戦国異伝
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第百二十話 出雲の阿国その九
それで彼はさらに言うのだった。
「御館様、上杉謙信に続く資質の持ち主じゃ」
「では若しや天下も」
「このまま手中に」
「いや、それはない」
信長は天下は取れない、このことは言う。
「織田信長に天下は取れぬ」
「決してですな」
「それは」
「天下は御館様が手に入れられるものじゃ」
彼が絶対の忠誠と敬愛を向ける信玄がだというのだ。
「織田信長は都を仮に預かっているだけじゃ」
「それだけに過ぎませんか」
「所詮は」
「うむ、天下は御館様が治められるものじゃ」
その他にはないというのだ。
「だからこそじゃ」
「ではやがてはですな」
「この都も他の国々も」
「御館様が治められる様になる」
信玄は戦以上にその政で知られている、戦は国を手に入れるが政は手に入れた国を万全に治める為のものだ。
そして信玄の関心はその万全に政にあるのだ。
「甲斐も信濃も万全になっておる」
「では天下も」
「御館様により」
「そうなる、間違いなくな」
こう言う幸村だった。
「日の本を手に入れる天下は御館様のものじゃ」
「ですな、そして義の道という天下は殿のもの」
「そうなりますな」
「御館様もわしによく言って下さっている」
幸村は信玄の言葉をいつも喜びと共に覚えていて笑顔で言う。
「義の道をひたすら歩み天下一の武士になれとな」
「では我等はその殿と共にいます」
「例え何があろうとも」
十勇士達も笑顔で応える、そしてだった。
彼等の中から望月が幸村に杯を出して言ってきた。
「ささ、では一杯」
「おお、御主からの一杯か」
「はい、お飲み下さい」
「ではな。都の料理は口に合わぬが酒はよいな」
幸村は山城の酒の味を楽しみながら言った。
「幾らでも飲めるわ」
「全くですな」
「これはよい酒です」
「我等も飲めます」
「それこそ幾らでも」
「そうじゃな、ではしこたま飲んだうえでじゃな」
そしてだというのだ。
「今宵は休むか」
「まだ都にはいますが」
ここで言う猿飛だった。
「どうされますか」
「阿国殿にはお会いした」
それは既にだ、幸村にとっては非常に実りが大きいものになっていた。
それは終わった、しかしまだ期日があり猿飛は言ったのである。
「しかしまだ日がありますので」
「まだ誰かと会うか」
「意識してそうされますか?」
「意識して会える場合とそうでない場合があるな」
ここでこう言う幸村だった。
「それは人にはわからぬわ」
「では」
「このことは意識せぬ」
誰かに会うと定めてそして言わないというのだ。
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