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気合と根性で生きる者

作者:康介
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第四話 勝と十六夜

 
前書き
 まず、最初にいつもと同じ一言を、この場をお借りして言わせていただきます。

 新たにお気に入り登録してくださった三名様、本当にありがとうございます!! これからもご愛読の方をよろしくお願いいたします!!

 また、いつも感想とコメントをくださるブレイア様には本当に感謝をしております!

 ブレイア様に限らず、他の皆様からもどしどし感想やコメントをお待ちしております!!

 それでは、今回の話の本筋を少しだけ。

 今回、勝のギフトの正体が少しだけ見えてきます。

 また、今回はタイトル通り、勝と十六夜がメインの話になってきます。

 いずれ、飛鳥や耀をメインにした話もかけたらなぁ、などと思っておりますので、他のキャラが完全に影になるような事にはならないため、そのような心配していたお方はご安心ください。

 それでは、本編をどうぞ。 

 
「お、眼鏡坊主。ちょうどいい所に。いいから黙ってついてこい」

「はっ?」

 白夜叉との交渉を終えた数日後に、突然十六夜がそのようなことを言い出した。意味が分からず呆然としていると、いつの間にか首根っこを掴まれて、何処かへと連れて行かれるのだった――










〝契約書類〟 文面

『ギフトゲーム名 〝FAIRYTALE in PERSEUS〟

 ・プレイヤー一覧 逆廻 十六夜
          久遠 飛鳥
          春日部 耀
          古東 勝
 ・〝ノーネーム〟ゲームマスター ジン=ラッセル
 ・〝ペルセウス〟ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 ・クリア条件 ホスト側のゲームマスター打倒
 ・敗北条件 プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。
       プレイヤー側のゲームマスターの失格。
       プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 ・舞台詳細・ルール
  *ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。
  *ホスト側の参加者は最奥に入ってはならない。
  *プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない。
  *姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。
  *失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行する事はできる。

  宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、〝ノーネーム〟はギフトゲームに参加します。
                                 〝ペルセウス〟印』



 〝契約書類〟に承諾した直後、六人の視界は間を置かず光へと呑まれた。

 次元の歪みは六人を門前へと追いやり、ギフトゲームへの入口へと誘う。

 門前に立った十六夜達が不意に振り返る。白亜の宮殿の周辺は箱庭から切り離され、未知の空域を浮かぶ宮殿に変貌していた。此処は最早、箱庭であって箱庭ではない場所なのだ。

「・・・・・・先に言っておきますけど、僕は入口で待機させていただきます。十六夜さんに無理矢理連れて来られ、ほとんど準備が出来ていないんですから。ハッキリ言って、僕は戦力外です」

 そう不機嫌そうに言って入口の門の隣に座る勝だが、連れてきた張本人の十六夜がそれを許さないと言わんばかりに口を開く。

「おいおい。それだと連れてきた意味が無いだろ。きっちり、囮くらいにはなれっての」

「嫌です。人質にでも取られて利用されたらどうするんですか?」

「もちろん、見捨てる」

「却下します。せめて一言でもあれば、僕だってそれ相応の準備をして戦いましたけど・・・・・・準備無しでは無理です」

「ハッ。白夜叉から聞いたぞ。素手で五桁並みの魔王を倒したんだって? しかも、隷属させたってな」

「え、そんなことがあったんですか!?」

 ジンが驚きの声を上げるが、誰もがそれを無視して話を続ける。

「残念ですが、隷属させてはいるものの、此処にはいません。それに隷属させたといっても、首輪も何もなしに自由にさせていますから」

 隷属の話は本当だった。事実、以前にガルド似の虎を捕まえたときだって、隷属させたガルムの力があってこそだったのだから。

「違う。俺が言いたいのは、素手でも十分戦えるだろ、ってことだ」

「・・・・・・」

 ここで初めて、勝が黙り込む。

 確かに、十六夜の言っている事は本人の認識が合っていれば全てが正しい。正しいが故に、黙り込む事しか出来ない。

 しかし本来、勝は集団戦というのを極端に苦手としている。平原で敵と一対一で戦うよりも、集団戦の方が難しいくらいに、苦手としている。

 今回待機を宣言したのは自分に打つ手が無いからだ。とにかく今回のギフトゲームは勝にとってまさに天敵ともいえるもの。

 そして、勝は既に自分に備わったある一つのギフトの正体を・・・・・・発動条件と最大限に力を発揮する方法を理解していた。

 それだけに、今回の集団戦というのは極端に不利になると分かった。誰か一人、自分が興味の惹かれる様な桁外れに強い者が居れば話は別なのだが、生憎今ここに、そのような人物は誰一人としていない。

 能力の正体を今ここでばらしてしまうのもありなのだが――仲間といえど、自分の本拠はまた別のコミュニティである。

 最悪の場合、ここの全員と敵対する恐れがあるだけに、自分の能力を教えるのは出来るだけ避けたいと思ってしまう。

「・・・・・・分かりました。ただし、僕は表に出ずに裏で戦いますので、そのつもりで」

「あぁ、それで十分だ。俺が見つかった時は、よろしく頼むぜ」

 話が纏まったところで、次はゲーム攻略の役割分担だった。

 このゲームでは、姿を確認されずにルイオスの元まで辿り着かなくてはならない。

 しかし、全員がその条件を満たすのはまず不可能だ。何故なら、敵は何十、何百という人数でこちらを見張っているのだから。その包囲網を、全員が一度も見つからずにルイオスの下に辿り着くなど、不可視のギフトでもない限り本当に不可能だろう。

 しかし、不可視のギフトを手に入れようと思えば、敵が装備しているものを――つまり不可視の敵から奪わなければならない。

 不可視の敵を相手に先手をとるなど――ハッキリ言って不可能に近い。大勢に見つかる事無く不可視の人間に不意打ちして一撃で倒し、その相手から不可視のギフトを奪う。

 これをするのであれば、最低でも不可視の敵を索敵する能力、敵に見つからない為の何らかの能力もしくはそれ相応の早業、最後に敵を一撃で倒せるほどの強大な一撃、その三つが必要になる。

 しかし生憎、今の〝ノーネーム〟にその様な人材は一人としていない。強大な一撃と早業は十六夜が受け持つことが出来るだろうが、肝心の索敵をすることは不可能。

 逆に耀は、絶対に一撃で敵を倒せるほどの力は無いものの、索敵に関しては群を抜いている。だが、ここにも肝心の敵に見つからない為の策が不足している。

 飛鳥は――ギフトの性質上、そのどれにも該当をしない。行動を強制出来たとしても、流石に大群全てを言う通りには出来ないだろう。何より、行動を強制したとしても敵の目に映ってしまえばそれで終わりなのだから、分が悪いにもほどがある。

 勝はといえば、持ち前の行動の素早さと奇襲、暗殺を得意とするスタイルで姿を見られることは無いだろうが、肝心のギフトを奪うという作業が恐らくすることが出来ない。更に言えば、投擲出来るナイフをほんの数本しか持っていない今の状況では、何をするにも不十分なのは確かである。

 結果的に、誰もが全部の項目をクリアできる者がいない。しかもこれは、内部に死角になるところが何箇所もあった場合の対策手段である。流石にそのような希望的観測で挑むのは、無謀というものだ。

 そうなれば、残された手は囮作戦しかない。だからこその、ゲーム攻略の役割分担である。

 役割分担は結果的に、飛鳥が囮役に、耀が不可視のギフトを持つ者からそれを奪う索敵役に、十六夜がジンと共にルイオスの元へ行く攻略役に、そして最後に勝は十六夜とジンが見つからない為のバックアップをする裏方役に決定した。

「さて、話も纏まりましたし、ゲームを開始しましょう。門を開けた所に相手が居ないとも限らない・・・・・・むしろ大勢いると思うので、十六夜さんお願いします」

「おう。任せろ」

「・・・・・・・・・・・・十六夜さん、参考までに一体どういった方法で、この門を開けるのですか?」

 嫌な予感が拭えず、冷ややかな視線を十六夜に送る黒ウサギ。

 十六夜はそれに応えるかのようにヤハハと笑って門の前に立ち――

「そんなもん――こうやって開けるに決まってんだろッ!」

 轟音と共に、白亜の宮殿の門を蹴り破るのだった。










「はぁ。これってバックアップの必要ないでしょ・・・・・・」

 正直、自分が必要無いとさえ思てくる勝は、なんと通路の天井に重力に逆らって張り付き、さながらトカゲの如き移動方法で、十六夜とジンの後を追っていた。

 自分が必要ないとさえ思てくる理由は、敵が来たら耀がそれを誰よりも早く察知し、すぐにそれを倒す。不可視のギフトも、耀によって楽々入手が出来た為、勝の出番が一つも無かったのだ。

 そして今はただのストーカーと化しているのが勝の悲しい現状だった。

 そして何だかんだ言っても、勝もまだ見つかってはいなかった。ペルセウスのメンバーは全員左右と下に集中しているあまりに、上を見張る事を怠っていたのだ。

(真上の天井を音も無く移動するなんて、流石に考えてないんだろうなぁ・・・・・・それに僕、影薄いし)

 他人事のように考えていると、その後はあっという間に難無く最奥の入口へ到着。最奥への道は一本道だった為、十六夜たちの姿は見えなくとも楽に追う事が出来たのは幸いだったといえる。

 最奥に入って最初に見えたのは、体中に拘束具と捕縛用のベルトを巻いた、女性とは思えない乱れた灰色の髪をした化け物と、それに対峙する十六夜だった。

 恐らくだが、あれが十六夜の言っていた隷属させた元魔王――〝アルゴールの魔王〟なのだろう。

 誰もがこちらには気付いていない。しかし、見物するに当たっては好都合だと思い、ひっそりと辺りにある柱の陰に隠れて様子を窺う。

(さて、お手並み拝見とさせていただきましょうか・・・・・・十六夜さん)

 せめて期待を裏切らない戦いをしてほしいと思いつつ、内心では十六夜が負けて自分があのアルゴールの魔王と戦ってみたいと思うあたり、自分にもしかしたら戦闘狂の素質があるのかもしれないとふと思いつき、思わず一人で苦笑する。

(仮にも今は仲間だ。仲間の敗北を望むなんて、駄目でしょ)

 と、思考の海にフルダイブしていた意識を元に戻して再び様子を窺うと、アルゴールの魔王の放った黒い鞭のような、布のようなものを片手で難無く止めた十六夜の姿が見えた。

(へぇ? あの速度の鞭を、まったく動くことなくしかも片手で・・・・・・)

 と、考えていると今度は何本も黒いそれが現れ、それは全て太い蛇に変身して絞殺さんとばかりに十六夜の体に巻き付いた。

 これは流石に不味い状況かと思い投擲用のナイフをポケットから取り出すと同時に、その認識が過ちだったことに気付かされる。

「おいおいこの程度かよ。魔王の名が泣くぜ」

 そんな十六夜の声と共に、その体に巻き付いていた蛇が全て弾け飛んだ。恐らく、力任せに強引に、やったのだろう。十六夜は無傷で、依然そこに余裕と闘争本能剥き出しの笑みを浮かべていた。

 刹那、勝にゾクリ、と悪寒が走った。同時に、白夜叉のときと同じ――細胞は震え、歓喜のあまり煮え立つ血液の叫び、そして十六夜という男の正体不明の馬鹿力へ集中する好奇心と探究心、そして自分の奥底に潜む十六夜への恐怖。

(逆廻、十六夜・・・・・・面白い、面白い!)

 溢れ出る闘争心を必死で抑えながら、彼は十六夜の行動を見逃さないように目を見開いてその光景を見た。

 力任せのパワーゲーム。技術もクソもあったものじゃない戦いだが、それで元魔王と張り合う――いや、圧倒的に優勢に立つその絶対的な力。

 これを見て、勝は確信した。この逆廻十六夜という男もまた、底の見えない無限のように感じられる強さを持っているのだと。

 今がもし、アルゴールとの戦いの最中でなければ、勝は確実に十六夜に奇襲を仕掛けていただろう。現にいま、アルゴールが倒れるのを心待ちにしているほどだ。

 いつしか、勝の興味は、アルゴールから十六夜へとすり替えられていた。それほどに、十六夜という男の強さの底を知りたいと思ってしまった。

 そしてふと、ある事に気が付いた。

(足が・・・・・・動く?)

 白夜叉の時に覚えた恐怖は、地面に縫い付けているかのごとく、足をまったく動かないほどのものだった。行動を制限するだけの恐怖、あれは本当に最高だったことを、今でも心が、肌が、生存本能そのものが覚えている。

 しかし、十六夜に覚えた恐怖は・・・・・・まだ余裕で足を動かすことが可能なものだった。気合や根性といった類で無理矢理動かさずとも、軽い足取りを描けるほどだ。

 白夜叉と十六夜、両者の恐怖を比較して――勝は、十六夜を奇襲することを考え直した。彼の真価が発揮されていない状態で奇襲を掛けるのはおしい。そう考え、勝は自分の心を落ち着かせるため、一度深呼吸をして頭を冷やす。

(今はまだ、時じゃないけど・・・・・・機会があれば、絶対に――)

 と、そこでアルゴールの保持していたであろう赤い閃光のギフト――世界を石化させるギフトが、十六夜によって踏み砕かれたのが目に入る。

(・・・・・・ギフト破壊? しかも光なのに・・・・・・あり得るのか?)

 怪訝そうな顔をして様子を見るが、見間違いではない。彼は今確かに、アルゴールの石化のギフトを破壊したのだ。

 箱庭に来たばかりなので分からない点はあるが通常、光を砕くなんて事は物理的に不可能である。仮に光を砕きたいのであれば、恐らくその空間ごと砕くしか方法は無いだろう。

(じゃあ、十六夜のギフトは空間破壊系統の能力?)

 しかし、それではあの超人的な身体能力の説明がつかない。いや、仮にその二つがセットなのだとしても――それが全知である〝ラプラスの紙片〟に対して〝正体不明〟の結果を出させることが出来るとは到底思えない。

 仮説がいくつも頭の中に浮かんでは消えを繰り返すが、すぐに思考を中断して十六夜の戦いへと集中する。今はそんなことより、十六夜の戦いを見る方が有意義だと考えての行動だ。

 刹那、十六夜が加速しアルゴールとの距離を一瞬で詰めたかと思うと、その巨体の頭部を拳で貫き、そのまま勝の隠れていた場所にピンポイントに吹き飛ばす。

「――って、のわぁぁぁ!?」

 柱の陰に隠れていた勝は堪らず声を上げてすぐに十六夜達と同じ地面に転がり落ちる。あと数瞬でも反応が遅れていたら、アルゴールに押し潰されていた事だろう。

「十六夜さん、今の分かってやったでしょう!?」

「こそこそ隠れて見物しているのが悪い」

 勝の言葉を否定せずに、そっちが悪いと罪をなすりつける十六夜。

 これを口実に一度奇襲してやろうかと思った勝だが、まだまだ十六夜の力は未発達なものだと自分に言い聞かせ、何とか闘争本能を抑える。

「このギフトゲーム、〝ノーネーム〟側の勝利と――」

「おっと、そうだ」

 と、黒ウサギがこちらの勝利宣告をしようとした時、十六夜が意地の悪い笑みを浮かべて口を挟む。

「もしこのままゲームで負けたらお前達の旗印、どうなるか分かってるんだろうな?」

「何? お前達の目的は、あれじゃないのか?!」

 虚脱していたルイオスが見知らぬ――いや、数日前にガルドの屋敷で出会った〝鬼種〟の純血の女だった。

(やばっ!? 他言無用にとは釘を刺したけど、これでもしバラされたら――!)

 最悪、この〝ノーネーム〟に居座ることが出来なくなる。まだまだ、このノーネームは知名度がうなぎ上りに上がっていきそうだというのに、その途中でそこから放り出されるのは勘弁願いたかった。

(せめて、僕の名が知れ渡り始めてからだったら――!)

 それであれば、バレた時は心置きなく抜けられたというのに。タイミングが悪いにも程がある。

 しかし、今更ルイオスに手を貸す事など出来ないし、何よりこの残念な男にあのような可憐な少女を任しておくのは、少々――というかかなり心配が残る。

 そこまで考えて、勝は溜息を吐いて考えをまとめた。

(・・・・・・なるようになるか)

 ――完全に投げやりな答えだった。

「それが嫌なら――」

 と、考え事をしている内にまた話に取り残されてしまった。この癖は直さないといけないなと思いつつ、勝はその話に集中しようと意識を傾けた矢先に――

「来いよ、ペルセウス。命懸けで――俺とそこの眼鏡坊主を楽しませろ!」

「はっ?」

 話に取り残されていた勝には状況を把握しきれず、ただ獰猛な快楽主義者が、手を広げて何かをしているようにしか見えなかった。

 しかし、ルイオスは何か危機迫った表情と気迫で――十六夜を、そして勝を直視した。

「あ、ちょっとは楽しめそうかも」

 ルイオスの目を見て不意に、勝がそんなことを呟いて、抑えていた闘争本能を剥き出しにする。隙あらば、十六夜にも仕返しとして攻撃しようなどと野心を持って、勝は構える。

「負けない・・・・・・負けられない、負けてたまるか!! 奴らを倒すぞ、アルゴオォォォル!!」

 覚悟を決めて咆哮するルイオスとアルゴール。輝く翼と灰色の翼が羽ばたいた。

 コミュニティの為、敗北覚悟でルイオスとアルゴールは駆けるのだった。










「いやはや、おんしの活躍はあまり見られなかったが、実に面白いものを見せてもらったぞ」

 白夜叉は楽しげに頬を緩めてそう口にした。どうやら、白夜叉は何らかの方法でルイオスとのギフトゲームの映像をレトロなテレビに映して見ていたらしい。

 勝は疲れた様な顔でげんなりと「・・・・・・はい」と答える。今にも倒れそうなその姿にますます白夜叉の頬が緩み、それを見せない為かおなじみの〝サウザントアイズ〟の印が描かれた扇子を広げて口元を隠しながら、床に滑らせるようにして、勝に手紙を寄越す。

「それにしても、まさかおんしのコミュニティの福リーダーとなる人物があの虎だったとは・・・・・・最初に見た時は、本気で正気を疑ったぞ」

「・・・・・・それで、どうでした? 彼の様子は」

「変わっていたよ。おんしの影響かそうでないかは知らぬが、本当に豹変しておった。あれならもう、問題を起こすかなどという心配はなかろう」

「そうですか・・・・・・よかった」

 勝はその話を聞いて安堵の溜息を吐く。信用していないわけではないが、やはりあっちで人に好まれるかどうか心配だったのだ。

 不安が一つ消えた所で、ガルド――今は改名してピエール=ジョゼフというが、そのピエールから手紙の封を開け、そして中身を見る事にした。

『お久しぶりです。堅苦しい挨拶は抜きにし、単刀直入に重要箇所だけを纏めたいと思います。
 まず一つ大きな収穫は、〝鬼種〟の純血である少女を〝エクリプス〟に入れる事が出来ました。彼女の実力はその種族の名に負けない実力で、今では彼女を軸にコミュニティが発展しています。それと余談なのですが、彼女は前々から貴方のことを知っていた様なのですが・・・・・・お知り合いなのでしょうか? それはまた、直接会って確かめていただければと思います。
 そして二つ目は、あるコミュニティが何者かに襲われている所を、その〝鬼種〟の純血である少女が助け、こちらの実力を知ってか同盟関係を求めてきましたが、さすがに貴方を抜きに話を進める事は出来ないのでその件は保留としました。聞けば彼女らのコミュニティは製作をとても得意としており、生活必需品を主に取り扱っている半ば商業コミュニティに近いコミュニティでした。ですが、実力もそれなりのコミュニティのようで、同盟を結ぶのはとても有益なものだと思われます。
 三つ目は些細なことではありますが――まだコミュニティを作って間もないというのに、その名がまるで地震のように瞬く間に広がっていきました。それもこれも、あの〝鬼種〟の純血である少女のおかげです。
 重要案件は以上となります。また近いうちにお手紙を白夜叉殿に仲介してお渡しいたします。出来るだけ早く、貴方がコミュニティに帰還なされることを願っております』

 文面は、それで終わっていた。どうやら、ピエールはこの短い間にコミュニティにとって優秀な人材を確保し、そして知名度をみるみる上げて、同盟を結べるコミュニティまで見つけてしまったようだ。

 その成長ぶりに感心して、勝の口元がだらしなく緩む。

「まったくアイツは・・・・・・期待以上だぞ。ピエール」

 彼は今ここに居ないが、それでも労いの言葉を掛けたくなった。これほどの功績を挙げたのだ。労いの言葉一つ掛けても、罰は当たらないだろう。

「その様子だと、あの虎は上手くやっておるようだの」

「はい。僕の想像と期待を遥かに超越していました」

 見惚れる程良い笑顔で、勝はそう言い切った。白夜叉もそれに釣られ頬がみるみる緩んでいくが、どれだけ緩んでいるのかは扇子越しなので分からなかった。

「あ、それと今回は少し、〝サウザントアイズ〟を仲介して話をつけたいコミュニティがあるのですが――よろしいでしょうか?」

 と、まどろみはすぐに霧散し、勝の表情は再び引き締められる。白夜叉も重要な案件だと理解したのか顔を引き締め、少し考え込む。

「ふむ・・・・・・何処のコミュニティと話したいのか教えてもらえさえすれば、こちらも最大限の譲歩をしよう。――ただし、しっかりとこちらの依頼を遂行するように」

「はい。分かっております。そのコミュニティ名は――」

 次の瞬間、白夜叉の目が驚きで見開かれる。まさか、と思い再度聞くが、やはり答えは同じ。

 怪訝そうに眉をひそめる白夜叉に、勝はいつもの営業スマイルで言葉を足した。

「出来るだけ、コミュニティの後ろ盾と保険は欲しいのです。それに今の時期なら、コミュニティの勢いがちょうど急降下しています。今を逃せば、もう二度と無い同盟だと思うので、僕はそのコミュニティと同盟を組みたい。何より、あそこは仮にも――を隷属させているんです。後ろ盾としても保険としても、恐らくこれ以上ない安物件ですよ」

「ふぅむ・・・・・・確かに、今なら安物件ではあるな。――良かろう。ただし、私がするのは会談に誘い、その日時と場所を提供することだけだ。そこは、分かっておろうな?」

「はい、それで十分です。依頼の方は、こちらで一度目を通させていただけると助かります」

「うむ。それでは、もう〝ノーネーム〟に戻るがよい。今夜は恐らく、パーティーなのだろう?」

「おや、知っていましたか」

 真面目な話が終わると、勝はすぐにおどけた表情で「やれやれ」と首を横に振って、そのまま店を出て行った。

「――本当に、凄まじい成長だの。たったの数日で、まさかここにまで名を轟かせるとは」

 部屋で一人になった白夜叉は勝の創設したコミュニティについて考えていた。

「〝エクリプス〟・・・・・・か。今ではその名は、東だけでなく、北にも響いておることを知らんのは――本人だけなのだろうな」

 遠い目をして、白夜叉は呟きながら思考の海へと潜っていく。

 彼らとの〝決闘〟は、もしかしたら近い将来になるかもしれないと期待を寄せながら、考え事に没頭するのだった。










「おい、眼鏡坊主。ちょっとこっちに来い」

「はい?」

 〝サウザントアイズ〟から帰還した勝が料理を貪っていると、不意に十六夜から声を掛けられた。十六夜は声を掛けたかと思うとすぐについてこいと言わんばかりに歩き出す。勝は何かと思い十六夜の後に続くと、彼は人気の無い屋敷の裏で止まり、こちらに振り向く。

 十六夜の目は、どこか怪しげに細められていた。まるで、こちらの秘密を掴まれた時の様な感覚を覚えていると、不意に十六夜が口を開く。

「お前、何が目的だ?」

「・・・・・・? 失礼ですが、質問の意味を理解しかねます」

「とぼけるなよ。みんな気付いていない様だが、俺の目はごまかせないぜ? お前の行動は最近不審な部分が多過ぎる。気付けばいつも居なくなってやがるかと思えば、また気付いた時にはいつも居やがる。そのくせ、ギフトゲームをやりにいっているわけでもなさそうだし・・・・・・最近、白夜叉のところへの出入りが多くなっているのが何よりも怪しい。さて、ここまで言わせたんだから、もうとぼけるなよ?」

 ちっ、と心の中だけで舌打ちをする。どうやら、十六夜だけは勝の行動に疑いの目を向けている様だった。その上、いちいち口にすることが合っているからこそ反論しづらいのが、本当に厄介なことこの上ない。

「・・・・・・」

 勝は少しだけ考える。今、ここで嘘を吐いてバレる確率は、恐らく五分。嘘だと見抜かれれば、有無を言わせず襲い掛かってくるかもしれない。その証拠に今、十六夜の目は闘争心のせいかギラギラと怪しい光を放っている。

「――はぁ。今はまだお話することは出来ませんけど――貴方の実力が本当の意味で開花したときか・・・・・・あるいは、時が来れば全てお話します。それまで、答えは保留にさせていただきますよ」

「おい待てやコラ。それだと今の俺が弱いみたいに聞こえるんだが・・・・・・なんなら、ここで一勝負するか?」

「――っと、勘違いしないでください。貴方は今の状態でも十分強いです。ですが、その力を最大限に発揮できていないと言いたいだけです。その状態では、僕が面白くありま――」

 刹那、十六夜の姿が勝のすぐ目の前にまで迫っていた。それと同時に、十六夜はその拳で思いっきり勝を殴りつける。

 第三宇宙速度を遥かに超えたその拳の速さに戦慄を覚えたものの、勝はすぐに冷静になり、その拳を正面から殴りつけることで威力を相殺する――と同時に、十六夜の目が驚愕によって見開かれた。

「――オイオイオイ。今のは結構本気で殴りつけたつもりだったのに、まさか正面から同じ攻撃で相殺されるなんて・・・・・・やっぱり、お前のギフトはそういう仕組か」

「さて、僕のギフトとは一体何のことでしょうか?」

 おどけると同時に、お互いが腰を捻って第三宇宙速度を超越した速さで蹴り合う。全く同じ攻撃で、全く同じ威力の攻撃はぶつかりあい――その威力が相殺される。

「とぼけるんじゃねぇっての。お前のギフトは、その場に居る誰かの実力を、そのままコピーするっていうものだろ? だからこそ、俺と全く同じ攻撃と威力で、お互いが怪我をせずにその威力が相殺されて終わった――違うか?」

「・・・・・・・・・・・・参ったな。そこまでお見通しだとは」

 間を開けて、勝の声が聞こえてくる。

 見ると、その表情は確かに驚愕したそれだった。静かにしていても、やはり自分のギフトの正体を見破られたことに、驚きを隠せないのだろう。

 しかし、十六夜には――その驚愕した表情は、限りなく胡散臭く見えた。まるで、まだ何かを隠しているような・・・・・・そんな感じがした。

「ハッ。胡散臭い表情浮かべていう台詞じゃないだろ眼鏡坊主」

「いえいえ。まさかその目で見て、二度試しただけでお分かりになるなんて・・・・・・本当に、恐ろしいものですよ」

 始終ずっと胡散臭い表情。それが気に食わなかったのか、十六夜はチッ、と舌打ちをして勝に背を向けた。

「眼鏡坊主。お前、いつか絶対に潰してやる」

「そのお言葉、そっくりそのまま貴方にお返ししますよ」

 チッ、と十六夜はまた舌打ちをしたかと思うと、そのままパーティー会場の方へと戻っていった。

 勝はやっと一人になったところで肩の力を抜き、それと同時に脱力して屋敷の壁にもたれてその場に勢いよく、というよりは半ば倒れるようにして座った。

「はぁ・・・・・・最悪だ。まさか、もう既に四割近く正解を導いていたなんて・・・・・・」

 月明かりに照らされる中、勝は力尽きたかのように脱力して首を垂れる。今はもう、体の何処かに力を入れることすら辛くて、ただ脱力して空虚な目で地面を見つめる。

「は、は・・・・・・僕だって、体力無尽蔵じゃないんだから・・・・・・流石に疲れるんだよ? そんなすぐにコピーなんて出来ないし・・・・・・第一、コピーとはニュアンスが違うんだよ? 僕のギフト――〝均衡〟は」

 誰に言うでもなく、気力の籠っていない小さな声で呟き、勝は意識が徐々に薄れていく。恐らく、先ほど馬鹿みたいな身体能力を行使したせいで、体力を根こそぎ奪われていったのだろう。

(体力の上限は増えても――それはギフトが解除されると同時に、元の体力に戻り、そっちの元の体力から、失った体力が精算される。まったく、このギフトは本当に後が怖いよ・・・・・・)

 全身の何処にも力を入れる事が出来ない程に疲弊した身体。それを労うように、勝は静かに眠りについた。

 今はゆっくりと――着実に、力を付けていく準備期間なのだ。全てはあの――白夜叉に勝つ為に。










 後日の夕刻、彼が居ないと大騒ぎになりそれを十六夜が見つけたのはまた別の話である。



 
 

 
後書き
 まさかの〝エクリプス〟が急成長! 更に同盟の話までちらほらとして、そして東と北にその名を轟かせ――何のフラグか、既に分かっている方は恐らくいらっしゃると思います。ですが! それは次話の本編にて明らかになるので、楽しみにしてお待ちください!

 また、〝エクリプス〟に入った〝鬼種〟の純血の正体――流石に分かる人は居ないだろうと思いますが、もし分かってしまった人はそれを胸の内にお収めください。その話をするのは恐らく当分後になってしまうので、今のうちにネタバレというのは避けたいのであります。

 だんだん原作と乖離していくこの二次創作! しかし、原作ブレイクこそが二次創作の醍醐味! 決して意味の無い原作ブレイクはしていかないつもりなので、どうかこれからもご愛読いただければと思います。

 それでは、今回はこれで終わりにしたいと思います。

 感想、評価、ご指摘、コメント、お気に入り登録はいつでも大歓迎ですので、どしどしそういったことをしてもらえればなと思います! また、辛口コメントでも大丈夫です! 流石にいわれのない批判は嫌ですが、的を射た辛口コメントは本当に常時募集中でございます!

 それでは、最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました!!



 
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