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魔弾の射手

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第一幕その四


第一幕その四

「手に入れたいものは何としても手に入れろ。これもそこで習ったことだ。戦場では武器も自分で調達しなければならん」
「そうだったのか」
「当たり前だ。お偉方は自分のことばかり考えている。俺達のことなんて駒かその程度にしか思っちゃいない。だから俺達もまず自分達が生き残り、分け前に預かることを考える」
 そうした時代であったのだ。またそうしないとこの時代の神聖ローマ帝国領内では生きてはいられなかった。戦乱が覆い、傭兵や夜盗達が跳梁跋扈する。そんな中を生きていくにはそうした考えと行動でないと生きてはいられなかったのだ。
「どんな手段を使ってもだ。わかったな」
「どんな手段も」
「例え悪魔に魂を売ってもだ。わかったか」
「ああ」
 マックスは力なく頷いた。
「聞け」
 ここで教会の鐘が鳴った。
「七時の鐘だ。もう夜になる」
 実際に空はもう暗くなっていた。遠くから梟の声も聞こえて来る。ホゥ、ホゥ、とまるで森の奥から響き渡る様にして鳴いていた。
「この森には色々いてな。それこそ色々ある」
「色々か」
 マックスはそれを聞いて森の中を見た。その奥に何がいるかは聞いている。
「今夜は特に何かが起こる。それも御前さんにとってよいことだ」
「よいこと。それは」
「知りたいか」
 カスパールは笑ってそう問うた。
「嫌だと言っても言うだろう」
「ははは、確かにな。いいか」
「ああ」
「まずはこれを見ろ」
 カスパールはそう言うと上を指差した。もう暗くなっている空に大きな鳥が飛んでいた。
「あれを撃ち落してやろう」
「そんなこと出来る筈がない」
 マックスはそれを聞いてこう答えた。
「当たる筈がないだろう」
「まあ見ていろ」
 だがカスパールは笑ってそう言った。そして銃を構えた。
「悪魔の名において」
「悪魔の」
 見ればカスパールの顔が禍々しく歪んでいる。何処からか不気味な哄笑が聞こえてくるようだ。そしてカスパールは銃を放った。
 銃声が轟く。まるで地の底から響き渡る様な音がした。そして鳥が落ちてきた。それは二人の前に落ちた。
「どうだ」
 カスパールはその鳥を手に取ってマックスに誇らしげに見せた。
「これで俺の言うことを信じる気になったか」
「ああ」
 マックスは頷いた。
「だが一体どういうことだ?あんな距離でしかも暗い中で当てるなんて」
 実際鳥は見えるか見えないかであった。それに当てるとは最早人間業ではなかった。
「秘密があるのだ」
 カスパールは自信に満ちた声でそう答えた。
「秘密!?」
「ああ、弾にな。それを教えてやろうか」
「ううむ」
 マックスはそれを聞いて考え込んだ。どのみち断ってもカスパールに無理にでも誘われるだろう。ならば答えは決まって
いた。
「わかった。教えてくれ」
「よし」
 カスパールはそれを受けて了承したように頷いた。
「じゃあ今夜狼谷に来い」
「狼谷にか!?」
 それを聞いたマックスの顔が青くなった。
「あそこへ行くのは」
「何かあるのか?」
「あの谷には昔からよくない噂がある。悪魔が出るそうじゃないか」
「欲しくないのか?魔法の弾が」
 だがカスパールはここで囁くようにして言った。
「魔法の弾があると御前の望みも適うのだぞ」
 そして巧みにマックスを誘いはじめた。誘惑の声であった。それを聞いたマックスの顔色が青いものから困惑したものに変わっていく。
 
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