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戦国異伝

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第百二十二話 蘭奢待その六

「そして足利義満公、足利善政公も」
「その御二方もじゃな」
「はい、見られたのはいいですが」
 それでもだというのだ。
「まず義満公は」
「怪しい急死であるな」
「あれはやはり」
「そのことは言うでないぞ」
 氏康は大道寺の話を今は止めた。
「やんごとなき方にも関わるやも知れぬ」
「そうですな」
「それは言うでない。そして善政公は」
 もう一人の蘭奢待を見た者の話だ。
「苦し紛れのところがありましたな」
「あの頃既に幕府は大きく傾いていたからのう」
「はい、ですから」
「幕府の権勢を見せられようとしたのであろう」
 政を省みず美を追い求めたと言われる善政だが彼なりに幕府を何とかしようと考えておりそれ故の行動ではないかというのだ。
「しかしそれはじゃ」
「適いませんでしたな」
「応仁の乱が起こり今に至る」
 今の戦国の世にだというのだ。
「あの時でもう幕府はどうしようもなかった」
「善政公は苦し紛れですか」
「そうなった、あれの拝領は難しい」
「しかし織田信長は、ですか」
「いい頃合でもある」
 まずは機からの話だった。
「織田家は蛟龍が天に昇っておるところじゃ」
「尾張の蛟龍が」
「善政公の様に下り坂の時にするのではない」
「上る時だからこそ」
「頃合はよい。まず天の時がある」
 氏康はその機を天の時とした。
「そして都に近い、比較的な」
「岐阜ですか」
「そこにあることが」
 北条の白い服の者達がそれぞれ言った。
「それもありますか」
「織田信長にとっての利は」
「源頼朝は鎌倉におった」
 この地は今は北条氏が治めている、そうした意味でこの家には馴染みの場所だ。
「都から遠かったな」
「はい、実に」
「かなりの距離があります」
「そこじゃ、それが大きかった」
 頼朝の場合はそうだというのだ。
「もっとも頼朝があれを拝領したかったかというとな」
「それはわかりませんか」
「どうも」
「うむ、しかしどのみち難しかった」
 都から離れた鎌倉にいたからだというのだ。
「どうしてもな」
「地の利、ですな」
「それになりますな」
「織田家は都に近い」
 元からそうだったというのだ。
「これも大きい」
「都にすぐ向かえ手を打てる」
「それが大きいですか」
「そうじゃ、そしてじゃ」
 氏康はさらに言う。
「義満公も清盛入道もそうなるが」
「人の和ですな」
 ここで言ったのは北条氏の長老幻庵だった。 
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