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万華鏡

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第二十五話 夜の難波その十

 琴乃は蛸の串カツを食べてこう言った。
「ううん、ここで ビールは」
「いいよな」
「それか焼酎よね」
 笑顔で美優に返す。
「この組み合わせこそがね」
「そうだよ、そういえば大阪ってさ」
「どうしたの?」
「ビール飲むこと多いよな」
 他の場所に比べてだというのだ。
「何かな」
「あれっ、日本酒は?」
「そっちも多いか?」
「そうじゃないの?」
 琴乃は目を瞬かせて美優に問い返した。
「そっちもね」
「言われてみればそうか?」
 美優は自分のカウンターの席から店の中を見回した、そのうえで琴乃に顔を戻してそのうえでこう言ったのである。
「このお店でも日本酒飲んでる人多いよな」
「そうよね」
「けれど何かビールなんだよな」
 美優はビールにこだわる、実際に今もビールを飲んでいる。
「何かな」
「炭水化物系が多いからかしら」
「だよな、この串カツもだしな」
「たこ焼きにお好み焼きに」
「おうどんもだしな」
「そうでしょ、炭水化物多いからかしら」
「炭水化物だとな」
 串カツの衣のことだ、これもだというのだ。
「ビールが美味いからな」
「ああ、ビールな」
 またおじさんが言ってきた。
「実際に大阪、この難波じゃな」
「ビールなんですね」
「売れてるんだな」
「ああ、この店でもだよ」
 ビールがよく売れて飲まれているというのだ。
「今の季節なんか特にな」
「ビールですね」
「売れてるんですね」
「前面白い人が来てな」
 笑っての言葉だった、上機嫌に。
「でっぷり太った外国の、白人の人でな」
「太った、ですか」
「そうした人がですか」
「やたら食ってビールもごくごく飲んでな。洋蘭の話が好きでさ」
 おじさんはその客のことを笑って五人に話す。
「職業は探偵って言ってたな」
「その人ってまさか」
 里香はおじさんが話すその探偵の話を聞いてまさかと思った。
 それでだ、こう言ったのである。
「お部屋の中から一歩も動かないんですよね」
「ああ、助手を外に出して自分は頭脳労働って言ってたよ」
「それでビールはお好きなんですね」
「もうごくごくと何リットルも飲んでたよ」
「その人ってネロ=ウルフなんじゃないんですか?」
 シャーロック=ホームズと共に人気の探偵である、ただ日本ではホームズ程知られていないふしがある。
「まさかと思いますけれど」
「ネロ=ウルフ?誰だいそれは」
「ですから探偵ですよね」
「ああ、名前は聞いてないよ」
 それはわからないというのだ。
「それでもな」
「わからないですか」
「ああ、けれど随分と変わり者だったよ」
「そういうことにするのに苦労してるって仰ってましたね」
「ああ、よくわかるね」
「はい、とても」
 こう返す里香だった。 
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