ソードアートオンライン 赤いプレイヤーの日常
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二話~依頼~
現在の時刻は、午前10時47分。俺が転移結晶を使ってからすでに15分以上経ってしまっている。
「いくらなんでも遅すぎる……」
アスナが自分から言い出した約束の時間に、しかも5分以上遅れるなんて……今日は雪でも降るんではないだろうか。
そう思えるほど、この遅れ具合は異常だ。10分を過ぎた辺りから感じていたいら立ちが、すでに心配へと変わってしまっている。
迷った……と言うわけでは無いだろう。アスナが指定した待ち合わせ場所、この転移門は、時折プレイヤー達を吸い込んだり吐き出したりしながら、文字通り、俺のすぐ真ん前に存在している。仮にアスナが先に到着していたのだとしても、そこから現れる全身真っ黒な俺なんぞ、すぐにわかったはずだ。かく言う俺もアスナの姿が見えれば瞬間に声をかけることができる自信がある。あの人を惹きつける何かは到底無視できるモノではない。
となれば、あの人が、アスナがここにいない理由とはなんなのだろう。
もしかしたら、何か事件に巻き込まれたのだろうか。認めたくはないが、可能性は否定できない。
理由としてはここ最近、犯罪者プレイヤーによる被害も増えているということがある。
発端は恐らく、討伐隊を含めて死亡者32名、捕縛12名という結果を出して少し前に終結した、SAO最大の殺人ギルド「ラフィン・コフィン」の大規模な討伐、いや、殺し合い。
正直言って思い出したくもないその知らせは、殺し合いが行われたその日のうちにアルゴを始めとする情報屋達の手によって全フロアへと伝わっていき、多くのプレイヤーを歓喜させ、SAOにおける久しぶりの明るいニュースとなった。だが、殺し合いのすえ、ラフィン・コフィンの大部分を潰した張本人である俺は、とてもそんな気になれなかった。
いつか近いうちにまた、またあのような惨劇が繰り返されてしまう、そんな気がしてならないのだ。
だがまあ、今、ラフィン・コフィンが出てくることはまずないだろう。人数の関係や、リーダーであるPoH(プー)の性格上、それは確実と言える。
……少し話がそれたが、要するに、本当に問題なのはアスナ曰く、そのラフィン・コフィン壊滅という事実に触発されて戦闘意欲(主にプレイヤーとの)バリバリになっているやつらが増えている、ということなのだ。正直、どうして彼らの戦闘意欲が高まったのか、その心理はわからないが、
ともかくだ。その可能性も考えて、俺も行動を起こさなくてはいけない。フレンド追跡、それを使えばアスナの居場所もわかるはずだ。
……というか何でそれを早くやらなかったのだろう。
軽く自分に苦笑いしてから、俺は右手を振り下ろす。現れたメニューウィンドウからフレンドリストを開いた。幸いというかなんというか、俺のリストはあまりでかくない。数秒の内に【Asuna】の文字を見つけ出すことができた。後は《実行》ボタンをぽちっと押すだけ、それだけで例外なく、アスナの現在位置を知ることができる。
俺は、すーーはーーと、深呼吸をして妙に苦しくなる心臓を落ち着けると、そろそろとしか動かない人差し指を持ち上げ、ボタンをぽちっと――
「キリトくーん」
押せなかった。
いや、正確には押す必要が無くなったのだが。
「遅かったじゃないか、アスナ」
たった今、転移門から現れたアスナに安堵しながら、言う。
「あはは、ごめんね。色々てまどっちゃって」
アスナは、微笑みながらもどこか申し訳なさそうに、風になびく栗色の髪を押さえた。
色々とは、ギルド関係のことだろうか。まあどちらにせよ、無事でよかった。
そんな心の声が、危うくそのまま口に出そうになったが、そこは何とかこらえ、俺は無理矢理にため息をついた。
「色々ってなぁ……アスナに限ってそんなことは無いって分かってたけど……オレンジに襲われたとか、ちょっとだけ心配しちゃった俺の身にもなってくれよ」
こらえられてないじゃないか。自分で言っておきながらカッコ悪い。
若干のやっちまった感を肌で感じながら、俺はアスナの次なる行動を待った。笑われるか、呆れられるか、はたまた怒られるのか。
だが、反応は全く別なところから返ってきた。
「私たちが、たかがオレンジに遅れを取るとでもお思いですか?キリトさん」
反射的に声のした方、転移門に振り向く。するとそこには、いつの間に現れたのか、血盟騎士団の証である、純白の地に真紅の十字が施された、時代劇にでてくる新撰組のような衣を纏い、腰まで伸びるきらびやかな黒髪を下で束ねている少女と、これまた同じような色合いである鎧を着た長髪の男が見えた。
「あー、ごめんねティーナちゃん。面倒ごと押し付けちゃって」
ぼけーっとしている俺をよそに、アスナがあの二人組み、主に少女に対してこっちこっちと手を振った。少女はそれに笑顔で応じると、わずかな階段を飛び降り、すたすたと足早にこちらへやってきた。長髪のやつもそれに続く。
「アスナさん。念のため確認しますが、この方がキリトさんでよろしいんですよね?」
「うん、そう。キリトくん」
「そうですか、あなたがあの黒の剣士……」
「あ、あのーー、アスナさん?」
あんまりほったらかしにしないでもらえます?という頭に浮かんだどストレートな一言は却下。瞬時に頭の中で別な言葉にカスタマイズすると、俺は一度閉じた口を再び開けた。
「えっと……こ、このお二人は?」
「あっ、そっか、キリトくんはこの二人と会うの初めてだったね。じゃあ……ティーナちゃん、簡単に自己紹介をお願い」
アスナがそう言うや否や、ティーナと呼ばれたその少女は、笑顔でアスナにはいと返すと、その優しげな笑顔のまま、俺に笑いかけた。
「ご挨拶が遅れまして、私、ティーナと申します。えっと……メインの武器は《カタナ》で、いつもは血盟騎士団の参謀職をしているのですが今はわけあってアスナさん護衛の任務に就いております。どうぞよろしくお願いします」
そう言って、ティーナは綺麗なしぐさでおじぎをした。つられて俺も、小声でどうもと呟き、おじぎを返す。
「ほら、クラディールも自己紹介」
アスナの厳しい声が飛んだ。ああ、そう言えばもう一人男がいたな。失礼かもしれないが、存在感が全く無い。
そう思っているうちに、その、クラディールなる男が一歩だけ進み出た。
「クラディール。アスナ様の護衛に就いている」
……なんとも無愛想。っていうか、
「二人で護衛?やりすぎじゃないのか?」
それ以前に、護衛ってどうなんだ。
そんな俺の、心の呟きが聞こえたわけではなかろうが、アスナはやや沈んだ声で呟いた。
「だよね、護衛なんて。いくらなんでも行き過ぎてる。確かにわたし、一人の時に何度かいやな目にはあったけど……」
「まあまあ、アスナさん、そう言わないで。ギルドの方針で決まったんですから。それに……」
やや攻め口調で続けていたティーナの声色が急に押し殺したそれへと変わった。彼女はゆっくりと辺りを見回し、この四人以外に誰もいないことを確認すると、かすかでしか聞き取れないほど小さい声で、言った。
「……あのこともありますから」
「あのこと?それって何なんだ?」
後から思えばあまりにも軽率な行動だった。アスナが慌てたように俺の口を塞ぎにくるが、すでに事遅し。俺の口から飛び出した、アスナたちを焦らす単語たちはそこらじゅうに散らばっていった。ティーナが確認していたので、誰にも聞こえてはいないと思うが。
「ちょ、ちょっと!キリトくん!何してるの!?もし他の人に聞かれてたら……」
「だ、大丈夫だって!ティーナがさっき人いないか確認してただろ!?」
アスナのパニックっぷりに若干つられてしまった俺は、ティーナと目を合わせることによって同意を求めた。
「え、ええ、大丈夫だとはおもいますけど……」
よ、よし!
窮地から脱出したことに軽くガッツポーズをする。
「ふう……ま、いいわ」
どうやらアスナもあきらめてくれたようだ。これでもう万々歳!……ではなくて、
「で、結局、あのことって何なんだ?」
今度は比較的、小声にしたつもりだ。
おかげで気に入られたようで、ティーナは迷うそぶりも見せず、返してくれた。――俺的には、アスナへの言葉だったが、
「えっと、あのことっていうのは、とある事件のことでして、私たちがキリトさんをここにお呼びしたのも、それに協力していただけたらと」
なんと、気になっていた理由がだいぶ明らかになった。
となれば後は、その事件の内容だけだが……とかそんなことを考えさせる暇なく、ティーナは間髪入れずに続けた。
「ではキリトさん。単刀直入に聞きます」
今までの少しばかりおちゃらけた空気が一気に冷めていくのを感じる。不思議と緊張感があおられる。そうさせる何かを発しているのは、間違いなくティーナだ。
そのティーナが、慣れているのか全く動じないアスナとクラディールを後ろに従え、一つ深呼吸をしてからまっすぐ俺の目を見据え、問うた。
「この私たちの、いえ、この《アインクラッド》に生きるすべてのプレイヤーの依頼、引き受けていただけますか」
後書き
鯔安(以下、と)「はーいどうも、作者の鯔安でーす」
ティーナ(以下、テ)「やたらハイテンションですね……はじめまして、ティーナです」
と「だって、朝見たらさっそくお気に入り登録あったんですよ!?テンション上がらないほうがおかしい!」
テ「まあわからないでもないですが……っと、それよりも解説ですよ。やるんでしょう?」
と「ああ、そうでした。……まず、最初らへんでわかると思いますが、時間軸はキリトくんたちがラフコフを壊滅させて少し経った後、と言うことになってます。ぶっちゃけ、現実世界でいつなのかっていうのがわからないんですが……(どなたか教えてくださると助かります)
テ「露骨なコメントかせぎ乙です。というか何で知らないんですか」
と「……で、それから考えるとクラディールさん、かなりやばい時期に出てきてしまいましたね」
テ「無視ですか……たしか原作ではラフコフのメンバーになってたんですよね。精神的にらしいですけど」
と「この世界では何をしてくれるのか、みものです」
テ「ん?『何をしてくれるのか』ということは、クラディールはこの時点でもうラフコフに入っていると?(原作では74層の時点でクラディールが、ラフコフに最近入れてもらった的なことを言ってます)
と「……感想、アドバイス、過激でないだめ出し等、ありましたら宜しくお願いします」
テ「あ、逃げた」
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