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トーゴの異世界無双

作者:シャン翠
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第二十七話 ピクニック気分の昼食っていいよな

 授業は本当に面白かった。
 最初の授業は『魔法薬学』。
 魔法薬の作り方を教えてもらうのだが、方法もそうだが、それ以上に興味深かったのは、見たことも無い植物や果実だった。
 様々な薬草や毒草についても知識を得た。
 こんなに授業が面白いと思ったのは初めてだった。


 次の授業は『歴史学』だ。
 これはこの世界の歴史を学んでいく科目だ。
 その中で一番興味深かったのは伝承歴だった。
 古くから伝わっている数々の伝承などを紐解くのはとても面白い。
 ただ、やはり異世界だなと感じたのは、その伝承の中にドラゴンという文字があったからだ。
 その文字を見てからというもの、ドラゴンに会いたくてたまらなくなった。
 男なら一度でいいからこの目で見てみたい。
 ゲームではなく、この世界には実在しているのだ。
 その事実が、闘悟の知識欲を刺激した。


 他にも、伝説の魔法士や、禁じられた魔法など、今では失われたとされている数々の伝承にも目を奪われた。
 こんなふうに、こっちの授業では、日本と違って眠気など襲ってはこなかった。
 それどころか、時間が進むのが早過ぎて、物足り無ささえ感じていた。


 昼になると、クィルが傍にやって来た。
 そういや、ここには学食というものが無い。
 だから、ここの学生は弁当を持参するか、一度学園から出て昼食を食べに行くかの選択をする。
 だが、クィルの場合少し事情が違った。
 何と弁当を持参するのではなく、昼食がこの学園に届くのだ。
 さすがは王族だとしみじみ感じた。


 いつも昼食をとっているという広場に着くと、そこにはあのカニルがいた。
 彼女はクィル専属のメイドである。
 芝生の上には、大きなシートが広げてあった。
 その上には美味しそうな料理が用意されてあった。


「ここで食べるのか? 王女ともあろう者が?」


 普通ならもっと気品ある所で食べるのが王族なのではないかと思った。


「はいです。私ここが好きなのです。とても風が心地良くて」


 なるほど、確かに頬を撫でる風が凄く気持ち良い。
 ここならピクニック気分で楽しみながら昼食を食べることができる。
 ここに連れてきてくれたクィルの気持ちが理解できた。


「それにです、王女だからといって特別扱いは嫌なのです。できるだけ皆さんと同じ目線で過ごしたいのです」


 あの王にしてこの姫ありだな。
 民と同じ目線で過ごすことができる王族なら安泰(あんたい)だな。
 でもまあ、昼食が届くという時点で、平民とは少し離れてはいるが。


「さあ、頂きますです」


 闘悟とクィルとミラニがシートに向かおうとすると声が聞こえた。


「ねえねえ、アタシ達も一緒にい~かな?」


 そこにはメイムとヒナ、それにカイバもいた。


「オレはいいけど……クィルは?」
「とても嬉しいです」
「だってよ」


 三人の顔にホッとした様子が見て取れた。
 メイムが言うには、ミラニとはたまに一緒に食事をするが、やはり王女であるクィルとは距離を取ってしまっていた。
 何度も話しかけて仲良くなりたいと思ってはいたが、今まで一歩踏み込むことができずにいた。
 だが、闘悟が転入してきたことをきっかけにして、話し易い闘悟を間に入れることでクィルに近づくことに成功した。
 利用したみたいで闘悟には悪いが、闘悟の存在があったお蔭で、こうしてこの場にいられることに感謝をした。
 クィルもクィルで、自分は普通に接してもらいたいと思いながらも、持ち前の人見知りでなかなか友達を作れずにいた。
 彼女もまた闘悟のお蔭で、こうして大勢で昼食を食べられる機会を得ることができたことを嬉しく思っている。


「うっは~美味すぎだろコレ!」


 カイバがカニルが持ってきた料理を口にして感動していた。
 それはメイムやヒナも同じだったようだ。
 野菜や肉、果物などバランス良く作られている。
 見た目も味も最高ランクだ。


「カニルはお料理上手なのです」
「へ? これってカニルが?」


 闘悟は目の前の豪華な料理を見てポカンとする。


「はいです。カニルは家事の天才なのです!」
「へぇ、すげえなカニル!」
「お褒めに与(あずか)り恐縮(きょうしゅく)です」


 丁寧に頭を下げる。


「そっかぁ、やっぱ嫁さんにするならカニルみたいに家事ができる女の子がいいよな」


 闘悟のこの言葉の衝撃で体を硬直させたのはメイム以外の女性全員だった。
 褒められたカニルは頬を微かに染め「恐縮です」とだけ言う。
 基本無表情の彼女には珍しい反応だった。
 もう一人の無表情キャラのヒナは、料理に視線をぶつけて睨むように観察している。
 ミラニは何故か飲み物を気管に詰まらせたのか咳き込んでいた。
 クィルは、何かブツブツ言っている。


「料理……家事……お嫁さん……」


 何度も繰り返し呟いてはいるが、あまりにも小声なので聞き取れない。


「あはは~さっすがトーゴくん! たらしの素質アリだねぇ~」


 メイムが面白そうに笑う。
 失礼な奴だ。誰がたらしだ。
 メイムの言っている意味が全く理解できねえ。
 オレは褒めただけだぞ?
 こうして変な雰囲気が場を支配してしまった昼食タイムは終わりを告げた。


「……俺、忘れられてね?」


 ネコミミ男子が寂しく呟いていたのを知る者は誰もいなかった。
 
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