魔弾の射手
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第一幕その五
第一幕その五
「望みが」
「そうだ。アガーテがな。その為には何でもしたいだろう」
「・・・・・・・・・」
マックスは沈黙した。明らかに迷っていた。そこでカスパールは銃弾を一つ取り出した。
「使ってみろ」
「これがその魔法の弾か」
「そうだ。一度試しに撃ってみたらどうだ」
マックスはそれに従い銃弾を手に取ろうとする。だがあともう少しのところで動かなくなった。
「どうした!?」
カスパールはそれを見て問うた。
「いや」
マックスはここで何か不吉なものを感じていたのだ。
「受け取ったら」
「どうなるというのだ?」
「何か大変なことになるかも知れないからな」
「ほお」
カスパールはそれを受けて嘲笑する顔を作った。やはりあくまで作っただけである。だがマックスはそれには気付かない。
「ではこのままでいいのだな」
「どういう意味だ!?」
「さっきから言っている通りだ。それでわかるだろう」
「・・・・・・・・・」
マックスは再び沈黙した。
「アガーテが欲しいだろう」
「ああ」
「ならば受け取れ。そうすれば御前の望みは適うのだ」
マックスはまだ迷っていた。だがアガーテの名を聞いたら受け取らずにはいられなかった。
「わかった」
遂に彼は受け取った。カスパールはそれを見てニヤリと笑った。
「よし、ならばいい」
そして彼は上を指差した。そこにはまた大きな鳥が飛んでいた。
ここでマックスは気付くべきだったかも知れない。何故夜に梟やミミズクでもない鳥が飛んでいるのかを。だが今の彼にはそこまで考える余裕はなかった。
「あれを討ってみろ。試しにな」
「ああ」
マックスはそれに従った。上に向けて構える。
「撃て」
カスパールはマックスに囁いた。マックスは言われるままそれに従う。ここでカスパールは心の中で呟いた。
(悪魔の命じるままにな)
マックスは撃った。そして鳥が落ちてきた。それを見たマックスは流石に驚いた。
「本当に当たった。信じられない」
「どうだ、これでわかっただろう」
カスパールはそれを見て自信に満ちた笑みを浮かべた。
「これが魔法の弾の力だ」
「信じられない、本当に」
「戦場ではな」
カスパールはここで話をはじめた。
「硝煙と爆風の中にある。とても敵なぞ見ることはできない」
「そうなのか」
マックスは戦場に出たことはない。だからそれについては知らないのだ。
「そうだ。そんな状況で敵を倒して生き残るにはどうすればいいいと思う?」
「運任せでは駄目だろうな」
「運も必要だ。だがな」
彼は言葉を続けた。
「魔法も必要なんだ。この弾にある魔法がな」
「そうだったのか。ではその魔法の弾は」
「そうだ、戦場で見つけてきたものだ」
彼はそう告白した。
「わかったな、これで。この弾が欲しければ今夜」
「狼谷に」
「そうだ。必ず来いよ。わかったな」
「ああ」
マックスは頷いた。その顔には何故か闇がさしていた。
「絶対に行こう。待っていてくれ」
「うむ」
こうしてマックスはひとまず自身の家へと去った。そしてカスパール一人となった。
「これでよし。新たな身代わりが手に入ったぞ」
彼は悪魔的な笑みを浮かべていた。陰が指し、その目は異様に吊り上っていた。
「マックスよ来い、そしてザミエルよ楽しみにしていろ」
そして呟きながら笑っていた。
「全ては俺の為に。そして俺の命の為にマックスよ」
ここでマックスの名を口にした。
「貴様には代わりに地獄に落ちてもらおう」
そう言うと酒場に戻った。そして何食わぬ顔で宴を楽しむのであった。
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