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戦国異伝

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第百二十一話 四人の想いその十二

「わしは今この時からこの誇りを忘れないでおく」
「そう言ってくれるか」
「御主も忘れないな」
「わしはこうした時には忘れぬ」
 これが慶次の返答だった。
「何があろうともな」
「面白いな、こうしたことは忘れぬか」
「決してな。そういうことじゃ」
「わかった、ではな」
 兼続はここでまた茶を飲む、それは彼だけではなかった。
 幸村に阿国もだった。彼等もそれぞれの茶を飲みそのうえで四人で互いに顔を見て笑顔を浮かべ合った、そうしたのだった。
 幸村は彼等と別れ茶室を後にした。十勇士達と合流しようとしたその時に彼の前に利休が現れてそして言ってきた。
「如何だったでしょうか」
「満足しています」
 微笑んでそして応える幸村だった。
「素晴らしき友が三人もできました」
「それは何よりです」
「よき日になった。ただ」
「ただとは」
「前田殿と直江殿とはやはりな」
「戦うことになるというのですね」
「そうなるであろう。だが」
 それでもだというのだ。
「我等は友、それであることに変わりはない」
「例え敵味方であっても」
「そうだ」
 こう利休に言うのだった。
「何があろうともな」
「慶次殿も直江殿もかなりの方です」
「そして阿国殿もな」
「無論真田殿も。特に真田殿は」
「わしがか」
「はい、私の見立てですが」
 こう前置きしての言葉だった。
「非常に大きなことを幾つも為されるでしょう」
「幾つもか」
「真田殿には非常に大きな気を感じます」
「気か」
「はい、気です」
 それを感じるというのだ。
「赤い、火の気を」
「武田家だな」
「武田家に絶対の忠誠を誓っておられそのことは変わらず」
 それは全くだというのだ。
「しかもです」
「それ以上にか」
「その赤心、それが素晴らしいことを幾つも果たされることになります」
「わしが求めておるのは心だ」
 天下一の武士になる、それが心だというのだ。
「己を高めていきたいと思っておるが」
「それが大きいのです」 
 そう思っていることそれ自体がだというのだ。
「この戦国の世、土地や富を求めている方は多いです」
「その為に戦をする御仁がだな」
「はい、そうした方が」
 むしろそうした者ばかりだ、それが今の戦国の世だ。
 しかし幸村は違う、利休にも毅然として話す。
「領地や富は後でついてくるものだ」
「第一に求められませんか」
「興味がない訳ではない」
 一本気で闇のない彼はこのことをも隠さない、そこにあるものを隠すことはしなかった。無論利休もそのことを隠しはしない。 
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