自由の灯り
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第十六話
前書き
今回もオリジナルの話です
「・・・う・・うん?」
「気が付いたか?」
辺りは完全に闇色に染まった夜のルバーブ連山、キャナルは重たい瞼を開くとヴェントが腰を押さえ岩に寄りかかりながら、キャナルを見ていた。
心配そうに体に異常がないか尋ねてくる。
「だ・・大丈夫・・です、ごめんなさい・・・」
「何も言うな、あれは事故だ、お前に怪我はないみたいだし、痛・・」
「ヴェント?」
「な、何でもない」
ヴェントはそう言うが、キャナルはヴェントの様子がおかしいのに気付き、ヴェントの側に近寄り無理矢理寄りかかっていた岩から引き剥がす。
ヴェントが苦痛に顔を歪めるのに気付き、背中を触れてみるとヴェントがうめき声を上げる。
キャナルの顔はすぐに青ざめる。
「ヴェント、背中を勢いよく打ったんだね、・・あたしのせいで・・」
「だから何も言うな、ちょっと背中を痛めただけだ、お前は悪くない」
「・・・ごめんなさい」
キャナルは俯きながら喋ると、ヴェントの背中に両手を添える。
すると治癒術のような優しい光がヴェントの背中を癒し、背中の痛みが無くなる。
「サンキュー、治癒術使えたのか?」
「・・・・・」
「はぁ・・そういえばお前寝言でお父さん、お母さんって呟いてたけど、親はどうしてるんだ?」
「!?」
ヴェントの質問を受けると、キャナルはヴェントの裾を強く掴み何かに堪えるようにしていた。
若干体が震えている。
ヴェントは聞かない方がいいと判断し話題を変えようとする。
「いや、何でもない、気にするな」
「・・・んだ」
「っえ?」
「お父さんとお母さんは・・あたしが10歳の時に死んだ」
キャナルは目に涙を浮かべていた。
ヴェントは励ますように、キャナルの頭を撫でる。
それでキャナルは少し落ち着いたようで、話の説明をする。
「あたしの家は誰でも治癒術を使えるようになる研究をしてたの、それが成功すると村の人たちは喜びながら平和に暮らせた、あたしが使ったのも家の本で学んだやつ、・・お父さんとお母さんはもっと村の人たちを喜ばせたくて沢山の研究をした」
「・・・」
ヴェントは黙ってキャナルの話に耳を傾ける。
「・・けどある日、一つの魔術の研究に成功した・・・その魔術が黒魔術」
「黒魔術?」
「うん、あんまり覚えてないけど、その黒魔術はとっても危険でお父さんは使わない方がいいと思って、倉庫にしまった、沢山の軍から譲れと言われたけど全部断った」
そこまで言うと、キャナルはヴェントから離れ、思い出したくないとばかりに頭を押さえ、ぶんぶん首を震る。
何かに怯えているようだった。
ヴェントはいつも明るい性格のキャナルとは思えないという顔で見ていると、無言でキャナルに近寄りそっと抱き締める。
「大丈夫だ、俺が側にいる、怖くない」
「う・・ん、それから数日後、三人組の人たちが来て黒魔術の本を渡すよう言ってきた、お父さんは断ったけど、そうしたらその人たちはお父さんを殺して・・」
キャナルは怯えるように震えながら、ヴェントをぎゅっと抱き締める、ヴェントもそれに答えるようにキャナルを強く抱き締める。
「そ・・それで、今度はあたしとお母さんを襲って、お母・・さんはあたしを逃がして・・うぅ!ひっぐ!」
キャナルの声は完全に上擦っていて、涙をポロポロこぼしながらヴェントの胸に顔を埋める。
ヴェントはこれ以上言わなくていいと優しく答え、キャナルの頭を右手で撫でる。
ヴェントの優しさに我慢ができなくなったキャナルは大声を上げて泣き出した、ヴェントはキャナルが泣き止むまで頭を撫でることにし、夜のルバーブ連山に少女の泣き声が響き渡った。
しばらくして泣き止んだキャナルは夜空を見上げながらヴェントに話す。
「それからあたしは過去を思い出さないように村を飛び出して、性格を変えたんだ、・・・昔の性格だといろいろ思い出しちゃうから、これが本当の喋り方」
「そうか、・・・・俺の両親も俺が小さい時に亡くなってるんだ」
「っえ?」
キャナルは驚いた表情でヴェントを見ると、ヴェントも星を見ながら喋りだした。
「母親は俺を生んですぐに、父親は9歳の時に戦争で亡くなった、それからは親友と旅をしてたけど、この間亡くなった、俺はもう生きる意味を無くして一度死ぬことを考えたことだってある」
「ごめんなさい・・あたしばかりこんなこといって泣いたりして」
ヴェントはキャナルの頭を撫でる。
「気にするな、それと今でも辛くないって言えば嘘になる、けど俺はディアに助けられた。一人で殻に閉じ籠ってた俺にあいつが手を差し伸べてくれた、それからは他の奴等も俺に接してくれる。だから俺は明日に向かって今を生きていける、キャナルは俺より辛い過去かもしれない、俺よりキツイかもしれない、けどお前はもう一人じゃない、皆がいるし俺がいる辛いならいつでも言え」
ヴェントの優しい微笑みにキャナルは再び涙を流すと、ヴェントはまたキャナルを強く抱き締める。
それから背中をポンポン叩く。
「親の悲しみは埋めることをできないかもしれない、でも俺はずっとお前の側にいてやる、だからもう悲しむな」
そこまで言うと、今までよりも強くキャナルを抱き締める力を強める。
キャナルも泣きながらヴェントを離さないように、強く抱き締める。
「ヴェント・・・ありがとう」
「気にするな、それに俺はいつも俺を振り回す性格のお前の方が好きだし、暗いのはお前に似合わないと思っただけだ」
そういうと、キャナルから離れて顔を背けようとするが、それはキャナルに阻止される。
一瞬何が起きたのかわからなかったが、ヴェントの唇はキャナルの唇に塞がれ、キャナルはヴェントの首に腕を回し、ヴェントを離さないようにしていた。
ヴェントは目の前にいるキャナルが自分にキスをしたと理解すると、顔が真っ赤になる。
しばらくすると、キャナルはヴェントから離れて悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「あたしの初めてはヴェントに上げたですぅ~♪責任取ってほしいですぅ~♪」
「お、おま!」
ヴェントはキャナルを睨むがキャナルは少し赤くなった顔で笑いながらいつものハイテンションに戻り、ヴェントに勢いよく抱きつく。
抱きつかれたヴェントはそのままキャナルに押し倒され、自分から離れようとしないキャナルを見て溜め息をつく。
「・・・俺はお前とはまだ付き合わないぞ」
「え~、付き合おうですぅ~」
「そもそも言ってることわかってるのか?」
「もちのろんですぅ~♪あたしは本当にヴェントに惚れたんですぅ~♪誰よりもヴェントが好きですぅ~♪」
「だったら、俺がいつかお前に告白する。だから今は我慢しろ、そもそも出会ってからまだ少ししか経ってないんだ、もっと互いを理解してからでもいいだろ」
キャナルは不満そうに頬を膨らませながらヴェントを見ると、ヴェントは再び溜め息をつき今度は自分からキャナルの唇を塞ぎ、離さないようにキスをする。
いきなりのことでキャナルは瞬きを繰り返しながらヴェントを見る。
「今はこれで我慢してくれ、それに俺の気持ちの整理がついたら、俺からお前に告白したいんだ」
「ヴェント~、わかったですぅ~、それまで待つですぅ~」
キャナルはヴェントから離れると、体育座りの格好で夜空を眺める。
ヴェントは横になりながら星を数えていると、睡魔が襲ってきてそのまま眠りに落ちる。
次の日の朝、ヴェントは太陽の明かりで目を覚まし、瞼を開く。
「!っな!?」
一番初めに視界に入ったのが、キャナルの寝顔だった。
そんなキャナルは安心しきった顔で、すやすや寝息をたてていた。
しばらくして落ち着きを取り戻したヴェントはキャナルの寝顔を見ていると、昨日のキャナルとのキスを思い出し顔が赤くなる。
「むにゃむにゃ、ヴェント~♪大好きですぅ~♪」
「はぁ、俺もだよ、キャナル」
ヴェントは寝ているキャナルにそう言いながら頭を撫でる。
「ふにゃ?」
「悪い、起こしたか?」
「ヴェント~、昨日はあたしを襲ったりしたですぅ~?」
「するか!」
ヴェントは否定すると、キャナルを連れてバンエルティア号に向かう。
船に着くとアンジュやメンバーの何人かが心配そうに訪ねてきたが、キャナルが昨日のことを全てばらしたせいで、ヴェントは女性陣の質問攻めにあうのだった。
続く
後書き
新しい話終わりました
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