八条学園怪異譚
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第二十五話 飛ぶ魚その五
「事務関係はお任せ下さい」
「ははは、わしはそういうのは駄目じゃからのう」
「博士はデスクワークは苦手ですよね」
「全く、ああいうのも日進月歩じゃな」
博士は余計なことだ、とその考えを顔に出していた。白い髭だらけの顔にはそれが出ていた。
「わしが若い頃はただ書類に書くだけだったぞ」
「ってそれ何年前かな」
「百年以上前だよね」
妖怪達がすかさず突っ込みを入れる。
「明治とか大正の頃だから」
「今はパソコンの時代だからね」
「わしが出来るのは論文を書いたり資料を集め保存することじゃ」
そうしたことは博士もパソコンで出来るというのだ、だが。
「しかしじゃ、デスクワークの類はな」
「出来ないんですよね、そういうのは」
「全く、何なのじゃ」
博士は不平さえ漏らす。
「大学はどうして書類仕事も多いのじゃ」
「そういうのは何処でもありますよ」
ろく子は知的かつ温和な笑顔で博士のところに首を伸ばして話してきた。その笑顔は出来る女の顔だった。
「どの職場でも」
「それがわかっておるがな」
多過ぎるというのだ。
「全く、多いぞ」
「文字を使う世界ですから多いのは当たり前ですよ」
また言うろく子だった。
「それに私がいますから」
「ろく子君がか」
「はい、私は博士の秘書です」
眼鏡での顔だった。
「ですからお任せ下さい」
「頼むぞ、本当に」
「ではそれで」
この話はこれで終わった。そうした話をしてだった。
愛実と聖花は一つの現実を前にした、それはというと。
「封印ね」
「そうしないといけないのかもね」
「出来たらしたくないけれど」
「どうなのかしらね」
二人は顔を見合わせて話をする、だがそれはすぐに終わって。
聖花はドーナツを食べながら愛実に話した。
「このドーナツってミスタードーナツだけれど」
「それがどうかしたの?」
「いや、このお店のドーナツっていいなってね」
そう思ったというのだ。
「やっぱり」
「そうよね、安定して美味しいわよね」
「ドーナツはやっぱりこれよ」
ミスタードーナツだというのだ。
「もうこれに勝てるお店はそうはないわね」
「聖花ちゃんのお店でも勝てない?」
「無理ね」
あっさりとした否定だった。
「というかパンとドーナツってまた違うから」
「ドーナツは揚げるからね」
「そう、また違うのよ」
「聖花ちゃんのお家では作ってないわよね」
「特にね」
実際にそうだというのだ。
「私もパン専門だしこれからもね」
「パン一本でいくのね」
「パンと一言に言っても色々あるじゃない、それこそ食堂のメニュー位にね」
あえて愛実の店を例えに出して彼女に話した。
「お店だってパンの種類一杯あるでしょ」
「聖花ちゃんのお店ちょっと暇があったら新製品の試作やるしね」
これは愛実の店も同じである。彼女の店もよく新メニューを思索として出す。ただしどちらもそれを新メニューとして定着させるかはお客さんの反応次第だ。
「だからなのね」
「ベーグルは定着したけれど」
イスラエルの中央が開いた丸いパンだ。
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