戦国異伝
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第百二十一話 四人の想いその十四
「我等は殿の家臣です」
「それに忍です、武士ではありませぬ」
「それで友というのは」
「あまりにも」
「いや、友だ」
あくまでこう言う幸村だった。
「御主達もな」
「忍であってもですか」
「ははは、皆武士に取り立てているではないか」
幸村は十勇士達に笑ってこうも言った。
「違うか」
「確かに武士の身分として禄も頂いています」
これも事実だ。幸村の直臣として皆共にいるのだ。
「しかしそもそも忍です」
「ましてや主君である殿と友とは」
「恐れ多いにも程があります」
「わしはそうは思っておらん」
恐れ多いと思っていないというのだ。
「家臣であろうと何であろうともだ」
「友ですか、我等は」
「そうなのですか」
「そうじゃ」
その通りだというのだ。
「御主達もまたわしにとって掛け替えのない友じゃ。友とは何か」
「友とは一体」
「何なのか、ですか」
十勇士達にとってはこの言葉も意外なものだった。だからこそ幸村に顔を向けそのうえで彼の言葉を待つのだった。
幸村はここでさらに言った。
「心を許し合い信頼し合い助け合う者達じゃ」
「それが友ですか」
「身分に関係なく」
「身分なぞ大したものではない」
幸村の中ではだ、もっと言えば日本の中自体で西洋と比べれば身分はかなり緩やかなものだ。
「現に御主達も武士ではないか」
「殿に任じられ」
「そしてですな」
「うむ、わしも御主達も武士だ」
それに他ならないというのだ。
「最早な」
「そして友である」
「そうなのですね」
「よいか、友だからこそじゃ」
「友だからこそ」
「今度は一体」
「生まれた時は違う」
まずはそれが違うというのだ。
「そして生まれた場所も違うな。だが」
「だが?」
「生きるその間と場所は同じじゃ」
今こうしてここにいる様に、そうなっているというのだ。
「そして死ぬ時と場所も同じでありたいな」
「友だからこそ」
「そうありたいのですか」
「明の書で三国志演義がある」
幸村もよく読んでいる書の一つだ。智勇兼備である彼のその智は書からも多くのものを得て出来
「その桃園の誓いで言っていたことじゃ」
「あれでは確か義兄弟でしたな」
海野がそのことを言ってくる。
「そうでしたな」
「そうじゃ。即ち我等が」
「義兄弟でもあるのですか」
「そうなのですか」
「わしはそう思っているがな」
こう笑顔で言う。
「わしはな」
「我等は義兄弟同士ですか」
「死ぬ時と場所も同じくする」
「わしが勝手に思っているだけじゃがな」
「いえ、殿がそこまで仰るのなら」
「我等も」
十勇士達は幸村の傍に集まる様にして言った。
「では宜しくお願いします」
「心を同じくする家臣であり友であり義兄弟として」
「これからも」
「頼むぞ」
幸村自身も笑顔で応える。
「それではな」
「では殿、これよりですが」
「また共に飲みますか」
「うむ、そうじゃな」
幸村はこのことも笑顔で応える。
「それではな」
「そして今度は茶も」
「それもですな」
「共に飲もうぞ」
「では我等十勇士」
幸村の心を受け、そのうえでの言葉だった。
「死ぬ時、死ぬ場所は殿と同じです」
「一人として欠けることはありませぬ」
「ですから今も」
「共にいましょうぞ」
こう話してだった、彼等はこれまで以上に幸村に対して深い敬意を抱くのだった。その敬意はかなり大きなものだった。
第百二十一話 完
2012・1・8
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