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八条学園怪異譚

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第二十五話 飛ぶ魚その九

「町の中でもね」
「烏みたいに?」
「そう、烏じゃないけれど烏みたいに普通に見られるだけになるんだよ」
 電線の上にいる烏も見えていても特に思われることが少ないものである、これは雀でも鳩でも変わらない。
「そうなれるんだ」
「何かそれって便利かしら」
「うん、便利だよ」
 実際にそうだというのだ。
「色々な場所にいられるからね」
「幽霊なら姿も消せる」
 牧村もいた、今も壁に背をもたれかけさて立っている。 
 そのうえでコーヒーを飲みつつこう言ったのである。
「余計に便利だ」
「偵察とかし放題?」
 聖花が言う。
「それだと」
「軍みたいだな」
「いや、部活でも相手チームの状況見るとか」
 そういうことをするのが容易になるというのだ。
「そういうのね」
「それが出来るからなんだね」
「うん、いいかなって思うけれど」
 こうすねこすり、足元にいる彼に応えて話す。
「どうかしら」
「実際に事情はよく確かめられるよ」
「そうよね」
「コンサートとかにも普通に行けるし」
「押されたり踏まれたりもするけれどね」
 ここではけうけげんが言う、小さく全身が長く黒い巻き毛に覆われている。犬のマルチーズに似ていると言えば似ている。
「それでもね」
「踏まれても痛いだけだから」
「普通に見られることを考えればいいよ」
「歌舞伎もそれで楽しんできたし」
「いいよね」
 小石を踏んでも誰も気にしない、そういうことだった。
 そうした話を聞いてまた言う聖花だった。
「何かお話して一緒にいる度にいいって思えるわよね」
「そうよね」
 愛実も聖花のその言葉に頷く。
「親しみがあるっていうか」
「そうした気持ちになれて」
「妖怪さんっていいわよね」
「お友達よね」
「友は世代や種族を超える」
 牧村はここでも言った。
「心によるからな」
「ですね、幽霊でもですね」
「お友達になれますね」
「大事なのは心だ」
 牧村は己の過去を強い目で見ながら二人に話す。
「それ次第だ」
「逆に言えば心が駄目ならですか」
「それでなんですね」
「そういうことだ、人間でも性格が悪い者がいる」
 この場合はただ悪いのではなく腐っているということだ。
「そうした輩は姿形が人間でも友にはなりたくないな」
「はい、そうした人とは」
「本当に」
 二人も牧村のその言葉に確かな顔で頷く。
「嫌な思いするだけですから」
「いいことないですから」
「友達って損得感情じゃないですけれど」
「意地悪とかされるだけですから」
「そうだ、そうした奴とは一緒にいないことだ」
 友は選べ、そういうことだった。
 二人は友についても考えた、そしてだった。
 この話をしてからこの日の夜は水族館に行った、その入り口にはもう彼がいた。 
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