ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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フェアリィ・ダンス編~妖精郷の剣聖~
第五十五話 本質
「さっきの子は、リーファの彼氏?」
「コイビトさんなんですか?」
「ハァ!?」
「いや、お前ら・・・さっきのやり取り見てどうやったらその結論に至れるんだ?どう見てもそこまで行ってないだろ」
リーファが贔屓にしている酒場に向かっている途中にキリトとユイが切り出した。その言葉を聞いたリーファは石畳に足を引っ掛けてズッコケそうになったが、翅を使ってコケることを回避。そんなリーファを横目にソレイユはキリトとユイにさりげなくツッコみを入れた。
「そ、そうよ、ソレイユ君の言う通りよ。ただのパーティーメンバーよ、単なる」
「それにしちゃずいぶん仲良さそうだったよ」
「リアルでも知り合いっていうか、学校の同級生なの。でもそれだけよ」
「なるほどねー」
「何がなるほどなのですか、にぃに?」
「いや、苦労してるなって思っただけだよ」
「?」
何やら納得した様子のソレイユだが、ユイはソレイユのいっている意味が通じていない様子だった。そんなこんなで、リーファの贔屓にしている酒場である≪すずらん亭≫についた。中に入ると、時間のせいか客は一組もいなかった。奥まった席に座るリーファたち。ソレイユとキリトが隣同士、リーファがその向かい側に座る。
「さ、ここはあたしが持つから自由に頼んでね」
「(おれは何もしてないどころか、見捨てる気満々だったんだけどなー)」
なんていうことを心の中で思いながらもちゃっかりと注文するソレイユだった。
◆
「それにしても、えらい好戦的な連中だったな。ああいう集団PKってよくあるの?」
「うーん、もともとサラマンダーとシルフが仲悪いのは確かなんだけどね。領地も隣り合ってるから中立場の狩場だと結構出くわすし。インプもそうなんじゃないの?」
「ああ、そうだよ。つっても、インプとサラマンダーはそんなに仲が悪いってわけじゃないぞ。会ったらしとめるくらいだな」
実際に何度か出くわしたりして返り討ちにしたからな、と付け加えてリーファのおごりで頼んだ抹茶ケーキを口に含む。
「それに、シルフとサラマンダーが仲悪いのは初代領主たちのせいだろうよ」
「どういうことですか?」
チーズクッキーにぱくついていたユイがソレイユを見上げながら質問してきた。リーファのほうも同じような視線をソレイユに向ける。
「リーファって古参だけど最古参ではないのな・・・シルフの初代領主とサラマンダーの初代領主はライバル関係にあったんだと」
「ラ、ライバル関係!?シルフの領主とサラマンダーの領主が!?」
驚きの新事実にリーファは声を荒げてしまう。ほかの客がいなくてよかったね、と心の中で思いながらソレイユは言葉を続ける。
「ああ、結構立場とか無視して私闘してたみたいなんだよ。それに困った領民たちが領主を討たせてたまるかっていうことで始まったのが週末戦争だ」
「しゅ、終末戦争!?」
再び声を荒げるリーファ。だが、ソレイユは涼しい顔で訂正を求めた。
「字が違うぞ。終末じゃなくて週末だ」
「そんな文面上でしかわからないようなことはいいのよ!それよりどういうことなの?」
「名のとおりさ。週末にシルフとサラマンダーが戦争していた、それだけだよ。結局決着はつかなかったらしいけどね。それが発展しておこったのが東西戦争だって。まぁ、これに関してはめんどくさいので説明を省こう。それより、最近サラマンダーが妙に躍起になってると思うんだけど、そこらへんはどう思う?」
「たぶん、世界樹攻略を狙ってるんじゃないかな・・・」
「それだ、その世界樹について教えてほしいんだ」
今まで空気化していたキリトがリーファの言葉に食いついてきた。
「そういや、そんなこと言ってたね。でも、なんで?」
「世界樹の上に行きたいんだよ」
キリトの言葉にリーファはあきれた視線をキリトに向け、ソレイユは額を手で押さえながら呆れたように溜息を吐いた。
「それがこのゲームのグランド・クエストなんだけど・・・」
「うん。滞空制限をとるためには世界樹の上にある空中都市に最初に到達して、≪妖精王オベイロン≫に謁見した種族が≪アルフ≫っていう高位種族に生まれ変われて、滞空制限がなくなって自由に空を飛ぶことができるようになるんだよ」
「・・・なるほど・・・」
「それは確かに魅力的な話だな。世界樹の上に行く方法はわかってんのか?」
「根元にある大きなドームを潜り抜ければいいんだけど、サラマンダーの軍団を全滅させるほど強いガーディアンが守ってるんだってさ」
つまらなさそうにいうソレイユはワインに口をつける。そんなソレイユに同意するようにうなずきながらリーファは言葉を続けた。
「実はね、去年の秋ごろに大手のALO情報サイトが署名集めて、レクト・プログレスにバランス改善の要求を出したんだ」
「へぇ、結果は?」
「お決まりっぽい回答よ。当ゲームは適切なバランスの元うんちゃらかんちゃらって。一年もたってるのにクリアできないクエストが適切なバランスなわけないじゃない!」
若干興奮気味なリーファだが、バランス・ブレイカーなゲームで二年もクリアされなかったゲームをソレイユは体験している。デスゲームとなったSAO。その中にあるフィールドの一つ、ジェネシアス。それを体験しているソレイユからしてみれば、こんなゲームのグランド・クエストなんてわけないと思うのだが、引っかかるのは自種族の領主に聞いた王の言葉だった。
『あのクエストはクリア不可能だ』
どういう意味でクリア不可能なのかまだ解明したわけではないが、王とまで呼ばれるプレイヤーが負け惜しみでそんなことをいうだろうか。もっと深い意味があるのではないだろうか、と考え込んでいると隣から机を強打する音と叫び声が上がった。
「それじゃ遅すぎるんだ!」
眉間に深い谷が刻まれ、口元が震えるほど歯を食いしばった表情のキリトがいた。そんなキリトを冷ややかな表情で見ながら口を開いた。
「行儀が悪いし、うるせぇ」
「・・・驚かせてごめん」
そう言っておとなしく席に座りなおすキリト。ユイがキリトの肩に飛び移り、宥めるように手を這わせる。
「なんで、そこまで・・・?」
「人を・・・探してるんだ」
「ど、どういうこと?」
「・・・簡単には説明できない・・・ありがとうリーファ、いろいろ教えてもらって助かったよ。御馳走様ここで最初に会ったのが君でよかった」
そう言って席を立ちあがり歩いて行こうとするキリトに冷ややかな言葉が投げかけられた。
「一人で何ができんのよ」
「・・・何もできなくても、やらなくちゃいけないんだ」
「あっそ」
そう言って立ち去ろうとするキリトだったが、その腕をつかむ者がいた。
「・・・じゃあ、あたしが連れて行ってあげる」
「え・・・いや、でもあったばかりの人にそこまで世話になるわけには・・・」
「いいの、もう決めたの!!」
なにやら巻き込まれるような雰囲気になってきたことをソレイユは悟った、が脱出する手段はないに等しかった。
「あの、明日も入れる?」
「あ、う、うん」
「ソレイユ君も大丈夫?」
「・・・ああ、一応は」
ああ、やっぱり巻き込まれるのね、と思いながらも返事をする。それを聞いたリーファは立て続けに口を開いた。
「じゃあ午後三時にここでね。あたし、もう落ちなきゃいけないから、あの、ログアウトには上の宿屋を使ってね。じゃあ、また明日ね!」
そう言ってそそくさとログアウトしようとしたところで、キリトの声が響いた
「―――ありがとう」
その言葉を聞いたリーファは一回頷くとログアウトしていった。残されたのはソレイユとキリト、ユイの三人組だけだ。
「どうしたんだろ、彼女」
「さあ・・・今の私にはメンタルモニター機能がありませんから・・・」
そう言って首をかしげる親子にソレイユはあきれながら席を立って、すずらん亭を出て行こうとする。それを見たキリトは疑問に思い口を開いた。
「どこに行くんだ、ソレイユ?」
「ちょっとヤボ用。先にログアウトしていていいぜ」
それだけ言うと、すずらん亭を出て行く。向かう先は領主館。用があるのはシルフ領主サクヤである。
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
「とは来てみたものの・・・どうやって会うかな・・・」
現在地は領主館と思われる壮麗な館の前。そこでソレイユは悩んでいた。他種族であるソレイユがいきなり領主館に押し掛けたとしてもとても領主に面会させてくれるとは思わない。というよりも、もしさせてくれるのなら正気を疑う。
「ルシフェルに親書でも書いてもらえばよかったか・・・」
などとぼやいていると、突如首に両刃の剣が添えられた。だが、驚くことなくソレイユは両手を上げながら口を開いた。
「・・・どちら様?」
「それはこっちのセリフなんだけどね?」
明確な答えが返ってこないので、剣が首に添えられている状況でありながらソレイユは声のしたほうを向く。そこにいたのはセミロングな金髪をうなじで一纏めにした美麗な女性プレイヤーだった。その女性が醸し出す雰囲気から只者ではないことがうかがえる。
「(強い、な・・・)おれはソレイユ。領主サクヤに持掛けたい交渉があってきた」
「私はセリーヌよ。お生憎様、今日はサクヤは来ないわ」
「あら、そうなの・・・じゃあ、出直すことにするわ」
そう言って立ち去ろうとするソレイユだったが、セリーヌがソレイユのことを呼び止めた。
「もう一つだけ聞きたいのだけど、いいかしら?」
「手短に済むんだったら構わんよー」
欠伸をしながらそう答えるソレイユ。セリーヌはソレイユに突き付けていた剣を降ろすと厳しい表情を崩さずに口を開いた。
「あなたは、ナニ?」
これを聞いて思うことは誰しも同じだろう。つまりは、質問の意味が分からない、と。あなたは誰、という質問ならまだわかる。理解もできるし、返すことだって簡単だ。しかし、いきなり、ナニ?と聞かれて答えられるものがいるだろうか。質問の意味も意図も分からない。そんな質問に答えるものなどいないだろう。だが、ソレイユにはその質問はしっかりと理解できたらしい。
ふぅー、やれやれといった感じで溜息を吐いてから口を開いた。
「質問に質問を返すようで悪いけど、なんでそんなこと聞くんだ?」
「・・・あなたと“王”が同じような雰囲気をしているからよ」
「へぇー」
ここで言う“王”と呼ばれる人物は一人しかいないだろう。すなわち、シルフの王≪天翔の風神≫ユリウス。彼の正体を知っているソレイユは“それ”を見抜けたセリーヌの眼力に関していると、再びセリーヌが口を開いた。
「だけど、同じようでありながらその質は全く別物だと感じたの」
「そこまで気付いたのか。なかなかな慧眼なことだな」
肩を竦めながら言うソレイユにセリーヌはもう一度(今度は眉間)剣を突き付ける。幸い刺さることはなかったそれを見事な突きだなぁ、とソレイユは心の中で賞賛する。
「お答え、願えるかしら?」
「ん~、そうだねー」
そういって困ったように笑いながら後頭部をワシャワシャと掻く。が、おちゃらけた雰囲気は一瞬で変わった。
「っ!?」
ソレイユの雰囲気に当てられたセリーヌは背筋に悪寒が走り、咄嗟に距離を置こうとしたが思うように足は動かなかった。そんなセリーヌの様子を見たソレイユは不敵に笑ってから一言だけ口にした。
「―、かな」
後書き
さぁて、新たなキャラクターが登場してしまいました!!
ルナ「一体この小説って何人のオリキャラが登場するの?」
それはまだ秘密。
ルナ「じゃあ、ソレイユは最後の一言は何て言ったの?」
それもまだ秘密。
ルナ「・・・・・・」
まぁ、あれだ。物語が進むにつれて今までにはぐらかしてきたところは明かしていくつもりなので楽しみに待っていていただけると幸いです!
では、今日はこの辺で!
感想などお待ちしております!!
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