ゴーストパーティ
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第1章 アクセサリー
前書き
それは日常に起きた出来事だった。
最近不思議なことによく合うと少し気持ちが高揚気味だったが、一気にその高揚は冷めた。
「むしゃ……くちゃ……」
そいつは何かを喰っている。噛みしめている。でも俺が見るにはそれが人間には見えない。もちろん両方。人間の形をしている化けものにしか見えない。
足が震える。腰が抜けそうだ。
でも動ける。今からでも逃げればばれない。まずあいつは俺がここにいることにすら気づいていないのだ。大丈夫。全力疾走だ。
だけど、俺は逃げれなかった。
分からないけど、こいつが許せなかったからだ。こいつの姿に怒りを覚えたからだ。俺はこいつを殺さなければならないという使命感が芽生えたからだ。
そしてそいつは噛むのを止めに俺に気づいた。
俺もそいつの正体を知った。
そいつは、この町にいる食人鬼だった。
第1章 アクセサリー
世の中には不思議なことが満載だ。オーパーツ、モアイ像、ナスカの地上絵、UMA、宇宙。その中に堂々と入り込める現象。幽霊。
現象と呼べばいいのかはわからない。ただ、幽霊は死者の魂とかこの世に未練があるから化けて出てくるとかある。
ふつうは見えないのだが、見えてしまう人もいる。それを霊能者とか霊感持ちとか言われている。
俺もその内のどちらかの能力を持っている。そう。幽霊が見えるのだ。とは言っても昔から見えるようになったわけではない。つい最近だ。
それは俺が居間で昼寝をしていた時のことだ。ソファーの上で寝ていたらいきなり大きい音と共にものすごい揺れた。震度5くらい。
もちろん、俺は飛び上がり周囲を見回した。何事もない日常の風景が広がっていた。まるで地震なんてなかったようにのどかだった。だけど、その日常風景に溶け込んでいる……人物っていうか……見えてしまったのだ。幽霊が。
おじさんにおばさん、お兄さんにお姉さん。小学生くらいの男の子。が、家の中にいてなおかつふよふよと浮いていた。そう、浮いていたのだ。
「おやおや起きちゃったねー」
「なんかすごいの落ちてきたでの~」
「なあタカコ、ちょっとそれとってくれない?」
「ええ? いやだー」
「じゃあ僕が取ってくるよ」
ってなんかほのぼのしてるし! なんかよく分からないけどほのぼのとした家族がわが家にいるよ!
「あの、あんたたちは一体何してるの?」
ここは冷静になって会話を試みるようにした。
すると全員が黙りこくって俺の方を見た。
お兄さんがいきなり、
「シュワッチ」
と言ったので俺も真似して言ってみた。
「シュワッチ……?」
これを聞いたほのぼの家族が思いっきり驚いていた。なんか見えてるのー? とかいろいろ俺に質問しているようにも感じられた。
話を聞くとほのぼの家族は幽霊だということがわかった。そりゃあ、浮いてるし、俺にしか見えない聞こえないし。家族は誰も信じてくれない。
ということがあって俺は幽霊が見えるようになっていた。
★
今日ものどかな町。俺は今路地裏を散歩している。
俺が住んでいる町。大滝町は自然よりも建物が多いやや都会だ。東京や大阪ほどではないが地下鉄も通ってる。
で、俺の名前は京野都(きょうの みやこ)。一応言っておくが俺は男だ。一人称も男だし性格も見た目も男。ちゃんと付いている。だけど名前が女っぽいのが少しコンプレックスだ。
大学1年でまだ入学したてだ。
その大学。新栄大学には不思議な科目があって俺はそれに惹かれて入学した。確か、自然現象を調べるところらしい。この世のあらゆる不思議なことについて思う存分研究ができるそうだ。ついでに俺はその中の幽霊関連を主に研究するつもりだ。最近になって幽霊見えるようになったし、丁度いいと思ったからだ。
そういえば、何故俺が路地裏を散歩しているか。こんなに晴れているんだ。もっと緑が多いところを散歩すればいいと思われるだろう。確かにそうだ。だが、俺は露機裏を散歩するのが好きなのだ。ビルに囲まれていて薄暗くて怪しい空気が流れる、そんなところが好きなのだ。もしかしたら新しいことを発見するかもしれない。
幽霊も見えてしまうようだから何か特異点とか発見できるかも、とかいうありえない期待を持ちながらの散歩だ。
路地の道を気のおもむくままに進んだ。ぼーっと何も考えずにだ。するとL字の角にあたった。曲がった。その道を曲がった。そして後悔した。
目の前に何かをむさぼり喰っているやつがいた。
「むしゃ……くちゃ……」
そいつは音をたてて人間? を食べている。
俺はこいつを知っている。
この食人鬼を! こいつは、俺の親友を!
だが、まだ確証があるわけではない……。ただ、これは無視してはいけない。なんとか……しなければ。だがどうする? ただの大学生の俺には何もできない。そこらへんに武器があるわけでもない。武器があってもあいつに勝てる気が起きない。
どうすれば……。
そうたじろいでいると、そいつが俺を見た。
仮定が確定に変わった瞬間だった。
この町には1か月ほど前から見えない恐怖に脅かされていた。
1週間に何人もの人が行方不明になる事件が起きた。その時は誰も犯人を見たものはいなかったが、たまたま見てしまった人がいた。そいつは大学の女子生徒で学校の帰りだったそうだ。
その生徒はその犯人と思わしき人物からなんとか逃げ切り警察にあったことすべてを話したそうだ。これにより犯人の姿が見えてきて解決にも近づいた。犯人は誘拐していたのではなく人間を喰っていたらしい。血1滴残らずすべて食って証拠隠滅をしていたらしい。何故喰ったかの理由はまだ分からないらしい。
ただこれをきっかけに犯行はぴたりと止まった。恐怖に包まれていた町は少しづつ陽気さを取り戻していた。
だが、つい1週間前、また誘拐事件が起きた。犯行が似ていることによりあの食人鬼が犯人ではないかとされた。これにはほぼ明確に理由があった。その誘拐された被害者。それは犯人をたまたま見つけてしまった女子生徒だった。
その女子生徒の名前は東美紀(あずま みき)。俺の幼馴染であり親友だ。
そして俺の目の前にいるそいつはあの事件に出てきた食人鬼。美紀が言っていた犯人像にすべて一致する。
こいつを殺さなくては、という使命感がふつふつと湧き上がってくるのが分かる。
手が震える。興奮する。殺す。こいつを今ここでぶっ殺す!
いきなり食人鬼の動きがピタリと止まった。そして俺の目を見た。
蛇ににらまれたカエルとはまさに今の俺とあの食人鬼のことだ。
俺は腰が抜けてその場に尻餅をついてしまった。
「見たな……?」
食人鬼は俺を睨みながら言った。
そして俺は気づいた。こいつには絶対に勝てないと。逃げるしかできないと。さっきまでの熱い興奮が一気に冷めたのが分かった。
「っはうぁ……」
息が十分にできないほどの緊張。
死を……覚悟した瞬間だった。
「グルルルルルルルラアアアアアアア!」
食人鬼は獣のような雄叫びを上げて俺向かって突進してきた。早すぎて反応に時間がかかるほどだった。
人間は普段、半分も自分の力を発揮しない。何故なら発揮すれば自らの体を傷つけてしまうからだ。
だが俺には分かった。自分がこの一瞬、100%の力を発揮したことを。
反応に無理がある相手にでも余裕で反応ができたのだ。それも一瞬。
「ぐああっ!」
なんとか避けれた。だが、そのまま逃げれるほど俺の体は丈夫じゃなかったようだ。
一瞬だけ100%の本気を出した俺の体はそれだけで動かなくなった。
「なっ」
俺の体からエネルギーがすり抜ける感覚がした。
力なく地面に倒れこんでしまった。
「グルルァ……」
あいつが近づいてくるのが分かる。
俺は仰向けになり無様に体を引きずりながら逃げる。重い。全身が重い。俺の体が、もう動かない。限界だ。
「はぁ……なんだよもう」
急に自分の人生が馬鹿馬鹿しくなった。
「はは、これじゃあ美紀と一緒でこいつの養分になるだけかよ」
俺は自分でも驚くほど脱力しその場に背を付けた。
走馬灯に駆られている間に食人鬼は俺を馬乗りしていた。
腹と腕は抑えられてもう動けない。
「ハァア……」
食人鬼の生々しい息が俺の頬に当たるのを感じる。
「いい人生……だったとは言えないな」
最後の最後に悔いを残した人生だった。
俺はゆっくりと目をつぶり死を受け入れた。
すると突然体が軽くなった感じがした。
ああ……。きっと死んだんだ。今頃あいつは俺の体を貪り喰っているに違いない。
すまないな……美紀。
「まだ逝くのは早くないかい?」
上の方から声が聞こえた。きっと神様だ。
もう戻るところなんてないですよ。
と心の中で思った。神様なら俺の心くらい簡単に読んでしまうはずだ。
「何をしている。早く起き上がって逃げなければ」
この声は一体何を言っているのだ? 俺は死んだのだ。もう還る体などない。
「おい! 何を寝ている! 君はまだ生きているのだぞ!」
パチリと目が覚める。
「生きている?」
「ああ。君はまだ死んではいない。生きているんだ」
た、確かにまだ体がある。さっき倒れこんだ場所と同じ場所だ。
体が軽くなったのは食人鬼が俺の上から消えたからだ。
「一体……何が起きたのだ……」
「おいおい。自分が何者かを忘れたのか?」
さっきから聞こえる声は一体なんのだ。
俺の後方から聞こえる声が何かを確認するために思い切って後ろを向いた。そこにいたのは普通の青年のように見えた。金髪に整った顔立ち。何故か服は騎士の甲冑に思える。
「こうして対面するのは初めてかな? 僕の名前ー……。ないね」
しかもいい声だ。
「名前がないってなんだ?」
「見ての通り。僕は足は少し透けているし浮いている。どこからどうみても幽霊だ。そして名前はない。生前の時に呼ばれていた名前なんてもう憶えていないよ。そうだなー。僕は君のどうでもいいようなアクセサリーに取り憑いているわけなんだけど……。君のズボンのポケットに入っている物だ」
そういわれてズボンのポケットを弄ると金色の四角いアクセサリーが出てきた。
「これは……ちょっと暇なときに遊んでいたアクセサリーだ……」
「そうそれそれ。見た目と形から取って……ゴールド・キューブなんてどうだい? いちいち名前考えるのも面倒だし最近はキラキラネームとかいう当て字で名前付けられるのも嫌だしさ」
「で、ゴールドキューブ。お前は何者なんだ?」
「ん? はは。そうだったそうだった」
ゴールドキューブは爽やかに笑う。そして向こうを指さす。
「君の力であり、僕の力だ」
ゴールドキューブが指をさしたもの。それはさっき俺を襲ったあの犯人だった。亀がひっくり返されたかのように無様にもがいている。
「あれ……は?」
「そっか。知らないよな。まあいいや。ちゃんと後で説明するよ。そんなことよりあいつの胸に手を当ててみな」
「え? でも」
今のあいつはもがいてはいるがあいつの殺意は目に見えて分かる。もし近づいたら襲って来るかもしれない。
「ガルルルルルララララララ!」
耳を抑えるほどの咆哮。絶対に襲われる。
「大丈夫だって。今のあいつはもがいているけど君を襲うほどは動けないからさ」
確かに、よく見るとそこまで動けていない。恐怖が後押しして大きく動いているように俺の脳が勘違いしていたんだ。
「ほら、右の胸を、心臓のあたりに手をのせてみな」
俺はこのゴールドキューブが言ったとおりに、胸の右あたりに右の手の平を置いた。
犯人と思われるこいつはゴールドキューブが言っていた通り何もできなかった。
「じゃあその置いた手に少し力を入れてみてくれ。こうグッとするかんじで」
俺は言われたとおりに、右の手のひらにグッと少し力を入れた。
すると何が起きたのか、犯人はいきなり動かなくなって口から血を吐いた。同時に脈が、生命活動が停止したようにも感じた。
「う、うわああああ!」
動揺し恐怖した俺は思いっきり後ろに後ずさりした。生命活動が停止したかのように感じた。それは……俺が人を殺したってことだ。人間としてやってはいけないことを俺は分からずにやってしまったのだ。
それもこれもこいつ。ゴールドキューブの仕業に違いない!
俺はゴールドキューブを睨んだ。何も言わずにただただ睨んだ。
「ん? あ、もしかしてそいつが死んだのを僕のせいにするつもりだね? 君の目がそう訴えているように見えるね。いいよ説明してあげよう。一体何が起きたのか。そしてこれから何が起きるのか」
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