八条学園怪異譚
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第二十五話 飛ぶ魚その十二
「そこにある」
「それで別館の何処ですか?」
「何処にあるんですか?」
「別館のすぐ傍の井戸だ」
そこだというのだ。
「文字通り泉と言うべきか」
「そういえばありましたね」
愛実も日下部に言われて気付いた。
「井戸が」
「もう枯れているがな」
「その井戸の中がなんですか」
「井戸は古来不思議な場所とされていた」
日下部は二人に井戸についての話もした。
「逃げ場所、隠れ場所にもなっていれば」
「本来の水がある場所ですね」
「それにもなっていたんですね」
「別世界かそちらへの入り口にもなっていた」
それが井戸だったというのだ。
「だからこそ、君達も既に知っていたと思うが」
「井戸は泉の候補地ですね」
「その可能性が高い場所の一つですね」
「そういうことだ」
日下部も話す。
「扉と並んでな」
「文字通りだからですよね」
聖花が井戸が何故泉の可能性が高いのかを考えた、それは何故かというと。
「水が湧き出る」
「わかるな、泉と井戸は実に近い」
そのものと言っていい位にだ。
「だからだ」
「そうですね、じゃあ」
「井戸は私が開ける」
空井戸になり今は人が誤って落ちない様に厳重に蓋がされている、その蓋を開けてそれからだというのだ。
「君達は中に入るといい」
「井戸の中に入るっていいますと」
愛実は自分の傍を泳いで通り過ぎた海亀、アオウミガメを顔を向けて見てそれから日下部に対して答えた。
「綱を使ってですよね」
「無理か」
「私小学校のよじ登り棒出来ないです」
「私もです」
これは聖花もだった。
「綱にしても。棒での昇り降りは」
「相当な握力が必要ですから」
「そうだな、かつての海軍は誰でも出来たが」
海軍は身体能力も必要にされていた、予科練になると鉄棒での大車輪や激しい前転や後転、体操選手の様なそれも出来た。
「今の子は無理か」
「って海軍さんは特別ですよ」
「陸軍さんも」
この場合は陸軍もだった。
「昔の軍人さんは鍛え過ぎてましたから」
「そうした人達とは比べられないですよ」
「戦後になって身体能力は落ちたな」
日下部はここでは寂しそうに述べた。
「実にな」
「それは確かにそうですけれど」
「否定出来ないです」
二人も言う、だがだった。
「とにかく私達は出来ないですから」
「申し訳ないですけれど」
「それならいい方法があるよ」
誰かがここでひょっこりと出て来た。
それは海亀、先程のアオウミガメとはまた違うより大きな亀だった。その亀の幽霊が二人に言ってきたのだ。
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