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トゥーランドット

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第一幕その四


第一幕その四

「この娘もそう申しておる。見たところそこにいるご老人はそなたの父君のようだが親より先に死ぬなどということがあってはならぬぞ」
「そうじゃ、それは一番の親不孝」
「むざむざ首を切られに行ってすることではないぞ」
「いや、それは違う」
 カラフは諭す彼等に対して昂然として言った。
「私は草原の狼の子、その高貴なる血が私に力を与えてくれている」
 彼は自信に満ちた笑いをたたえて言った。
「その血がある限り私は勝つ。そして姫を手に入れるのだ」
「だから言っておろう、それは愚か者の戯れ言だと」
 彼等は呆れたような顔をして言った。
「今までそう言って何人もの者が命を落としている」
「お主もそうはなりたくはないだろう、いい加減に聞き分けよ」
「そんなに行くというのならまずはあれを聞いてからにするがいい」
 そう言うと城壁の方を指差した。
「?」
 カラフ達は宦官達が指差した方へ顔を向けた。そこは城門の方である。
「そなたも知っている筈だ。あの城門のところに何があるかを」
「勿論」
「ならばあの姿も声も見え聞こえる筈だな」
 城門の上の壁に多くの影が現われた。
「あ・・・・・・」
 ティムールとリューはそれを見て声を失った。そこに現われた者達の身体は半ば透けていた。そしてその姿は虚ろであったのだ。
 亡霊であった。彼等は虚空を見上げていた。
「あれは・・・・・・姫に愛を告白した者達だな」
 カラフはそれを見て言った。見れば先程首を刎ねられたあのペルシャの王子もいる。
「そうだ。そして若い命をこの場で落としたのじゃ」
「生きておればまだ多くのことを楽しめたというのにのう・・・・・・」
 彼等は悲しそうな声で言った。
「聞くがいい、あの者達の嘆きを」
 そこから何かが聞こえてきた。
『ためらうまいぞ、再び姫に会うことは。だが我等は最早この世の者ではない』
 彼等は恨めしそうな声で言っている。まるで地の底から響いてくるような声だ。
『もう一度命を与えられたなら再び姫の下へ、そして今度こそ愛を我が手に』
 彼等はそう言うと姿を消した。後には蒼白い月だけが残った。
「聞いたか、あの声を」
 宦官達はカラフに顔を戻して言った。
「この世にまだ未練があるがああして浮かばれず縛られているのだ。あれ以上の苦しみがあろうか」
「そう、お主もああはなりたくあるまい」
「これでわかったじゃろう。さあ、早く立ち去るがいい」
 だがカラフはそれにも耳を貸さなかった。
「素晴らしい、死しても尚愛を忘れぬか」
 彼はあの亡霊達の言葉に感嘆して言った。
「なっ!?」
 これには宦官達も呆れた。ティムールもリューも驚愕した。
「それ程魅力のある人ならば是非とも手に入れたい。そして我が妻とするのだ」
「・・・・・・・・・」
 宦官達は沈黙した。そして再び口を開いた。
「いい加減に人の話を聞かぬか!」
 最早完全に激昂していた。
「そうして自分の命を粗末にするなと何度言えばわかるのじゃ!」
 彼等は口々にカラフに対して怒鳴りつける。
「そなたには親もいるのだろう、そうして死に急ぐなと言っておるのだ!」
 だがカラフはそんな彼等に対しても心を動かされない。
「こちらも何回も言っているだろう、そんな心配は一切不要だと」
「貴様は人の話が理解出来んのか!」
 三人は一斉に怒鳴った。そこに宮廷の侍女達が現われた。
「もし」
 彼女達は宦官達に対して言葉をかけた。
「ムッ、何じゃ?」
 彼等はそちらに顔を向けた。
「姫様はもうお休みですので。あまり叫ばれると」
 侍女達は彼等を嗜めに来たのだ。
「おお、そうであった」
 彼等は姿勢を正して宮城の方を見た。刑場のすぐ側にもその豪壮な城はあった。
「いかんいかん、危うく我等の首が飛ぶところであった」
 彼等は気を鎮めながら言った。
「まだ死にたくはないからの」
「はい、お気をつけあそばせ」
 そう言うと侍女達は去っていった。後には再びカラフ達と宦官達が残された。
「成程、あの城に姫がいるのか」
 カラフは宮城を見上げて言った。
「そうじゃ、それもすぐそこに姫のお部屋がある」
 宦官達は宮城の一部を指差して言った。
「そなたも感じるじゃろう、あの氷の様な冷たさを」
 彼等は小声で言った。
「のう、もうわかったじゃろう。姫様は半ばこの世の方ではない」
「そう、仙界に住む神のような不思議な方なのじゃ」
 彼等は小声でカラフに対して言った。
「人は女神とは結ばれぬ」
「ただその美しさを遠くから見るだけなのじゃ」
「だから、の・・・・・・」
 そして彼等は一息置いてこう言った。
「大人しく諦めるがいい」
 しかしカラフはそれでも首を縦には振らなかった。
「そうか、女神か。それはいい」
 不敵に笑って上を見上げた。
「益々私に相応しい女だ。是非ともこの手にしなくてはな」
「まだ言うか・・・・・・」
 彼等は呆れ果てた声で言った。
「そうだ、姫に求婚することの宣言にはあれを使うのだったな」
 カラフはそう言うとその場を足早に立ち去った。
「あっ、お待ち下さい!」
 リューとティムールがそれを追う。
「ええい、待つのじゃ!」
 宦官達も追う。カラフはそれに構わず刑場の端へ向かった。
 
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