ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五十一話
城門に辿り着く前に詰所へ寄った俺たちは、まずシルヴィアに寝むことを命じた。
ここに残っている支援専門のメンバー達は既に寝んでいたが、交代で定まっている連絡番にベオウルフの所在を尋ねると、既に起きて城門へ向かったとのことで、俺たちは星明かりを頼りに城門へと向かうことにした。
……城門に着いてから守備隊の部隊長に挨拶を行い、レイミアと別れると城壁の上へと向かった。
東と北の城壁の下は急峻な崖となっており、西と南の城壁の上に見張りと休憩中の兵の姿があったので、一人一人に声をかけていった。
守備隊や衛兵に所属している者は俺に胡散臭そうな視線を隠そうともしないが喧嘩を売られたりはしなかっただけ良しとしよう。
無駄足になるとは思うが、念の為東や北の城壁のほうへも足を伸ばす。
東の城壁の上を歩いてると何か固い物同士が当たるような音が聞こえた。
灯りをかざし、音が聞こえた方角へ向かうと、何か布がこすれるような音と共に潜めた息が聞こえた。
急いでその場に辿り着くと今にも城壁に登りつきそうな何者かの姿が目に入る。
誰何はせず、突きかかった槍に手ごたえと悲鳴を残して犠牲者が地面に落ちて行く。
わずかな時差と共に、地面との衝突の結果を想起させる鈍い音を響かせた。
灯りを足元に置いて城壁の外側を覗きこむと落下した者を抱えて逃げて行く幾人かの姿があり、鉤爪を模したフックのついたロープが残されていたので回収し、同じ物が無いか確認したが見あたりはし無かった。
北の壁を急いで確認するか迷ったが、同時に行動を起こしていたら間に合いはしないだろうと、西や南を見張っている守備隊に伝えることにして駆け出した。
……報告後、東と北の城壁にも少しだけ見張りを置いてもらうことに、そして街への侵入者が居ないかと衛兵達は総出で街をしらみつぶしに調べ回った。
街にある井戸の内、二か所に毒が入れられようとした寸前で止めることが出来たそうだが、衛兵が三人命を落とすことになった。
その後、交代で睡眠を取り、起こされたので城門へと再び向かった。
夜明けと共に敵軍は再び攻めかかってきた。
今度は最初から弓箭隊が城壁の上で待ち受けており、突撃してくる敵兵を撃ち抜いて行く。
俺も多少は心得があるのでブリギッドの隣で弓を撃つ。
さすがにイチイバルを持ち込んでは来なかったが流石はウル直系、既製品の弓で面白いように敵を射抜いて行った。
俺の方は誇れるほどの精度は無いが、腕力を頼りに直射する剛弓を借り受け、弾幕のようにして敵を寄せ付けないという役割もあるので撃ち続けた。
敵方からもこちらに矢を撃ち返しては来るものの下から上に撃つ敵軍に比べ、こちらは上から下へ撃ちおろす訳だから矢の勢いが違い過ぎた。
矢戦での不利を仕方なく認めた敵軍は一度引いて体勢を立て直すようだ。
昨日行った予想は当たり、敵軍はこちらの矢の有効射程ぎりぎり辺りを目安に上半身を縄で縛った人々を幾人か引きずりながら連れて来た。
「腰ぬけのダーナ人! 開門し、降伏しなければお前らの仲間を一人ずつ殺す!」
「助けてください! 私は商売に来ただけなんです。何も悪い事はしていないんです!」
「……どうだ、臆病者ども! お前らのところに向かってきた奴らだ、もしこういう奴らを助けなければ二度とお前らと商売しようって奴は来なくなるぞ!」
「助けてくれー!」
「これは、ただの脅しじゃあ無い」
そう言うが早いか敵の代表は捕らえていた商人の両足に剣を突き刺し、その後、脇腹に浅く剣を埋めた。
彼の上げる苦しそうな叫びに思わず顔を顰めてしまう。
その場に彼を投げ出した敵の代表は声に愉悦の色さえ帯びさせながら
「この男がじわじわと苦しみながら死ぬのを眺めてやろう。 こいつが死んだら次の奴だ。早く我々の要求を受け入れよ!」
その様子を見てから城壁から降りると、門から打って出ようとする者とそれを止める者とで騒ぎになっており、レイミア隊は一纏まりになって騒ぎから距離を置いていた。
俺の姿を認めた彼女は腰に手を当て、げんなりした顔を見せた。
「あぁ、さっき役人さんが来て行って、守備隊の隊長さんの言う事を聞くなら戦ってもいいってさ」
「……じゃあ、指示を仰ぎに行こう」
ベオウルフにその場を任せて俺とレイミアが向かおうとすると、守備隊は正門の閂を開けて我先にと突撃して行く姿があった。
「こいつはマズイな……、負けて引き上げて来るだろうから俺たちはバックアップと門閉めに回ろうか」
「弓箭隊は城壁上に待機、味方が城内に引き上げようとしてきたら援護!」
城壁の上から俯瞰している訳では無いので状況が良く見えないが、順当に行けば守備隊は蹴散らされるはず……
それを防ぐ為に打って出ても、蹴散らされる規模が拡大するだけでなんの解決にもならないということに歯噛みしながらも、一人でも多くの味方が帰りつけるように願うばかりだ。
どれくらいの時が過ぎただろう、薄曇りの中なのではっきりしないが太陽は中天近くまで昇っているのが時折見て取れる。
正面では干戈を交え巻き上がる土埃が立ち昇り、打ち合わされる金属の音、怒号、悲鳴……
勝負付けが済んだのかどうなのか、遂にこちらへ向かってくるわずかな人の群れが目に入る。
もちろんダーナの守備隊だ。
その中には人質にされた民間人を抱えた者も居たが、あとわずかという所で背後から斬りつけられ、もんどりを打って倒れた。
既に敵軍の中に飛び込んでいた俺は、縦横に槍を振るい、倒れた民間人が必死に逃げようとするのを援護した。
俺に追随し、味方を指揮するレイミアの姿を目の端に認めた。
逃走中の守備隊員が民間人を保護し、門の中へ逃げおおせたのを見届けたので、彼女と互いに援護し合いながら少しずつ後退し、城門前まで戻り付いた。
「敵の勢いが強い! 門を閉じれないから押し返すぞ!」
「オッケー! ほとんど一対一だ。 アタシらに勝てる相手なんざ居ないって見せつけてやろう!」
「応!」
……肩を並べて戦う俺とレイミアは何人の敵を殺したのか、二十人を超えたあたりで数えるのを辞めた。
だが、乾いた音を立てて何かが割れた音が聞こえた後、彼女の舌打ちの音が聞こえた。
大剣の刀身はなんともないが柄の部分が折れてしまい、慌てて抜いた小剣で防戦に追い込まれているレイミアの姿があった。
俺がかつてドリアス伯爵から贈ってもらった剣を鞘ごと渡そうとしたが、正面の敵に油断がならず、それもままならない。
彼女の小剣は物打の部分が折れてしまい、慌ててそれを投げつけた彼女は……
「こいつを借りるよ!」
いまだ俺には引き抜けない、かつて大賢者ハルクから授かった長剣----いつも背負っている----に、手をかけると一気に引き抜き目の前の敵を切り捨てた。
「……こりゃ凄い、ほとんど重さを感じない!」
"答える者"を手にしたレイミアの勢いは凄まじく、一振り毎に死者を生み出すだけで無く、斬られた敵の背後の者は剣圧によるものなのか打ち倒され、細かな切り傷を無数にその身に負い、苦痛にのたうちまわる様を作りだした。
生き延びた者達が、彼女に"地獄のレイミア"という二つ名を付け、恐れ、語り継いで行くことになる………
俺も奮戦したつもりではあったが……実力の差が歴然とした相手を目の前にした。
筋骨隆々としたその姿は、敵側の大将を若返らせたかのような姿であり、ねっとりした夜の海のように黒々とした髪を無造作に流し、眼差しは鋭く、熱した石炭のような焔を宿していた。
雰囲気だけで危険を察した俺は、槍の間合いを維持し、防御に専念することに定めた。
思わずすくみそうになる己を叱咤するために声を張り上げた。
「……ここから先は通さん!」
「哀れだな、自分の運命を呪え……」
そう互いに言葉を交わすが早いか、相手の剣が閃き、俺を襲う。
……剣による打ちこみをなんとかいなした、しかし、相手が斧に持ち替えたその刹那、一瞬に間合いを詰められ……盾を割られ、肩当ては吹き飛び、胸甲には大きなヒビが入るほどの斬撃を浴び、受けた打撃の衝撃に吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。
槍を手放し、夢中で腰から引き抜いた剣で次の一撃を受け止めることが出来なければ……命が無かっただろう。
いや、ほんの僅か死ぬ迄の時間が延びたに過ぎない……
諦める訳には行かないと睨みつけると、俺と、この危険極まりない相手の間に矢が間断を置かずに撃ち込まれた。
この援護を利用して立ち上がり、肚に力を込め、雄たけびを上げると、相手は斧を投げつけた。
………狙いは俺では無く弓箭隊だったようで、凄まじい音が城壁から聞こえた。
それに注意を奪われた一瞬の間に剣を拾い上げた相手は、まだ息のある仲間を担ぎあげ後退して行く。
「詰所に戻って鎧を替えてきな……浜で使った奴があるはずだよ! ……ベオ! ミュアハの後退を援護!」
カバーに入ってくれたベオウルフにいったん城門前を任せると、彼女の指示に従って城内に戻った。
アジトに戻り、武具置き場の箱から鎖帷子と革の胸当てと肩当てを引きずりだした。
手入れが少し遅れたせいか赤錆が所々浮かんだ鎖帷子だが、用を為せばいいと割り切り、支援員に先程の戦闘で受けた打撲の治療を手伝ってもらい……シルヴィアの姿が見あたら無いので尋ねてみると、城門近くに設営された野戦病院へ手当ての手伝いに向かったと話に聞いた。
……情報には礼を述べたが、心の中で舌打ちを禁じえない。
野戦病院に居るというならとりあえずは安心だろうと、俺は彼女の所在を頭から切り離し、再び城門前に戻った。
城門前には守備隊の副長と、あと数人が敵を防いでいた……
「レイミアとベオウルフは?!、あぁ、うちの士官です、ここを守っていた……」
「西のほうに取り残された部隊が居るので救援をお願いしました……申し訳無い…」
無数の浅傷を負った彼は苦しそうなので下がるように伝えると首肯してくれたので、ひとまず、俺を中心にレイミア隊の残りで城門前の守備に就いた。
敵が押し寄せる勢いは先程より弱まったと感じたが……、気を抜けば一気にここを抜かれるだろうと思うと一瞬の油断さえならない。
敵軍の中からざわめきが聞こえたと思ったところ、遥か前方のほうから煙が幾筋も立ち昇っていた。
……潜入させていた者達が輜重隊に火でもかけてくれたのだろうか。
浮足立った敵兵は撤退の声を聞いて及び腰になりながら後ずさっていった。
なんにせよ、ここは攻め時に違いない。
「敵の後方から火の手が上がって大混乱している! 動ける者は俺に続け!」
そう号令をかけると、守備隊の者も一丸となって引き上げて行く敵兵を次々と討ちとっていった。
弓箭隊の攻撃を受けてバランスを崩したり、倒れた者へ容赦なくトドメを差して行き、猛った復讐心を満たしていった………
追撃戦のさなか、深追いの危険性を考えて足を止め、注意を促す声を周りにかけ、全体を止まらせた。
すると、俺の前方数メートルほどに投槍が何本も突き刺さり、軽く地面が揺れた。
はっとして頭上を見上げると黒い点がいくつも、視認出来る距離には十騎余りの竜騎士の姿があり、次々と投槍を投げつけて来た。
「城門まで引けー! 敵の増援だ!」
俺は枯れんばかりの声で叫び、敵の注意を引きつけようとした。
すると俺をめがけて幾本かの投槍が投げこまれたが、後ろを向いて逃げ出したわけではないので転がったり、槍ではたきおとしたり、敵の遺体を盾にして防ぎ続けた。
投槍を投げ尽くした飛竜から戦場を離脱していったが、それでも一騎の竜騎士が旋回を続けている。
少しずつ後ずさりながら城門を目指し、弓箭隊の射程に引きずりこもうとしたが……
急降下してきたその一騎、風圧で巻き上げられたこまかな塵や砂に目をやられないよう細め、それでも状況を注視し続けると……
「……こんな所で出会うとはな。 忘れはせぬぞ!レンスターの小僧!」
「お前は……トラバント!」
「仕事は終わったが……こんな余録があるからこそ戦場は面白い」
「……おい。 仕事が終わったなら俺に雇われる気は無いか?」
駄目もと、もしくは時間稼ぎというやつだ。
トラバントは手綱らしきものを残った右腕の二の腕に縛りつけ、それで操っているのだろうからたいした技量だ。
鞍に幾重にも巻かれた革紐で自身を結び、騎竜とは一蓮托生の覚悟が読み取れる。
………左手には、あの時と同じ神器、グングニル。
「戯言を……雇い主を選ぶ眼力くらいは備えている」
「そう言うな、あの時は互いの巡り合わせの結果に過ぎない。 おぬしとて、トラキアの民の腹が膨れるなら、つまらないしがらみに目を瞑る度量は持ち合わせているはず」
「ふん………知ったようなことを。命乞いならもう少し殊勝な態度をすべきだな」
「殺るつもりなら、とうにその槍で俺を串刺しにしてるだろう?」
奴は手綱を操ると飛竜を少し浮かせ俺をねめつけた。
「甘く見るなよ小僧、いつでも貴様ごとき片づけられると思ってのことよ!」
そう言うが早いか左手に輝く恐怖の先端を俺に投げつけた。
間一髪、避けることが出来た!
これで奴の攻め手は消えたどころか、神器を失うことにすらなりかねんはず!
勝ったと思い、奴を見るとその左手には……グングニル? が? 刺さったはずの場所を慌てて見やると、大地には穿たれた穴が開いていただけだった……
「よくぞ避けた! だが、次はどうかな」
奴はそう宣言すると、再び俺に投げつけた。
避け切れず思わず槍の柄で防ぐが、真っ二つに柄が切断され、勢い余った刃が鎖帷子すら切り裂き、俺の腹部に浅くは無い傷を付ける。
奴を見やると、もうその左手には危険極まりない槍が握られている。
……これじゃあ【本物の】グングニルと変わらないじゃないかよ!
傷は痛むが、奴は余裕ぶっているのでそこに付けこむ隙はきっとあるはずだ。
……次に放たれた致命の一撃は、地に伏している遺体を盾にして防いだが、やはり勢いを殺し切れず浅い傷を受け、新たな痛みに顔を顰めた。
状況は絶望的だが、諦めるな……
「それ以上好き勝手はさせないよ!」
馬蹄の響きと共にブリギッドの声が聞こえ、彼女は馬を走らせながら一射、その馬から身を翻らせながら空中で一射したのはトラバントの致命の一撃で馬が犠牲になったからだ。
地面を転がり起き上がってからさらに一射を加え、俺も折れて半分になった槍を投げつけたが穿たれた傷に激痛が走る。
「小僧、命拾いしたな。 せいぜいその命、大事にすることだ!」
トラバントが去ることによりなんとか命拾いした俺は、彼女に礼を言うと剣帯から鞘ごと剣を外すと杖代わりにして歩きだそうとしたが、彼女は肩を貸してくれたので遠慮なく甘えることにした。
「あんなオマケが居たとはね……まずは、街に戻ろうか。 敵は引いていったけど……」
言葉を途中で濁らす彼女に深く追求せず、俺は懸命に足を動かした。
途中、徒歩で俺の援護に向かいに来てくれた者達に礼を述べ、城門へ辿り着くとベオウルフ、そして久しぶりのヴォルツの姿があった。
俺の姿を認めると駆け寄ってくる姿があった。
泣き腫らしたように目を真っ赤にした彼女は、俺の側にくずおれるようにしゃがみこみ、わんわんと泣きわめきだした。
「大丈夫、生きて戻ったから」
「……ごめんなさい」
ヴォルツもベオウルフもブリギッドも沈痛な表情を浮かべた。
「……あたしのせいで、あたしのせいでレイミアが!ごめんなさい、ごめんなさい……」
いったい何があったというのか………
後書き
あの剣士は若き日のガルザス
そして出典元の性能により近いグングニルを携えたトラバント
今回は相手が悪かったですね!
リボー軍と同時にトラキア竜騎士が攻撃をかけられなかったのは距離がありすぎて連絡が密に行えないからと考えました。
グランベル友好都市相手なので依頼だけ受けて日和ったのかもしれませんが。
ゲームならマップの端と端に離れていても情報がつたわりますけれどもw
一度リボーに集結してからダーナへ攻めれば?というのは飛竜がエサ無しで飛べる航続距離の限界を超えていると思います。(キュアン・エスリンを襲った時はアルヴィスなりグランベル側の手配でダーナで補給を受けていたんでないかなと推測、その頃にはダーナ襲撃より3年経過してますしダーナもそこそこ復興していたのではないかと) アルスターとトラキアの国境には防空砦なんかもあるようなので、それを避ければさらにイザークまでの距離はかかりそうですし。
・・・作者の中では、飛竜ってもっと航続距離短いイメージ。
ページ上へ戻る