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八条学園怪異譚

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第二十五話 飛ぶ魚その十五

「君達が中に入って調べて出てじゃ」
「私達が出てそうして」
「その後で、ですね」
「また蓋をする」
 勿論釘もしてそのうえでコンクリートも元に戻してだ。
「それで安心じゃ」
「そういうことですね、それじゃあ」
「今から」
「そうじゃ、ではよいな」
「はい」
「それで」
 二人は今は短い声で応じた、そうしてだった。
 早速蓋が開けられてそれは井戸の傍に置かれた、二人はその開いた井戸の中に入ることになった。その際に。
 海和尚は二人に顔を向けてこう言った。
「宙を歩けるぞ」
「あっ、ですね」
「こうして」
 二人は宙を階段が進む様にして登りだした、平坦に歩くことも出来た。
 その不思議な違和感も楽しみながらだった。96
 二人は井戸の中を垂直に降りて、今度も階段を降りる要領で進んでだった。
 井戸の底まで来た、だが。
 水のない地面があるだけだった。井戸の中は完全に枯れている。
 二人はその井戸の中、苔むした匂いの丸く狭い中で顔を見合わせて話した。
「井戸の中がどうなってるかはわかったけれど」
「それでもね」
「うん、ここでもなかったわね」
「この井戸の中でも」
 残念な顔で話すのだった。
「また別の場所ね」
「そうなるわね」
「どうだったか」
 上から日下部の声がしてきた。
「泉だったか」
「違ったです」
 聖花が上を見上げて答える。
「ここも」
「そうか」
「はい、今から戻ります」
 聖花は再び上にいる日下部に返した。
「ここにいてもあれですし」
「井戸の中には長くいるものではないぞ」
 海和尚の声もしてきた。
「井戸は水を汲むところじゃ」
「中に入っているものじゃないんですね」
「そうじゃ」
 だからだというのだ。
「わかったな」
「はい、それじゃあ」
 聖花が応じてそうしてだった。
 愛実も上を見上げてそのうえで上にいる日下部達に言った。
「今から戻りますから」
「わかった、ではな」
 今度は日下部の声だった。そしてだった。
 二人は外に戻った、すると外は相変わらず魚達が泳いでいる。
 そして日下部達もいる、タイマイが出て来た二人に言ってきた。
「じゃあ今日はどうするの?」
「ううん、ここも泉じゃないし」
「だからね」
 二人は微妙な顔になって述べる。
「だからもうね」
「帰ろうかなって思ってるけれど」
「そうなんだ、じゃあ今日はこれで」
 タイマイはホバリングしたまま応える。
「また今度ってことでね」
「いや、ちょっと」
「もう少しいたいとも思ってるけれど」
 二人は周りを泳ぐ多くの魚達を見回しながら考えを変えた。
「そうしていい?」
「何かこの風景って凄いから」
「宙を跳ぶお魚さん達ってね」
「ちょっと見られないから」
 だからもう少し見たいというのだ。実際に二人は目を輝かせてそのうえで宙を飛ぶ魚の幽霊達を見続けていた。 
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