ペルソナ4 プラス・エクストラ
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#00
そこは学校の教室だった。現代社会ではめったに見られなくなった、もはや過去の建築物と言ってもいい木造の校舎の教室で、二人の男女が椅子に腰掛けていた。
「はあ……。平和だな……」
椅子に座っている若い男、青野北斗は窓から見える夕日を眺めながらしみじみと呟く。
「はい。平和なのは良いことです」
そんな北斗の呟きに答えてくれたのは、彼と机を挟んだ反対側の椅子に座る、頭に狐のような耳を生やしたピンク色の髪をした女性だった。
「そうだな。こんなに平和で静かな日々なんて数ヶ月前まで考えられなかったな……」
そう言うと北斗は目を瞑り、数ヶ月前から今日までの出来事を思い出す。
青野北斗は「霊子ハッカー」と呼ばれる、自身の魂をデータ化して電脳世界にアクセスする現代の魔術師である。
北斗はとある偶然により今から数ヶ月前、月に存在する巨大な電脳体「ムーンセル」が創りだした電脳世界「SE.RA.PH」で、「聖杯戦争」という戦いに参加した。
聖杯戦争とはムーンセルとのアクセス権を賭けて行われる、百二十八名の霊子ハッカーによるトーナメントバトルで、現実世界に影響を与えるほどの高い演算能力を持つムーンセルにアクセスするということは、現実世界を自分の意のままにできることを意味していた。
そして聖杯戦争に参加した霊子ハッカーは全員、ムーンセルが呼び出した過去の英雄の情報を持つ電子生命体「サーヴァント」と契約しており、北斗と契約したサーヴァントこそが今彼の側にいる頭に狐耳を生やした女性「キャスター」なのである。
聖杯戦争に参加したばかりの北斗とキャスターは決して優秀な魔術師とサーヴァントではなく、二人の戦いは苦難の連続だった。それでも二人は戦いの中で支えあい、実力を高めていき、ついには八つの戦いを勝ち抜いて聖杯戦争を制したのだ。
ムーンセルとアクセス権を得た北斗はムーンセルに「その力を悪意ある人間に利用されないように静かに眠ってほしい」と願った後、キャスターと二人で「SE.RA.PH」の中で静かに暮らそうとした。だがその矢先に「ナイン」と名乗るテロリスト集団が現れ、「SE.RA.PH」の各地で破壊活動を行なったのだった。
それを知った北斗とキャスターは「SE.RA.PH」の平和のためにナインに戦いを挑み、筆舌に尽くしがたい戦いの末に二人がナインを倒したのが先日のことである。
「それにしても住む家を探していたらこんないい建物が見つかるなんて、本当に運がよかったな」
「はい。もし住む家が見つからなかったらどうしようかと思いました」
北斗の言葉にキャスターが同意する。二人は最初は別の場所で暮らしていて、この校舎で暮らし始めたのはつい先日、ナインとの戦いが終わった後なのである。
何故北斗とキャスターがこの校舎で暮らし始めたかというと、実はナインが「SE.RA.PH」で破壊活動を行なった原因がキャスターにあり、そのせいで事件を解決して原因が世間に知られていなくても人前で生活を送るのに引け目を感じたためである。人里から遠ざかり「SE.RA.PH」の片隅に来た二人は、偶然この旧校舎を発見し、それ以来ここで暮らすことにしたのだった。
「部屋の改装も一通り終わったし、大きな事件もないし、ようやく静かに暮らせ……」
ドン!
北斗が安心した表情で言おうとしたその時、まるで彼の言葉を遮るように校舎が一度大きく揺れた。
「な、何だ? 一体?」
「ご主人様! この魔力の乱れは……」
突然大気中の魔力が乱れたのを感じとったキャスターが北斗に呼びかけ、北斗も「ああっ」と答えて椅子から立ち上がった。
「どう考えても今の揺れが原因だな……。調べに行くぞ、キャスター」
「はい。ご主人様」
※※※
魔力の乱れの原因を探っていた北斗とキャスターは、魔力の波長を辿っているうちに旧校舎の一階の隅にある用務員室にとたどり着いた。用務員室の扉は何やら光を放っている上に時折ぼやけて見えて、どう考えても普通の状態ではなかった。
「何だコレは? 昨日見たときは普通だったのに……」
思わず用務員室の扉に手を伸ばそうとした北斗にキャスターが鋭い声を飛ばす。
「ご主人様! ストップです。その扉、異界と不完全な状態で繋がっています。下手に開いたら最悪、世界と世界の狭間に落ちてしまうかもしれません。……少々お待ちを」
そう言ってキャスターは小声で何やら呪文らしきものを呟き始める。すると……、
ガキン!
金属音がした同時に扉の光が消えて、大気中の魔力の乱れも正常に戻ったのが感じられた。
「キャスター。一体何をしたんだ?」
「世界と世界の繋がりを完全なものにして固定したのです。先程の魔力の乱れは世界の繋がりが不安定故に起こったもののようですね。そしてこの扉の向こうはこことは別の異世界に繋がっています。……どうしますか? ご主人様?」
「……とりあえず調べてみようと思う。何もなかったらそれでもいいけど、もし危険な世界と繋がっていたら早めに封印しないといけないからな」
北斗の答えを聞いてキャスターは満足げに頷く。
「はい。それでこそご主人様です。その立ったフラグを残さず回収しようとする首突っ込み型主人公体質なところが大好きですよ♪ ああ、もちろん普段何もしなくてもいつの間にか騒動の中心にいる巻き込まれ型主人公体質なところも愛してますが♪」
誉めているのだか貶しているのだか分からない言動だが、それでも一緒に来てくれる意思を見せるキャスターに、北斗は内心で感謝しながら異世界に繋がっている用務員室の扉を開いた。
後書き
フェイト/エクストラCCC、キャスタールートとCCCルート(勿論サーヴァントはキャスターで)クリアしました。そのせいかキャスターに惚れ直すと同時にP4とのクロスオーバー作品を書きたくなり書いてみました。この作品はフェイト/エクストラCCCのキャスターエンド後の展開で、二人がいる校舎は月海原学園の旧校舎です。
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