万華鏡
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第二十五話 夜の難波その四
「コシのあるいいお店よ」
「じゃあここにするか」
美優は里香のその言葉を聞いて言った。
「何か難波っておうどん屋さん多過ぎて何処にしようかっていうと迷うからな」
「そうよね。ここは景子ちゃんの勘を信じて」
彩夏もそれでいいとした。
「ここにしよう」
「私も。難波のお店は何処も美味しいし」
里香は既に知っていた、食いだおれの本場では競争が激しいうえにそもそも店を出すこと自体がかなり大変だからだ。
「じゃあここね」
「じゃあきつねうどん五つ」
「それね」
こう話してだった。
五人で店、典型的なうどん屋の内装の店に入ってそうしてだった。
この店では五人並んでカウンターに陣取りこの言葉を出した。
「きつねうどん五つ」
「お願いします」
「はい、けつねだね」
皺が目立つおじさんが応じてきた。
「それだけ」
「けつね?あっ、きつねですね」
「それのことですね」
「大阪じゃけつねって言ったんだよ元々はね」
おじさんは早速作る用意をしながら言う。店の中には五人の他に十五人程の客がいて皆うどんなり丼なりを食べている。
その店のカウンターの奥からおじさんが言ったのだ。
「訛りでね」
「それでけつねですか」
「そうなんですね」
「そうだよ、それでけつねをだね」
「はい、五つです」
「五つお願いします」
「あいよ」
おじさんは笑顔で応じた、そしてだった。
暫くして五人の前にそのきつねうどんが来た、黒いうどんの碗の中に湯気を出すそのけつねうどんがある。
揚げに蒲鉾に葱、具はそれだった。
琴乃はその揚げを見て目を細めさせていた。
「揚げいいわよね」
「何でもない感じのものの筈なのにね」
「揚げがあるとね」
もうそれだけでだと、四人も言う。
「全然違うから」
「凄く美味しくなるから」
「揚げって不思議よね」
琴乃はその揚げを箸に取って言った。
「本当にね」
「これ一枚だけでもだからな」
美優も揚げを箸で取っている、そして見ている。
「凄い食べ物だよな」
「私揚げ大好きなのよね」
「あたしもだよ」
琴乃と美優は顔を見合わせてにこりとして話した。
「食べ過ぎたら狐になるって言われたけれど」
「あはは、狐って揚げだからな」
「というか何で狐って揚げなのかしらね」
彩夏もその揚げを見ながら言う。
「それがわからないけれど」
「一応お稲荷さんが狐でね」
景子は神道の話をした。
「そのお稲荷さんが揚げが大好物だから」
「それでなの?」
「狐は揚げなの?」
「狸も好きだけれど」
地方によっては揚げを入れている蕎麦がたぬきそばとなる、天かすを入れたものがそうである地方もある。
「やっぱり揚げっていったらね」
「狐なのね」
「そうなるのね」
「うん、そうなの」
景子はこう言う。
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