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IS《インフィニット・ストラトス》‐砂色の想い‐

作者:グニル
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2学期の始まり

 今日はSHRと1限目を使って生徒会から今月ある学園祭についての説明があるとのことで全校生徒が体育館に集まっています。1クラス約30名×4クラス×3学年。およそ400人、一夏さん以外その全てが女子生徒。前にいる一夏さんの背中は心なしですが小さくなっているように見えます。周り99.9%女子ですからね。しょうがないです。そういえばのほほんさんがいないんですけど……他の人に聞いても知らないって言いますし、でも織斑先生は何も言いませんでしたしいいんでしょうか?

「やあやあ皆さんこんにちは。今年の一年生はほとんどが初めましてかな? 私の名前は更識楯無。生徒会長を務めさせてもらってるわ。以後よろしく」

 私が周りを見渡しているうちに壇上に上がったのでしょう。楯無会長が始まりの挨拶をしていました。その右隣一歩後ろにはこの間と同じように虚先輩が、左隣には…………

「は?」

 思わず声を上げてしまいましたが……1年1組の人々は皆さん同じような顔をして壇上を見ています。会長の左隣には何故か、いつもどおり袖がだぼだぼした制服を着たのほほんさんが立っていたからです。本人はいつもどおりにこにこしながら涎を……って立ったまま寝てません!? すごい虚さんが睨んでますけどいいんでしょうか。ダメでしょうね。時々膝がカクンと落ちそうになるたびにヒヤヒヤしてしまいます。それでものほほんさんは驚異的なバランスで左右に揺れています。というよりなんであそこに……のほほんさんも生徒会に所属していたってことなのでしょうか?

「さて、再来週から学園祭……の、はずでしたが!」

 突然の楯無会長の大声にマイクがキィィィィンと甲高い音を立てたため思わず耳を塞いでしまします。

「今年は唯一の男子がいるのでこちらを実行します!」

 その声と共に壇上にある極大ディスプレイに一夏さんの顔写真が映し出されてその下には『各部織斑一夏争奪戦』と書かれていました。

「毎年学園祭では参加者に票を渡して自分の気に入ったところに投票、最も得票の多かった部活には景品を渡してるわけだけど……今年は学園祭で最も得票が多かった部活動に、織斑一夏を強制入部させます!!」

「な、なにいいいいい「「きゃああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!」」」「会長――――――ッ!!」「一生ついて行きます!!」」

 一夏さんの叫び声が途中でかき消されました。そして巻き起こる会長コール。聞いた限りでは一夏さん了承してないんですけどいいんでしょうか?
 結局その集会はその後の興奮がやまないため有耶無耶のうちに終わりました。しかし部活争奪戦って……箒さん以外代表候補生の皆さんは部活入ってないんじゃありませんでしたっけ? まあ私には関係ない話ですが……


――――――――――――――――――


「は? 入ってきたに決まってるじゃない!」

「な、何!?」

 昼休み、開口一番鈴さんの叫びに箒さんが驚きの声を上げました。ちなみに一夏さんは生徒会室に抗議に言ってくると言って今日は一緒にいません。元々は箒さんが自分は剣道部に入っているからと言ったところからの発言でしたが、その発言を待っていましたと言わんばかりに他の人たちも食いつきます。

「アタシはラクロス部」

「私はテニス部ですわ。何せテニスは淑女のスポーツと言えるスポーツですから当然ですわよね」

「僕は料理部。日本の料理って前から興味あったんだよね」

「茶道部だ。教官が顧問だからな。丁度いい」

 セシリアさんがテニス部、シャルロットさんが料理部と言うのは分かるんですけど何と……あのラウラさんまで。しかも茶道部。理由がラウラさんらしいのは良いとして、しかし皆さんこれ幸いとばかりに部活に所属しますね。これは今回私は被害を受けないで済みそうです。何せ私は帰宅部ですから今回のイベント一切関係ないですしね。

「そう言えば何でカルラは部活に参加しないの?」

 シャルロットさんが疑問の声を上げます。ああ、そう言えばまだ勘違いされたまんまなんですよね。ここはこの件ではっきりさせておくべきですね。そうすれば今後も勘違いされないで済みます。

「ですから私は前から言っている通り一夏さんことがす……」

「あああああ! いたあああああああああああああ!」

 食堂の入り口から聞こえた声にその場の全員がそちらを向きます。その場には相川さんが私の方を指さしていました。その声と共に廊下に控えていたと思われる一年生2人とともに相川さんが突進してきます。え、え? 何々!?

「ごめん、ちょっとカルラさん借りるね!」 

「え? ええ!?」

「連行!」

「「了解!」」

「ちょ、ちょっと!?」

 相川さんの後ろに控えていた女子たちに文字通り持ち上げられて有無を言わさず私は連行されます。そしてそのまま連行されたのは事務室の前の廊下の曲がり角。事務室の前では午前中の一件のせいで部活に入ってない人たちがそれぞれ自分に合った部活に入るために申請書を出すためにごった返しています。またそれを狙った部活勧誘もかなり激しいご様子。それぞれの場所ではちょっとした騒動も起きています。
 その場所で相川さんが私の手を握って真っ直ぐ目を見てきました。

「カルラさんって部活入ってないよね!」

「え、はあ、まあ」

「お願い! ソフトボール部に入って!」

「「お願いします!」」

 あー、なるほど。そういうことですか。他の代表候補生の人はもう部活に入っていて入ってないのは私だけだったと……入ってないことが逆に狙われる要因になってしまうとは……

「新しく入った転入生の方々は……」

「もう確認済みよ! 来たその日に入ってるって!」

 わーお……

「カルラさんならウチの部としてぜひとも欲しい人材なの! 他の部に取られるくらいなら今ここで!」

 気持ちは分からなくはないんですけど如何せん私は巻き込まれたくないもので……ここで参加なんてしたらまた巻き込まれるのは目に見えているのでやりたくないんですよね。部活をやること自体は苦ではないんですけど……やるとしたら学園祭が終わった後辺りでお願いしたいかなーなんて。

「いたぞ! 最後の候補生だ!」

「逃がすな、確実に確保しろ!」

「彼女を引き入れるのはウチだぁ!」

 なんかすごいことに! いつの間にかこちらに気づいた部活勧誘の方々が一斉にこちらに駆けてきます。それはもう悪鬼のごとく……というより怖いです!

「まずい、カルラさん逃げて!」

「え、でも……」

「他の部に入れるくらいなら……フォーメーションCで対応するよ!」

「「応!」」

 そう言うと相川さんは部員二人と共に私を曲がり角の向こうに押して廊下の向こうに消えていきました。ああ、相川さん……どうか御無事で。でも私は部活入りませんけどね!
 そもそも会長さんは何故一夏さんを利用しているんでしょう。まあ盛り上げるためと一言で言ってしまえばそうなのかもしれませんがあまりに理不尽なような……考えてみればあの楯無会長理不尽そうですもんね。あまり考えない方が無難ですか。

 その時授業のための予鈴が鳴り響きました。しかし廊下の向こうではまだ大声で騒いでいる部活勧誘の人たちが……相川さん、せめて授業には遅れないでくださいね。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


放課後、1年1組では学園祭の催し物を考えるため話し合いが行われていました。集会の内容は『織斑一夏を利用してどこまで集客できるか』の1点に集中しているようですが……
 そのためクラス代表としてクラスをまとめる立場の一夏さんは非常に困惑しています。

「織斑一夏とのポッキーゲーム、ホストクラブ、ツイスター、王様ゲーム……全部却下!」

『ええええええええええええええ!』

「当たり前だ! そもそも誰が嬉しいんだこれは!」

「私は嬉しい!」

「サービスサービスゥ!」

「いや部活の先輩やら他のクラスの子からの圧力がねえ……せめて織斑君が皆の相手を出来るようなのじゃないと納得しないのよ」

「山田先生! 助けてください!」

 そう言って山田先生に助けを求める一夏さん。ちなみに織斑先生は忙しいから纏まったら教えろと早々に撤退しました。山田先生が窘めてもあまり効果は無く、むしろ近場の生徒から意見を出すように求められて困っています。
 
「と、とにかく織斑君一人に何かを任せるようなのは駄目です。織斑君が病気とか急な用事で来れないときはどうするんですか。皆さんが参加できるものでないと駄目ですよ」

 山田先生が非常にまじめな言葉を言ったため場が一応納得しました。それにしても山田先生が普通のことを言っただけでこの場が「ホー」と感心したのは普段先生と見られているのかいないのか……そこで山田先生もエッヘンと胸を張らないでください。ああ、大きい。そろそろ妬ましいです……
  皆さんで参加できるという事で出し物は喫茶店ということで、しかしそこからどういう喫茶店にするかが悩みものです。出てくる意見はこういう場では王道と言うメイド喫茶、箒さんがいるため神社繋がりで巫女喫茶、お化け喫茶、ツンデレ喫茶、男の娘喫茶などなど明らかな色物まで。喫茶店と決まっただけで結局大勢は決まっていません。
 とりあえず一夏さんが執事系列なのは変わらないご様子。

「いやまあ、無難なところで大正喫茶とかにしておかないか……」

「大正喫茶?」

 一夏さんの呟きに気付いた私がそのまま投げ返します。正直私が参加しても意見的には変わらないわけで。ダメな若者みたいな言い訳ですね。

「ん? ああ、まあ簡単に言えば和服喫茶みたいなものか」

「和服の一夏さん……いいですわね」

 一夏さんの言葉に後ろの方の席のセシリアさんのつぶやきが聞こえました。いつの間にかクラスが静まり返っています。

「和服かあ。うん、日本人っぽくていいかもしれないね」

「民族衣装なようなものか。確かに国ごとの特性を前面に押し出すのも大事だろう」

 シャルロットさんとラウラさんが賛成しています。確かに和服と言うのは新しいです。私も一度着てみたいですね。

「織斑君の和服……いいね!」

「普段見れない分新鮮でいいかもしれない!」

「衣装の方は任せて! 私の実家和服扱ってるから!」

「採寸合わせは任せろ―!」

 クラスの皆さんも大方賛成のようです。

「えっと、じゃあ和服喫茶でいいか?」

『意義なーし!』

 出し物がこれで決まりましたね。
 少し長引いた集会が終わり、その報告のため一夏さんは職員室へ、他の人たちは部活へ行ったため今日は訓練できませんね。それでも私の足がいつもの第1アリーナに向かっているのは癖なんでしょうね。
 集会のせいで皆さん部活動に勤しんでいるのでしょう。あ、そう言えばのほほんさんに話を聞くの忘れてました。まあ明日にしましょう。今日は1時間くらいターゲット射撃したら戻りましょうかね。
 ISスーツに着替えてアリーナへの入り口を潜ります。

「ずえあああああああああああああああああああああああ!」

 ギャイン!

「うひゃあ!」

 アリーナに入った瞬間に雄叫びのような声と金属が弾けあう音が響き渡りました。何の準備もしていなかった私は思わず声を上げて耳を塞ぎます。音の方向を見ると2機のISがぶつかりあっていました。纏っているISはどちらも日本のIS。1機は『打鉄』よりも戦国武将の鎧を具現化したような武装で、肩の非固定浮遊部位は『打鉄』の物ですがリアスカートが紺色、残りは全て白銀という綺麗な機体です。ただし『打鉄』とは明らかに違い装甲が厚く作られているようで行動を阻害しないように各部の可動部分が多く作られています。
 もう1機はこちらも元々が『打鉄』なのでしょう。非固定浮遊部位が両肩の部分にありますが前面部が少なくなり、後方の大部分を隠すように配されています。また全体的に装甲前面部が少なく、特に肘と膝の部分は装甲が薄くなっているようで可動範囲も広くなっているのが分かります。色は何故か薄い白色に黒の縞柄、虎柄と言った方がいいのでしょうか。左肩の非固定浮遊部位には吠える直前の白虎がペイントされているので恐らく白虎柄と言うのでしょう。

―日本第3世代試作IS『毘沙門天』、日本第2世代IS『打鉄』―

 ISが素早く検索結果を出してくれました。しかしあの白銀の方が『毘沙門天』としても、もう一機が『打鉄』? 確かに似通っている部分はありますがどう見ても『打鉄』とは思えないんですけど……

『久しぶりに自由に行けるんだ! 思いきり行かせてもらうよ!』

『望むところ……』

 一般回線で声が聞こえました。この声、上杉候補生と江本候補生? 顔の部分だけISを展開して顔を確認すると『毘沙門天』は上杉候補生、『打鉄』は江本候補生が使っています。
 上杉候補生が下げていた5mはあろうかという日本刀型の武装を上段に構え、それを見た江本候補生はボクシングの構えのように両手を構えました。え、まさか徒手空拳であの刀に向かうつもりですか!?
 そう思っている間に2機がほぼ同時に前に出ます。上杉候補生が構えの通り日本刀を上段から振り下します。その刀の腹の部分を江本候補生は左手の手甲部分で払いました。長い刀を引き戻す隙をついて一気に伸ばされた右の拳を上杉候補生は右に半身を反らすだけで回避してそのまま回転すると今度は刀を横に薙ぐ。その刀を江本候補生は首を屈めて右肩の非固定浮遊部位で受け流し、そのぶつかり合いで激しい火花が散りました。よっぽど自分の動体視力に自信がないと出来ない芸当です。江本候補生が再度拳を振るう前に上杉候補生が右足を振り上げ腰の部分を蹴ることで距離を取る。

『くっそ!』

『お腹空いた……これで決める』

『うお! もう出すつもりか!?』

 江本さんの驚く声と共に上杉さんが左腰の部分に刀を構えます。あれは……居合い?
 その構えを見た瞬間江本さんが後方に下がって距離を取りました。知っている人だけ分かる、というものなのでしょうか。明らかに江本さんの顔が引きつっています。

『今日こそ見切るぜ、『陽炎』!』

『響には無理』

『なんだとぉ!』

 やりとりは軽いんですけどね。でもその会話以降全く会話がなくなります。二人の間には真剣の切りあいのような緊張感が流れ、見ている私の顔も汗が流れます。次の瞬間に上杉候補生の方向からものすごい音が鳴り響きました。上杉候補生の足元にはいつの間に出来たのか小さなクレーターが出来ています。もしかして、今の音はあれが出来た音ですか!? 右足が中央にあるってことは踏み込みなんでしょうけど、踏み込みであの穴が開くって……一体どれだけの……
 次の瞬間、『打鉄』のシールドエネルギーが0になっていました。

『くっそぉ! またか!』

『今日も……響の奢り』

 え、え!? い、今一体何が……気づいたら上杉候補生が刀を振るった体勢で江本候補生の後ろに立っていました。
 ISのセンサーでも捉えきれない居合切りって……本当に言ってるんですか!?

「やほー、カルラさん」

「うわ!」

 考え込んでいた私の目の前にISを纏ったままの江本候補生が立っていました。全然気付きませんでしたよ。

「盗み見か? 感心しないなあ」

「私は最初から気づいてた……」

 こちらもいつの間に近づいてきたのか上杉候補生が隣に降り立ちます。刀を右肩に担ぐように持っています。何で量子化しないんでしょう?

「え、本当?」

「響はもう少し周りを見るようにした方がいい」

 二人がほぼ同時にISを解除してその場に降り立ちます。仲良さそうにしてますけどさっきまで本当の斬りあいかと思う緊張感だったんですよね。え、あの、上杉候補生? 何で刀そのままなんですか?

「あの、何でその刀は量子化しないんですか?」

「出来ない」

「はい?」

「これはISの武装じゃないから」

「は!?」

 上杉候補生はどこから出したのか鞘を取り出すと鞘を放り投げて刀を上に向けます。まるで吸い寄せられるように鞘が刀に降りてきてピッタリ収まりました。

「すごい……」

「練習すれば誰でも出来る」

「答えになってないよ千歳。この刀はISの武装じゃなくてただの真剣なんだってさ。だからすごい折れやすいけど切れ味は抜群。ま、使えるのは千歳だけだと思うけどね」

 私の疑問には江本候補生が答えてくれました。それにしてもものすごい技術ですね。恐るべきは日本の技術という事ですか。上杉候補生は鞘に収まった刀を背中に背負います。背負っても地面に引きずりそうになってますけど大丈夫なんでしょうか。

「それにしても二人ともすごい緊張感でしたね」

「そうか? いつもあんなんだけど」

「私はいつも殺すつもりでやってるけど……」

「千歳? 物騒なこと言わないでくれる?」

 いやいやいや! 江本候補生そんな気じゃなかったんですか!? 二人の緊張感は本物でしたよ!

「どう? カルラさんも一緒にやる?」

「さっきの見たら一緒に出来る気がしませんよ。それにあの『陽炎』って一体」

「あれ、『陽炎』のこと言ったっけ?」

「さっきは一般回線になってた」

「げ、気付かなかった……まあ『陽炎』は千歳の必殺技みたいなもんだよ。さっきの見てたなら……いや、見れなかったら分かるかな。僕もよくは分からないけど目にも止まらない抜刀術ってことだと思うよ」

「分かると避けられるから教えない。奢ってもらえる確率が減る……」

 何でも二人は勝った方が奢ってもらうっていう約束をしているらしいです。それはまあ見てれば分かりましたけど。

「まあその内破るさ。最近負け越してるからね。あ、やばい。そろそろバスケ部の集会の時間だ。」

「ん、私も剣道部行かなきゃ……」

「悪いねカルラさん。また今度やろう」

「え、ええ……」

「響、今日は……」

「分かってるよ! 奢ればいいんだろ!」

 そう言い合いをしながら二人はアリーナを去っていきました。あの……見せつけられた私の絶望感は一体どうすれば……それに江本候補生の機体についても聞きたかったのに何も聞けませんでしたし、どうすればいいんでしょう。不完全燃焼です。
 
 

 
後書き
日本候補生勢がぱない感が……

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