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東方守勢録

作者:ユーミー
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第十三話

数十分後


「ふう……さて、今回はこのくらいにしましょうか」

「ああ」


昨日と同様、俊司と妖夢は時間の許す限り近距離戦闘の特訓を行っていた。もちろん、昨日の今日で実力が上がるわけでもなく、結果は妖夢の全戦全勝だった。

だが、妖夢は少し俊司に疑問を感じていた。


「あの……俊司さん?」

「ん?」

「……なにか思い悩んでいませんか?」

「!」


俊司のナイフによる攻撃は、昨日とはあきらかに違うくらい太刀筋に迷いが見えていた。剣術を扱う程度の能力を持つ妖夢にとっては、それを見抜くことはたやすいことだった。

俊司は少し表情をこわばらせていた。やはり何か隠していることがあるのだろう。妖夢は不安に思いながらも、徐々に問い詰めていった。


「さきほどの戦闘でも、太刀筋に少し迷いが見られました。もしかしてと思っていたのですが……」

「やっぱり……妖夢にはばれちゃうか」


俊司は観念したのか、妖夢に自分が悩んでいることを打ち明けることにした。


「……復讐ってどう思う?」

「復讐……ですか?」

「ああ」


復讐という言葉を聞いて、妖夢はなにかを察知したのか表情を曇らせていた。


「……よくないものだとは思います。いままでそういった方々を何度か見てきましたが……半ばでつきる者。復讐をとげて生きる理由を失い、自害をするものまでいます。それでも生きようとするものもいますが……どこか魂が抜けたような感じがしますね」

「……そうか」

「復讐……しようとしてるんですね?」


そう言った妖夢は、なぜか俊司に軽い笑みを返していた。


「……反対するか?」

「……覚悟はしてるんですよね?」

「ああ」

「……なら、反対はしません」


俊司にとっては予想外だったのか、妖夢がそう言った瞬間驚いた顔をしていた。妖夢はそれを見ると、優しいまなざしをしながらしゃべり始めた。


「決めるのはその人自身です。覚悟をして決めたことならば……反対はしません」

「……」

「ひとつだけ……約束してもらえないですか?」

「約束?」

「はい」


妖夢は急に俊司に近寄ると、俊司の手をとる。そのままうつむいたまま、妖夢は話を続けた。


「……自殺だけはやめてください」

「!!」

「せめて……せめて、それだけは守ってください。そんなことで……人生を終えてほしくはありませんから」

「……それが本音か?」

「え……?」


顔を上げた妖夢に、俊司はやさしく微笑みかけていた。


「ほんとは……どうしてほしいんだ?」

「……」


妖夢は少し目に涙をためていた。俊司がもう片方の手で彼女の涙をスッとふき取ると、悲しそうな笑みを浮かべていた。


「やっぱ……ばれますよね」

「……うん」

「……死んでほしくないです。もちろん……復讐もしてもらいたくありません。でも……もう決めたんですよね?」

「……うん」

「……」


妖夢は黙り込んでしまった。自分の気持ちを伝えても、彼の決心をかえることはできない。過去に見てきた惨劇が、彼女を不安にさせていった。


「……」


妖夢の思いは俊司の心に深く届いていた。

自分の意見を押し殺してまでも、相手の意見を尊重してくれる。いまいち踏み切れていなかった俊司にとって、支えになるものだった。

だからこそ、彼女の思いを踏みにじるようなことはしたくなかった。


「そうか……そうだよな」

「えっ……きゃっ!?」


俊司はつかまれていた手を思いっきり引っ張るり、妖夢をスッと抱き寄せた。


「ふえっ!? しゅっ俊司さん!?」

「大丈夫……死ぬなんて考えてないから」

「え……」

「それに、生きなきゃいけない理由もできたし」

「理由……ですか?」

「ああ」


不思議そうな顔をする妖夢に、俊司は笑みを返しながら頭をなでた。


「だから……心配すんな」

「……本当……ですか?」

「ああ」

「……わかりました。絶対ですよ」


妖夢は安心したのか、そのまま俊司に体を預けていた。












その後、二人は永遠亭に帰るのであったが、後々考えて恥ずかしくなったのか、二人とも顔を真っ赤にしたまま何もしゃべることはなかった。














その日の午後


俊司たちは中庭に集合していた。早苗の頼みで守矢神社に帰りたいとのことだった。

もちろん、誰も引きとめようとはしなかった。ただ、事情の説明ということもあって、文と俊司が一時的に同行することになった。


「では、お願いします」

「ええ。帰りは携帯で連絡を」

「ああ」


紫が目の前にスキマを展開させると、一同は中に入っていった。







守矢神社


「さて……あれから何日か経ったわけだけど……」

「誰もこないね~」


二人の神様はいまだ来ない情報を待ちわびていた。


「神奈子様・諏訪子様……もう少し待ってみませんか?」

「まあ……待つには待つけどね」

「天狗、お前はあの天狗が必ず情報をつかんでくると信じてるのか?」


神奈子は二人をなだめようとする烏天狗に向けてそういった。

烏天狗は少し表情を引きつらせたが、すぐに自信に満ちた表情にしてしゃべりはじめた。


「はい。文は私のライバルですが……それゆえに、彼女のことを認めています。彼女は必ず……ここにやってきます」

「ふん……そうか」

「どうやら、それは正解なんじゃないかな?」


そういって諏訪子が指差すところには、不気味なスキマが展開されていた。


「あれはスキマ妖怪の……」

「……あっ! すいませんお待たせしました」


そういいながら出てきたのは例の烏天狗と外来人だった。

外来人を見た瞬間、三人は一瞬顔をこわばらせたが、この前文が話していたこともありすぐにもとの表情に戻していた。


「遅かったじゃないか。その分、きちんとした情報をもってきたんだろうね?」

「はい。情報どころかそれ以上のものを」

「それ以上? いったいなにを……!?」


神奈子は文の背後をみて驚いていた。

見覚えのある緑のロングヘアー・見覚えのある服装。忘れるはずもない少女がその場に立っていた。


「神奈子様……諏訪子様……」

「ご本人を連れてきました」

「早苗……」


突然の出来事にまだ驚いているのか、神奈子は以前と目を見開いたまま動こうとはしなかった。早苗はそんな神奈子にゆっくりと近寄ると、急に頭を下げた。


「すいませんでした!」

「……」

「すべて私が悪かったんです。それが原因で……あいつらに手を貸してしまいました」

「……」

「神奈子様と諏訪子様には大変ご迷惑をおかけしてしまいました。謝っても謝りきれないのは承知で……」

「もういい」


必死に詫びようとする早苗を、神奈子はその一言で止めた。


「えっ……」

「もういいと言ったのだ。無事で帰ってこれたなら……それでいい」

「神奈子様……」


神奈子は恥ずかしくなったのか、そのまま後ろを向いて早苗と目を合わせようとしなかった。


「まったく……神奈子も素直じゃないね~」

「うるさい……」

「まあ、何はともあれ、お帰り……早苗」

「諏訪子様……」


二人の気持ちを受け止めた早苗は、軽くな涙を流していた。


「いや~ほほえましいですね」

「それもそうだな」


そんな三人を見ながら、俊司と文は一息ついていた。


「天狗、あと外来人の少年、よくやった……礼を言うぞ」

「いえ、偶然脱出する際にともに行動できただけでしたので」

「そうか……いったい何があったというのだ?」

「はい。簡潔に説明させていただきます」


俊司はここにいたるまでにおきたことすべてを、簡潔になおかつ詳しく話し始めた。神奈子と諏訪子は、俊司が話を終えるまで表情ひとつ変えることなく話を聞いていた。


「ふむ……なるほどな」

「はい。ですので、あまりたいしたことはできていません」

「それはどうでもいい。早苗が帰ってきただけで十分だ」

「そっちのほうが辛かったろうに。まだ若いのにたいした少年だよ」

「そんなことないですよ」


そう言って俊司は笑みを返す。

それ以降、一同はたわいない話をして、短い時間をすごした。










数十分後


日も暮れ始め、俊司と文はそろそろ帰ろうとしていた。早苗は守矢神社に残ることにしたみたいで、おおむねそのことを伝えたあと、二人に何度もお礼を言っていた。


「では、そろそろ失礼します」

「最後に少年、名を申せ」

「あ、はい。里中俊司です」

「そうか……覚えておこう」


神奈子はそう言って、不自然ながらも笑みを返していた。

俊司はそんな彼女に一礼すると、携帯を使って連絡をとる。すると、10秒も経たない合間にスキマが展開された。

二人は見送ってくれる4人に別れを告げながら、スキマの中に入っていった。 
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