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東方リリカル戦記

作者:雪風冬人
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第五話「ファーストアラート」

「あー、ダリィッス」

 昼下がりの街並みの中、路肩に停めてあるサイドカー付きのバイクの運転席に腰掛けた、ジーパンを履き紫のコートを風になびかせるウェーブがかかった金髪の少女が、口に咥えたタバコをユラユラ揺らしながら何気なしに呟く。

「ちょっと!だるいって言いながら、あんたが一番動いてないじゃない」

 近くの建物の中から、被った帽子を飛ばされぬよう手で抑えながら、学士のような黒いマントを羽織った黒髪ショートの少女が文句を垂れながら出て来る。

「いや、あれッスよ。私はゲートを見つける為に眼を使ってるんで、疲れるんスよ」
「その分、あたしが肉体労働してんだろうが。つか、何でこの建物の六階にある六個のスピーカーがゲートなのよ」
「あれじゃないスか?このビル、この街で六番目に高いらしいッス」
「666ね。しっかし、この世界はほんと摩訶不思議ね」

 黒髪の少女がサイドカーに乗り込むと、金髪の少女はバイクのエンジンをかける。

「は?とうとう頭がイカレやがりましたか?」
「違うっちゅーの。ゲートの数の多さよ。これだけの数があるなら、『千体のホラーを撃破せよ』なあんて、クエストが来てもおかしくないのに…」
「過去一度も陰我が生まれていない、と」
「そ。これはもう、『異常』よ」
「そもそも、『魔導師』がいる時点で、異常じゃないことなんかねえスよ」

 どこか達観したような口調で、二人はぼやきながらバイクは街並みの中を走る。

「私らができるのは、こうして少しでも悠さんの負担を減らす為に動き回る事ッスよ」
「そうね。って、タバコこっちに向けんな!あたしが捨てろと!?」

 何かを見つけたのか、金髪の少女はバイクを急停車し、その反動で手に握っていたタバコが落ちた。

「アッツ!熱いわ!こいつほんとに落としやがったよ!!モラルの神様もビックリな鬼畜だよ!!って、本当にどうしたのよ?」

 いつもなら、何かしらいちゃもんを付けるであろう相方が、不自然なまでもとある一点を見つめたまま動かずにいた。
不審に思った黒髪の少女は、相方の見ている光景を理解し、固まった。

「やっべぇ。超やべえ。もう来ちまってる」
「どうするよ、アレ」


















「ではでは、ご説明させて頂きます。ルールは至って単純。見敵滅殺で御座います」
「はいはーい!」
「どうぞ、レヴィさん」

 授業をする生徒と教師のように、手を挙げたレヴィをジャッジが指差す。

「勝敗条件は?」
「『道化』の勝利条件は、『鷲』の討伐で御座います」
「敗北条件は?」
「『鷲』によるこの世界の破壊で御座います」
「なるほど。で、今回は私達に報酬はあったりするのかい?」
「肯定。『道化』様が勝利したならば、『紫天』の『闇』の完全なる削除。そして、十年間の平穏の保証で御座います」
「『闇』の削除だと!?そんなことが可能なのか!?」
「『遊戯』の主催たる全知全能の万能なる白痴の盲目神ご自身の手で処置なさるそうです。この意味がお分かりで?」

 驚愕するディアーチェの質問に、ジャッジは小馬鹿にした笑みを浮かべながら答える。

「へえ!随分太っ腹じゃないか、我らの創造主の神様は」
「どうやら、あの愚神にとって『闇』はめんどくさい代物のようです」
「自業自得だな」
「ってことは、処置中に事故が起こっても不思議じゃないよな」
「例えば?」

 ニヤリと笑う悠の言わんとすることの意味が分かったのか、ジャッジは口元を歪めながら尋ねる。

「例えば、『闇』が突如暴走して、鎮圧のため動いたら運悪く『神』ごと処置してしまうとか」
「ふむ。人間、完璧ではないから、ついうっかりミスをしてしまうかも知れないしな」
「全くです。偶然ほど恐ろしいものはないですからね」

 持ち前の頭脳や能力で、悠が意図を理解したナズーリンとさとりも同調する。

「ええ!ええ!なるほどなるほど!!よもやこんな野蛮な愚行を思い付くとは!さすがは、マイダーリン」

 今までのやる気の無さはどこへ行ったのか、ジャッジは腹を抱えて笑い出す。

「返答はモチのロン!ノープロブレムで御座います。他にご質問は?」
「『鷲』が勝った場合、私達のデメリットは?」
「それは……」

<(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー! (」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー! (」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!  Let's\(・ω・)/にゃー!>

「これは?」

 ジャッジが言い切る前に、別の意味でSAN値が削られそうな軽快な音楽が流れる。
 次いで、床から立体地図が浮き上がり、ある数か所に赤い矢印がついていた。

「これはナズーリンの索敵能力と八雲の境界を司る能力、そして、JAPONの技術の粋を結集して作った、『鷲』がこの世界に侵攻したら知らせてくれる警報機だ」
「名付けて、『ショッカーを探せ!』だよ」
「いや、名前は別にいいから、詳細をプリーズ」

 悠は中毒になりそうな音楽に顔をしかめながらも、にとり達に説明を促す。

「まー、悠も知ってると思うけど、『鷲』の連中って別次元から乗り込んで来るじゃん?」
「なぜ疑問形なんだ、アリシア?」
「気にしない、気にしなーい。で、そこで次元の境界の揺らぎを観測したら、ナズーさんの能力を使って敵の位置を割り出すわけだよ。もちろん、ホラーの出現も感知できる?」
「できるから、言い切ろうよ。ただし、送り込まれた数とかは分かんないけどね。あと、魔導ホラーも」

 悠はアリシアとにとりの説明をふむふむ、と頷きながら静聴する。

「で、現場にはどうやって行くんだ?まさか、走ってか?」
「その心配は杞憂だ。先にこちらの世界に来ていた蓮子君とメリー君に、この世界の各所に〈楔〉を打ってもらった」
「なるほど。それで近くまで転送するのか」
「そ。とういうわけで、ここに入って頂戴」
「ささっ。時間がないからハリー、ハァァリィィィイイイ!!」

 なぜか荒ぶり出したジェイルに気圧されながらも、プレシアが指した掃除用具を入れるロッカーに歩み寄る。

「これ、大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫だ。問題ない。すでに、にとりを現場に送った」
「いつの間に!?」
「その現場は、にとりと二人で対処してくれ。他の場所は私達で対処する」
「了解。あ、クラス『紫天』の皆はどうする?」
「私達は今回は留守番しています」
「初陣だからな。『遊戯』の相手がどんなものか見ておきたまえ」

 ナズーリンの言葉にシュテル、レヴィ、ディアーチェは頷き、その間に悠はロッカーの中に入る。

「よし!準備完了。『仮面の道化師』、出動!!」
「ポチッとな」

 アリシアがロッカーの脇に付いてあるボタンを押すと、悠の姿が消えた。

「さすがは、Made in JAPON」
「度胆を抜かれますね」
「いいな~。ボクも行ってみたいな~」

 三者三様の反応をするディアーチェ達の前で、ナズーリン達はロッカーに入って現場へ転送される。

「役者は揃い、舞台は整いました。これから幕が上がるのは、『神』による悪戯とそれに巻き込まれし者達の泡沫の物語。ではでは、『道化』と『幻想』の皆々様方に、幸有らん事を」

 シャラン、シャラン

 天秤を揺らし、鳴らすとジャッジの姿は虚空に溶けるように消えた。
 
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