、何で……私いつの間に座っているんでしょう?
「誰かと思ったら今話題のカルラちゃんじゃない。どうしたのそんなに慌てて。あ、一夏君に迫られたとか?」
「違います! 会長も誤解しないでください! あの記事は捏造なんです!」
「あら、五回もキスしたうえに熱愛? 熱々ねー」
ケラケラと笑う楯無会長を見て気付きました。この人絶対わざとだ……分かっていてわざと話をややこしくしようとしてるんだ。
そう思った時激しくドアが開きました。ってそう言えば私逃げてきたんじゃないですか! というよりこの位置だとまた楯無会長がぶつか……
「待てえ!」
「もう、また?」
「「へ?」」
ストン……
今、何しました? 飛び込んできた鈴さんが楯無会長とぶつかると思った瞬間、私と同じように床に座っていました。柔道? 空手? 合気道? どれにしろ相手が気付かない程の自然な動作で相手を制することが出来るってすごいです。そして次の瞬間にはまた扉が激しく開きました。
「カルラ!」
「千客万来ね」
「む!」
飛び込んできたのは箒さん。楯無会長が私と鈴さんと同じようにしようとしたのでしょうが、箒さんは何かを感じ取ったのか手を動かしたように見えました。そして次の瞬間には……
「ぐ……!」
私たちとは違い思いっきりお尻を床に打ち付けていました。
「あらら、無理に技を外そうとするからよ。大丈夫?」
「あ、貴方は一体……」
箒さんが呆気に取られた顔で会長の方を見ています。箒さんが反応できたという事は古武術の類なんでしょうね。結局どういう技かは判明しませんでしたけど。
「カル……何だこの状況は?」
「どうしたのラウラ」
「何かありましたの? あら、皆さん何故座り込んでいますの?」
追いついてきた3人が私たちと楯無会長を交互に見ながら訪ねてきました。そしてそれに答えたのは何故か楯無会長でした。
「私はただの校内の見回りよ。生徒会長だからこういうこともしているの。それと今朝の新聞部の写真は誤りだったって分かったからそれも合わせての手伝いね。今新聞部が総出でお詫びの号外を配っているわ。はい、あなたたちにもどうぞ」
楯無会長の手から貰った新聞は……
『まさかの間違い、新聞部の謝罪』
『今朝の新聞につきまして大きな誤りがあったことをご報告いたします。別角度から撮った写真が提供され、今朝の写真についてはあの行為ではなく、ただ単に目に入ったごみを取っていたものと判明いたしました。この度は我々が状況確認を怠ったせいで読者の皆様、また一部の方に多大な迷惑をおかけして真に申し訳ありません。今後このようなことがないように一層精進していきますので皆様のご理解、ご協力を今後共によろしくお願いいたします。また……』
内容的にはこのような感じ。と、とりあえず誤解は解けたってこと? 何故か真横から私と一夏さんを撮った写真が掲載されていて、そこには私の目を覗き込む一夏さんがばっちりと写っていました。
「え……これは……」
「どういうことですの?」
「つまり、キスは?」
「していなかったと……」
「そういうことだな」
「「「「なーんだー」」」」」
今私は怒ってもいいと思うんですけど……もうこの怒りをどこにぶつければいいのか……もう我慢しなくてもいいよね? ね?
「皆さん!いい加減に……」
「あ、それと今日から一夏君には私が専属コーチとして着くからよろしくねー」
『はあ!?』
私の怒りの一声は楯無会長のその一言で吹き飛んでしましました。
「ちょ、それどういうことよ!」
「言葉の通り」
「い、一夏さんのコーチは私たちが務めていますのよ!」
「そうです! 先輩と言えども譲れないところはありますよ!」
「だって一夏君との約束だし」
鈴さんたちの問いかけにさらっと楯無会長は答えて見せます。約束?
「一夏さんとの?」
「うん、一夏君に私が勝ったら私の指導を受けるって。それで私が勝ったから」
「あの馬鹿嫁は……それで何故こんな奴に負けるのか……」
「あら、ラウラちゃんは知らないの?」
ラウラさんの呟きに楯無会長は口元を隠すように扇子を開いて私たちに見せてきます。
「IS学園の生徒会長という肩書はそれで一つの事実の証明」
そこにははっきりと分かる漢字で2つだけ文字が書かれていました。
「全ての生徒の長たる存在、生徒会長は――最強であれ」
『最強』と……
呆気に取られる私たちを置いて楯無会長は「じゃあね」と言って階段を降りていきました。IS学園生徒中『最強』の称号……なるほど、確かに納得は出来ます。多分ISを使わない戦闘であれば私一人はおろかここにいる全員でかかってようやくと言うところでしょう。それでもまだ勝率は低い予感がします。それを感じ取っているのか他の皆さんも先ほどから一言も言葉を発していません。
あそこまで堂々と『最強』宣言されると逆に否定できなくて困ってしまいますよね。
「あー、その、なんだ。すまなかったなカルラ」
そんな中言葉を発したのはラウラさんでした。
「うん、誤解したままで何か問い詰めちゃって……」
「わ、悪かったわね。謝るわ」
「ですわね。申し訳ありません」
「すまなかった、カルラ」
「いえ、分かってくださればいいんです。謝罪の言葉も聞けましたしこれ以上は私も引っ張るのをやめにします」
皆さんも悪く思ってくれたのかそれぞれ謝罪を述べてくれましたし、私の気分で場の空気を悪くするのも駄目ですしね。ここはきれいさっぱり水に流しましょう。
「しかし嫁はどういうつもりなんだ」
「そうね、戻ったらとっちめてやらないと。それ以前に嫁って言うのいい加減やめなさいよ」
「だな、隣部屋の私がきっちりと話を……」
「箒さん? 抜け駆けは無しですのよ?」
「その時は僕も一緒に話を聞きに行くからね」
そう言いながら皆さんは階段を降りていきました。はあ、やっと元の平穏が…………
戻ってない! 今回も私は一夏さんが好きじゃないってはっきり言えてないです! あ、ちょっと待って皆さん、行かないで! まだ話すことが……待って―!
後書き
新聞部……万死に値する!
誤字脱字、表現の矛盾、原作流用部分の指摘、感想、評価等などお待ちしてます 。
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