Fate/Dark souls
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第二夜
セイバーとランサー。
稀代の英雄である両者の激突は当事者以外にも多くの興味を引いていた。
その中の一人、此度の聖杯でライダーのクラスとして召喚された赤毛と褐色の巨漢の男が港を遥か遠くに臨む吊り橋の上に立っていた。
「う~ん惜しい。実に惜しいぞ」
巨躯を震わせ豪快に笑うライダーの背後で彼のマスター、ウェイバー・ベルベットは橋の骨組みの上から落ちないように必死に体を梁にしがみ付けながらも非難がましい目でライダーを見た。
「おい、何が惜しいんだこのやろう。それよりも早くここから降ろせよ」
「はぁ、坊主あれを見て何とも思わないのか。こう血沸き肉躍るとか武者震いがするとか」
「そんなこと思うのはお前だけだ!いいからさっさと降ろせって」
「坊主がそう言うのなら降ろさんでもないが、しかし自力でやってもらうぞ」
「なんでだよ」
「何これから戦場に馳せ参じようと思ったからな」
ライダーの口からまるでピクニックにでも行くような口調で言われたことだが、マスターにとってはとんでもないことであった。
「はあ!?僕を置いてけぼりにしてか」
「無論無理にとは言わぬ。ここで儂が戻ってくるまで待っていればよい」
魔術師としての実力に優れているわけではないウェイバーがライダーのそばを離れる危険性と共に戦場に臨む危険性。
どちらかを両天秤にかけた場合おのずと片方に傾いた。
「分かった、連れて行けこの馬鹿。だからここから降ろしてくれ」
マスターの答えにライダーはその会心の笑みでもって応じた。
ケイネス・エルメロイは困惑していた。
いや、状況は彼の理解の範疇を超え思考が停止していたに過ぎないのかもしれない。
宝具を開帳しあまつさえ姿を晒したランサーは今だセイバーを仕留めきれなかったばかりか、ライダーの介入。
続けてアーチャーの登場とバーサーカーの襲来とで戦場は渾沌と化しケイネスはランサーに対し有効な指示を出せずにいた。
故にケイネスがとった命令は「撤退」の二文字。
残るセイバー、ライダー、バーサーカーを前にして背後を見せる形にはなるがバーサーカーがその本領を発揮しセイバーを攻撃しており、ライダーがセイバーに加勢しているため追撃の心配をする必要はなかった。
ランサーを伴って自身の拠点である冬木市ハイアットホテルの最上階部に位置するスイートルームに帰還したケイネスは疲れた体をソファーに沈め暫しの休息を取ると、徐にそばに直立する自身のサーヴァントを見た。
召喚したはいいものの、やはり少々扱いづらい所があるな。
自身のサーヴァント「竜狩りオーンスタイン」は火の時代の大英雄である。
火の時代とは魔術師の間では今の世界が構築される前の段階、もっとも真理と神秘そのものの世界であり世界の原点とも、または「前の世界」とも言われる伝説上の時代であった。
現代では数多くの文献や証拠が四散し消失し、極僅かに残る手がかりは魔術の秘儀として時計塔の地下深くに封印されるか教会が秘匿しているかだが、偶然と幸運とが一致しケイネスは火の時代のものと思しき遺物を入手し万が一の場合を想定して今まで手元に置いていたのだ。
それは現代の技術や魔術の粋を凝らしても復元も再生も不可能な指輪の欠片であり、それを触媒にし今回の聖杯戦争に臨んだケイネスは考えうる限りで最高のものを引き当てたといってもいい。
だが当然その代償は莫大なものであった。
変則契約によって自身の婚約者ソラウとで魔力供給の二分割に成功したがそれでも尚ランサーの全力での戦闘は彼らの生命を考えて二十分という制限が存在した。
本来ならば魔力供給を自身のパートナーであるソラウに肩代わりしてもらう代わりに、ケイネスが魔力供給を気にすることなく魔術を行使できる体制を整えることが出来たはずだが、今回の戦闘でそれも見直さなくてはならない。
ケイネスはホテルの上層部を完全に貸切り、全ての部屋を使って自身の工房を築き上げたがその目的の大部分が敵の来襲に備える城塞よりも自身の魔力を安全に回復できる場としてであった。
ここにはいないが、隣の部屋では彼の婚約者ソラウが休んでいるはずだ。
ケイネスの工房と化したこのフロアにいる限り周辺の地脈から吸い出された魔力が彼らの回復を助けてくれる。
身体を休めながらもケイネスは今後の方策を考え当面はこちからか動かず何騎かサーヴァントが減った所でランサーを投入するのが最善手であろう。
だから今回姿を見せたバーサーカーと忌々しいことだがライダーには期待していた。
バーサーカーが戦場を乱しながらもアーチャーと同士討ち、悪くても負傷させることが出来ればランサーで止めを刺せるし、ライダーもより状況を動かすには適した位置にいる。
セイバーはランサーとの戦闘で恐れるに足りないことが証明され、残るキャスターについてはどうとでもなるとケイネスは腹の内で考えていた。
故にケイネスは油断していた、今夜はもうこれ以上戦いはないだろうと。
だからこそ、その油断につけ込むかのように魔術師殺し衛宮切嗣の影が迫っていた。
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