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八条学園怪異譚

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第二十五話 飛ぶ魚その十一

 そのことについて日下部はこう話すのだった。
「折角来た、それならだ」
「見るべきですね」
「そうなんですね」
「その通りだ、見るといい」
 是非、だというのだ。
「もうすぐ出て来る」
「あっ、十二時になったら」
「その時に」
 二人はそれぞれの腕時計を見た、それで気付いたのである。
「出て来るんですね」
「その時間に」
 十二時、この時は時間における端境期である。この日から昨日と今日に分けられる。
 その今日になるその瞬間になるのだ。
「お魚の幽霊達が」
「そうですか」
「十二時だ」
 まさにその時だと、日下部も言う。
「もうすぐだ」
「じゃあその時を」
「是非ですね」
 二人は水族館の中を見回しながら固唾を飲んだ、そうして。
 十二時になった、するとだった。
 水族館の中に様々な魚達が出て来た、宙の中をまるで水の中の様に様々な場所で泳いでいる。
 海の魚もいれば川や湖の魚もいる、愛実は今目の前を通った魚を見て言った。
「あっ、チョウザメ」
「こっちはエイよ」
 聖花も言う。
「へえ、チョウザメって大きいわね」
「エイの泳ぎ方ってひらひらしてるわね」
「実体がなければ海も川もない」
 どちらでもだというのだ。
「そしてだ。いるのは魚だけではない」
「烏賊や蛸もいますね」
「海亀さんや海豚さん達も」
 見ればそうした生き物達もいる、どれも水族館の中にいる生き物達だ。
「何か一杯いますね」
「スッポンさんもいて」
「面白い光景だな」
「はい、本当に」
「この世のものでないみたいです」
「実体だけがこの世にあるものではない」
 日下部は水族館の中、壁まで越えて宙や水槽の中を自由に泳ぎ回る彼等を見ている二人にこうも言った。
「霊魂もだ」
「それ霊魂がですね」
「こうしたものを見せてくれるんですね」
「そうだ、君達がこれまで見てきたものも」
 学園内の様々な怪談、この中には日下部も含まれている。
「今のこの水族館の中もだ」
「どれもですね」
「この世のものなんですね」
「そうだ、今わかっていることだけが全てではない」
 実体だけを全てとする今の科学的視点だけがだというのだ。
「私達もまたこの世のものなのだ」
「ですね、ですから」
「今私達が見ているものも現実ですね」
「その通りだ、そしてだ」
 日下部もまた魚や亀達を見ている、宙を跳ねているトビウオ達を見ながら話した。
「泉だが」
「はい、水族館の泉は一体何処ですか?」
「何処にあるんですか?」
「水族館のこの建物を出てだ」
 そしてだった。
「別館に入る」
「その別館にあるんですか?」
「泉は」
「そうだ」
 その通りだというのだ。 
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